今さら聞けない「ゼロトラスト」とは?基本概念からメリットまで徹底解説

 2025,04,24 2025.07.06

はじめに

クラウドサービスの全面的な活用、ハイブリッドワークの常態化、そしてサイバー攻撃の悪質化・巧妙化。現代のビジネス環境において、従来のセキュリティ対策の限界が露呈しています。このような背景から、新たなセキュリティのパラダイム「ゼロトラスト」が、今や企業にとって避けては通れない重要戦略となっています。

「言葉はよく聞くが、結局のところ何なのか?」「自社にはどう関係するのか?」 本記事では、こうした疑問をお持ちのDX推進担当者や経営層の方々に向け、ゼロトラストの基本概念から、その重要性、従来の対策との違い、具体的な導入ステップ、そしてメリット・課題までを網羅的かつ分かりやすく解説します。

ゼロトラストとは?「決して信頼せず、常に検証する」という新常識

ゼロトラスト(Zero Trust)とは、その名の通り「何も信頼しない」ことを大前提としたセキュリティモデルです。「社内は安全、社外は危険」という従来の境界で守る考え方とは一線を画し、「社内外を問わず、あらゆるアクセスを信用せず、リソースへのアクセス要求のたびに、その正当性を厳格に検証する」というアプローチを取ります。

たとえ社内LANからのアクセスでも、一度認証済みのユーザーやデバイスであっても、重要なデータやシステムにアクセスしようとする際には、都度「本当にアクセス資格があるのか?」を検証します。これにより、万が一、攻撃者が社内ネットワークへの侵入に成功したとしても、機密情報までたどり着くことを防ぎ、被害を最小限に抑えることができます。

なぜ今、ゼロトラストが不可欠なのか?

ゼロトラストが急速に企業の重要課題となっている背景には、無視できない3つの大きな環境変化があります。

①クラウド利用の拡大と「境界」の消滅

多くの企業が、基幹システムやデータを従来のオンプレミス環境から、Google Cloud などのパブリッククラウドやSaaSへと移行しています。これにより、守るべき情報資産が社内ネットワークの「内側」だけでなく、インターネット上の様々な場所に分散しました。もはや、守るべき「境界線」そのものが曖昧になっているのです。

②働き方の多様化とアクセスの複雑化

リモートワークやサテライトオフィスの活用が一般化し、従業員は自宅、外出先など、あらゆる場所から業務を行います。利用するデバイスも、会社支給のPCだけでなく、個人のスマートフォンやタブレット(BYOD)にまで及んでいます。これにより、アクセスの起点となる場所やデバイスが爆発的に増え、どこまでが「安全な内側」なのかを定義すること自体が不可能になりました。

③サイバー攻撃の高度化と内部脅威

IPA(情報処理推進機構)が発表する「情報セキュリティ10大脅威」でも常に上位に挙げられるランサムウェアによる被害や、巧妙な標的型攻撃は、VPN装置の脆弱性を突いたり、従業員のアカウント情報を窃取したりして、いとも簡単に「境界」の内部へ侵入します。一度侵入を許せば、内部で権限を昇格させながら被害を横展開(ラテラルムーブメント)させるため、境界線での防御だけではもはや通用しません

これらの変化は、「社内=安全」という大前提を根底から覆し、「すべてを疑ってかかる」ゼロトラストの考え方を、現代のビジネスにおける必須要件へと押し上げたのです。

従来の「境界型防御」との決定的な違い

ゼロトラストをより深く理解するために、従来の「境界型防御モデル」との違いを比較してみましょう。これは「城と衛兵」に例えると分かりやすいです。

項目

境界型防御モデル(従来の対策)

ゼロトラストモデル

考え方

城壁と堀で囲み、一度中に入れば安全

城内の各部屋に入るたびに身分証を提示

信頼の基準

ネットワークの場所(城壁の内か外か)

ユーザー、デバイス、状況などを都度検証

主な対策

ファイアウォール、VPN、侵入検知システム

ID認証基盤(MFA)、デバイス管理、アクセス制御

アクセス権限

一度認証されると広範囲にアクセス可能

業務に必要最小限の権限のみを付与

弱点

一度侵入されると内部での活動が容易

導入と継続的な運用に計画性が必要

 

境界型防御が「一度城壁の中に入ってしまえば、比較的自由に動き回れる」のに対し、ゼロトラストは「建物内の重要な部屋に入るたびに、厳格な本人確認と入室目的の提示を求める」ようなものです。このアプローチにより、万が一不正な侵入者がいても、その活動範囲を極小化できます。

ゼロトラストを構成する7つの主要技術要素

ゼロトラストは単一の製品で実現するものではなく、複数の技術要素を連携させた「アーキテクチャ(設計思想)」です。その中心となる7つの柱をご紹介します。

① ID認識と管理 (IAM / IDaaS)

誰がアクセスしているのかを正確に把握する基盤です。従業員の入社から退職までIDライフサイクルを管理し、不要なアカウントが放置されるのを防ぎます。

② 多要素認証 (MFA)

