スケーラビリティとは?Google Cloudで実現する自動拡張のメリット【入門編】

 2025,04,23 2025.06.30

はじめに

「キャンペーン開始直後にアクセスが集中しサイトが重くなった」「テレビで紹介された途端、サーバーがダウンしてしまった」

Webサイトやオンラインサービスを運営する中で、このような経験は大きなビジネスチャンスの損失に直結します。これは、システムの「スケーラビリティ」が不足している典型的な例です。特に、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進し、事業成長を加速させたいと考える企業にとって、スケーラビリティの確保は避けて通れない経営課題と言えるでしょう。

この記事では、DX推進を担う企業の決裁者層に向けて、以下の点を深く、かつ分かりやすく解説します。

  • スケーラビリティの基本的な意味とビジネスにおける重要性

  • 従来型(オンプレミス)の課題とクラウドがもたらす解決策

  • スケーラビリティ設計における重要なポイントと注意点

  • Google Cloud を活用し、ビジネス成長を加速させる具体的な方法

本記事を通じて、スケーラビリティの本質を理解し、Google Cloud がいかにして貴社のビジネスを次のステージへと押し上げる強力なエンジンとなり得るか、その具体的なイメージを掴んでいただければ幸いです。

スケーラビリティとは何か?

スケーラビリティ(Scalability)とは、日本語で「拡張性」や「規模の変化に対応できる能力」と訳されます。ITシステムの文脈では、ユーザー数やアクセス数の増減といった負荷の変動に応じて、システムの処理能力(サーバー性能や台数、ネットワーク帯域など)を柔軟に増減させられる度合いを指します。

端的に言えば、「システムの規模を、必要に応じて俊敏に、かつ効率的に変更できる能力」のことです。この能力が低いと、ビジネスの成長スピードにシステムが追いつけず、深刻な機会損失を生む原因となります。

なぜ、スケーラビリティがこれほど重要なのか?

現代のビジネス環境において、スケーラビリティの重要性はかつてなく高まっています。その背景には、予測困難な需要変動や、ユーザー体験(UX)への期待の高まりがあります。

①ビジネス機会損失の防止

アクセス集中時にWebサイトの表示が遅くなったり、サービスが停止したりすることは、売上の逸失に直結します。例えば、大規模なセールやメディア露出でせっかく集まった潜在顧客が、システムの不具合によって購入や申し込みを断念してしまうケースです。高いスケーラビリティがあれば、突発的なアクセス増にもシステムが即座に対応し、貴重なビジネスチャンスを確実に捉えることができます。

②優れたユーザー体験(UX)の提供

現代のユーザーは、いつでも快適に動作するサービスを当然のものとして期待しています。レスポンスの遅延やシステムの不安定さは、顧客満足度を著しく低下させ、ブランドイメージの毀損や顧客離れにつながります。安定したパフォーマンスを維持することは、顧客ロイヤルティを高め、長期的なビジネス成長の基盤となります。

③コストの最適化と経営効率の向上

後述しますが、従来のオンプレミス環境では、最大負荷を想定して過大なITリソースを先行投資する必要がありました。しかし、クラウドのスケーラビリティを活用すれば、必要な時に必要な分だけリソースを利用し、不要な時は自動で縮小させることが可能です。これにより、インフラコストを最適化し、経営資源をより戦略的な分野へ集中させることができます。

従来型(オンプレミス)環境におけるスケーラビリティの課題

クラウドの利点を理解するために、まずは従来型のオンプレミス環境が抱えるスケーラビリティの課題を整理しましょう。

  • 調達のリードタイム: 新しいサーバーやネットワーク機器が必要になった際、発注から納品、設定までに数週間から数ヶ月を要することが珍しくありません。ビジネスの要求スピードにインフラが追いつけないのです。

  • 過剰な先行投資: 年に数回のピークトラフィックに備えるため、常に最大スペックの機器を保有する必要があり、通常時のリソースが無駄になりがちでした。

  • 柔軟性の欠如: 一度導入した機器のスペックを後から下げる(スケールダウン)ことは難しく、需要が減少してもコストを削減しにくい構造でした。

  • 運用の手間と人件費: サーバーの監視、障害対応、リソース調整などを手動で行う必要があり、情報システム部門に大きな運用負荷がかかっていました。

これらの課題は、変化の激しい市場環境において、企業の俊敏性(アジリティ)を著しく阻害する要因となっていました。

関連記事:
オンプレミスとクラウドを’中立的な視点’で徹底比較!自社のDXを加速するITインフラ選択のポイント
【入門編】クラウドとオンプレミスのセキュリティを比較!自社に最適な環境選びのポイントとは

