野良クラウドとは?放置する危険性とIT部門が今すぐとるべき4つの対策を解説

 2025,06,05 2025.11.12

はじめに

多くの企業でデジタルトランスフォーメーション(DX)が加速する中、業務効率化や生産性向上を目的としたクラウドサービスの活用は、もはや経営戦略の核となっています。しかし、その手軽さと利便性の裏で、IT部門が把握・管理していないサービスが従業員によって無断で利用される、いわ"ゆる「野良クラウド」が深刻な経営リスクとなりつつあります。

「うちの会社は大丈夫だろうか?」「具体的にどんな危険があるのか分からない」「対策と言っても、禁止するだけでは現場が疲弊してしまう…」

このような課題や不安を感じているDX推進担当者や情報システム部門の責任者の方も多いのではないでしょうか。

本記事では、企業のDX推進とクラウドガバナンスに精通した専門家の視点から、「野良クラウド」の基本的な定義から、その発生原因、放置することで生じる深刻なリスク、そして利便性を損なわずに統制を実現するための具体的な対策までを網羅的に解説します。

この記事を最後までお読みいただくことで、野良クラウドに対する正しい知識を身につけ、企業のセキュリティとガバナンスを強化し、安全なクラウド活用を推進するための一歩を踏み出すことができます。

野良クラウドとは?シャドーITとの関係性

まず、「野良クラウド」とは何か、その定義を正しく理解しましょう。

SaaSの野良利用(日常業務に潜むリスク)

一般的にイメージされる野良クラウドの代表格が、SaaS(Software as a Service)の野良利用です。これは、IT部門の許可なく、従業員や各事業部門が独自に契約・利用している業務アプリケーションを指します。

  • 個人で契約している無料のオンラインストレージに、業務資料を保存して取引先と共有する。

  • IT部門に申請せず、部署の予算でプロジェクト管理ツールを契約して利用する。

  • 会社が許可していないチャットツールやWeb会議システムを、個人の判断で利用する。

これらは、従業員の「業務を効率化したい」という善意から行われることがほとんどですが、重要な企業データがIT部門の管理外に置かれることになります。

IaaS/PaaSの野良利用(見過ごされがちな「野良インフラ」)

SaaSの野良利用よりも見過ごされがちですが、より深刻な事態に発展しかねないのが、パブリッククラウド(IaaS/PaaS)の野良利用です。これを「野良インフラ」ともよばれます。

これは、AWS(Amazon Web Services)や Google Cloud、Microsoft AzureといったIaaS(Infrastructure as a Service)やPaaS(Platform as a Service)を、開発者などが会社の管理外で利用するケースを指します。

  • 開発者が新規技術の検証目的で、会社の承認を得ずに個人のクレジットカードで Google Cloud のサーバー(仮想マシン)を立ち上げる。

  • プロジェクトの納期に間に合わせるため、正式な調達プロセスを待たずに、部署の経費でAWS上にテスト環境を構築する。

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野良クラウドとシャドーITの関係性

「シャドーIT」という言葉もよく聞かれます。シャドーITは、IT部門の管理下にないIT機器やソフトウェア、サービス全般を指す、より広範な概念です。個人所有のPC(BYOD)やUSBメモリの業務利用なども含まれます。

野良クラウド(SaaSとIaaS/PaaSの両方を含む)は、このシャドーITの代表格であり、特にクラウドサービスに特化して問題視する場合の呼び方として理解してください。

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なぜ野良クラウドは発生してしまうのか?

従業員は、決して悪意から野良クラウドを利用するわけではありません。むしろ、業務をより良く、より速く進めたいという善意や切実なニーズから生まれるケースがほとんどです。

①現場の「業務効率化」への強いニーズ

現場の従業員は、常に業務効率化のプレッシャーにさらされています。会社から提供されているツールよりも、世の中にある新しいクラウドサービスの方がはるかに高機能で使いやすいと感じた場合、個人の判断で利用を開始してしまうことがあります。

②開発部門の「スピードと柔軟性」への要求

特に開発部門では、迅速な開発・検証環境の構築が求められます。アジャイル開発やPoC(概念実証)が主流となる中、「インフラ調達に2週間」といった従来のプロセスではビジネスのスピードに対応できません。この要求と現実のギャップが、開発者を「野良インフラ」へと向かわせます。

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③既存IT環境の「機能不足」や「申請プロセスの煩雑さ」

IT部門が提供する公式ツールが、現場のニーズを満たしていないケースです。「ファイル共有の手順が煩雑」「開発用の検証環境の自由度が低い」といった不満や、申請プロセスの煩雑さが、従業員を代替手段である野良クラウドへと向かわせる直接的な動機となります。

