【入門編】アジャイル開発とは?DX時代に知っておきたい基本とメリット・デメリットを解説

 2025,05,19 2025.05.27

はじめに

デジタルトランスフォーメーション(DX)推進の重要性が叫ばれる昨今、「アジャイル開発」という言葉を耳にする機会が増えたのではないでしょうか。市場の変化が速く、顧客ニーズも多様化する現代において、従来型の開発手法だけでは対応が難しくなってきています。「アジャイル開発を導入したいが、具体的にどのようなものかわからない」「自社のDXにどう活かせるのか知りたい」といった課題をお持ちの企業担当者様もいらっしゃるかもしれません。

本記事では、そのような方々に向けて、アジャイル開発の基本的な概念から、そのメリット・デメリット、従来型の代表的な開発手法であるウォーターフォール開発との違い、そして代表的なアジャイル開発の手法やDXとの関連性について、わかりやすく解説します。

この記事をお読みいただくことで、アジャイル開発の全体像を掴み、変化に柔軟に対応しながらビジネス価値を最大化するためのヒントを得ていただければ幸いです。

アジャイル開発とは? 

アジャイル(Agile)とは、「素早い」「俊敏な」といった意味を持つ言葉です。アジャイル開発とは、文字通り、変化に対して俊敏に対応しながら開発を進めていくソフトウェア開発手法の総称を指します。

従来の開発手法が、初期に立てた計画に沿って段階的に開発を進めるのに対し、アジャイル開発では、開発対象を小さな機能単位に分割し、「計画→設計→実装→テスト」という短いサイクルを繰り返しながら、少しずつ開発を進めていきます。この短い開発サイクルを「イテレーション」または「スプリント」と呼びます。

アジャイル開発の基本的な考え方

アジャイル開発は、2001年に提唱された「アジャイルソフトウェア開発宣言」に基づいています。この宣言では、以下の4つの価値を重視しています。

  1. プロセスやツールよりも個人と対話を
  2. 包括的なドキュメントよりも動くソフトウェアを
  3. 契約交渉よりも顧客との協調を
  4. 計画に従うことよりも変化への対応を

これらの価値観は、固定的な計画や形式的なドキュメントよりも、実際に動くソフトウェアを通じて顧客やチームメンバーと密接に連携し、変化に柔軟に対応していくことを重視する姿勢を示しています。

関連記事:
DXプロジェクトに想定外は当たり前 変化を前提としたアジャイル型推進の思考法
アジャイル開発と従来型組織文化のギャップを乗り越える実践的ガイド

なぜ、アジャイル開発が注目されるのか?

現代のビジネス環境は、VUCA(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)の時代と言われるように、予測困難な状況が続いています。このような状況下では、初期に立てた完璧な計画が、開発の途中で陳腐化してしまうリスクが高まります。

アジャイル開発は、短いサイクルで開発とフィードバックを繰り返すため、市場の変化や顧客からの新たな要求に柔軟に対応できます。これにより、手戻りを最小限に抑え、本当に価値のある製品やサービスを迅速に提供することが可能になります。DXを推進し、競争優位性を確立したいと考える多くの企業にとって、アジャイル開発は不可欠なアプローチとなりつつあります。

関連記事:
市場変化を勝ち抜くビジネスアジリティの高め方とは?Google Cloudが実現する俊敏性の獲得

アジャイル開発のメリットとデメリット

アジャイル開発には多くのメリットがある一方で、適用する上で考慮すべきデメリットや注意点も存在します。

アジャイル開発の主なメリット

  • 柔軟な仕様変更への対応: 短い開発サイクルを繰り返すため、途中で仕様変更や追加機能の要望が発生しても、比較的柔軟に対応できます。市場や顧客のニーズの変化に迅速に対応できる点が最大の強みです。
  • 開発サイクルの短縮と早期リリース: 小さな機能単位で開発を進め、優先度の高い機能から順次リリースしていくため、顧客は早い段階で成果物の一部を利用開始できます。これにより、早期にフィードバックを得て、改善に繋げることが可能です。
  • 顧客満足度の向上: 開発の初期段階から顧客を巻き込み、継続的にフィードバックを得ながら開発を進めるため、最終的な成果物が顧客の期待から大きく外れるリスクを低減できます。顧客との協調を重視することで、満足度の高い製品・サービス開発が期待できます。
  • チームのモチベーション向上: チームメンバー間のコミュニケーションが活発になり、自律的な意思決定が促されるため、メンバーの当事者意識やモチベーション向上に繋がりやすいと言われています。

