クラウドのセキュリティは大丈夫? アプリケーション開発・運用で最低限知るべき対策と考え方

 2025,04,22 2025.04.22

はじめに

クラウドサービスは、コスト削減、開発スピード向上、柔軟な拡張性といった多くのメリットをもたらし、今や多くの企業でアプリケーション開発・運用の基盤として活用されています。しかしその一方で、「自社の重要なデータを外部のサービスに預けて大丈夫だろうか?」「セキュリティは本当に確保されているのだろうか?」といった不安の声も根強く聞かれます。

特に、これからクラウド活用を本格化させようとしている企業や、既に利用しているもののセキュリティ対策に漠然とした不安を抱えている担当者様にとって、この問題は大きな懸念事項でしょう。

この記事では、そのような不安を解消し、クラウド環境でアプリケーションを安全に開発・運用していくために、最低限知っておくべきセキュリティの基本的な考え方と、具体的な対策のポイントを入門レベルで分かりやすく解説します。

クラウドセキュリティのよくある誤解:「クラウド=危険」ではない理由

まず、よくある誤解として「クラウドはオンプレミス(自社運用)より危険だ」と言われることもありますが、これは必ずしも正しくありません。

確かに、インターネット経由で利用するクラウドサービスには、不正アクセスなどのリスクが伴います。しかし、Google Cloud のような大手クラウド事業者は、データセンターの物理的な警備体制、ネットワークインフラの監視・防御、ハードウェアの管理など、基盤部分のセキュリティに対して、個々の企業では実現困難なレベルの巨額な投資と専門人材を投入しています。

多くの場合、クラウド環境で発生するセキュリティインシデントの原因は、クラウドサービス自体の脆弱性よりも、利用者側の設定ミスや管理不備(例: アクセス権限の設定誤り、ID/パスワードの不適切な管理、アプリケーション自体の脆弱性放置など)にあります。

つまり、「クラウド=危険」なのではなく、「クラウドの特性を理解し、適切なセキュリティ対策を講じることが重要」なのです。

クラウドセキュリティの最重要コンセプト:「責任共有モデル」を理解しよう

クラウドセキュリティを考える上で、最も基本となる重要な考え方が「責任共有モデル (Shared Responsibility Model)」です。これは、クラウド環境のセキュリティを維持する責任は、クラウドサービスを提供する事業者と、そのサービスを利用する企業(利用者)の双方にあるという考え方です。

どこまでが事業者の責任で、どこからが利用者の責任なのか、その境界線(責任分界点)は利用するクラウドサービスの種類(IaaS, PaaS, SaaS)によって異なりますが、基本的な考え方は共通しています。

  • クラウド事業者の責任範囲 (例: Google Cloud):
    • データセンターの建物や設備といった物理的なセキュリティ
    • サーバー、ストレージ、ネットワークなどのハードウェアインフラ
    • ハイパーバイザーなどの仮想化基盤
    • (PaaS/SaaSの場合)OS、ミドルウェア、実行環境などのプラットフォーム
  • 利用者の責任範囲:
    • クラウド上に保存するデータそのものとその分類
    • ユーザーアカウント、権限設定などのIDとアクセス管理
    • OS、ミドルウェア、アプリケーションセキュリティ設定とパッチ適用(※主にIaaSの場合)
    • ネットワーク設定(ファイアウォールルールなど)
    • クライアント端末(PC、スマートフォンなど)のセキュリティ
    • データの暗号化(事業者側で提供される機能もありますが、設定や管理は利用者の責任範囲となることも)

重要なのは、「クラウドを使えばセキュリティは全てお任せ」ではないということです。 クラウド事業者が強固な基盤を提供してくれても、利用者側が自身の責任範囲で適切な対策を怠れば、セキュリティリスクは高まります。

クラウド事業者は何を守ってくれるのか? (例: Google Cloud)

大手クラウド事業者である Google Cloud は、世界最高水準のセキュリティ対策を実施しています。

  • 物理的セキュリティ: 厳重な入退室管理、監視カメラ、生体認証などを備えたデータセンター。
  • インフラストラクチャセキュリティ: 独自設計のサーバーハードウェア、ネットワーク機器、ソフトウェアによる多層防御。
  • データ暗号化: 保存データ(at-rest)と通信データ(in-transit)はデフォルトで暗号化。
  • 不正アクセス対策: 24時間365日の監視体制、DDoS攻撃対策、侵入検知システムなど。
  • コンプライアンス: ISO 27001, SOC 1/2/3, PCI DSS, FedRAMP など、多数の国際的なセキュリティ・プライバシー基準に準拠。

