【非IT系 DXご担当者様向け】インフラ選定・構築・運用のポイントと失敗しないための留意点

 2025,06,03 2025.06.03

はじめに

デジタルトランスフォーメーション(DX)が企業成長の必須戦略となる現代において、その根幹を支えるITインフラの重要性はかつてないほど高まっています。俊敏性、拡張性、そしてセキュリティを兼ね備えたインフラは、DXの取り組みを加速し、競争優位性を確立するための鍵となります。しかし、特にIT部門に所属されていないDXご担当者様や決裁者層にとっては、クラウドサービスやネットワーク技術の急速な進化に伴い、「自社に最適なインフラとは何か」「どのように構築・運用すればDXの成果を最大化できるのか」「どこで失敗しやすいのか」といった課題は複雑で難解なものとなりがちです。

本記事では、中堅〜大企業でDX推進を担当されているご担当者様、特にITインフラの専門家ではないものの、その戦略的重要性を理解し、最適な意思決定を下したいと考えている方々を対象に、DX推進に必要なインフラ環境の選定・構築・運用における重要なポイント、そして失敗を避けるための実践的な留意点を網羅的に解説します。この記事を読むことで、ITの専門知識に自信がない方でもDXを成功に導くためのインフラ戦略の要諦を掴み、具体的なアクションプランを検討する上での確かな指針を得られるでしょう。

DX推進におけるインフラの戦略的重要性

DXの推進とITインフラは、もはや切り離して考えることのできない表裏一体の関係にあります。単なるコストセンターと見なされがちだった従来のITインフラの概念は、DX時代において「価値創造をドライブする戦略的投資対象」へと大きく変貌を遂げました。この点をまずご理解いただくことが、DXインフラで失敗しないための第一歩です。

DXとITインフラの密接な関係

DXとは、デジタル技術を活用してビジネスモデルや業務プロセス、組織文化を変革し、新たな価値を創出する取り組みです。この変革を実現するためには、膨大なデータをリアルタイムに収集・分析し、迅速な意思決定や新たなサービス開発に繋げる必要があります。AI、IoT、ビッグデータといった先端技術の活用も不可欠であり、これらの技術を効果的に機能させるためには、柔軟かつ高性能なITインフラが不可欠な土台となります。

例えば、顧客データの分析に基づくパーソナライズされたマーケティングを展開するにも、俊敏にスケールできるクラウドベースの分析基盤が必要です。また、サプライチェーン全体の効率化を図るためには、各拠点やシステムを安全かつシームレスに連携させるネットワークインフラが求められます。適切なインフラがなければ、これらのDX施策は絵に描いた餅で終わってしまう可能性があります。

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インフラがDXの成否を分ける理由

DXの成否は、それを支えるインフラの質に大きく左右されます。時代遅れの硬直化したインフラは、DXの足かせとなりかねません。非IT系のご担当者様も、以下のインフラ特性が自社のDX計画にどう影響するかを理解しておくことが重要です。

  • 俊敏性 (Agility): 市場の変化や新たなビジネスチャンスに迅速に対応するためには、数週間、数ヶ月単位ではなく、数日、数時間単位でITリソースを調達・展開できる俊敏性が求められます。このスピード感がなければ、競合他社に遅れを取る可能性があります。
  • 拡張性 (Scalability): 事業の成長やデータ量の急増に合わせて、柔軟にシステムリソースを拡張・縮小できる能力は、コスト効率と機会損失の防止に直結します。拡張性のないインフラでは、ビジネスチャンスを逃したり、逆に過剰投資になったりするリスクがあります。
  • セキュリティ (Security): DXの進展は、サイバー攻撃のリスク増大と表裏一体です。顧客データや企業秘密を守り、事業継続性を担保するためには、先進的なアプローチに基づいた堅牢なセキュリティ対策がインフラ全体に求められます。セキュリティインシデントは、企業の信頼を大きく損なう可能性があります。
  • 可用性と信頼性 (Availability & Reliability): ミッションクリティカルな業務システムや顧客向けサービスを安定的に提供し続けるためには、高い可用性と信頼性を備えたインフラが不可欠です。システムダウンは直接的な収益損失や顧客満足度の低下に繋がります。

