はじめに
企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進が加速する現代において、ビジネスの基盤となるITインフラの重要性はますます高まっています。しかし、そのインフラ管理において、「手作業による設定ミスが多い」「環境構築に時間がかかり、ビジネスの変化に追いつけない」「設定変更の履歴が追えず、誰が何をしたか分からない」といった課題に直面している企業は少なくありません。
このような従来の手作業によるインフラ管理の課題を根本から解決するアプローチが「Infrastructure as Code(IaC)」です。
本記事では、これからIaCについて学びたいと考えているDX推進の担当者様や決裁者様に向けて、以下の点を網羅的かつ分かりやすく解説します。
- Infrastructure as Code(IaC)の基本的な概念
- IaCがもたらす具体的なメリットと、考慮すべきリスク
- IaCを導入し、成功に導くためのポイント
- Google Cloud環境におけるIaCの活用
この記事を最後までお読みいただくことで、IaCがなぜDX推進に不可欠なのかを深く理解し、自社への導入を検討するための確かな知識を得ることができるでしょう。
Infrastructure as Code(IaC)とは?
Infrastructure as Code(インフラストラクチャー・アズ・コード、略してIaC)とは、サーバー、ネットワーク、ストレージといったITインフラの構成情報を、アプリケーションのソースコードと同じように、コード(テキストファイル)で管理・構築する手法のことです。
従来、インフラの構築は、管理画面(GUI)を一つひとつ手でクリックしたり、コマンドを直接入力したりといった手作業で行われるのが一般的でした。これは言わば、インフラという「建物」を、現場の職人がその場の判断で建て増ししていくようなものです。手軽な反面、作業者によって品質にばらつきが出たり、同じものを再現するのが難しかったり、設計図が存在しないため全体の把握が困難になったりする、といった問題がありました。
一方、IaCは、インフラの最終的な形を「設計図」としてコードで記述します。そして、その設計図に基づいて、ツールが自動的にインフラを構築・管理します。誰が作業しても、何度繰り返しても、設計図通りに寸分違わぬインフラ環境が再現されるのです。このアプローチにより、インフラ管理は属人性を排し、品質と効率を劇的に向上させることが可能になります。
なぜ、IaCが注目されるのか?
IaC自体は以前から存在する概念ですが、近年、特にその重要性が叫ばれるようになりました。背景には、DX推進の加速と、その基盤となるクラウドコンピューティングの普及が大きく関係しています。
ビジネスの不確実性が高まる中で、企業は市場の変化に迅速に対応するため、新しいサービスを素早く開発・リリースすることが求められています。しかし、そのたびにインフラの準備に数週間もかかっていたのでは、ビジネスチャンスを逃してしまいます。
IaCは、コードを実行するだけで、必要なインフラ環境を数分から数時間で自動的に構築できるため、開発スピードを飛躍的に向上させます。また、AWS、Azure、そして Google Cloud といった主要なクラウドサービスは、APIを通じてプログラムによるインフラ操作を標準でサポートしており、IaCとの親和性が非常に高いことも普及を後押ししています。
多くの企業様をご支援してきた経験から見ても、クラウドを本格的に活用し、ビジネスの成長を加速させている企業の多くが、このIaCを中核的な技術として採用しています。
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IaCがもたらす具体的なメリット
IaCを導入することで、企業は具体的にどのようなメリットを得られるのでしょうか。ここでは、決裁者層が特に重視するであろうビジネス上の利点を中心に解説します。
メリット1:インフラ構築の迅速化とコスト削減
IaCの最大のメリットは、何と言っても「自動化」によるスピード向上です。一度コードを書いてしまえば、同じ環境を何度でも、誰でも、迅速に再現できます。これにより、開発環境やテスト環境の準備、災害時の復旧などが劇的に速くなります。
また、インフラ構築・管理にかかる人的コストも大幅に削減できます。手作業が減ることで、エンジニアはより創造的な業務に集中できるようになり、組織全体の生産性向上にも繋がります。
メリット2:ヒューマンエラーの削減と信頼性向上
手作業によるインフラ管理には、設定ミスや手順の漏れといったヒューマンエラーが付き物です。たった一つの設定ミスが、大規模なシステム障害を引き起こす可能性も否定できません。
IaCでは、全ての構成情報がコードとして管理され、自動で適用されるため、人為的なミスが介在する余地を大幅に減らすことができます。また、コードはレビューやテストが可能です。本番環境に適用する前に、コードレビューを通じて複数人で内容をチェックすることで、潜在的な問題を未然に防ぎ、システムの信頼性を高めることができます。
メリット3:ガバナンスとセキュリティの強化
「誰が」「いつ」「何を」変更したのかが不明確になりがちな従来のインフラ管理とは異なり、IaCでは全ての変更がコードの変更履歴としてGitなどのバージョン管理システムに記録されます。これにより、インフラの構成変更に対する完全な可視性と追跡可能性が確保され、内部統制やセキュリティ監査への対応が容易になります。
また、セキュリティポリシー(例:特定のポートは開けない、暗号化を必須にするなど)をコードに組み込んでおくことで、組織全体のセキュリティ基準を遵守したインフラを常に展開することが可能となり、ガバナンス強化に大きく貢献します。
メリット4:インフラ構成の可視化と属人化の解消
インフラ構成がコードという「生きたドキュメント」として存在するため、現在のインフラがどのような状態にあるのかを誰でも正確に把握できます。これにより、特定の担当者しか設定内容を知らないといった「属人化」が解消されます。
ドキュメントの更新漏れといった問題も起こりません。コードこそが正であり、インフラの構成とドキュメントが常に一致している状態を維持できるのです。