これらの対策により、クラウド基盤自体の安全性は非常に高いレベルで確保されています。利用者は、この堅牢な基盤の上に、自社のアプリケーションやデータを安全に構築・運用していくことになります。

利用者(あなた)が実施すべき基本的なセキュリティ対策【入門編】

では、責任共有モデルに基づき、利用者側は具体的にどのようなセキュリティ対策を実施すべきでしょうか? ここでは、最低限押さえておくべき基本的なポイントを5つご紹介します。

① ID・アクセス管理 (IAM: Identity and Access Management) を徹底する

「誰が」「どのクラウド上のリソース(サーバー、データ、機能など)に」「どのような操作(閲覧、編集、削除など)を」許可されるのかを厳密に管理することは、セキュリティの基本中の基本です。

  • 最小権限の原則: ユーザーやプログラムには、業務遂行に必要な最低限の権限のみを付与します。不要な権限を与えないことが重要です。
  • 強力なパスワードポリシー: 推測されにくい複雑なパスワードを設定し、定期的に変更するルールを設けます。
  • 多要素認証 (MFA) の有効化: ID/パスワードだけでなく、SMSコードや認証アプリなどを組み合わせることで、不正ログインのリスクを大幅に低減できます。
  • 定期的な権限の見直し: 退職者アカウントの削除や、異動に伴う権限変更などを適切に行います。
  • (例: Google Cloud)IAM: ユーザーやグループごとに詳細なロール(権限の集合)を割り当て、アクセス管理を一元的に行えます。

② 重要なデータを保護する (データ保護)

クラウド上に保存・処理するデータ、特に機密情報や個人情報は、適切に保護する必要があります。

  • データの暗号化: 保存されているデータ(at-rest)と、ネットワーク上で送受信されるデータ(in-transit)を暗号化します。多くのクラウドサービスではデフォルトで暗号化が有効になっていますが、設定を確認し、必要に応じてより強固な暗号化(例:顧客管理の暗号鍵の使用)を検討します。
  • バックアップとリストア: データの消失や破損に備え、定期的にバックアップを取得し、いざという時に確実に復旧できるかテスト(リストア訓練)を行います。
  • データの分類とアクセス制御: データの機密性レベルに応じて分類し、アクセスできるユーザーやアプリケーションを制限します。
  • (例: Google Cloud)Cloud Storage: デフォルトで強力な暗号化を提供。Cloud Key Management Service (Cloud KMS) で暗号鍵の管理も可能。Cloud Backup and DR でバックアップ・復旧を自動化。

③ ネットワークの境界を守る

クラウド環境においても、外部からの不正アクセスを防ぐためのネットワークセキュリティ対策は不可欠です。

  • VPC (Virtual Private Cloud) の活用: クラウド内に、自社専用の論理的に隔離されたネットワーク空間を作成し、その中でリソースを管理します。
  • ファイアウォールの設定: 必要な通信のみを許可し、不要なポートやプロトコルからのアクセスを遮断するルールを設定します。特定のIPアドレスからのアクセスのみを許可するなどの制御も有効です。
  • セキュアな接続: オンプレミス環境や他のクラウドとの接続には、VPN (Virtual Private Network) や専用線 (Interconnect) を利用して通信経路を保護します。
  • (例: Google Cloud)VPC Network: 柔軟なネットワーク設計が可能。Firewall Rules で詳細な通信制御を実現。Cloud VPN や Cloud Interconnect でセキュアな接続を提供。

④ アプリケーション自体の脆弱性をなくす

いくらクラウド基盤やネットワークが安全でも、開発したアプリケーション自体にセキュリティ上の欠陥(脆弱性)があれば、そこが攻撃の侵入口となります。

  • セキュアコーディングの実践: SQLインジェクション、クロスサイトスクリプティング (XSS) などの代表的な脆弱性を生まないように、安全なコーディング手法を学び、実践します。
  • ライブラリ・フレームワークの管理: 利用しているオープンソースソフトウェア(OSS)やサードパーティ製のライブラリ、フレームワークに脆弱性が見つかっていないか常に情報を収集し、発見された場合は速やかにアップデートやパッチ適用を行います。
  • 脆弱性診断の実施: 開発したアプリケーションに脆弱性がないか、定期的に専門のツールやサービスを利用して診断を行います。
  • WAF (Web Application Firewall) の導入: アプリケーションの手前で不正な通信や攻撃パターンを検知・遮断するWAFを導入することも有効な対策です。(例: Google Cloud Armor