これらの要素をバランス良く備えたインフラこそが、DXの推進力を高め、持続的な競争優位性を確立するための基盤となるのです。

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DX推進におけるインフラ面の課題と解決の方向性:よくある失敗パターン

多くの企業がDX推進において直面するインフラ面の課題には、以下のようなものが挙げられます。

  • レガシーシステムという「負の遺産」: 長年利用してきた既存システムが複雑に絡み合い、クラウド移行やモダナイゼーションが進まない。古いシステムに固執することで、新しい技術の導入が遅れがちです。
  • 技術選定: 次々と登場する新しいクラウドサービスや技術の中から、自社のニーズに最適なものを判断できない。流行りの技術に飛びついてしまい、結果的に活用しきれないケースも散見されます。
  • セキュリティリスクの見落とし: クラウド利用の拡大に伴う新たなセキュリティ脅威への対策が追いつかない、または認識が甘い。
  • コスト最適化: クラウドの利用料金が想定以上に膨らみ、費用対効果が見えにくい。使った分だけ課金されるクラウドの特性を理解せず、野放図な利用を招くことがあります。
  • 専門人材の不在: 高度なインフラ設計・構築・運用スキルを持つ人材を確保・育成できない。専門知識がないまま進めてしまい、後で大きな問題に発展することも。

これらの課題に対し、経営層とIT部門、そして関連する事業部門が一体となり、明確なビジョンと戦略を持って取り組むことが重要です。トップダウンでの意思決定、部門横断的な連携、そして時には外部の専門家の知見を活用することも、課題解決の有効な手段となります。XIMIXがご支援してきた多くの企業様においても、こうした課題認識からDXインフラの刷新に着手されるケースが少なくありません。

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DXを支えるインフラ環境の選定ポイント

DX戦略を具現化するためには、将来を見据えたインフラ環境の選定が不可欠です。ここでは、非IT系のご担当者様にもご理解いただけるよう、応用レベルの知識を含めつつ、主要な選定ポイントと失敗しないための留意点を解説します。

クラウドファーストの潮流と適切なクラウドモデルの選定

現代のDX推進において、「クラウドファースト」は基本的な考え方となりつつあります。しかし、全てのシステムを画一的にパブリッククラウドへ移行すれば良いというわけではありません。ワークロードの特性、セキュリティ要件、コスト効率などを総合的に勘案し、最適なクラウドモデルを選定する必要があります。ここでの選択ミスは、後々の運用負荷やコストに大きく影響します。

  • パブリッククラウド: AWS、Microsoft Azure、そしてGoogle Cloudに代表される、プロバイダーが提供する共有リソースを利用する形態です。スケーラビリティ、柔軟性、最新技術へのアクセスに優れ、初期投資を抑えやすいメリットがあります。特にGoogle Cloudは、その強力なデータ分析・AI基盤、グローバルなネットワークインフラ、そしてオープンソース技術への貢献といった点で、DX推進企業にとって魅力的な選択肢の一つです。
    • 留意点: 共有環境であるため、セキュリティポリシーやコンプライアンス要件を十分に確認する必要があります。また、利用料金体系を理解し、コスト管理を徹底しないと予算超過を招くことがあります。

  • プライベートクラウド: 自社専用のクラウド環境を構築・運用する形態です。高度なセキュリティやコンプライアンス要件が求められるシステム、あるいは既存システムとの密な連携が必要な場合に適しています。
    • 留意点: 初期投資や運用管理コストが高くなる傾向があります。自社で運用体制を構築する必要があります。

