はじめに
デジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みが企業にとって喫緊の課題となる現代において、その基盤となるITインフラの重要性はますます高まっています。しかし、多くの企業では、複雑化した既存システムや、硬直化したITインフラがDX推進の足かせとなっているケースも少なくありません。「市場の変化に迅速に対応できない」「新しいデジタル技術を導入したいが、現行システムでは難しい」「運用コストが増大している」といった課題をお持ちではないでしょうか。
このような課題を解決し、DXを加速させるための鍵となるのが「インフラモダナイゼーション」です。本記事では、インフラモダナイゼーションとは何か、その基本的な概念から、具体的な進め方、成功させるためのポイント、そして留意すべき点について、分かりやすく解説します。
この記事を読むことで、以下のことが理解できます。
- インフラモダナイゼーションの基本的な定義と、なぜ今求められているのか
- インフラモダナイゼーションがもたらす具体的なメリット
- インフラモダナイゼーションを推進するためのステップと、成功に導くための要点
DX時代を勝ち抜くための確かな一歩を踏み出すために、ぜひ本記事をお役立てください。
インフラモダナイゼーションとは何か?
インフラモダナイゼーションとは、直訳すると「インフラの近代化」です。ビジネスの成長や変化に合わせて、既存のITインフラストラクチャ(サーバー、ストレージ、ネットワーク、ミドルウェアなど)を最新の技術やアプローチを用いて刷新し、最適化することを指します。
なぜ今、インフラモダナイゼーションが必要なのか?
現代のビジネス環境は、顧客ニーズの多様化、市場競争の激化、テクノロジーの急速な進化など、変化のスピードが非常に速い時代です。このような状況下で企業が競争優位性を確立し、持続的に成長していくためには、変化に柔軟かつ迅速に対応できるIT基盤が不可欠です。
しかし、長年運用されてきた従来のオンプレミス型のITインフラや、いわゆる「レガシーシステム」は、以下のような課題を抱えていることが少なくありません。
- 硬直性・拡張性の限界: 新しいサービスの迅速な展開や、急なアクセス増に対応するためのリソース拡張が難しい。
- 運用負荷・コストの増大: ハードウェアの老朽化に伴う保守コストの増加や、複雑な運用管理に多くの人的リソースが必要となる。
- 新技術導入の障壁: クラウドサービスやAI、IoTといった新しいテクノロジーとの連携が困難で、DX推進の足かせとなる。
- セキュリティリスク: 古いシステムでは最新のセキュリティ対策が適用しづらく、サイバー攻撃の標的となりやすい。
インフラモダナイゼーションは、これらの課題を解決し、ITインフラを「守りのIT」から「攻めのIT」へと転換させるための重要な取り組みです。特に、DXを推進する上で、アジリティ(俊敏性)の高い柔軟なIT基盤の構築は、その成否を左右する要素と言えるでしょう。
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インフラモダナイゼーションがもたらす主なメリット
インフラモダナイゼーションを推進することで、企業は具体的にどのようなメリットを享受できるのでしょうか。主要なものをご紹介します。
①俊敏性・柔軟性の向上
クラウド技術などを活用することで、必要な時に必要な分だけITリソースを迅速に調達・拡張できるようになります。これにより、市場の変化や新たなビジネスチャンスに対して、スピーディーな対応が可能となり、ビジネスのアジリティが大幅に向上します。例えば、新しいアプリケーションの開発・デプロイサイクルの短縮や、キャンペーン時の急激なアクセス増への柔軟な対応が実現します。
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②コスト最適化
ハードウェアの購入・維持管理にかかるコストや、データセンターの運用コストを削減できる可能性があります。特にクラウドサービスを利用する場合、従量課金制モデルにより、実際に使用した分だけの費用で済むため、TCO(総所有コスト)の最適化が期待できます。また、運用管理の自動化や効率化により、人的コストの削減にも繋がります。
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③セキュリティ強化
最新のセキュリティ技術や運用プラクティスを導入することで、セキュリティレベルを向上させることができます。多くのクラウドプロバイダーは、高度なセキュリティ機能や専門チームによる24時間365日の監視体制を提供しており、自社単独で対策を講じるよりも堅牢なセキュリティ環境を構築できる場合があります。
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④イノベーション促進
