「クラウドへの抵抗」はDXの宝だった? ベテラン情シスの経験を活かす組織変革の秘訣

 2025,07,25 2025.07.25

はじめに

企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進において、クラウド活用はもはや避けて通れない戦略的な一手です。しかし、その導入を本格化させようとする中で、「長年、自社のシステムを支えてきたベテラン情報システム部門(情シス)からの根強い抵抗に遭い、プロジェクトが停滞している」という課題に直面している決裁者の方は少なくないのではないでしょうか。

彼らの抵抗は、単なる「変化への拒絶」なのでしょうか。

本記事では、その抵抗の裏にある本質的な背景を深掘りし、彼らを「抵抗勢力」ではなく「DX推進のキーパーソン」へと変えるための、戦略的かつ具体的なアプローチを解説します。

この記事を最後までお読みいただくことで、以下のことが可能になります。

  • ベテラン情シスがクラウド化に慎重になる根本の理解

  • 彼らの豊富な経験を、企業の競争力に変えるための視点転換

  • 抵抗を推進力に変える、明日から実践できる組織変革の具体的な手法

  • プロジェクトの投資対効果(ROI)を高めるための、決裁者として押さえるべき要点

単なる技術導入の話ではなく、企業の未来を創るための「組織変革の処方箋」を、私たちの豊富な支援経験を基に提示します。

なぜベテラン情シスはクラウド化に「待った」をかけるのか?

彼らの「抵抗」を解きほぐすには、まずその背景にある心理や構造を理解することが不可欠です。それは決して、意図的なサボタージュや後ろ向きな姿勢だけが原因ではありません。

変化への不安①:自身のスキル・経験が通用しなくなる恐怖

長年にわたりオンプレミス環境でサーバーやネットワークを構築・運用してきたエンジニアにとって、そのスキルと経験は自身の価値そのものです。クラウドという新しいパラダイムは、これまで培ってきた技術が通用しなくなり、自身の存在価値が脅かされるという根源的な不安をかき立てます。これは、プロフェッショナルであればこそ抱く、自然な感情と言えるでしょう。

変化への不安②:システムを「守る」使命感と安定性への懸念

彼らは、会社の事業を止めないよう、24時間365日システムの安定稼働を守り抜いてきた功労者です。その強い使命感から、「本当にクラウドは安全なのか」「外部のサービスに自社の生命線を預けて大丈夫なのか」といった、セキュリティや可用性に対する懸念を抱きます。自分たちの手で管理できない領域が増えることへの抵抗感は、責任感の裏返しでもあるのです。

過去の成功体験という「重力」と、未知への不信感

「これまで、このやり方で問題なくやってこられた」という過去の成功体験は、時に変化に対する強力な「重力」として作用します。特に、大きなシステム障害を乗り越えた経験などがある場合、その手法への信頼は絶大です。対して、クラウドは実績が見えにくく、抽象的なメリットを語られても、具体的なリスクを払拭できない「未知なるもの」として映ってしまいます。

「抵抗」はリスクではなく「資産」である

ここで重要なのは、彼らの姿勢を「抵抗」と一括りにせず、その中身を分解して捉え直すことです。実は、彼らの懸念や知見こそ、クラウド化を成功させる上で極めて重要な「資産」となり得ます。

オンプレミスの知見は、堅牢なクラウド基盤に不可欠な要素

クラウドは決して「魔法の箱」ではありません。ネットワーク、サーバー、ストレージ、セキュリティといった基本要素の組み合わせで成り立っています。オンプレミスで培われたインフラ全体を俯瞰する能力や、障害発生時の泥臭いトラブルシューティング経験は、クラウド上で堅牢かつコスト効率の高いシステムを設計・運用する上で、間違いなく活かされます。

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「慎重論」に耳を傾けることが、大規模な失敗を防ぐ

「クラウドなら何でもできる」という過度な期待は、セキュリティインシデントや想定外の高額請求といった手痛い失敗につながりがちです。ベテラン層が指摘する「本当にその構成でセキュリティは担保できるのか」「データの移行計画に穴はないか」といった慎重な視点は、プロジェクトの盲点を洗い出し、大規模な失敗を未然に防ぐための貴重なリスクチェック機能となるのです。