  • ハイブリッドクラウド: パブリッククラウドとプライベートクラウド(またはオンプレミス環境)を連携させ、それぞれの利点を活かす形態です。
    • 留意点: 複数の環境を管理するため、運用が複雑になる可能性があります。連携部分の設計やセキュリティ確保が重要です。

  • マルチクラウド: 複数のパブリッククラウドプロバイダーを組み合わせて利用する形態です。
    • 留意点: 運用管理の複雑性がさらに増します。各クラウドの特性を深く理解し、連携させる高度な技術力が求められます。

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これらの選択肢の特性と「留意点」を理解し、自社のDX戦略や事業継続計画(BCP)と照らし合わせて、どのモデル(またはその組み合わせ)が最適解となり得るのか、IT部門や外部パートナーと十分に議論を重ねることが失敗を避ける鍵です。

ネットワークインフラの設計思想

クラウド活用が深化するにつれて、従来の境界型防御モデルに依存したネットワークセキュリティは限界を迎えつつあります。DX時代に求められるのは、より柔軟かつセキュアなネットワークインフラです。ネットワークは目に見えにくい部分ですが、DXの快適性や安全性に直結します。

  • ゼロトラストネットワークアクセス (ZTNA): 「何も信頼しない」を前提とし、全てのアクセス要求を検証・認可するセキュリティモデルです。
    • ポイント: リモートワークやクラウド利用が常態化した現代において、従来の「社内は安全、社外は危険」という考え方では対応できません。ZTNAは、より厳格なアクセス管理を実現します。

  • SD-WAN (Software-Defined Wide Area Network): ソフトウェア制御によってWAN(広域ネットワーク)を柔軟かつ効率的に構築・運用する技術です。
    • ポイント: 多拠点を持つ企業や、クラウドへのアクセスを快適にしたい場合に有効です。回線コストの削減や運用管理の簡素化も期待できます。

  • SASE (Secure Access Service Edge): ネットワーク機能とセキュリティ機能をクラウド上で統合して提供するフレームワークです。
    • ポイント: ZTNAなど複数のセキュリティ機能を包括的に提供し、どこからでも安全にアクセスできる環境を目指します。導入・運用には専門知識が必要です。

これらの新しい設計思想を理解し、自社のネットワーク環境をどのように進化させていくべきか検討することが、DXの基盤固めに繋がります。専門家でなくても、これらのキーワードと基本的な考え方を知っておくことが重要です。

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データ利活用を前提としたストレージ・データベース選定

DXの核心はデータ活用にあります。収集したデータをいかに効率的に保管し、迅速に分析・活用できるかが、ビジネス価値創出の鍵を握ります。データの「置き場所」であるストレージやデータベースの選定も、戦略的に行う必要があります。

  • ストレージ選定: データ量、アクセス頻度、保存期間、パフォーマンス要件に応じて、オブジェクトストレージ、ファイルストレージ、ブロックストレージなどを適切に使い分ける必要があります。
    • 留意点: 「とりあえず大容量」で選ぶとコストが無駄になることも。データの特性に合わせた選択が重要です。

  • データベース選定: リレーショナルデータベース(RDB)に加え、NoSQLデータベースの選択肢も広がっています。用途に応じて最適なデータベースエンジンを選定することが重要です。Google CloudBigQueryのようなクラウドデータウェアハウスは、大規模データ分析に強みがあります。
    • 留意点: 従来のRDB万能主義では、DX時代の多様なデータ活用に対応しきれない場合があります。新しい技術も視野に入れる柔軟性が求められます。

データのライフサイクル管理や、セキュリティ、コンプライアンス要件(個人情報保護法、GDPRなど)も考慮した選定が不可欠です。

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セキュリティとコンプライアンス要件の組み込み

DX推進においてセキュリティは、後付けではなく初期段階から設計に組み込むべき「シフトレフト」のアプローチが求められます。セキュリティ対策の遅れや不備は、事業継続に関わる重大な問題を引き起こしかねません。