AI、機械学習、ビッグデータ分析といった先進技術を活用するための基盤が整います。これにより、データに基づいた意思決定の迅速化、新たな顧客体験の創出、革新的なサービス開発などが可能となり、企業のイノベーションを加速させます。
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⑤ビジネス継続性の向上
災害やシステム障害が発生した際の復旧時間を短縮し、事業継続性を高めることができます。クラウドを活用したバックアップやディザスタリカバリ(DR)環境の構築は、従来のオンプレミス環境に比べて、より迅速かつ低コストで実現可能な場合があります。
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これらのメリットは、DX推進における重要な要素であり、インフラモダナイゼーションが企業の競争力強化に直結することを示しています。
インフラモダナイゼーションの進め方とステップ
インフラモダナイゼーションは、闇雲に進めても期待した効果が得られない可能性があります。計画的かつ段階的に進めることが重要です。ここでは、一般的な進め方のステップをご紹介します。
ステップ1: 現状分析と課題の明確化 (アセスメント)
まず、現在のITインフラがどのような状態にあるのか、ハードウェア、ソフトウェア、ネットワーク、運用体制、コストなどを詳細に把握します。そして、ビジネス戦略やDXの目標と照らし合わせ、現状のインフラが抱える課題(パフォーマンス、コスト、セキュリティ、運用負荷など)を具体的に洗い出します。このアセスメントの精度が、後のステップの成否を大きく左右します。
ステップ2: 目標設定とロードマップ策定
アセスメントの結果を踏まえ、インフラモダナイゼーションによって何を実現したいのか、具体的な目標を設定します。例えば、「新サービスの開発期間を3ヶ月から1ヶ月に短縮する」「インフラ運用コストを年間20%削減する」など、測定可能な目標を立てることが望ましいです。 その上で、目標達成に向けた中長期的なロードマップ(実施計画)を策定します。全てのシステムを一度に刷新するのではなく、優先順位をつけ、段階的に進める計画を立てることが一般的です。スモールスタートで成功体験を積み重ねていくアプローチも有効です。
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ステップ3: モダナイゼーション戦略の選択
現状のシステム特性やビジネス目標に応じて、最適なモダナイゼーション戦略を選択します。代表的なアプローチには以下のようなものがあります(これらはクラウド移行の文脈で「7つのR」などとして語られることもあります)。
- リホスト (Lift and Shift): アプリケーションのコードやアーキテクチャを変更せずに、既存のシステムをそのまま新しいインフラ(主にIaaSクラウド)に移行する手法。迅速性がメリットですが、クラウドのメリットを最大限に活かせない場合もあります。
- リプラットフォーム (Lift and Reshape): OSやミドルウェアなどを一部新しいバージョンにアップグレードしたり、クラウドサービスに合わせて軽微な変更を加えたりして移行する手法。リホストよりクラウドの恩恵を受けやすくなります。
- リファクタリング/リアーキテクト: アプリケーションの構造や設計を見直し、クラウドネイティブなアーキテクチャ(マイクロサービス化など)に変更する手法。開発コストや時間はかかりますが、クラウドのメリットを最大限に享受でき、将来的な拡張性や柔軟性が高まります。
- リビルド: 既存のアプリケーションを廃棄し、クラウド上で全く新しく再構築する手法。
- リプレイス: 既存のアプリケーションをSaaSなどの既製サービスに置き換える手法。
どの戦略が最適かは、対象システムの重要度、複雑性、将来性などを総合的に評価して判断する必要があります。
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ステップ4: PoC (概念実証) の実施と評価
本格的な移行・構築に着手する前に、小規模な範囲でPoC (Proof of Concept:概念実証) を実施し、選択した技術やアプローチが期待通りの効果を発揮するかどうかを検証します。PoCを通じて技術的な課題やリスクを早期に発見し、計画の精度を高めることができます。
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ステップ5: 段階的な移行と実装
PoCの結果を踏まえて、策定したロードマップに基づき、段階的にインフラの移行や構築を進めます。一気に全てを移行するのではなく、影響範囲の少ないシステムから着手し、徐々に対象を拡大していくアプローチがリスクを低減する上で有効です。移行・構築中は、業務への影響を最小限に抑えるための周到な計画と準備が求められます。
