【入門編】CCoEとは?目的から組織体制、成功のポイントまで徹底解説

 2025,06,06 2025.11.10

はじめに

「全社的にクラウド導入を進めているが、部門ごとに利用方法がバラバラで統制が取れていない」 「期待したほどのコスト削減や業務効率化に繋がっていない」 「セキュリティやガバナンスの面で、常に漠然とした不安が残る」

多くの企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する中で、クラウドの利活用はもはや当たり前の選択肢となりました。しかしその一方で、上記のような新たな課題に直面しているケースは少なくありません。特に、組織規模の大きい中堅〜大企業においては、全社最適なクラウド活用を実現することの難易度は非常に高くなります。

こうした課題を解決し、企業のクラウド活用を真の成功へと導くための鍵として、「CCoE(Cloud Center of Excellence)」に注目が集まっています。

本記事では、これから本格的にクラウド活用を推進したい、あるいは現在の活用状況に課題を感じている企業のDX推進担当者様や決裁者様に向けて、CCoEとは何か、その目的や役割、そして成功のためのポイントを網羅的かつ分かりやすく解説します。この記事を読めば、CCoEの基本的な概念を理解し、自社のクラウド戦略を次のステージへ進めるための具体的なヒントを得られるはずです。

CCoE(Cloud Center of Excellence)とは何か?

CCoEとは、「Cloud Center of Excellence」の略称で、企業がクラウドコンピューティングを効果的かつ効率的に利用するための専門組織・チームを指します。

単に技術的な専門家を集めたチームというだけではなく、ビジネス戦略に基づいてクラウドの利用方針を定め、全社的なガバナンスを効かせ、クラウド活用のベストプラクティスを組織全体に浸透させていく、いわば「クラウド活用の司令塔」としての役割を担います。

経営と現場、技術とビジネスを繋ぎ、全社横断でクラウドの価値を最大化することが、CCoEの最大のミッションです。

なぜ、CCoEが注目されるのか?

多くの企業でクラウド利用が本格化する以前は、情報システム部門がITインフラを一元的に管理することが一般的でした。しかし、クラウドサービスは手軽に導入できるため、事業部門や開発チームが個別の判断で様々なサービスを利用する「シャドーIT」が生まれやすくなりました。

このような状況は、一見すると現場のスピード感を高めるように見えますが、長期的には以下のような深刻な問題を引き起こすリスクをはらんでいます。

  • セキュリティリスクの増大: 全社的なセキュリティ基準が適用されず、脆弱性が放置される。

  • コストの非効率化: 利用状況が可視化されず、不要なコストが発生し「クラウド破産」に陥る。

  • ガバナンスの欠如: 企業のコンプライアンスポリシーに反した利用が行われる。

  • ノウハウのサイロ化: 各部門が得た知見や成功体験が共有されず、全社的な成長に繋がらない。

CCoEは、こうしたクラウド利用の「無秩序」な状態を防ぎ、全社横断で統制の取れた戦略的なクラウド活用を推進するために不可欠な存在として、その重要性が高まっているのです。

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CCoEの主な目的と役割

CCoEが担うべき目的と役割は多岐にわたりますが、主に以下の点が挙げられます。これらは相互に関連し合い、企業のクラウド活用を総合的に成熟させていきます。

①クラウド戦略の策定と推進

企業の経営戦略と連携し、「何のためにクラウドを使うのか」という大方針を定めます。どのクラウドサービスを標準とするかの選定や、オンプレミスからの移行計画の策定も重要な役割です。