  • 多層防御: 単一の対策に頼らず、複数の対策を組み合わせる。
  • ID管理とアクセス制御 (IAM): 最小権限の原則を徹底。多要素認証(MFA)は必須。
  • データ暗号化: 保管中・転送中のデータを保護。
  • ログ管理と監視: 異常を早期に発見し、原因究明に役立てる。
  • コンプライアンス対応: 業界規制や法的要件を遵守。

セキュリティ対策は、技術的な側面だけでなく、従業員のセキュリティ意識向上やインシデント対応体制の整備といった組織的な取り組みも重要です。

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DXインフラの構築・移行における留意点:計画段階での失敗を防ぐ

最適なインフラを選定した後は、それをいかにスムーズかつ効果的に構築・移行するかが次の課題となります。非IT系のご担当者様も、計画段階から以下の留意点を把握しておくことで、プロジェクトの失敗リスクを大幅に減らすことができます。

①既存システムとの連携とモダナイゼーション戦略

多くの企業では、長年運用してきた既存のレガシーシステムがDX推進の足かせとなることがあります。これらのシステムを全て一度に刷新するのは現実的ではないため、段階的なモダナイゼーション戦略が求められます。主な戦略としては以下のようなものがあります。

  • リフト&シフト (Lift and Shift): 既存システムを最小限の変更でクラウドにそのまま移行する方法です。迅速にクラウドへ移行できますが、クラウドのメリットを最大限に享受できない場合があります。まずはクラウド環境に慣れる、ハードウェアの保守切れ対応といった目的で選択されることがあります。

  • リプラットフォーム (Replatform): OSやミドルウェアなどをクラウド環境に最適化されたものに変更しつつ移行する方法です。「リホスト」とも呼ばれ、リフト&シフトよりはクラウドの恩恵を受けやすくなりますが、アプリケーション自体には大きな変更を加えません。

  • リファクタリング/リアーキテクティング (Refactor/Rearchitect): アプリケーションのコードやアーキテクチャを大幅に見直し、クラウドネイティブな設計に再構築する方法です。最も手間とコストがかかる可能性がありますが、クラウドの柔軟性、拡張性、耐障害性といったメリットを最大限に活かせます。

  • リプレイス (Replace): 既存システムを廃止し、SaaS (Software as a Service) などの新たなクラウドサービスに置き換える方法です。自社開発・運用の負荷を軽減できますが、既存業務プロセスとの適合性やデータ移行の検討が必要です。

    • 留意点: どの戦略が最適かは、対象システムの重要度、複雑性、ビジネスへの影響度、既存システムの技術的負債の状況、そして将来的なビジネス目標などを総合的に評価し、ROI(投資対効果)を考慮して慎重に決定する必要があります。無理な刷新計画は、現場の混乱を招き、プロジェクト頓挫の原因となり得ます。

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②段階的な移行計画とリスク管理

大規模なインフラ刷新は、一度に全てを実行しようとするとリスクが高まります。ビジネスへの影響を最小限に抑えつつ、着実に成果を上げていくためには、段階的な移行計画が不可欠です。計画には以下の要素を盛り込み、リスクを管理することが重要です。

  • 優先順位付け: ビジネスインパクトの大きい領域や、早期に効果を見込める部分、あるいは移行の容易性が高い部分から優先的に着手します。全てのシステムを同時に移行するのではなく、重要度や依存関係を考慮して順序を決定します。

  • スモールスタートとイテレーション: 小さな範囲で実証実験(PoC)を行い、そこで得られた学びや課題を次のステップに活かすアジャイルな進め方が有効です。一度に大規模な変更を行うのではなく、小さな成功を積み重ねていくことで、リスクを低減し、関係者の理解と協力を得やすくなります。