アジャイル開発の注意点

  • 全体の進捗管理の難しさ: 仕様変更に柔軟に対応できる反面、プロジェクト全体のスコープや最終的な納期、コストが見えにくくなることがあります。明確な全体像を把握し続けるためには、経験豊富なファシリテーターの存在や、適切な進捗管理ツールが重要になります。
  • スコープの肥大化リスク: 顧客からの要望を柔軟に取り入れられる一方で、次々と新しい要求が追加され、開発範囲(スコープ)が際限なく拡大してしまう「スコープクリープ」のリスクがあります。優先順位付けや、どこまで対応するかの判断が重要です。
  • チームメンバーの高いスキルと自律性への依存: アジャイル開発では、各メンバーが自律的に判断し、積極的にコミュニケーションを取りながら作業を進めることが求められます。そのため、メンバーのスキルや経験、主体性に成果が左右される側面があります。

これらのデメリットを理解し、対策を講じながら導入を進めることが、アジャイル開発を成功させるための鍵となります。

関連記事:
DXプロジェクトの「スコープクリープ」とは?原因と今日からできる対策を解説

ウォーターフォール開発との違いを理解する

アジャイル開発と比較されることが多い従来型の開発手法に「ウォーターフォール開発」があります。両者の違いを理解することで、アジャイル開発の特徴がより明確になります。

計画重視のウォーターフォール開発

ウォーターフォール開発は、その名の通り、水が滝の上から下に流れるように、プロジェクトの初期に全ての要件を定義し、「要件定義→外部設計→内部設計→プログラミング→テスト→リリース」といった各工程を順番に進めていく開発手法です。原則として前の工程が完了しないと次の工程に進めず、後戻りは想定されていません。

大規模で仕様変更が少ないシステム開発や、品質を厳密に管理する必要があるプロジェクトに適しているとされてきました。

比較でわかるアジャイル開発の特徴

特徴 アジャイル開発 ウォーターフォール開発
計画 短期的な計画を繰り返し、変化に柔軟に対応 プロジェクト開始時に詳細な全体計画を策定
開発サイクル 短いサイクル(イテレーション/スプリント)を反復 各工程を直線的に進め、後戻りは基本的にしない
ドキュメント 必要最小限。動くソフトウェアを重視 各工程で詳細なドキュメントを作成
顧客との関わり 開発初期から継続的に協調し、フィードバックを得る 主に要件定義と受入テストの段階で関わる
仕様変更への対応 比較的容易 原則として困難(変更管理プロセスが必要)
得意な分野 仕様が不確定、変化が速いプロジェクト 仕様が明確で、変更が少ない大規模プロジェクト
リスク管理 早期にリスクを発見し、軌道修正しやすい プロジェクト終盤に問題が顕在化しやすい

このように、アジャイル開発とウォーターフォール開発は、それぞれ異なる特性を持ち、得意とするプロジェクトの性質も異なります。どちらが絶対的に優れているというわけではなく、プロジェクトの目的や状況に応じて最適な手法を選択することが重要です。

アジャイル開発の代表的な手法

アジャイル開発には、その理念を実現するための具体的な手法がいくつか存在します。ここでは代表的なものをいくつかご紹介します。

スクラム (Scrum) とは?

スクラムは、アジャイル開発の中でも特に広く採用されているフレームワークの一つです。ラグビーの「スクラム」のように、チーム一丸となって目標達成を目指すことから名付けられました。(参照:スクラムガイド)

スクラムでは、「スプリント」と呼ばれる1~4週間程度の短い固定期間で開発サイクルを回します。スプリントごとに開発する機能リスト(プロダクトバックログ)から、そのスプリントで対応するタスク(スプリントバックログ)を選択し、開発を進めます。日々の進捗確認(デイリースクラム)、スプリント終了時の成果物レビュー(スプリントレビュー)、チームの活動を振り返る会議(スプリントレトロスペクティブ)といった定期的なミーティングを通じて、コミュニケーションと継続的な改善を重視します。

カンバン (Kanban) とは?

カンバンは、トヨタ生産方式に由来するタスク管理の手法で、作業の「見える化」と「仕掛り中(WIP: Work In Progress)の制限」を特徴とします。

タスクをカード(カンバン)で表現し、「To Do(未着手)」「Doing(作業中)」「Done(完了)」といったステータスごとにボード上で管理します。各ステータスに置けるタスク数に上限(WIP制限)を設けることで、作業のボトルネックを発見しやすくし、チーム全体の作業フローをスムーズにすることを目指します。スクラムのような固定的なイテレーションは必須ではなく、継続的なフローを重視するプロジェクトに適しています。

エクストリーム・プログラミング (XP) とは?