②ガバナンスとセキュリティの強化

全社共通のクラウド利用ルールやガイドラインを策定し、遵守を徹底させます。これにより企業の重要資産を保護します。

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③コストの最適化

クラウドの利用状況を全社的に監視・分析し、無駄なコストを削減します。FinOpsの文化を醸成し、投資対効果を最大化します。

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④標準化とベストプラクティスの展開

クラウド環境の構築パターンやアーキテクチャを標準化し、「型」を提供します。成功事例を形式知化し、全社に展開することで組織全体のスキルアップを図ります。

⑤人材育成と文化醸成

社内勉強会やトレーニングを企画・実施し、全社のクラウドスキルを底上げします。クラウド活用を推進する文化を醸成し、DXに向けた組織変革を後押しします。

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CCoE導入がもたらす具体的なメリット

CCoEを設立し、適切に機能させることは、企業内の様々なステークホルダーに具体的なメリットをもたらします。

①経営層から見たメリット

  • TCO(総所有コスト)の最適化: 全社的な利用状況の可視化とFinOpsの実践により、無駄なITコストを削減し、投資対効果(ROI)を最大化できます。

  • 経営戦略とIT戦略の連携: クラウド活用がビジネス目標と直結し、DXの推進力が向上します。

  • ガバナンス強化によるリスク低減: 全社統一のセキュリティポリシー適用により、情報漏洩やコンプライアンス違反のリスクを低減できます。

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②開発・事業部門から見たメリット

  • ビジネスのアジリティ(俊敏性)向上: CCoEが提供する標準化された環境やガイドライン(ガードレール)の範囲内で、事業部門は迅速かつ自律的に新しいサービス開発や実証実験(PoC)を進められます。

  • イノベーションの促進: セキュリティやインフラ構築の負荷から解放され、本来の目的である「新しい価値の創出」に集中できます。

  • ノウハウの共有: CCoEを通じて他部門の成功事例やベストプラクティスが共有され、部門間の技術格差が是正されます。

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③情報システム部門から見たメリット

  • 戦略的業務へのシフト: 個別のインフラ構築・運用といった定型業務から解放され、全社最適化やセキュリティ戦略の策定といった、より付加価値の高い業務にリソースを集中できます。

  • 属人化の排除と運用効率化: ベストプラクティスや「As-Code」による標準化が進むことで、インフラ管理が効率化され、特定の担当者に依存するリスクが減少します。

  • セキュリティと統制の担保: 全社的なガードレールを設定・運用することで、シャドーITによるリスクを管理下に置き、統制の取れたクラウド活用を実現できます。

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CCoEの代表的な組織モデル

CCoEの組織体制に唯一の正解はなく、企業の文化や規模、クラウドの成熟度によって最適な形は異なります。ここでは代表的な3つのモデルをご紹介します。

①中央集権型CCoE

情報システム部門などが強い権限を持ち、クラウドに関する方針決定やリソース管理をすべてCCoEで一元的に行うモデルです。

  • メリット: ガバナンスを強力に効かせやすく、全社的な標準化を迅速に進めることができます。

  • デメリット: 現場の自由度が低くなり、ビジネスのスピード感を損なう可能性があります。

②分散型CCoE

各事業部門にクラウド利用の権限を委譲し、CCoEは横断的なガイドラインの策定やベストプラクティスの共有といった支援役に徹するモデルです。

  • メリット: ビジネスの俊敏性(アジリティ)を最大限に高めることができます。

  • デメリット: 部門ごとに利用方法が最適化され、全社的な統制が取りにくくなる可能性があります。

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③ハイブリッド型(連合型)CCoE

中央集権型と分散型の中間に位置するモデルです。CCoEが全体的なガードレール(方針やセキュリティ基準)を設定し、その範囲内で各事業部門が自律的にクラウドを活用します。多くの日本企業にとって、統制と推進のバランスが取りやすいため、現実的な落としどころとなることが多いモデルです。

CCoEを構成する主要な人材とスキル

CCoEの成功は、適切なスキルを持つ人材を配置できるかにかかっています。単一のスキルだけでなく、複数の領域にまたがる知見が求められます。

求められるスキルセット

CCoEには、以下の3つの領域にわたるスキルがバランス良く求められます。

  1. テクニカル(技術)スキル:

    1. クラウドアーキテクチャ(ネットワーク、コンピューティング、ストレージ)の深い知識

    2. セキュリティとコンプライアンスに関する専門知識

    3. 自動化技術(IaC: Infrastructure as Code など)