  • リスク評価と対策: 移行に伴う潜在的なリスク(例:システムダウンによる業務停止、データ損失、セキュリティ侵害、期待した性能が出ない等)を事前に洗い出し、それぞれに対する具体的な対策(例:バックアップ体制の強化、ロールバック計画の準備、セキュリティテストの実施)を準備しておきます。

  • コミュニケーション: 関係部署やステークホルダーとの密なコミュニケーションを維持し、進捗状況、課題、変更点などを透明性をもって共有することで、誤解を防ぎ、プロジェクト全体の円滑な推進を図ります。特に、業務部門への影響を丁寧に説明し、協力を得ることが不可欠です。

    • 失敗しないためのポイント: 関係者全員が計画とリスクを共有し、問題発生時には迅速に対応できる体制を整えておくことが重要です。特に非IT部門との連携不足は、移行プロジェクト失敗の典型的な原因の一つです。

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③アジャイルな構築プロセスとDevOpsの活用

DX時代のインフラ構築においては、従来のウォーターフォール型(最初に全ての計画を詳細に立て、順番に進めていく)の開発ではなく、変化に迅速に対応できるアジャイルなアプローチが求められます。

  • アジャイル開発: 短い期間(スプリントと呼ばれる数週間単位の期間)で「計画→設計→実装→テスト」のサイクルを繰り返し、頻繁にフィードバックを取り入れながら柔軟に開発を進める手法です。市場の変化やユーザーの要求に素早く対応し、価値の高いものから提供していくことを目指します。

  • DevOps (Development and Operations): 開発チーム(Dev)と運用チーム(Ops)が密接に連携し、自動化ツールなどを活用して、アプリケーションやサービスのリリースサイクルを高速化し、品質向上を図る文化・プラクティスです。Infrastructure as Code (IaC) は、DevOpsをインフラ構築に適用する代表的なプラクティスであり、インフラ構成をコードで管理することで、再現性や変更の迅速性を高めます。

    • 留意点: これらの手法は、単にツールを導入すれば良いというものではなく、組織文化の変革も伴います。部門間のサイロを壊し、協力体制を築くことが重要です。トップのコミットメントと現場の理解、そして継続的な改善努力が必要です。

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④PoC(概念実証)の重要性と進め方

新しい技術やアーキテクチャを本格導入する前に、その実現可能性や効果を小規模に検証するPoC(Proof of Concept:概念実証)は、リスクを低減し、投資判断の精度を高める上で非常に重要です。PoCを成功させるためには、以下の要素が鍵となります。

  • 目的の明確化: PoCで何を検証したいのか(例:特定の技術の性能、既存システムとの連携可能性、コスト削減効果など)、成功と判断するための具体的な基準は何かを事前に明確に定義します。曖昧な目的では、PoCの結果評価も曖昧になってしまいます。

  • スコープの限定: 検証範囲を現実的なものに絞り込み、短期間(数週間~数ヶ月程度)で結果を出せるように計画します。欲張って多くのことを一度に検証しようとすると、PoC自体が複雑化し、失敗するリスクが高まります。

  • 適切な環境の準備: 可能であれば本番環境に近いテスト環境を用意し、現実的な条件下で検証を行います。ただし、PoCの段階では、必ずしも本番同様の厳密な環境が必要とは限りません。目的に応じた適切な環境を選定します。

  • 評価とフィードバック: PoCの結果を客観的に評価し、本格導入に向けた課題や改善点を洗い出します。関係者間で結果を共有し、次のステップについて合意形成を図ります。

    • 失敗しないためのポイント: PoCの結果が思わしくなかった場合に、当初の計画を見直したり、場合によっては中止したりする勇気も必要です。PoCはあくまで「検証」であり、成功が約束されたものではありません。「PoC疲れ」に陥らないよう、目的と期間を明確にすることが重要です。

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DXインフラの高度な運用と最適化:作って終わりでは意味がない

インフラは構築して終わりではありません。ビジネスの変化や技術の進化に合わせて、継続的に運用・最適化していくことが、DXの価値を最大化する上で不可欠です。運用フェーズでの失敗は、それまでの投資を無駄にしかねません。

