【入門編】Infrastructure as Code(IaC)とは?メリット・デメリットから始め方まで徹底解説

 2025,06,20 2025.11.03

はじめに

企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進が加速する現代において、ビジネスの基盤となるITインフラの重要性はますます高まっています。しかし、そのインフラ管理において、このような課題に直面していないでしょうか。

  • 「手作業によるサーバー設定ミスが頻発し、障害対応に追われている」

  • 「新規サービスの開発環境構築に数週間もかかり、ビジネスの変化に追いつけない」

  • 「インフラ設定の変更履歴が追えず、セキュリティ監査のたびに苦労している」

  • 「特定の担当者しかインフラ構成を把握しておらず、業務が属人化している」

このような従来の手作業によるインフラ管理の課題を根本から解決し、ビジネスの俊敏性を高めるアプローチが「Infrastructure as Code(IaC)」です。

本記事では、これからIaCについて学びたいと考えているDX推進の担当者様や決裁者様に向けて、以下の点を網羅的かつ分かりやすく解説します。

  • Infrastructure as Code(IaC)の基本的な概念と、なぜ今必要なのか

  • IaCがもたらすビジネス上の具体的なメリットと、考慮すべきリスク

  • IaCの核となる「宣言的」「手続き型」の違い

  • 主要なIaCツール(Terraform, Ansible等)の特徴と選定ポイント

  • IaC導入を成功させるための具体的なステップと、Google Cloud環境での活用法

この記事を最後までお読みいただくことで、IaCがなぜDX推進に不可欠なのかを深く理解し、競合他社に先んじて俊敏で信頼性の高いIT基盤を構築するための、確かな知識を得ることができるでしょう。

Infrastructure as Code(IaC)とは?

Infrastructure as Code(インフラストラクチャー・アズ・コード、略してIaC)とは、サーバー、ネットワーク、ストレージといったITインフラの構成情報を、アプリケーションのソースコードと同じように、コード(テキストファイル)で管理・構築する手法のことです。

従来、インフラの構築は、管理コンソール画面(GUI)を一つひとつ手でクリックしたり、コマンドを直接入力したりといった手作業で行われるのが一般的でした。これは言わば、インフラという「建物」を、設計図なしで現場の職人が都度判断しながら建て増ししていくようなものです。手軽な反面、作業者によって品質にばらつきが出たり、同じものを正確に再現するのが難しかったり、現在の全体像が把握困難になったりする問題がありました。

一方、IaCは、インフラの最終的な形を「設計図(コード)」として記述します。そして、その設計図に基づき、専用のツールが自動的にインフラを構築・管理します。誰が作業しても、何度繰り返しても、設計図通りにインフラ環境が再現されるのです。

このアプローチにより、インフラ管理は属人性を排し、品質と効率、ガバナンスを劇的に向上させることが可能になります。

なぜ、IaCがDX推進に不可欠なのか?

IaC自体は以前から存在する概念ですが、近年、特にその重要性が叫ばれるようになりました。背景には、DX推進の加速と、その基盤となるクラウドコンピューティングの普及が大きく関係しています。

ビジネスの不確実性が高まる中で、企業は市場の変化に迅速に対応するため、新しいサービスを素早く開発・リリースすることが求められています。しかし、そのたびにインフラの準備に数週間もかかっていたのでは、ビジネスチャンスを逃してしまいます。

IaCは、コードを実行するだけで、必要なインフラ環境(開発環境、ステージング環境、本番環境)を数分から数時間で自動的に構築できるため、開発スピードを飛躍的に向上させます。

また、AWS、Azure、そして Google Cloud といった主要なクラウドサービスは、APIを通じてプログラムによるインフラ操作を標準でサポートしており、IaCとの親和性が非常に高いことも普及を強力に後押ししています。

クラウドを本格的に活用し、ビジネスの成長を加速させている企業の多くが、このIaCをDevOps(開発と運用の連携)の中核的な技術として採用しています。

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IaCがもたらす主要なメリット

IaCを導入することで、企業は具体的にどのようなメリットを得られるのでしょうか。ここでは、決裁者層が特に重視するビジネス上の利点を中心に解説します。

①開発スピードの飛躍的向上とコスト削減

IaCの最大のメリットは「自動化」によるスピード向上です。一度コードを書いてしまえば、同じ環境を何度でも、誰でも、迅速に再現できます。これにより、開発環境やテスト環境の準備、災害時の復旧(ディザスタリカバリ)などが劇的に速くなります。