エクストリーム・プログラミング(XP)は、プログラマー間のコミュニケーションと協調を重視し、技術的なプラクティス(実践項目)を徹底することで高品質なソフトウェアを効率的に開発することを目指す手法です。

代表的なプラクティスには、「ペアプログラミング(2人1組でのプログラミング)」「テスト駆動開発(TDD:テストコードを先に書く開発手法)」「継続的インテグレーション(CI:頻繁なコード統合と自動テスト)」などがあります。これらのプラクティスを通じて、変化への対応力と品質向上を両立させます。

手法の選び方のポイント

これらの手法は排他的なものではなく、プロジェクトの特性やチームの状況に合わせて、要素を組み合わせたり、カスタマイズしたりすることも可能です。重要なのは、手法の表面的な導入に留まらず、アジャイル開発の価値観や原則を理解し、チームで実践していくことです。

アジャイル開発とDX

近年、多くの企業が取り組むDX推進においても、アジャイル開発は重要な役割を担います。

DX推進におけるアジャイル開発の役割

DXとは、単にデジタル技術を導入することではなく、デジタル技術を活用してビジネスモデルや組織文化、業務プロセスを変革し、競争上の優位性を確立することを目指す取り組みです。このDXを成功させるためには、市場や顧客のニーズを素早く捉え、新しい価値を継続的に提供していく必要があります。

アジャイル開発は、まさにこの「素早く捉え、継続的に提供する」というDXの本質と親和性が高いアプローチです。不確実性の高いDXプロジェクトにおいて、小さな仮説検証を繰り返しながら進むアジャイル開発は、リスクを低減し、成果を最大化するための有効な手段となります。

アジャイル開発がDX成功の鍵となる理由

  • 変化への即応性: DXでは、新しい技術の登場や市場の変化、顧客ニーズの移り変わりが激しいため、初期の計画に固執せず、柔軟に方向転換できるアジャイル開発が適しています。
  • 顧客中心主義の実践: 顧客からのフィードバックを継続的に取り入れ、顧客にとって本当に価値のあるサービスを追求するアジャイル開発の姿勢は、DXにおける顧客体験(CX)向上に不可欠です。
  • イノベーションの促進: 短いサイクルで試行錯誤を繰り返せるため、新しいアイデアを素早く形にし、市場の反応を見ながら改善していくことができます。これにより、イノベーションが生まれやすい環境が醸成されます。
  • 組織文化の変革: アジャイル開発を導入する過程で、部門間の連携強化、意思決定の迅速化、自律的なチームの育成などが進み、DXを推進しやすい組織文化への変革も期待できます。

Google Cloud のようなスケーラブルで柔軟なクラウドプラットフォームは、アジャイル開発との親和性が非常に高く、迅速な環境構築やサービスの展開を力強くサポートします。

関連記事:
何故、クラウドでイノベーションを創出できるというのか?:Google Cloud のクラウドネイティブ・データ・AI活用の実践ガイド

XIMIXによる支援サービス

アジャイル開発の概念を理解し、そのメリットに魅力を感じても、実際に自社で導入し、DXを推進していく過程では、様々な課題に直面することが少なくありません。「何から始めれば良いかわからない」「アジャイル開発の経験者がいない」「既存のシステムや組織文化との整合性をどう取るか」といったお悩みは、多くの企業様が抱える共通の課題と言えるでしょう。

特に、Google Cloud のような先進的なクラウドプラットフォームを最大限に活用したアジャイル開発を実践するには、深い専門知識と豊富な経験が不可欠です。

私たちは、Google Cloud に精通した専門家集団として、お客様のDX推進をアジャイル開発の導入検討から計画、実践、そして組織への定着まで、一貫してご支援いたします。

多くの企業様をご支援してきた経験から、お客様のビジネスの特性や組織の状況を深く理解し、最適なアジャイル開発のアプローチをご提案します。

長年にわたるSIerとしての豊富な実績と、Google Cloud をはじめとする最先端技術への深い知見を組み合わせることで、お客様のDX実現を力強く後押しします。アジャイル開発の導入や、Google Cloud を活用したDX推進に関してお困りのことがございましたら、ぜひXIMIXにご相談ください。

XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
XIMIXのGoogle Cloud 導入支援についてはこちらをご覧ください。

まとめ

本記事では、「アジャイル開発とは何か?」というテーマで、その基本的な考え方からメリット・デメリット、ウォーターフォール開発との違い、代表的な手法、そしてDXとの関連性について解説しました。

アジャイル開発は、変化の激しい現代において、企業が競争力を維持し、継続的に価値を創出し続けるための非常に有効な開発アプローチです。完璧な計画に固執するのではなく、小さな成功と学びを積み重ねながら、柔軟かつ迅速に顧客ニーズに応えていくことが、これからのビジネスには不可欠と言えるでしょう。

もちろん、アジャイル開発は万能薬ではありません。その特性を正しく理解し、自社の状況やプロジェクトの目的に合わせて適切に導入・運用していくことが重要です。

この記事が、皆様のアジャイル開発への理解を深め、DX推進の一助となれば幸いです。アジャイル開発の導入や実践において、専門家のサポートが必要だと感じられた際には、どうぞお気軽にXIMIXまでお問い合わせください。お客様のビジネス変革を、私たちがお手伝いさせていただきます。


【入門編】アジャイル開発とは?DX時代に知っておきたい基本とメリット・デメリットを解説

BACK TO LIST