①自動化とIaC (Infrastructure as Code) による運用効率化

手作業によるインフラ管理は、ヒューマンエラーのリスクや運用コストの増大に繋がります。自動化は、これらの課題を解決し、運用効率を飛躍的に向上させる鍵となります。

  • IaC (Infrastructure as Code) の導入: サーバー、ネットワーク、ストレージといったインフラの構成情報を、手順書のようなドキュメントではなく、プログラミングコードのように記述して管理する手法です。TerraformやAnsibleといったツールがよく用いられます。コードで管理することで、環境構築の再現性が高まり(同じコードを実行すれば同じ環境を何度でも作れる)、変更履歴の追跡が容易になり(バージョン管理システムを利用できる)、手作業による設定ミスを防ぐことができます。結果として、迅速かつ一貫性のあるインフラ提供が可能になり、運用負荷の軽減と信頼性向上に大きく貢献します。

  • 自動監視・自動復旧の仕組み構築: システムのCPU使用率、メモリ使用量、ディスク容量、サービスの応答時間などを24時間365日自動的に監視します。異常を検知した際には、管理者にアラートを通知するだけでなく、事前に定義された手順に基づいて、軽微な障害であれば自動的に復旧処理(例:サーバー再起動、予備サーバーへの切り替えなど)を実行することも可能です。これにより、障害対応の迅速化、ダウンタイムの短縮、そして運用担当者の負担軽減が期待できます。

    • ポイント: 自動化を進めることで、IT運用チームは単純作業から解放され、より戦略的な業務(例:新しい技術の評価、セキュリティ強化策の検討など)に時間を割けるようになります。

②継続的なパフォーマンス監視とコスト最適化

クラウド環境は柔軟性が高い反面、利用状況を適切に管理しなければ、想定外のコストが発生する可能性があります。そのため、以下の取り組みが重要になります。

  • パフォーマンス監視の徹底: CPU使用率、メモリ使用量、ディスクI/O、ネットワークトラフィックといったシステムリソースの状況や、アプリケーションの応答時間などを継続的に監視し、性能のボトルネック(処理の遅延箇所)や劣化の兆候を早期に発見します。これにより、ユーザーエクスペリエンスの低下を防ぎ、安定したサービス提供を維持します。

  • コスト監視と分析の習慣化: クラウドサービスの利用料金を詳細に把握し、どのサービスにどれくらいの費用がかかっているのか、無駄なリソースはないかなどを定期的に分析します。多くのクラウドプロバイダーがコスト管理ツールを提供しており、これらを活用することで、予期せぬコスト増を未然に防ぎ、予算内での運用を目指します。

  • リソースの適正化(ライトサイジング): 監視データや分析結果に基づいて、オーバースペックな(過剰な性能を持つ)インスタンスタイプをより適切なサイズに変更したり、長期間利用されていないリソースを停止・削除したりします。また、クラウドプロバイダーが提供する予約インスタンスやスポットインスタンスといった割引オプションを賢く活用することも、コスト効率を高める上で有効な手段です。

  • FinOps (Cloud Financial Operations) の導入検討: これは、クラウドの財務運用を最適化するための文化であり、実践的なアプローチです。IT部門、財務部門、ビジネス部門が連携し、クラウド支出に対するアカウンタビリティ(説明責任)と予測可能性を高め、ビジネス価値を最大化することを目指します。単なるコスト削減だけでなく、投資対効果を意識したクラウド活用を組織全体で推進する考え方です。

    • 失敗しないためのポイント: 定期的なレビューと改善サイクルを確立することが不可欠です。クラウドの請求書を見て初めてコスト超過に気づく、といった事態は避けなければなりません。

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③クラウドネイティブ技術(コンテナ、サーバーレス)の活用