また、インフラ構築・管理にかかる人的コストも大幅に削減できます。手作業が減ることで、エンジニアは障害対応や単純作業から解放され、より付加価値の高い創造的な業務(例:パフォーマンス改善、新技術の導入検討)に集中できるようになり、組織全体の生産性向上にも繋がります。

②品質の標準化とヒューマンエラーの削減

手作業によるインフラ管理には、設定ミスや手順の漏れといったヒューマンエラーが付き物です。たった一つの設定ミスが、大規模なシステム障害やセキュリティインシデントを引き起こす可能性も否定できません。

IaCでは、全ての構成情報がコードとして管理され、ツールによって自動で適用されるため、人為的なミスが介在する余地を最小限に抑えられます。また、コードはレビューやテストが可能です。本番環境に適用する前に、コードレビューを通じて複数人で内容をチェックすることで、潜在的な問題を未然に防ぎ、システムの品質と信頼性を高いレベルで標準化できます。

③ガバナンス・セキュリティの抜本的強化

「誰が」「いつ」「何を」変更したのかが不明確になりがちな従来のインフラ管理とは異なり、IaCでは全ての変更がコードの変更履歴としてGitなどのバージョン管理システムに記録されます。

これにより、インフラの構成変更に対する完全な可視性と追跡可能性(トレーサビリティ)が確保され、内部統制やセキュリティ監査への対応が極めて容易になります。

さらに、セキュリティポリシー(例:「このポートは絶対に開けない」「ストレージの暗号化を必須にする」)をコードに組み込んでおくことで、組織全体のセキュリティ基準を遵守したインフラを常に展開することが可能となり、ガバナンス強化に大きく貢献します。

④構成の可視化と属人化の解消

インフラ構成がコードという「生きたドキュメント」として存在するため、現在のインフラがどのような状態にあるのかを誰でも正確に把握できます。これにより、特定の担当者しか設定内容を知らないといった「属人化」が解消されます。

従来ありがちだった「ドキュメント(設計書)と実際の設定が一致しない」という問題も起こりません。コードこそが正であり、インフラの構成とドキュメントが常に一致している状態を維持できるのです。

導入前に理解すべきIaCの基本原則

IaCツールを選定する前に、その根本的なアプローチである「宣言的(Declarative)」と「手続き型(Imperative)」の違いを理解しておくことが非常に重要です。

宣言的(Declarative)アプローチとは?

どうあるべきか(What)」という最終的なインフラの状態をコードで定義するアプローチです。

例えば、「Webサーバーが3台、特定のネットワークに接続されている状態」とコードに記述します。IaCツールは現在の状態(例:サーバーが2台しかない)を自動で認識し、定義された「あるべき姿(3台)」との差分を計算して、不足しているサーバー1台を追加する処理を自動で実行します。

  • メリット: 冪等性(べきとうせい:何度実行しても結果が同じ)が保証されやすく、現在の状態を意識せずに「あるべき姿」を管理できるため、コードがシンプルになりやすいです。

  • 代表的なツール: Terraformなど。

手続き型(Imperative)アプローチとは?

何をすべきか(How)」というインフラを構築するための手順をコードで記述するアプローチです。

例えば、「1. サーバーAを作成する」「2. サーバーBを作成する」「3. ネットワーク設定を行う」といった具体的なコマンドやタスクの順序を記述します。

  • メリット: 既存のシェルスクリプトやコマンド操作の知識を活かしやすく、複雑な手順を細かく制御したい場合に適しています。

  • 代表的なツール: Ansible(宣言的にも記述可能など。

どちらを選ぶべきか?

現在の主流は、インフラの「あるべき姿」を定義する宣言的(Declarative)アプローチです。特にクラウド環境のようにAPIで状態を管理しやすいインフラにおいては、宣言的なアプローチがシンプルかつ強力です。

ただし、既存のサーバー内のミドルウェア設定など、細かい手順の制御が必要な場合は手続き型のアプローチが有効な場合もあります。Terraform(宣言的)でインフラの骨組みを作り、Ansible(手続き型)でOS内部の設定を行う、といった使い分けも一般的です。