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ステップ6: 運用と継続的な最適化
新しいインフラ環境の運用を開始した後も、それで終わりではありません。パフォーマンス監視、コスト管理、セキュリティ対策などを継続的に行い、ビジネスの変化や技術の進化に合わせて、インフラを常に最適な状態に保つための改善活動を続けることが重要です。
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インフラモダナイゼーションを成功させるためのポイントと留意点
インフラモダナイゼーションは、技術的な側面だけでなく、組織文化やプロセス変革も伴う大きな取り組みです。成功のためには、以下のポイントと留意点を押さえておくことが肝要です。
①経営層のコミットメントと全社的な理解
インフラモダナイゼーションは、IT部門だけの取り組みではなく、全社的なDX戦略の一環として位置づける必要があります。経営層がその重要性を理解し、強力なリーダーシップを発揮することが不可欠です。また、関連部門に対しても目的や効果を丁寧に説明し、協力を得られる体制を築くことが成功の鍵となります。
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②適切な技術選定とパートナー選びの重要性
クラウドサービスをはじめ、利用可能な技術やソリューションは多岐にわたります。自社の要件や目的に合致した技術を慎重に選定することが重要です。また、インフラモダナイゼーションには高度な専門知識や経験が求められるため、信頼できる外部パートナーの支援を検討することも有効な手段です。多くの企業様をご支援してきた経験から、パートナー選定の際には、技術力だけでなく、自社のビジネスへの理解度やコミュニケーション能力も重視することをお勧めします。
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③人材育成とスキルシフト
新しいインフラ環境を効果的に運用・活用していくためには、社内人材のスキルアップや、新しい技術に対応できる人材の育成・獲得が不可欠です。クラウド技術やDevOpsといった新しい知識・スキルを習得するための研修プログラムの導入や、外部の専門家を活用しながら内製化を進めていくといったアプローチが考えられます。
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④セキュリティとガバナンスの確保
クラウド利用の拡大などに伴い、新たなセキュリティリスクも生じます。モダナイゼーションの計画段階からセキュリティ対策を十分に検討し、適切なガバナンス体制を構築・維持することが重要です。データの保護、アクセス管理、コンプライアンス遵守などを徹底する必要があります。
⑤段階的なアプローチと成果の可視化
大規模な変革を一気に進めようとすると、リスクが高まり、現場の混乱を招く可能性があります。優先度の高い領域からスモールスタートし、段階的に範囲を拡大していくアプローチが現実的です。また、各段階での成果や効果を定期的に測定・可視化し、関係者と共有することで、モチベーションの維持や、さらなる改善への機運を高めることができます。
⑥変化への対応と継続的な改善意識
インフラモダナイゼーションは一度完了すれば終わりというものではありません。ビジネス環境や技術は常に変化し続けます。そのため、構築したインフラを定期的に見直し、継続的に改善していく姿勢が求められます。アジャイルな考え方を取り入れ、変化に柔軟に対応できる体制を整えることが重要です。
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ここまで、インフラモダナイゼーションの基本から進め方、成功のポイントについて解説してきました。しかし、実際に自社でこれら全てを計画し、実行するには、専門的な知識や経験、そして多くのリソースが必要となることも事実です。
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まとめ
本記事では、DX時代における企業の成長に不可欠な「インフラモダナイゼーション」について、その基本的な考え方から具体的な進め方、成功のためのポイントまでを解説しました。
インフラモダナイゼーションは、既存のITインフラが抱える課題を解決し、俊敏性、コスト効率、セキュリティ、そしてイノベーションの可能性を大きく向上させる取り組みです。しかし、その推進には、現状の正確な把握、明確な目標設定、適切な戦略選択、そして全社的なコミットメントが不可欠となります。
DXへの道のりは企業によって様々ですが、その基盤となるITインフラの変革は、多くの場合、避けては通れない重要なステップです。本記事が、皆様のインフラモダナイゼーションへの第一歩を踏み出すための一助となれば幸いです。
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