考慮すべきIaCのリスクと対策
多くのメリットがある一方で、IaCの導入にはいくつかの課題やリスクも伴います。導入を成功させるためには、これらを事前に理解し、対策を講じることが重要です。
リスク1:学習コストとスキルセットの確保
IaCを実践するには、TerraformやAnsibleといった専門ツールの使い方や、YAMLなどの記述言語に関する知識が必要です。これまでインフラを手作業で管理してきたエンジニアにとっては、新たなスキル習得が負担となる場合があります。
【対策】
- スモールスタート: 全社一斉導入ではなく、まずは影響の少ない小規模なプロジェクトから試験的に導入し、知見を蓄積していくことが推奨されます。
- 教育・トレーニング: 専門家によるトレーニングや勉強会を実施し、組織全体のスキルアップを図ります。
- 外部パートナーとの連携: 初期段階では、IaCに関する豊富な知見を持つ外部の専門家やSIerの支援を受けることも有効な選択肢です。
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リスク2:コード管理の複雑化
IaCを適用する範囲が広がるにつれて、管理すべきコードの量も増大し、複雑化していきます。コードの品質が低いと、かえって生産性を下げたり、予期せぬトラブルの原因になったりする可能性があります。
【対策】
- コーディング規約の策定: コードの書き方や構造に関するルールを定め、誰が書いても一定の品質が保たれるようにします。
- コードの共通化・モジュール化: 繰り返し利用するコードは「モジュール」として共通化し、再利用性を高めることで、コードの重複を防ぎ、管理を容易にします。
リスク3:ツール選定の難しさ
IaCを実現するためのツールには、Terraform、Ansible、Pulumi、Google CloudのCloud Deployment Managerなど、様々な選択肢があります。それぞれに特徴や得意分野が異なるため、自社の目的や技術スタック、チームのスキルレベルに合ったツールを選定する必要があります。
【対策】
- 目的の明確化: 「マルチクラウドに対応したい」「特定のクラウドに最適化したい」「プログラミング言語で書きたい」など、IaCで実現したいことを明確にします。
- 各ツールの特性理解: 各ツールのメリット・デメリットを比較検討します。例えば、Terraformは複数のクラウドに対応できる汎用性の高さが魅力ですが、Google Cloudに特化するのであればCloud Deployment Managerも有力な選択肢となります。
IaC導入を成功させるためのポイント
最後に、IaCの導入プロジェクトを成功に導くための重要なポイントを3つご紹介します。
ポイント1:ツール導入だけでなく「文化」として根付かせる
IaCは単なるツール導入プロジェクトではありません。インフラ管理のやり方を根本から変え、開発チームと運用チームが連携する「DevOps」の文化を醸成する活動でもあります。トップダウンでその重要性を伝え、組織全体で取り組む意識を持つことが成功の鍵となります。
ポイント2:スモールスタートで成功体験を積む
前述の通り、最初から完璧を目指す必要はありません。まずは新規プロジェクトや、影響範囲の限定的なシステムからIaCを適用し、小さな成功体験を積み重ねていくことが重要です。そこで得られた知見やノウハウを、徐々に他のシステムへと展開していきましょう。
ポイント3:信頼できるパートナーと歩む
IaCの導入や定着には、高度な専門知識と経験が求められます。自社だけで全てを賄うのが難しい場合は、無理をせず外部の専門家の力を借りることをお勧めします。特に、Google Cloud のような特定のプラットフォーム上でのIaC実践においては、そのクラウド環境に精通したパートナーの存在が大きな助けとなります。
XIMIXによる支援
ここまでInfrastructure as Code(IaC)の重要性やメリット、導入のポイントについて解説してきました。しかし、実際に自社でIaCを推進しようとすると、
- 「どのツールを選べば良いのか、客観的なアドバイスが欲しい」
- 「自社の環境に合わせた最適なIaCの設計ができない」
- 「IaCを扱える人材がおらず、導入から運用までを支援してほしい」
- 「Google Cloud環境でのIaC導入に関するベストプラクティスを知りたい」
といった、更なる課題に直面することも少なくありません。
私たち「XIMIX」は、Google Cloudのプレミアパートナーとして、数多くのお客様のDX推進をご支援してきた豊富な実績と知見を持っています。その経験を活かし、お客様のビジネス目標や技術的背景を深く理解した上で、IaCの導入計画策定から設計、構築、そして内製化を見据えた運用支援まで、一貫したサポートをご提供します。
Google Cloudを活用したインフラのモダナイゼーションや、IaC導入に関するご相談がございましたら、ぜひお気軽にXIMIXまでお問い合わせください。
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まとめ
本記事では、Infrastructure as Code(IaC)の基本的な概念から、そのメリット、リスク、そして導入を成功させるためのポイントまでを解説しました。
IaCは、インフラ管理をコードによって自動化し、「迅速性」「信頼性」「ガバナンス」を飛躍的に向上させる、現代のビジネスに不可欠なアプローチです。手作業による非効率でリスクの高いインフラ管理から脱却し、ビジネスの変化に俊敏に対応できる強いIT基盤を構築することは、DXを推進する上での急務と言えるでしょう。
IaCの導入は、単なる技術刷新に留まりません。それは、インフラ管理の文化そのものを変革し、企業の競争力を根本から強化する戦略的な一手です。
この記事が、皆様にとってIaCへの理解を深め、次なる一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。
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