    4. コスト管理(FinOps)の知見

  2. ビジネス(業務)スキル:

    1. 自社の経営戦略や事業内容への深い理解

    2. ビジネス要件を技術的なソリューションに変換する能力

    3. 投資対効果(ROI)を意識したコスト感覚

  3. ソフト(推進)スキル:

    1. 経営層への説明能力(プレゼンテーション)

    2. 事業部門や開発現場との調整・交渉能力(コミュニケーション)

    3. 組織横断のプロジェクトを牽引するリーダーシップと推進力

    4. 新しい技術や文化を組織に浸透させる変革推進力

中核となる役割の例

CCoEは、これらすべてのスキルを一人が持つのではなく、多様なバックグラウンドを持つメンバーで構成されます。

  • CCoEリーダー: CCoE全体を統括し、経営層と連携してクラウド戦略を推進します。

  • クラウドアーキテクト: 全社的なクラウドの技術標準やアーキテクチャを設計します。

  • セキュリティスペシャリスト: クラウドセキュリティポリシーの策定と監査を担当します。

  • FinOpsプラクティショナー: クラウドコストの最適化と予算管理を推進します。

  • エバンジェリスト/トレーナー: クラウド文化の醸成や人材育成を担当します。

CCoE設立の具体的なロードマップ

CCoEは、壮大な計画を立てるよりも、スモールスタートで着実に成果を積み上げていくことが成功の鍵です。ここでは、一般的な設立までの4つのフェーズをご紹介します。

フェーズ1:計画と準備

  • 目的とスコープの定義: なぜCCoEが必要なのか、まずはどの領域(特定のプロジェクトや部門など)から始めるのかを明確にします。

  • 経営層の巻き込み: CCoEの活動には経営層の強力なコミットメントが不可欠です。目的と期待される効果を説明し、支援を取り付けます。

  • 初期メンバーの選定: クラウド技術、ビジネス、プロジェクト管理など、前述のスキルを持つメンバーを少数精鋭で集めます。

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フェーズ2:設計と構築

  • アセスメント: 現状のクラウド利用状況、課題、セキュリティリスクを可視化します。

  • 基本方針の策定: 利用するクラウドサービスの標準や、基本的なセキュリティポリシー、コスト管理のルールなどを定めます。

  • パイロットプロジェクトの実施: スコープとして定義した領域で、実際にCCoEの活動を試験的に開始します。

フェーズ3:導入と展開

  • ガイドラインの整備: パイロットプロジェクトで見えた課題を元に、より詳細なクラウド利用ガイドラインを策定します。

  • ベストプラクティスの共有: 成功事例をドキュメント化し、社内ポータルや勉強会を通じて全社に共有します。

  • 対象範囲の拡大: 小さな成功体験を元に、CCoEの支援対象となる部門やプロジェクトを段階的に拡大していきます。

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フェーズ4:運用と改善

  • 活動の定着化: CCoEの役割を正式に組織図に位置づけ、活動を継続的なものにします。

  • KPIモニタリング: コスト削減率やセキュリティインシデント数などのKPIを定期的に測定し、活動の成果を可視化します。

  • 継続的な改善: ビジネス環境や技術の変化に合わせて、CCoE自体の役割や機能も常に見直し、改善し続けます。

CCoEを失敗させないための注意点

CCoEは強力な推進力を持つ一方で、いくつかの落とし穴も存在します。事前に注意点を把握し、対策を講じておくことが重要です。

①「統制」と「推進」のバランスを保つ

最も重要な注意点です。厳格なルールで縛り付ける「統制」だけがCCoEの役割ではありません。事業部門のイノベーションを促進するための「推進」の役割も同等に重要です。ガバナンスを効かせつつも、現場のスピード感を損なわない、バランスの取れたルール作りと運用が求められます。