スケーラビリティの実現方法:スケールアップとスケールアウト

スケーラビリティを実現するアプローチには、大きく分けて「スケールアップ」と「スケールアウト」の2種類が存在します。

スケールアップ(垂直スケール)

サーバー1台あたりの性能(CPU、メモリ、ストレージなど)を向上させることで、システム全体の処理能力を高める方法です。

  • 例: サーバーのCPUをより高性能なものに交換する、メモリを増設する。

  • メリット: 構成が比較的シンプルで、アプリケーションの改修が不要な場合が多い。

  • デメリット: 性能向上には物理的な限界があり、高性能なハードウェアは非常に高価。また、サーバー自体が故障した場合、システム全体が停止するリスク(単一障害点)を抱えます。

スケールアウト(水平スケール)

サーバーの台数を増やすことで、システム全体の処理能力を分散・向上させる方法です。アクセスが増えたらサーバーを追加し、減ったらサーバーを減らします。

  • 例: 同じ構成のサーバーを複数台用意し、ロードバランサーでアクセスを各サーバーに振り分ける。

  • メリット: 理論上、台数を増やすことでどこまでも性能を向上可能。1台が故障しても他のサーバーでサービスを継続でき、耐障害性が高い。コスト効率にも優れる。

  • デメリット: システム構成がスケールアップに比べて複雑になり、負荷分散の設計が重要になる。

クラウド時代においては、この「スケールアウト」を自動化した「オートスケーリング」が主流となっています。

Google Cloudでスケーラビリティを実現する「オートスケーリング」

オートスケーリング(Autoscaling)とは、システムの負荷(CPU使用率、リクエスト数など)をリアルタイムで監視し、あらかじめ設定した条件に基づいて、自動的にサーバーなどのリソース数を増減させる仕組みです。

例えば、以下のようなルールを設定できます。

  • 「Webサーバー群の平均CPU使用率が70%を5分間超えたら、サーバーを2台追加する」

  • 「キューに溜まった処理待ちジョブが100件を超えたら、処理用サーバーを1台追加する」

  • 「深夜帯など、平均リクエスト数が一定以下になったら、サーバーを最小1台まで減らす」

これにより、人手を介さずに、リアルタイムで常に最適なリソース量を維持することが可能になります。急なアクセス増には自動でサーバーが増強されてパフォーマンスを維持し、アクセスが落ち着けば自動でサーバーが削減されて無駄なコストの発生を未然に防ぎます。

【最重要】スケーラビリティ設計のポイントと注意点

オートスケーリングは非常に強力ですが、導入すれば即座に万事解決というわけではありません。ビジネスの成功に繋げるためには、戦略的な設計が不可欠です。私たちXIMIXがお客様をご支援する際、特に重視しているポイントを解説します。

①パフォーマンス目標(SLO)の明確化

まず、「どの程度のパフォーマンスを維持すべきか」という目標(Service Level Objective)を明確に定義することが重要です。例えば、「ページの応答時間は常に2秒以内を維持する」「99.9%のリクエストをエラーなく処理する」といった具体的な目標です。この目標が、オートスケーリングの発動条件(閾値)を決定する上での根拠となります。

②コスト管理(FinOps)の視点

スケーラビリティはコスト最適化に貢献しますが、無計画なスケールアウトは逆にコストを増大させるリスクも孕んでいます。重要なのは、パフォーマンスとコストのバランスを常に監視し、最適化し続ける「FinOps」の考え方です。

  • 予算アラートの設定: 想定以上のコストが発生しそうな場合に、自動で通知を受け取る仕組みを構築します。

  • インスタンスタイプの最適化: 常に最適なコストパフォーマンスを発揮するマシンタイプを選択できているか、定期的に見直します。

  • 予約(Commitment)の活用: 安定して利用するリソース量を見極め、割引率の高いコミットメント利用割引を適用することで、大幅なコスト削減が可能です。

関連記事:
Google Cloud環境におけるFinOps実践ガイド - プロセス・ツール・組織文化を最適化
Google Cloudの料金体系をわかりやすく解説!課金の仕組みとコスト管理の基本

③セキュリティとコンプライアンス

スケールアウトによってサーバーインスタンスが動的に増減する環境では、セキュリティの考え方も変える必要があります。新しく起動したインスタンスに自動で適切なセキュリティポリシーが適用されるか、アクセス制御は正しく機能するかなど、動的な環境を前提としたセキュリティ設計が求められます。