④クラウド導入の「手軽さ」という落とし穴

数クリックとクレジットカード情報だけで、誰でも簡単に高機能なクラウドサービスを使い始められる時代です。この手軽さが、IT部門への申請・承認といった正式な手続きを「面倒」だと感じさせ、個人の判断による利用を助長してしまいます。

放置が招く、野良クラウドの深刻な経営リスク

「少しぐらいなら問題ないだろう」と野良クラウドを軽視することは、企業の存続を揺るかねない深刻なリスクにつながります。

リスク①:致命的な情報漏洩とデータ損失

これは、あらゆる野良クラウドに共通する最大のリスクです。

  • 脆弱なセキュリティ: サービス自体のセキュリティ強度が不明なため、サイバー攻撃の標的となる可能性があります。

  • 不適切なアクセス権管理: アクセス権の設定ミスにより、機密情報が意図せず社外に公開されてしまう危険性があります。特に野良インフラ(IaaS/PaaS)では、ファイアウォールの設定ミスにより、開発中のソースコードや顧客データが格納されたサーバーがインターネット上に完全に公開状態になる、といった致命的な事態を招きかねません。

  • 退職者アカウントの放置: 従業員が退職した後も、個人契約のアカウントが放置され、企業の重要データにアクセス可能な状態が続くケースも少なくありません。

リスク②:コストのブラックボックス化と「クラウド破産」

各部門が個別にクラウドサービスを契約・決済することで、会社全体としてITコストを把握できなくなります(コストのブラックボックス化)。

  • 無駄なコストの発生: 重複した機能を持つSaaSに、複数の部署がそれぞれ費用を支払っているケース。

  • 予期せぬ高額請求(クラウド破産): 特に野良インフラで頻発するリスクです。開発者が検証で利用した高スペックな仮想マシンを停止し忘れ、後から数十万、数百万円といった想定外の高額請求が個人のクレジットカードに届き、問題が発覚するケースがあります。

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リスク③:コンプライアンス違反とガバナンスの崩壊

企業の社会的責任が厳しく問われる現代において、コンプライアンス違反は経営に大きな打撃を与えます。

  • 各種法令・業界規制への抵触: 個人情報保護法やGDPR、あるいは金融・医療業界などが定める厳格なデータ管理基準を満たしていないクラウドにデータを保存してしまうリスク。

  • ITガバナンスの崩壊: IT部門が会社のIT資産を管理・統制できなくなることで、全社的なセキュリティポリシーの適用や、統一されたDX戦略の実行が極めて困難になります。

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IT部門が今すぐとるべき野良クラウド対策の4ステップ

野良クラウドのリスクは深刻ですが、正しい手順でアプローチすれば、状況を改善し、統制を取り戻すことは可能です。重要なのは、単に「禁止」するのではなく、利便性とセキュリティを両立させる道(=ガードレール)を探ることです。

ステップ1:実態把握(可視化)- 現状の「影」を知る

まずは、社内でどのような野良クラウドが、どれくらい使われているのかを把握することから始めます。

  • アンケート・ヒアリング: 従業員(特に開発部門も含む)に対し、業務で利用しているツールやクラウドサービスに関するアンケートを実施します。「犯人捜し」が目的ではないことを明確に伝え、正直に申告しやすい雰囲気を作ることが重要です。

  • ツールの活用: ネットワークのログを解析したり、CASB(Cloud Access Security Broker) と呼ばれるセキュリティソリューションを導入したりすることで、社内からアクセスされているクラウドサービスを網羅的に可視化できます。

ステップ2:利用ルールの策定と周知 - 判断基準を明確化する

実態が把握できたら、クラウドサービスを利用する際の明確なルールを定めます。

  • 利用ガイドラインの作成: SaaSの利用申請プロセスに加え、IaaS/PaaSを利用する際の申請・承認フロー、コスト管理、セキュリティ設定の基本ルール(必須のセキュリティ設定項目など)を具体的に定めます。

  • サービスリストの整備: 会社として利用を許可するサービス(ホワイトリスト)、禁止するサービス(ブラックリスト)を定義し、従業員が判断に迷わないようにします。

  • 全社への周知徹底: 定めたルールは、研修会などを通じてその背景や必要性(リスク)を丁寧に説明し、全従業員の理解と協力を得ることが不可欠です。

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ステップ3:代替手段の提供と利便性の向上(重要)

従業員が野良クラウドを使いたくなる根本原因は「公式ツールが使いにくい」「必要な環境をすぐに入手できない」ことです。この問題を解決しなければ、ルールを作っても形骸化してしまいます。