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彼らこそ、次世代の「守りのDX」を担うキーパーソン

攻めのDXが事業創出であるならば、それを支える安定したシステム基盤を構築・運用する「守りのDX」も同等に重要です。長年の運用経験を持つ彼らは、企業の業務やシステム全体を熟知しています。その知見を活かし、クラウド時代における新たなガバナンス体制やセキュリティポリシーを策定する役割を担うことで、彼らは変革の対象から、変革を支える主体へと生まれ変わるポテンシャルを秘めているのです。

抵抗を推進力に変える、組織変革の3つのアプローチ

では、具体的にどのようにして彼らを巻き込み、その経験を資産として活かしていけばよいのでしょうか。私たちは、多くの企業変革を支援する中で、以下の3つのアプローチが極めて有効であることを見てきました。

アプローチ1:対話と共創による「心理的安全性」の醸成

一方的なトップダウンの指示は、最も反発を招きやすい典型的な失敗パターンです。まずは、なぜクラウド化が必要なのかという経営戦略上の「Why」を、決裁者自らの言葉で丁寧に説明する場を設けることが第一歩です。その上で、彼らの懸念や不安を真摯に傾聴し、決して否定しないこと。「君たちの経験が必要だ」というメッセージを明確に伝え、心理的安全性を確保することが対話の前提となります。

【実践ポイント】

  • 「クラウド推進室」といった専門部署だけでなく、ベテラン層も交えた「クラウドCoE(Center of Excellence)」のような組織を立ち上げ、方針決定の場に巻き込む。

  • 彼らの懸念事項をリストアップし、一つひとつに対してクラウドでどのように解決できるのか、あるいはどのような代替策があるのかを共に検討する。

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アプローチ2:実践的なリスキリングと「新たな役割」の提示

不安の根源がスキルの陳腐化であるならば、その解消策を具体的に提示することが不可欠です。単なる座学の研修だけでなく、実践的な学びの機会と、その先に広がる新たなキャリアパスを明確に示すことが重要になります。

【実践ポイント】

  • ハンズオントレーニングの提供: Google Cloudが提供するトレーニングや、Qwiklabsのような実践的な学習プラットフォームを活用し、実際に手を動かしながら学ぶ機会を作る。

  • 資格取得支援: Google Cloud認定資格などの目標を設定し、合格者にはインセンティブを与えるなど、会社としてスキル習得を奨励する姿勢を示す。

  • 役割の再定義: 「オンプレミス運用担当」から「クラウドアーキテクト」「クラウドセキュリティ管理者」「SRE(Site Reliability Engineer)」といった、彼らの経験を活かせる新たな役割とキャリアパスを提示する。

アプローチ3:クラウドの価値を「体感」させるスモールスタート

百聞は一見に如かず。抽象的なメリットを語るよりも、小規模でも具体的な成功体験を共に作ることが、最も効果的な説得材料となります。彼らが課題と感じている業務や、関心の高い領域からスモールスタートでクラウド化に着手し、その効果を「体感」してもらうのです。

【実践ポイント】

  • 対象選定: 例えば、バックアップ/DR(災害復旧)環境のクラウド化や、開発・検証環境の構築など、既存システムへの影響が少なく、かつクラウドのメリット(コスト削減、迅速性)を実感しやすい領域から始める。

  • プロジェクトへの任命: そのスモールスタートのプロジェクトリーダーや主要メンバーにベテランエンジニアを任命し、成功体験の当事者となってもらう。

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プロジェクトを成功に導く、決裁者が見るべきポイント

これらのアプローチを実りあるものにするためには、決裁者自身が押さえるべき、より高次の視点が存在します。

よくある失敗:トップダウンの号令だけで現場を動かそうとする

多くの企業で見てきた失敗は、経営層が「DXだ、クラウドだ」と号令をかけるだけで、現場の組織変革や人材育成に必要なリソース(時間・予算)を十分に配分しないケースです。変革には痛みが伴うことを理解し、現場が挑戦し、たとえ失敗しても再挑戦できるだけの猶予と支援を決裁者が約束することが、プロジェクトの成否を分けます。

成功の秘訣:評価制度とキャリアパスを連動させる

リスキリングを促すのであれば、人事評価制度も変革の方向性と連動させる必要があります。「新しいクラウドのスキルを習得した人材」や「クラウド化プロジェクトに貢献した人材」が、きちんと評価され、処遇に反映される仕組みがなければ、社員のモチベーションは続きません。新たな役割定義と、それに見合った評価制度の設計は、変革を本物にするための車の両輪です。

