今さら聞けない「FinOps」と実践のポイントを解説

 2025,07,14 2025.07.14

はじめに

「最近、『FinOps』という言葉をよく耳にするが、正直なところ何なのかよく分かっていない…」 「クラウドのコスト管理が重要だとは分かっているが、何から手をつければいいのか…」

デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する多くの企業で、クラウド活用が当たり前になる一方、このようなお悩みをお持ちの経営層や部門責任者の方は少なくないでしょう。クラウドはビジネスを加速させる強力なエンジンですが、そのコストは複雑で、放置すれば企業の収益を圧迫しかねません。

本記事では、そんな「今さら聞けない」と感じている方に向けて、クラウド時代の新たな管理手法である「FinOps(フィンオプス)」の基本から、具体的な実践のポイント、そして成功に導くための秘訣まで、専門家の視点から徹底的に解説します。単なる用語解説に留まらない、貴社のクラウド投資価値を最大化するためのヒントがここにあります。

DX推進の裏で深刻化する「クラウドコスト問題」

クラウドサービスは、ビジネスのアジリティを高める強力な武器です。しかし、その一方で、従来のオンプレミス環境とは異なるコスト管理の考え方が求められます。従量課金制が基本であるため、エンジニアが手軽にリソースを構築できる反面、ガバナンスが効きづらく、コストが予測不能な形で膨れ上がるケースが後を絶ちません。

実際に、多くの企業がクラウドコストの最適化を最重要課題の一つとして認識しており、予算超過が常態化している実態も報告されています。この「クラウドコスト問題」を放置することは、DX推進のブレーキとなり、企業の競争力低下に直結しかねない重要な経営課題なのです。

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FinOpsとは?単なるコスト削減ではない、新たな管理手法

この複雑なクラウドコスト問題に対する強力な解決策が「FinOps」です。FinOpsとは、「Finance(財務)」と「DevOps(開発・運用)」を組み合わせた造語であり、組織全体でクラウドの財務的責任と管理を共有するための文化的プラクティスであり、フレームワークです。

FinOpsの基本的な定義

FinOpsの目的は、単にコストを切り詰めることではありません。その本質は、「クラウド支出の1ドル1ドルから最大のビジネス価値を引き出すこと」にあります。エンジニアリング、IT、財務、ビジネスといった異なる部門が連携し、データに基づいて「どこに」「なぜ」「どれだけ」投資すべきかを判断し、迅速かつ効率的な意思決定を行うことを目指します。これにより、コストの最適化はもちろん、ビジネスの成長スピードとイノベーションを両立させることが可能になります。

なぜ、FinOpsが不可欠なのか?

FinOpsが注目される背景には、クラウド利用の成熟があります。初期段階では「とにかくクラウドへ移行する」ことが目的でしたが、現在では「クラウドをいかに賢く使いこなし、事業成果に結びつけるか」というフェーズに移行しています。 変動するビジネス要求に迅速に対応するためには、開発チームに一定の裁量権を与えつつ、全社的なコスト意識とガバナンスを両立させる仕組みが不可欠です。FinOpsは、この二律背反に見える課題を解決し、データドリブンなカルチャーを組織に根付かせるための羅針盤となるのです。

FinOpsがもたらす3つのビジネス価値

FinOpsを導入することで、企業は主に3つの価値を得ることができます。

  1. コストの最適化と予測可能性の向上: クラウド利用状況をリアルタイムで可視化・分析することで、無駄なリソースを特定し、継続的なコスト削減を実現します。また、利用傾向の分析により、将来のコストを高い精度で予測し、的確な予算策定が可能になります。

  2. ビジネスアジリティの加速: コストに関する意思決定が迅速化されることで、開発チームは新しいサービスや機能の開発スピードを落とすことなく、イノベーションに集中できます。市場の変化に素早く対応できる体制は、企業の競争優位性に直結します。

  3. 部門横断的なコラボレーションの促進: 従来はサイロ化しがちだった財務部門と開発・運用部門が、クラウドコストという共通の言語を持つことで、対話と連携が生まれます。これにより、全社一丸となってビジネス目標の達成を目指す文化が醸成されます。

FinOps実践のフレームワーク:3つのフェーズ

FinOpsは、闇雲に始めるものではありません。FinOps Foundationによって提唱されている「Inform(可視化)」「Optimize(最適化)」「Operate(運用)」という3つのフェーズを繰り返し実践する、反復的なアプローチが基本となります。

フェーズ1: Inform (可視化)

すべての基本となるのが、クラウド利用状況の正確な把握です。

  • 目的: 誰が、どのサービスに、どれだけコストを使っているかを正確に可視化し、関係者全員がアクセスできる状態を作ります。

  • 主な活動: コストデータの収集、タグ付けによるコストの分類(部署別、プロジェクト別など)、ダッシュボードによる可視化、予算アラートの設定。

フェーズ2: Optimize (最適化)

可視化されたデータに基づき、具体的な改善アクションを実行します。

  • 目的: クラウド支出の無駄をなくし、費用対効果を最大化します。

  • 主な活動: 未使用・過剰なリソースの停止やサイジングの見直し、割引制度(CUDなど)の活用、アーキテクチャの最適化。

フェーズ3: Operate (運用)

最適化の取り組みを継続的に実行し、組織の文化として定着させます。

  • 目的: クラウド活用のスピードを維持しながら、継続的にコストガバナンスを効かせ、FinOpsのプラクティスを自動化・スケールさせます。

  • 主な活動: 最適化目標の評価、自動化ルールの設定(例:深夜帯の不要な開発環境の自動停止)、FinOps文化の啓蒙活動。

Google Cloudで実践するFinOps:具体的なツールと活用例

FinOpsの概念はクラウドプラットフォームに依存しませんが、Google CloudはFinOpsの実践を強力に支援する豊富なツール群を提供しています。ここでは、XIMIXがお客様を支援する際にも活用する代表的なサービスをご紹介します。