クラウドのメリットを最大限に引き出すためには、クラウドネイティブな(クラウド環境での利用を前提として設計された)技術の活用が有効です。

  • コンテナ技術 (Docker, Kubernetesなど): アプリケーションとその実行に必要なライブラリや設定などをひとまとめにパッケージ化(コンテナ化)し、どんな環境でも同じように動作させる技術です。Dockerはコンテナを作成・実行するための代表的なソフトウェアで、Kubernetesは多数のコンテナを効率的に管理・運用(オーケストレーション)するためのプラットフォームです。これにより、開発環境と本番環境の差異による問題を防ぎ、アプリケーションのポータビリティ(可搬性)を高めます。また、必要に応じてコンテナの数を迅速に増減させることで、スケーラビリティを確保しやすく、開発・運用効率の向上にも貢献します。Google Kubernetes Engine (GKE) は、Google Cloudが提供する強力なマネージドKubernetesサービスです。

  • サーバーレスコンピューティング (FaaS: Function as a Serviceなど): 開発者がサーバーのプロビジョニング(準備)や管理を意識することなく、コード(関数)を記述して実行できるサービスモデルです。イベント(例:ファイルのアップロード、APIリクエストなど)が発生した際にのみコードが実行され、実行時間やリソース使用量に応じて課金されるため、アイドル時のコストを削減し、運用負荷を大幅に軽減できます。また、トラフィックの増減に応じて自動的にスケールするため、急なアクセス増にも柔軟に対応可能です。Google Cloud FunctionsやCloud Runなどがこれに該当します。

    • ポイント: これらの新しい技術を効果的に活用するには、従来の開発・運用スタイルからの転換が求められる場合もあります。学習コストや導入のハードルも考慮に入れる必要がありますが、DXを加速させる大きなポテンシャルを秘めています。

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④インシデント対応と事業継続計画 (BCP)

万が一のシステム障害やサイバー攻撃に備え、迅速かつ効果的なインシデント対応体制と、事業継続を可能にするBCPの策定は、企業にとって不可欠です。これらは、事業の信頼性と持続可能性を担保する上で非常に重要な柱となります。

  • インシデント対応計画の策定と訓練: インシデント(システム障害、セキュリティ侵害など、通常業務を妨げる事象)発生時の検知方法、報告ルート、責任体制、情報共有の手順、封じ込め策、根絶策、復旧手順、そして事後対応(原因分析と再発防止策の策定)までの一連のプロセスを明確に定義します。計画は文書化するだけでなく、定期的な訓練を実施し、関係者の習熟度向上と計画の実効性検証を行います。

  • バックアップとリカバリ戦略の確立: 重要なデータやシステム構成情報は定期的にバックアップを取得し、そのバックアップデータからシステムを迅速かつ確実に復旧できる手順を確立・検証しておきます。クラウドプロバイダーが提供するバックアップサービスやDR(Disaster Recovery:災害復旧)ソリューションの活用も検討します。バックアップの取得頻度や保存期間、復旧目標時間(RTO)、復旧目標ポイント(RPO)をビジネス要件に応じて設定することが重要です。

  • 冗長化とフェイルオーバーメカニズムの導入: 単一障害点(SPOF:Single Point of Failure、そこが故障するとシステム全体が停止してしまう箇所)を排除するために、重要なシステムコンポーネント(サーバー、ネットワーク機器、データベースなど)を複数用意する(冗長化)とともに、障害発生時に自動的または手動で待機系システムに処理を切り替えるフェイルオーバーの仕組みを導入します。これにより、システムの可用性を高め、ダウンタイムを最小限に抑えることができます。

    • 失敗しないためのポイント: BCPは策定するだけでなく、定期的な訓練を通じて実効性を検証し、ビジネス環境の変化や新たな脅威に応じて継続的に更新していくことが重要です。「計画倒れ」にならないよう、経営層のコミットメントのもと、全社的な取り組みとして推進する必要があります。