ROIの観点:人材再投資がもたらす長期的なビジネス価値

ベテラン人材のリスキリングには、確かに短期的なコスト(研修費用や時間)が発生します。しかし、これを単なるコストと捉えてはいけません。自社の業務とシステムを熟知した人材が最新技術を習得することは、外部から新たに人材を採用するよりも、遥かに効率的かつ効果的な「投資」です。彼らは、ビジネスの文脈を理解した上で最適な技術判断を下せる、替えの効かない貴重な人材となり、長期的に見て企業の競争力そのものを高め、莫大なROIとなって返ってくるでしょう。 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が発行する「DX白書」でも、DXを推進する上での課題として「人材の量の不足」「人材の質の不足」が上位に挙げられており、既存人材の育成が極めて重要な経営課題であることが示されています。

2025年最新】生成AIはベテランのリスキリングをどう加速させるか

近年、Gemini for Google Cloud のような生成AIの進化は、この人材育成の課題に対する新たな解決策を提示しています。例えば、オンプレミスの設定ファイルや手順書をインプットし、それをクラウド(Google Cloud)環境で実現するための設定方法やコードを生成AIに提案させるといった活用が可能です。これにより、ベテランエンジニアは自身の既存知識をベースにしながら、AIと対話するように新しい技術を効率的に学ぶことができます。生成AIは、ベテランの経験と最新技術の間の「翻訳者」として、リスキリングのハードルを劇的に下げる可能性を秘めています。

専門家の視点で伴走するXIMIXの支援

ここまで述べてきたように、クラウド化の成功は、技術の導入そのものよりも、むしろ組織や人材をどう変革していくかにかかっています。

技術導入と組織変革は「車の両輪」

多くの企業が、技術導入をSIerに依頼し、組織変革は自社の人事部マターとして個別に取り組もうとします。しかし、これら二つは分断されていてはうまく回りません。どのような技術を、どのような目的で導入するのか。そして、その技術を使いこなし、価値を最大化するためには、どのようなスキルや組織体制が必要なのか。これらを一体で構想し、推進することが不可欠です。

XIMIXが提供する伴走支援とは

私たちXIMIXは、単なるGoogle Cloudの導入ベンダーではありません。これまで数多くの中堅・大企業のDXをご支援してきた中で、技術的な課題と組織的な課題の両方に深く向き合ってきました。

私たちは、お客様の状況を丁寧にヒアリングし、最適な技術選定を行うだけでなく、本記事で解説したような組織変革のアプローチについても、お客様と一体となって計画・実行します。 

長年オンプレミスを支えてきたベテランの方々は、本来、企業の宝です。その力を最大限に引き出し、企業の次なる成長の原動力へと変える旅路を、ぜひ私たちXIMIXと共に歩んでいきませんか。

XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
XIMIXのGoogle Cloud 導入支援についてはこちらをご覧ください。

まとめ

本記事では、多くの決裁者が直面する「ベテラン情シスのクラウド抵抗」という課題について、その根本原因から具体的な解決アプローチまでを多角的に解説しました。

重要なポイントを改めて整理します。

  • 抵抗の背景を理解する: 彼らの抵抗は、スキル喪失への不安や、システムを守る強い責任感の裏返しである。

  • 視点を転換する: 「抵抗」はリスクではなく、オンプレミスの知見という「資産」であると捉え直す。

  • 具体的な3つのアプローチを実践する: 「対話と共創」「リスキリングと役割提示」「スモールスタートによる成功体験」を通じて、彼らを巻き込む。

  • 決裁者として支援する: 人材育成を「投資」と捉え、評価制度と連動させながら、組織全体の変革を力強く推進する。

クラウド化は、単なるインフラの刷新プロジェクトではありません。それは、企業の最も価値ある資産である「人」と「組織」の可能性を再発見し、未来に向けてアップデートしていく経営戦略そのものです。この記事が、皆様の組織変革を成功に導く一助となれば幸いです。


「クラウドへの抵抗」はDXの宝だった? ベテラン情シスの経験を活かす組織変革の秘訣

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