IDとパスワードだけに頼らず、SMSコード、認証アプリ、生体認証などを組み合わせ、本人確認の強度を高めます。「知識情報」「所持情報」「生体情報」のうち2つ以上を要求するのが一般的です。

関連記事:不正ログインを防ぐ!Google Workspace 二段階認証プロセスの基本と設定方法【入門編】

③ デバイスの信頼性検証 (MDM / EMM)

アクセス元のデバイスが安全かどうかを検証します。OSのバージョンは最新か、セキュリティソフトは有効かなどをチェックし、基準を満たさない危険なデバイスからのアクセスを遮断します。

④ 最小権限の原則 (PoLP)

ユーザーに対し、業務遂行に必要最小限のアクセス権限のみを与えます。これにより、内部不正やアカウント乗っ取り時の被害範囲を限定します。

関連記事:【入門編】最小権限原則とは?セキュリティ強化とDXを推進する上での基本を徹底解説

⑤ マイクロセグメンテーション

ネットワークを細かく分割し、セグメント間の通信を厳しく制御します。万が一、あるセグメントが侵害されても、他のセグメントへ被害が広がる(ラテラルムーブメント)のを防ぎます。

⑥ 動的なアクセス制御

ユーザーの役職、デバイスの状態、アクセス先の情報、時間帯や場所といった様々な状況(コンテキスト)をリアルタイムに評価し、アクセス許可の可否や権限レベルを動的に変更します。

⑦ ログの収集と分析 (SIEM / SOAR)

「誰が、いつ、どこから、何に」アクセスしたかのログをすべて収集・分析し、不審な挙動を即座に検知します。これにより、インシデントへの迅速な対応が可能となります。

【実践編】ゼロトラスト導入の現実的な進め方(4ステップ)

ゼロトラストは壮大なコンセプトですが、一度にすべてを実現しようとすると失敗します。自社の状況に合わせて段階的に導入することが成功の鍵です。XIMIXでは、多くのお客様を支援してきた経験から、以下の4ステップでのアプローチを推奨しています。

ステップ1:現状把握と課題の可視化 (アセスメント)

まずは自社の現状を正確に把握することから始めます。利用中のクラウドサービス、ネットワーク構成、ID管理の状況、従業員の働き方などを棚卸しし、「どこに最も大きなリスクがあるのか」「何から守るべきか」という優先順位を明確にします。

関連記事:リスクベースアプローチとは?DX推進とクラウドセキュリティにおける重要性を分かりやすく解説

ステップ2:ロードマップの策定

アセスメント結果に基づき、ゼロトラスト化に向けた具体的な計画を立てます。「3ヶ月後までに認証を強化する」「半年後にはデバイス管理を導入する」といった、現実的で測定可能な目標とタイムラインを設定します。

ステップ3:スモールスタートでの導入と効果検証

影響範囲が限定的な部門や特定のアプリケーションから、パイロット導入を開始します。例えば、まずは情報システム部から多要素認証を必須にする、特定のクラウドアプリへのアクセスを制御するなど、小さく始めて効果を検証し、課題を洗い出すことが重要です。

関連記事:なぜDXは小さく始めるべきなのか? スモールスタート推奨の理由と成功のポイント、向くケース・向かないケースについて解説

ステップ4:全社展開と継続的な改善

パイロット導入で得た知見をもとに、対象範囲を徐々に拡大していきます。ゼロトラストは一度導入して終わりではありません。新たな脅威やビジネスの変化に対応するため、定期的に設定を見直し、継続的に改善していく運用プロセスが不可欠です。

ゼロトラスト導入で得られる4つの主要メリット

ゼロトラストへの投資は、単なるセキュリティ強化に留まらない、多大なビジネスメリットをもたらします。

① セキュリティレベルの飛躍的向上

内部・外部を問わず全てのアクセスを検証するため、標的型攻撃や内部不正による情報漏洩リスクを抜本的に低減します。万が一インシデントが発生しても、被害の拡大を最小限に食い止められます。

② 柔軟でセキュアな働き方の実現

場所やデバイスに依存しないセキュリティモデルのため、リモートワークやBYOD(私物端末の業務利用)を安全に推進でき、従業員の生産性向上と満足度向上に貢献します。

③ クラウドサービス活用の加速

Google Workspace のようなSaaSや Google Cloud のようなIaaS/PaaSを安全に利用するための統制基盤となります。セキュリティの懸念なく、DXを加速させる最新のクラウド技術を積極的に活用できます。

④ コンプライアンスとガバナンスの強化

全てのアクセス記録が可視化され、厳格な権限管理が実現するため、内部統制の強化や、業界のセキュリティ基準・法規制への対応が容易になります。

知っておくべきゼロトラストの課題と注意点

多くのメリットがある一方、ゼロトラスト導入にはいくつかの課題も存在します。これらを事前に理解しておくことが、計画を成功に導きます。

  • コストと複雑性: 複数のセキュリティソリューションを組み合わせるため、初期導入コストやライセンス費用が発生します。また、自社の環境に合わせた適切な設計には高度な専門知識が求められます。