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Google Cloud環境におけるFinOps実践ガイド - プロセス・ツール・組織文化を最適化

「Inform」を加速する: Cost ManagementとLooker Studioによる可視化

Google Cloudには、標準でCost Managementツールが組み込まれており、詳細なコストの内訳を手軽に確認できます。さらに、収集したコストデータをBIツール『Looker Studio』と連携させることで、組織独自の視点を加えたインタラクティブなダッシュボードを構築できます。これにより、経営層から現場のエンジニアまで、それぞれの役割に応じたコストの可視化が実現します。

「Optimize」を深化させる: Active AssistとBigQueryによる分析

Google Cloudのユニークな機能がActive Assistです。AIが自動的にアイドル状態のVMや過剰な権限などを検知し、具体的な最適化案を推奨してくれます。 さらに高度な分析を行いたい場合、課金データをデータウェアハウス『BigQuery』にエクスポートすることが極めて有効です。BigQuery上で利用状況データとビジネスKPIを掛け合わせることで、「どの機能が最も収益に貢献しているか」といった、より深いインサイトを得ることが可能になります。

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【入門編】BigQueryとは?できること・メリットを初心者向けにわかりやすく解説

「Operate」を自動化する: Vertex AIによる需要予測と予算アラート

運用フェーズでは、AIの活用が鍵となります。例えば、BigQueryに蓄積された過去の利用量データを使い、AIプラットフォーム『Vertex AI』で機械学習モデルを構築すれば、将来の需要とコストをより高い精度で予測できます。この予測に基づき、予算アラートを自動で調整したり、リソースの増減を自動化したりすることで、運用の高度化と効率化を両立できます。

FinOps導入を成功させるための3つの鍵【専門家の視点】

ツールの導入はFinOpsの一側面に過ぎません。多くの企業を支援してきた経験から、導入を真の成功に導くためには、以下の3つのポイントが極めて重要だと断言できます。

鍵1: 全社的な文化醸成と役割分担の明確化

FinOpsは、情報システム部門だけの取り組みではありません。経営層の強力なコミットメントのもと、財務、事業、開発の各部門がそれぞれの役割を理解し、コストに対する当事者意識を持つことが成功の絶対条件です。特に、「コストのオーナーシップは、リソースを利用する事業部門や開発部門にある」という意識改革が不可欠です。これを怠ると、ツールを導入しても結局は形骸化し、コスト削減効果も限定的なものに終わってしまいます。

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鍵2: スモールスタートと継続的な改善

最初から完璧な体制を目指す必要はありません。まずは、コストインパクトの大きい特定のプロジェクトや部署からスモールスタートし、成功体験を積み重ねながら全社に展開していくアプローチが現実的です。重要なのは、「Inform → Optimize → Operate」のサイクルを継続的に回し続けることです。小さな改善の積み重ねが、やがて大きな成果へと繋がります。

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鍵3: 適切なパートナーとの協業

FinOpsの導入には、クラウド技術の知見だけでなく、財務的な視点や組織変革のノウハウなど、多岐にわたる専門性が求められます。自社だけですべてを賄うのが難しい場合、経験豊富な外部パートナーと協業することは非常に有効な選択肢です。 パートナーは、客観的な視点から現状を分析し、最新のベストプラクティスや他社事例に基づいた具体的なロードマップを提示できます。これにより、導入プロセスを大幅に加速させ、陥りがちな失敗を未然に防ぐことが可能になります。

XIMIXが提供するFinOps導入・運用支援

私たち『XIMIX』は、Google Cloudのプレミアパートナーとして、数多くの中堅・大企業のDX推進を支援してまいりました。その中で培った豊富な知見と技術力を活かし、お客様のFinOps導入・定着を強力にサポートします。

XIMIXの支援は、単なるツールの使い方をレクチャーするだけではありません。

  • アセスメント: お客様の現在のクラウド利用状況と組織体制を客観的に評価し、課題を明確化します。

  • 戦略策定: お客様のビジネス目標に沿ったFinOpsの導入ロードマップとROIの試算をご提案します。

  • 環境構築: Google Cloudの各種ツール(BigQuery, Looker Studioなど)を活用し、コストの可視化・分析基盤を構築します。

貴社の状況に合わせたクラウドコスト最適化、そしてその先のデータドリブンな経営文化の実現に向けて、ぜひ一度XIMIXにご相談ください。

XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
XIMIXのGoogle Cloud 導入支援についてはこちらをご覧ください。

まとめ

今回は、「今さら聞けない」と感じている方に向けて、FinOpsの基本と実践のポイントを解説しました。 「今さら聞けない」と感じていた方にも、FinOpsの重要性と、明日から取り組むべきことのイメージがお分かりいただけたのではないでしょうか。

  • FinOpsは単なるコスト削減ではなく、クラウド投資の価値を最大化する経営戦略である。

  • 「Inform(可視化)」「Optimize(最適化)」「Operate(運用)」の3フェーズを回すことが基本。

  • Google Cloudは、Cost Management、BigQuery、AIなどを活用し、FinOpsの実践を強力にサポートする。

  • 成功の鍵は、ツール導入だけでなく、全社的な文化醸成と継続的な改善にある。

クラウドコストの管理に課題を感じ、その投資対効果をさらに高めたいとお考えの経営者・責任者の方にとって、FinOpsは避けては通れないテーマです。本記事が、貴社のFinOps導入に向けた第一歩となれば幸いです。


今さら聞けない「FinOps」と実践のポイントを解説

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