ビジネスニーズ別 Google Cloudサービス選択ガイド

Google Cloud は、多様なニーズに応えるスケーラブルなサービスを提供しています。ここでは代表的なサービスを、ビジネス要件に合わせてご紹介します。

柔軟なインフラ制御を求めるなら:Compute Engine + Managed Instance Groups (MIG)

 

  • 概要: 仮想マシン(VM)を自由にカスタマイズし、MIGでグループ化してオートスケーリングを実現します。

  • 最適なケース: オンプレミスからの移行案件や、OSレベルでの細かな設定が必要な既存アプリケーションの実行環境に適しています。

関連記事:
Compute Engine(GCE)とは?仮想サーバーの基本からメリット、用途まで【入門編】
【入門編】仮想マシンとは?サーバーとの違いから仕組み、メリットまでわかりやすく解説

コンテナで最新の開発手法を実践するなら:Google Kubernetes Engine (GKE)

  • 概要: コンテナオーケストレーションの標準であるKubernetesのマネージドサービス。Pod(コンテナ群)やノード(VM)の数を自動で調整します。

  • 最適なケース: マイクロサービスアーキテクチャを採用するモダンなアプリケーション開発や、開発・運用のポータビリティを重視する場合に最適です。

インフラ管理を極力なくしたいなら:Cloud Run

  • 概要: コンテナイメージをデプロイするだけで、トラフィックに応じて自動的にゼロからスケールするサーバーレスプラットフォームです。

  • 最適なケース: APIサーバーやWebアプリケーションなど、リクエストに応じて処理を実行するタイプのシステムに最適。インフラ管理の負荷を大幅に削減できます。

これらのサービスを適切に組み合わせることで、信頼性とコスト効率を両立した、真にスケーラブルなシステムを構築することが可能です。 

XIMIXが実現する、ビジネス成長のためのGoogle Cloud導入支援

ここまでお読みいただき、「スケーラビリティの重要性は理解できたが、自社に最適な設計やサービス選定は難しそうだ」と感じられたかもしれません。まさにその点に、私たちXIMIXの価値があります。

多くのお客様が、「どのサービスを組み合わせるべきか?」「オートスケーリングの適切な設定値は?」「コストとパフォーマンスの最適なバランスはどこか?」といった課題に直面します。

XIMIXは、Google Cloudの認定パートナーとして、中堅・大企業様のクラウド導入・移行・運用を数多くご支援してきました。私たちの強みは、単にインフラを構築するだけでなく、お客様のビジネスモデルや将来の事業計画までを深く理解し、持続的な成長を支えるスケーラブルな環境を共に創り上げることです。

経験豊富なエンジニアが、現状の課題分析から、将来を見据えたアーキテクチャ設計、実際の構築・移行、そしてFinOpsの考え方を取り入れた運用後の継続的な改善まで、一貫して伴走します。煩雑なインフラ管理から解放され、お客様が本来注力すべきコアビジネスに集中できるよう、私たちが全力でサポートいたします。

XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
XIMIXのGoogle Cloud 導入支援についてはこちらをご覧ください。

まとめ

本記事では、現代ビジネスに不可欠な「スケーラビリティ」の概念から、その重要性、そしてGoogle Cloudを活用した具体的な実現方法と設計上の注意点までを解説しました。

  • スケーラビリティは、機会損失を防ぎ、UXを向上させ、コストを最適化する、ビジネス成長の鍵です。

  • 従来型のオンプレミス環境が抱えていた課題は、クラウドの「オートスケーリング」によって解決できます。

  • Google Cloud は、Compute Engine, GKE, Cloud Run といった多様なサービスで、あらゆるニーズに対応するスケーラビリティを提供します。

  • 成功には、パフォーマンス目標、コスト管理、セキュリティを考慮した戦略的な設計が不可欠です。

変化を恐れるのではなく、変化に俊敏に対応できるシステム基盤を持つこと。それが、これからの時代を勝ち抜く企業の条件と言えるでしょう。Google Cloudの導入や既存システムの拡張性に課題をお持ちでしたら、ぜひスケーラビリティの観点から、その活用をご検討ください。

この記事が、貴社のDX推進とビジネスの飛躍に向けた一助となれば幸いです。


スケーラビリティとは?Google Cloudで実現する自動拡張のメリット【入門編】

BACK TO LIST