  • 従業員への影響: 認証のステップが増えるなど、一時的に従業員の利便性が低下する可能性があります。なぜ必要なのかを丁寧に説明し、理解を得るコミュニケーションが不可欠です。

  • 継続的な運用負荷: 導入後もポリシーの更新やログの監視など、継続的な運用が必要です。体制が整っていない場合、外部のマネージドサービス(MSS)の活用も有効な選択肢となります。

Google Cloud / Google Workspaceで実現するゼロトラスト

Google Cloud や Google Workspace は、ゼロトラストの考え方を体現したサービスです。

Google Cloud が提供する「BeyondCorp Enterprise」は、Google自身が長年社内で実践してきたゼロトラストモデルを顧客向けに提供するソリューションです。VPNを使わずに、世界中のどこからでも安全なアクセスを実現します。

Google Workspace も、標準で強力なセキュリティ機能を備えています*多要素認証、詳細なアクセス制御、デバイス管理、データ損失防止(DLP)など、ゼロトラストの構成要素となる多くの機能が統合されており、安全なコラボレーション環境を構築します。

これらのサービスを活用することで、ゼロトラストへの移行を現実的かつスムーズに進めることが可能です。

関連情報:

XIMIX(NI+C)が実現する、貴社に最適なゼロトラスト移行

「ゼロトラストの重要性は理解したが、何から手をつければいいのか分からない」 「自社の複雑なシステム環境に、どう適用すれば良いのか判断できない」

このような課題に対し、私たちNI+CのXIMIXは、Google Cloud および Google Workspace の豊富な導入実績と、大企業のセキュリティ要件に関する深い知見を活かし、お客様のゼロトラスト導入を計画から運用まで一気通貫でサポートします。

  • 現実的なアセスメントとコンサルティング: お客様のビジネスとIT環境を深く理解し、理想論ではない、現実的で費用対効果の高いロードマップを策定します。

  • 業務影響を最小化する設計・構築: 既存の認証基盤や業務システムとの連携を考慮し、従業員の生産性を損なわない、スムーズな移行を実現するアーキテクチャを設計・構築します。

  • 形骸化させない運用支援: 導入後のセキュリティ監視、インシデント対応はもちろん、貴社のビジネス成長に合わせてポリシーを継続的に改善していくための運用体制構築までご支援します。

ゼロトラストへの移行や、クラウド時代のセキュリティ戦略に課題をお持ちでしたら、ぜひ一度XIMIXにご相談ください。

XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
XIMIXのGoogle Cloud 導入支援についてはこちらをご覧ください。

ゼロトラストに関するよくある質問(Q&A)

Q1. ゼロトラストを導入すれば、VPNは不要になりますか?

A1. 必ずしもすぐ不要になるわけではありません。多くの企業では、既存のVPN環境とゼロトラストの仕組みを併用する移行期間を設けます。将来的には、Gartnerが「ZTNA(ゼロトラストネットワークアクセス)」への置き換えが進むと予測している通り、VPNへの依存度を大幅に下げていくことが可能です。

Q2. 中小企業でもゼロトラストは必要ですか?

A2. 必要です。サイバー攻撃は企業の規模を問いません。むしろ、セキュリティ専任の担当者を置きにくい中小企業こそ、Google Workspace のような、ゼロトラストの考え方に基づいたセキュリティ機能が標準で組み込まれているクラウドサービスを活用するメリットは大きいと言えます。

Q3. ゼロトラストの導入には、どれくらいの期間がかかりますか?

A3. 対象範囲や目指すレベルによって大きく異なります。認証強化など、特定の領域であれば数ヶ月で導入可能な場合もあります。全社的なアーキテクチャの刷新を目指す場合は、1年以上のプロジェクトになることも珍しくありません。重要なのは、段階的な計画を立てることです。

まとめ

本記事では、現代のビジネスに不可欠なセキュリティモデル「ゼロトラスト」について、その全貌を解説しました。

  • ゼロトラストとは、「何も信頼せず、常に検証する」を基本とするセキュリティの考え方。

  • クラウド化や働き方の多様化、攻撃の高度化により、その重要性は増す一方である。

  • 厳格な認証、デバイス管理、最小権限アクセスなどを組み合わせて実現するアーキテクチャである。

  • セキュリティ強化に加え、柔軟な働き方やDX推進にも大きく貢献する。

  • 導入は、現状把握から始める段階的なアプローチが成功の鍵となる。

ゼロトラストへの移行は、一朝一夕に完了するものではありません。しかし、これは単なるセキュリティ投資ではなく、変化の激しい時代を勝ち抜くための「経営戦略」そのものです。この記事が、貴社のセキュリティを見直し、未来への一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。


今さら聞けない「ゼロトラスト」とは?基本概念からメリットまで徹底解説

BACK TO LIST