本TechBlogはTeam xG Advent Calendar 2025 12日目の記事になります。
御社では生成AI、活用されていますか?
「業務効率化に欠かせない!」という一方で、こんなニュースを目にして少し複雑な気持ちになっている方もいるかもしれません。
「生成AIへの1回の質問で、ペットボトル1本分の水が消える」?
「AIの消費電力は、将来的に小国の国家予算並みになる」?
確かに、AIの学習(Training)には膨大な電力が必要なのは事実です。でも、私たちが日々チャットで質問を投げかける「推論(Inference)」の実態はどうなのでしょうか?
Googleが先日(2025年8月21日)Blogを公開し、AIの環境負荷に関するレポートを発表しました。 結論から言うと、その答えは「(1回のプロンプトあたりのエネルギーは)テレビを9秒見るより少ない」でした。
今回は、このレポートの内容を紐解きながら、AIと環境負荷の「本当のところ」について一緒に考えてみたいと思います。
「全部入り」で測る正しさ:
厳しく計算しても「テレビ9秒分」で動くAIの現実
レポートによると、Gemini Appsの1プロンプトあたりの消費電力はわずか 0.24 ワット時(Wh)。さらに、水の使用量も驚くほど少なく、わずか0.26ミリリットル(mL)水滴5滴分に相当します。 これまでの「AIは大量に電気を食う」という外部推計に比べると、桁違いに少ない数値です。
「そんなに低いの? 計算項目を減らして、甘く見積もっているんじゃないの?」 そう疑いたくなるかもしれません。しかし、事実は逆です。
Googleは今回、「包括的測定(Comprehensive Methodology)」という、通常よりも遥かに厳しい基準で計算を行っています。従来の計算の多くは「チップが動いている瞬間」だけを見ていましたが、Googleは以下のような「見えないエネルギー」も全て正直に積み上げています。
- 待機中の予備機材(Idle Machines): 高可用性を確保し、トラフィック急増に対応するために常にスタンバイしているチップが消費するエネルギー。
- ホストCPUとDRAM(RAM): アクセラレータの処理を支えるCPUやメモリが消費するエネルギー。
- データセンターのオーバーヘッド:冷却システムや配電など、インフラ全体の間接的なエネルギー消費。このオーバーヘッドはPUE(Power Usage Effectiveness)という指標で測定されます。
飲食店のコスト計算で例えるなら、「食材の仕入れ値」しか見ていない状態から、調理や店舗にかかる光熱費や、お客様を待っている間のスタッフの人件費(待機コスト)まで、全て含めた「総コスト」で計算し直したようなものです。
本来なら、これらを足し合わせれば数値は跳ね上がるはず。 それにも関わらず、結果は「テレビ9秒分」という低さに収まっている。
「厳しく全部入りで計算してもなお、ここまで低い」 これこそが、このレポートの最大の驚きであり、Googleの技術革新がいかに劇的であるかの証明なのです。
効率革命の技術的要因:
フルスタック戦略の勝利と3つの鍵
驚くべきは、このエネルギー効率が過去12ヶ月(2024年5月~2025年5月)で約33倍も向上している点です。また、同じ期間でカーボンフットプリントも約44倍改善しています。
なぜ、これほど劇的に効率化できたのでしょうか?
これはGoogleがカスタムハードウェアからデータセンターの運用に至るまで、AIサービススタック全体(フルスタック)にわたって効率化を追求した結果です。
この勝利は、モデル、カスタムハードウェア、インフラ運用の各層における革新的な共同設計(Co-design)によって支えられています。
- モデル革新:最新のGeminiは「Mixture-of-Experts (MoE)」という構造を採用しています。これは、巨大な脳みその全体を毎回使うのではなく、質問の内容に合わせて「必要な専門家(エキスパート)」だけを呼び出す仕組みです。無駄な計算をしないため、劇的に省エネになります。
- カスタムハードウェアとソフトの最適化:Googleは汎用のGPUではなく、AIの計算に特化した専用チップ「Tensor Processing Unit(TPU)」を自社開発しています。10年以上に渡るハードウェア層とソフトウェア層(モデル)との緊密な連携によりエネルギー効率を30倍にしています。
- インフラ運用とクリーンエネルギー:高効率のデータセンター運用(平均PUE1.09)と、需要に基づいてモデルを動的に移動させるアイドル最適化、さらに継続的なクリーンエネルギー調達によりカーボンフットプリントを44倍改善を達成しました。
結論:
AIと環境の未来 — 測定の標準化と責任ある進化
AIの能力が指数関数的に向上する一方で、それを支える技術もまた、驚くべき速度で効率化を進めていることが、今回のGoogleの発表から明らかになりました。
この進歩は、技術革新と厳格な測定を組み合わせることで、AI需要の成長が環境負荷の増大を上回ることが可能であることを示しています。
この議論で最も重要になるのが、Googleが提唱するような包括的な測定方法論の標準化です。測定境界の合意がないと、同じタスクでも報告される数字が何桁も変動してしまい、どのモデルやプロバイダーが真に効率的であるかを公平に比較することができません。
包括的な測定を行うことで、AIサービススタック全体でどこに効率化のチャンスがあるか(ホットスポット)を特定できます。この包括的な視点こそが、過去1年間の33倍のエネルギー効率改善という成果に繋がったのです。
AIのユーザー採用規模は計り知れません。個々のプロンプトのインパクトが低くても、その総和は大きくなるため、継続的な効率改善は必須です。私たちは、業界全体がこの包括的な測定フレームワークを採用し、透明性を確保することで、責任あるAI開発へと進んでいくことを期待しています。
Google CloudのプレミアパートナーであるXIMIXでは、こうした最新のサステナビリティ情報も踏まえ、環境にもビジネスにも最適なAI導入をご支援しています。「脱炭素」と「AI活用」、どちらも諦めたくない!という方は、ぜひXIMIXまでご相談ください。
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