IaCを実現する主要ツールと選定のポイント

IaCを実現するためのツールには様々な選択肢があります。それぞれに特徴があるため、自社の目的や環境に合ったツールを選定する必要があります。

代表的なIaCツール

ツール名 主な特徴 アプローチ 対象環境
Terraform HCLという独自言語で記述。マルチクラウド対応のデファクトスタンダード。 宣言的 マルチクラウド (Google Cloud, AWS, Azure等)
Ansible Pythonベース。エージェントレスで導入が容易。構成管理に強い。 手続き型寄り (宣言的にも記述可) マルチクラウド、オンプレミス
Google Cloud Deployment Manager Google Cloud専用のIaCサービス。YAMLで記述。 宣言的 Google Cloudのみ

自社に合ったツールの選び方

決裁者としてツール選定の議論に参加する際は、以下の基準で判断することをお勧めします。

  • 基準1:対象とする環境はどこか?

    • Google Cloudのみに特化するなら「Cloud Deployment Manager」がシンプルで有力な選択肢です。

    • Google CloudとAWSなど、複数のクラウドを利用(マルチクラウド)する、または将来的にその可能性がある場合は、「Terraform」が最も汎用性が高く、第一候補となります。

  • 基準2:チームのスキルセットは何か?

    • インフラエンジニアが中心であれば、IaC専用言語(HCL)を学ぶ「Terraform」が適しています。

    • 開発者(プログラマー)がインフラも管理する場合は、慣れた言語で書ける「Pulumi」も選択肢に入ります。

  • 基準3:何を管理したいか?

    • ネットワークやサーバーといった「インフラの構築」がメインであれば「Terraform」が強力です。

    • 既存サーバーのOS設定やミドルウェアの「構成管理」がメインであれば「Ansible」が適している場合があります。

多くの企業では、マルチクラウド対応の容易さや豊富なエコシステム(情報やモジュールの多さ)から、Terraformを標準ツールとして採用するケースが増えています。

IaC導入の具体的な始め方(ステップガイド)

IaCのメリットを理解しても、「何から手をつければ良いか分からない」という方も多いでしょう。ここでは、導入を成功させるための具体的なステップをご紹介します。

ステップ1:目的の明確化とスモールスタートの計画

まずは「なぜIaCを導入するのか」という目的を明確にします。「開発環境の構築を高速化したい」「本番環境の設定ミスをなくしたい」など、具体的な課題を設定します。

その上で、最初から全システムに適用するのではなく、影響範囲の限定的な小規模なプロジェクト(スモールスタート)や、新規構築の案件から試験的に導入することを計画します。

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ステップ2:ツール選定と学習

前述の選定ポイントに基づき、自社に合ったIaCツールを選定します。同時に、そのツールを扱うための学習(書籍、オンライントレーニング、外部パートナーによる教育)も計画に組み込みます。初期段階では学習コストが発生することを認識しておくことが重要です。

ステップ3:コーディング規約とバージョン管理の導入

コードの品質を保つため、Gitなどのバージョン管理システムを導入し、コードの変更履歴を管理します。また、「変数名の付け方」「ファイルの分割方法」といったコーディング規約を定めることで、誰が書いても一定の品質が保たれるようにし、属人化を防ぎます。

ステップ4:CI/CDパイプラインへの統合

最終的には、コードが変更(コミット)されたら、自動的にテストとインフラへの適用(デプロイ)が行われるCI/CD(継続的インテグレーション/継続的デリバリー)パイプラインに組み込みます。これにより、インフラ変更のプロセスが完全に自動化され、IaCの効果が最大化されます。

Google Cloud環境におけるIaCの実践

Google Cloud環境では、特に以下のツールが活用されます。

Google Cloud Deployment Managerの特徴

Google Cloudが公式に提供するIaCサービスです。Google Cloudの各種リソースをYAML形式で宣言的に定義・管理できます。Google Cloudに最適化されており、追加コストなしで利用できる点がメリットですが、Google Cloud以外のリソース(他社クラウドやオンプレミス)は管理できません。

TerraformによるGoogle Cloud管理の優位性

現在、Google Cloud環境のIaCにおいても、Terraformの採用が主流となっています。その理由は以下の通りです。

  • マルチクラウド対応: Google Cloud以外のクラウド(AWS, Azure)やSaaSなども含めて、一貫したコードで管理できます。

  • 迅速な新サービス対応: Google Cloudで新しいサービスがリリースされた際、Terraformが対応するスピードは非常に速いです。

  • 豊富なエコシステム: 利用者が多いため、ベストプラクティスや再利用可能な「モジュール」が豊富に存在し、効率的に開発を進められます。

XIMIXの知見:IaCが効果を発揮する場面

Google Cloud環境において、特にIaC(特にTerraform)は以下のような場面で絶大な効果を発揮します。

  • Google Kubernetes Engine (GKE) のクラスタ構築: 複雑になりがちなGKEのノードプール設定やネットワークポリシーをコード化し、環境の再現性を高めます。