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XIMIXによるインフラ構築・運用支援

これまで述べてきたように、DX推進におけるインフラ環境の選定・構築・運用は、多岐にわたる専門知識と高度なノウハウを必要とします。特に非IT系のご担当者様にとっては、これらの全てを把握し、適切な判断を下すことは容易ではありません。多くの企業様が、これらの課題に直面し、最適な解決策を模索されています。

私たちXIMIXは、Google Cloud と Google Workspace の導入・活用支援を通じて、お客様のDX推進を強力にサポートしています。長年にわたり蓄積してきた豊富な実績と、Google Cloud 認定資格を持つ専門家チームの技術力をもって、お客様それぞれのビジネス戦略や課題に最適化されたインフラソリューションをご提案します。インフラ戦略における失敗リスクを最小限に抑え、DXの成功確度を高めるお手伝いをいたします。

XIMIXが提供する価値

  • Google Cloud を活用した最適なインフラ設計・構築: クラウドネイティブアーキテクチャ、ハイブリッドクラウド、マルチクラウドなど、お客様のニーズに合わせた柔軟なインフラ設計を行い、Google Cloud のメリットを最大限に引き出す構築サービスを提供します。
  • スムーズな移行支援: レガシーシステムからのクラウド移行や、データ移行を、リスクを最小限に抑えながら計画的かつ確実に実行します。
  • 運用保守と継続的な最適化支援: インフラ稼働後の監視、セキュリティ運用、コスト最適化、パフォーマンスチューニングなど、継続的な運用保守サービスを提供し、お客様のインフラ環境が常に最適な状態を維持できるよう支援します。
  • 伴走型サポートと内製化支援: 単なるシステム構築に留まらず、お客様自身がクラウド技術を理解し、活用していけるよう、トレーニングや技術支援を通じて内製化もサポートします。非IT系のご担当者様が安心してDXを推進できるよう、丁寧にサポートいたします。

XIMIXは単なるITインフラの提供に留まらない、ビジネス変革に貢献するDXパートナーとなることを目指しています。DX推進におけるインフラ戦略でお悩みでしたら、ぜひ一度XIMIXにご相談ください。お客様の課題解決に向け、真摯に対応させていただきます。

XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
XIMIXのGoogle Cloud 導入支援についてはこちらをご覧ください。

まとめ:失敗しないDXインフラ戦略のために

本記事では、DX推進を成功させるための戦略的なITインフラの選定・構築・運用における重要なポイントと、失敗しないための留意点を解説しました。クラウドモデルの選定から、ネットワーク、データ活用、セキュリティ、そして構築・移行、運用最適化に至るまで、非IT系の方が特に押さえておくべき点を中心にご理解いただけたことと思います。

DX時代のインフラは、もはや単なる「縁の下の力持ち」ではありません。ビジネスの俊敏性、拡張性、そして持続可能性を左右する、まさに「攻めのIT」の核となる存在です。非IT系のご担当者様におかれましても、本記事で提示したポイントを踏まえ、自社のDX戦略におけるインフラの役割と重要性を再認識し、IT部門や外部パートナーとの建設的な議論を深めていただくきっかけとなれば幸いです。ここで挙げた「失敗しないための留意点」を一つひとつ確認し、自社の取り組みに潜むリスクを洗い出してみてください。

ITインフラの世界は常に進化し続けています。一度構築したら終わりではなく、ビジネスの変化や技術の進展に合わせて、継続的に見直し、最適化していく姿勢が不可欠です。このダイナミックな環境変化に対応し、DXの果実を最大限に享受するためには、信頼できるパートナーとの連携も有効な選択肢となるでしょう。

この記事が、皆様のDX推進の一助となれば幸いです。次のステップとして、自社のインフラ課題の具体的な洗い出しや、専門家への相談を検討されてみてはいかがでしょうか。

 


【非IT系 DXご担当者様向け】インフラ選定・構築・運用のポイントと失敗しないための留意点

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