②形骸化させない

「CCoEという箱は作ったものの、実質的な活動が行われない」というケースは少なくありません。明確なミッションとKPIを設定し、活動の成果を定期的に経営層や社内に報告することが重要です。

③「評論家」にならない

現場の実態を無視した理想論ばかりを掲げると、各部門から敬遠されてしまいます。常に現場の声に耳を傾け、現実的な解決策を共に考える姿勢が求められます。

④抵抗勢力への配慮

変化を嫌う抵抗勢力は必ず存在します。一方的に変革を押し付けるのではなく、CCoEを設置するメリットを丁寧に説明し、対話を通じて理解を得ていく努力が必要です。

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Google Cloud環境におけるCCoE成功の勘所

私たちXIMIXは、Google Cloudの導入支援を通じて多くのお客様のご支援してきました。その経験から見えてきた、Google Cloud環境でCCoEを成功させるための特に重要なポイントをご紹介します。これらは、Google Cloudの特性を活かし、CCoEのガバナンスとアジリティを両立させるための鍵となります。

①請求と権限の最適な設計

Google Cloudでは、「組織(Organization)」「フォルダ」「プロジェクト」という階層構造でリソースを管理します。この構造を企業の組織体制に合わせて設計し、IAM(Identity and Access Management)で適切な権限を付与することがガバナンスの第一歩です。

また、請求情報を一元的に管理するBilling Accountをどう設計するかは、後のコスト最適化において極めて重要になります。

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②Organization Policy Serviceによるガードレール

「特定のリージョンでしかリソースを作成できないようにする」「公開IPアドレスの付与を制限する」といった全社的なルールは、Organization Policy Service を活用することで強制できます。これにより、開発者はポリシーの範囲内で自由に開発を進められるため、セキュリティとアジリティの両立が可能になります。

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③「As-Code」による標準化の徹底

インフラ構成をコードで管理する Infrastructure as Code (IaC) や、ポリシーをコードで管理する Policy as Code (PaC) を推進することも重要です。例えば、Terraformで標準的なネットワーク構成のテンプレートを用意しておくことで、誰が構築してもセキュアな環境を迅速に展開できます。これは、属人化を防ぎ、CCoEのベストプラクティスをスケールさせる上で非常に有効です。

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XIMIXによる支援

ここまでCCoEの重要性や成功のポイントについて解説してきましたが、実際に自社でCCoEを立ち上げ、軌道に乗せるまでには、高度な専門知識と多くのリソースが必要となります。

「CCoEの必要性は理解できたが、何から手をつければ良いかわからない」 「CCoEを担えるような専門人材が社内にいない」 「自社に最適なCCoEの形がどのようなものか、客観的なアドバイスが欲しい」

このような課題をお持ちではないでしょうか。

私たち XIMIX では、Google Cloudのプレミアパートナーとして培ってきた豊富な知見を基に、お客様のビジネス状況やクラウドの利用フェーズに合わせてご支援します。

単に仕組みを作るだけでなく、お客様の組織にクラウド活用の文化が根付き、自律的にDXを推進できる体制が構築されるまで、信頼できるパートナーとして伴走いたします。クラウドガバナンスの強化にご関心をお持ちでしたら、ぜひお気軽にご相談ください。

XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
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まとめ

本記事では、企業のクラウド活用を成功に導く鍵となる「CCoE」について、その基本的な概念から目的、役割、そして成功のポイントまでを解説しました。

CCoEは、単なるIT専門組織ではありません。経営と現場を繋ぎ、技術とビジネスを融合させ、全社一丸となってクラウドの価値を最大化するための「羅針盤」であり「エンジン」です。

クラウド利用の無秩序化によるコスト増やセキュリティリスクといった課題を防ぎ、ビジネスの成長を加速させるために、CCoEの設置は今後ますます重要になるでしょう。

この記事が、皆様の会社のクラウド戦略を見つめ直し、次の一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。まずは自社のクラウド活用の現状を把握し、どこに課題があるのかを整理することから始めてみてはいかがでしょうか。


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