  • VPCネットワークの構築: プロジェクトをまたがる共有VPCやファイアウォールルールなど、厳密な管理が求められるネットワーク基盤をコードで管理し、ガバナンスを徹底します。

  • マルチプロジェクト管理: 開発用、本番用など複数のGoogle CloudプロジェクトにまたがるIAM(権限)設定やサービスアカウントの管理を自動化し、セキュリティを担保します。

IaC導入を成功に導くための組織的ポイント

IaCはツールを導入すれば終わりではありません。その効果を最大化するには、技術的な課題と組織的な課題の両方に対処する必要があります。

学習コストとスキルセットへの対策

IaCを実践するには、ツールの使い方やコードの書き方など、新たなスキルセットが必要です。これまでインフラを手作業で管理してきたエンジニアにとっては、学習が負担となる場合があります。

【対策】

初期段階では、IaCに関する豊富な知見を持つ外部の専門家やSIerの支援を受けることが有効です。パートナーと伴走し、実践的なトレーニングやOJTを通じて組織全体のスキルアップを図りながら、徐々に内製化を進めていくのが現実的なアプローチです。

「ツール導入」ではなく「DevOps文化」の醸成

IaCは単なるツール導入プロジェクトではありません。インフラ管理のやり方を根本から変え、開発チームと運用チームがコードを通じて連携する「DevOps」の文化を醸成する活動でもあります。トップダウンでその重要性を伝え、インフラ担当者も開発者も「コードでインフラを管理する」という意識を組織全体で持つことが成功の鍵となります。

コード管理の複雑化への対処

IaCの適用範囲が広がるにつれて、管理すべきコードは増大し、複雑化します。コードの品質が低いと、かえって生産性を下げたり、予期せぬトラブルの原因になったりする可能性があります。

【対策】

コーディング規約を策定すると同時に、繰り返し利用するコードは「モジュール」として共通化し、再利用性を高めることが重要です。これにより、コードの重複を防ぎ、管理を容易にします。

XIMIXが実現するGoogle Cloud導入支援

ここまでInfrastructure as Code(IaC)の重要性やメリット、導入のステップについて解説してきました。しかし、実際に自社でIaCを推進しようとすると、

  • 「TerraformとCloud Deployment Manager、自社には結局どちらが良いのか客観的なアドバイスが欲しい」

  • 「自社のセキュリティ要件に合わせた、最適なIaCの設計ができない」

  • 「IaCを扱える人材がおらず、導入から運用、内製化までを一気通貫で支援してほしい」

  • 「Google Cloud環境でのIaC導入に関するベストプラクティスを知りたい」

といった、更なる課題に直面することも少なくありません。

私たち「XIMIX」は、Google Cloudのプレミアパートナーとして、数多くのお客様のDX推進をご支援してきた豊富な実績と知見を持っています。その経験を活かし、お客様のビジネス目標や技術的背景を深く理解した上でサポートをご提供します。 

Google Cloudを活用したインフラのモダナイゼーションや、IaC導入に関するご相談がございましたら、ぜひお気軽にXIMIXまでお問い合わせください。

XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
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まとめ

本記事では、Infrastructure as Code(IaC)の基本的な概念から、そのメリット、基本原則、主要ツールの比較、そして導入を成功させるための具体的なステップまでを網羅的に解説しました。

IaCは、インフラ管理をコードによって自動化し、「迅速性」「信頼性」「ガバナンス」を飛躍的に向上させる、現代のビジネスに不可欠なアプローチです。手作業による非効率でリスクの高いインフラ管理から脱却し、ビジネスの変化に俊敏に対応できる強いIT基盤を構築することは、DXを推進する上での急務と言えるでしょう。

IaCの導入は、単なる技術刷新に留まりません。それは、インフラ管理の文化そのものを変革し、開発と運用の壁を取り払い、企業の競争力を根本から強化する戦略的な一手です。

この記事が、皆様にとってIaCへの理解を深め、DX推進の次なる一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。


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