  • 公式SaaSツールの導入・見直し: Google Workspace のような高機能で統合されたスイートを公式ツールとして提供することで、チャットやストレージなどの多くの野良SaaSの利用を抑制できます。

  • 統制されたパブリッククラウド環境の提供: 開発部門に対しては、IT部門の統制下にある安全なパブリッククラウド環境(サンドボックス)を提供することが極めて有効です。

例えば Google Cloud であれば、IT部門が組織ポリシー請求アカウントを一元管理することで、開発者に裁量を与えつつ、以下のような「ガードレール」を設けることが可能です。

  • コストのガードレール: 特定のプロジェクトで一定予算を超えたらアラートを発出、または自動的にサービスを停止する。

  • セキュリティのガードレール: 機密データを扱うサーバーは特定のリージョン(例:日本国内)以外で起動できないように制限する。

  • 権限のガードレール: 開発者には必要な権限のみを付与し、本番環境へのアクセスや課金設定の変更などはIT部門のみが行えるようにする。

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ステップ4:継続的なモニタリングと教育 - 文化として定着させる

ルールを定め、環境を整備した後は、その運用が正しく行われているかを継続的に見守る必要があります。

  • 定期的な利用状況の監視: CASBなどのツールを活用して、新たな野良クラウドが発生していないか、ルール違反の利用がないかを定期的にチェックします。

  • セキュリティ教育の実施: 新入社員や開発者向けに、シャドーITのリスクや会社のセキュリティポリシーについて繰り返し教育し、従業員一人ひとりの意識を高めていくことが重要です。

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ここまで野良クラウド対策を解説しましたが、「自社に適したルール作りが難しい」「開発者向けの安全なクラウド環境をどう設計すればいいか分からない」といった新たな課題に直面されるケースも少なくありません。

野良クラウド問題の本質は、「現場の利便性・スピード」と「IT部門の統制・セキュリティ」の対立にあります。DXを推進するためには、どちらかを犠牲にするのではなく、両立させなければなりません。

単に禁止する「壁」を作るのではなく、安全な範囲(ガードレール)の中でなら、従業員が自由にクラウドのメリットを享受できる環境を整備することです。

①SaaS利用における統制と利便性の両立

例えば Google Workspace は、単なるメールやチャットのツールではありません。高度なセキュリティ機能と管理コンソールを備えており、IT部門が「どのデータを」「誰と」共有できるかを細かく制御できます。これにより、野良ストレージや野良チャットツールを防ぎつつ、従業員の生産性を最大化する環境を実現します。

②IaaS/PaaS統制の鍵「Google Cloudのガバナンス機能」

特に「野良インフラ」対策において、専門家の知見が求められます。Google Cloud は、企業統治(ガバナンス)のための強力な機能を標準で備えています。

私たちは、数多くの企業様のDX推進をご支援してきた経験に基づき、Google Cloud の組織ポリシーIAM(権限管理)請求管理といった機能を駆使し、貴社の実情に合わせた「ガードレール」を設計します。

  • ガバナンス設計・構築: 貴社のセキュリティポリシーに基づき、開発者の自由度と安全性を両立する Google Cloud 環境(ガードレール)を設計・構築します。

  • 継続的な運用・伴走支援: 導入後も、お客様のIT部門に寄り添い、運用監視や新たな脅威への対応、従業員へのトレーニングなどを通じて、安全で生産性の高いクラウド環境の維持をご支援します。

自社の状況に合わせた具体的な対策について検討したい、意見を聞いてみたいとお考えでしたら、ぜひお気軽にご相談ください。

XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
XIMIXのGoogle Cloud 導入支援についてはこちらをご覧ください。

まとめ

本記事では、DX推進の陰で増大する「野良クラウド」のリスクと、その具体的な対策について解説しました。

野良クラウドは、SaaSの個人利用から開発者によるパブリッククラウドの無断利用(野良インフラ)まで多岐にわたります。これらは従業員の「業務を良くしたい」という善意から生まれることが多い一方で、放置すれば情報漏洩や予期せぬ高額請求といった深刻な事態を招きかねない、諸刃の剣です。

重要なのは、一方的に禁止して従業員の利便性を奪うことではありません。従業員の生産性を向上させたいというニーズに応えつつ、企業として守るべきセキュリティとガバナンスをいかに両立させるかという視点です。

その鍵となるのが、専門的な知見に基づいた「ガードレール」の構築です。

今回ご紹介した4つの対策ステップを参考に、まずは自社の状況を把握することから始めてみてはいかがでしょうか。そして、その過程で専門家の力が必要だと感じた際には、ぜひ私たちXIMIXにご相談ください。


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