⑤ 常に監視し、ログを確認する

セキュリティインシデントを早期に発見し、迅速に対応するためには、クラウド環境の利用状況やアプリケーションの動作を継続的に監視し、ログを分析することが重要です。

  • ログの収集と保管: 誰がいつ何をしたか(操作ログ)、どのような通信があったか(ネットワークログ)、アプリケーションがどのように動作したか(アプリケーションログ)などのログを収集し、分析や監査のために一定期間保管します。
  • 監視とアラート: 不審なログイン試行、予期せぬリソースの作成・変更、大量のエラー発生などを検知し、管理者に通知(アラート)する仕組みを構築します。
  • 定期的なレビュー: 収集したログやアラートを定期的に確認し、異常がないか、改善すべき点はないかを分析します。
  • (例: Google Cloud)Cloud Logging: 様々なログを一元的に収集・管理・分析。Cloud Monitoring でリソースやアプリケーションのパフォーマンス、稼働状況を監視し、アラートを設定可能。Security Command Center でセキュリティリスクや脅威を一元的に可視化・管理。

クラウドならではのセキュリティメリット

適切な対策を講じることは前提ですが、クラウドを利用すること自体がもたらすセキュリティ上のメリットもあります。

  • 高度な専門知識の活用: クラウド事業者が持つ最新のセキュリティ技術や専門家の知見を活用できます。
  • 最新の脅威への迅速な対応: 新たなサイバー攻撃手法などに対し、クラウド事業者側で迅速に対策が施されることが期待できます。
  • 均一なセキュリティ統制: ポリシーを設定することで、組織全体で一貫したセキュリティレベルを適用しやすくなります。
  • 物理的なセキュリティと災害対策: 自社でデータセンターを運用するよりも、堅牢な物理セキュリティと災害対策が施された環境を利用できます。

XIMIX によるクラウドセキュリティ支援

クラウド環境におけるセキュリティ対策は多岐にわたり、専門的な知識も必要となるため、「どこから手をつければ良いか分からない」「自社のリソースだけでは不安」と感じる企業も少なくありません。特に、「責任共有モデル」における自社の責任範囲を正確に理解し、適切な対策を網羅的に実施するのは容易ではありません。

 XIMIXは、お客様のクラウド活用におけるセキュリティの不安を解消し、安全なアプリケーション開発・運用環境の実現を支援します。多くの企業のクラウドセキュリティ強化をご支援してきた豊富な実績と、Google Cloud 認定資格を持つ専門家による知見を活かし、お客様の状況に合わせたサービスを提供します。

  • クラウドセキュリティアセスメント: お客様の現在のクラウド利用状況や設定を評価し、セキュリティ上のリスクや課題を洗い出します。
  • Google Cloud セキュア環境設計・構築支援: 責任共有モデルに基づき、お客様の要件に合わせたセキュアな Google Cloud 環境(VPC, IAM, ファイアウォール設定など)の設計・構築を支援します。
  • ID・アクセス管理 (IAM) 設計・導入支援: 最小権限の原則に基づいた適切な権限設計、多要素認証導入などを支援します。
  • データ保護戦略策定・実装支援: データの重要度に応じた暗号化、バックアップ、DR戦略の策定と実装を支援します。
  • セキュリティ運用監視サービス: Cloud Logging, Cloud Monitoring, Security Command Center などを活用し、24時間365日の監視体制やインシデント発生時の対応を支援します。
  • コンプライアンス準拠支援: ISMAP, PCI DSS, GDPR など、各種セキュリティ基準や規制への準拠に向けたコンサルティングや対策実装を支援します。

クラウド アプリケーションのセキュリティ対策に不安をお持ちの場合や、Google Cloud のセキュリティ機能の活用について詳しく知りたい場合は、ぜひ XIMIX にご相談ください。

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業務の効率化や DX 推進に向けた業務アプリの導入・開発をご検討の際は、ぜひ XIMIX にご相談ください。

まとめ

クラウド環境におけるアプリケーションセキュリティは、決して「クラウド事業者任せ」にできるものではありません。「責任共有モデル」を正しく理解し、利用者自身が責任を持って基本的な対策アクセス管理データ保護、ネットワーク防御、脆弱性管理、監視など)を講じることが不可欠です。

しかし、適切な対策を実施すれば、クラウドはオンプレミス環境以上に安全な環境となり得ます。Google Cloud のようなプラットフォームが提供する高度なセキュリティ機能を活用し、必要に応じて専門家の支援も得ながら、継続的にセキュリティレベルの維持・向上に取り組むことが重要です。

この記事が、皆様のクラウドセキュリティに対する理解を深め、安全なクラウド活用の第一歩を踏み出すための一助となれば幸いです。

※Google Cloud については、こちらのコラム記事もご参照ください。 
 【基本編】Google Cloudとは? DX推進の基盤となる基本をわかりやすく解説
 【基本編】Google Cloud導入のメリット・注意点とは? 初心者向けにわかりやすく解説


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