「攻め」のDXを阻む「守り」の壁 ― IT投資のジレンマをどう乗り越えるか
「デジタルトランスフォーメーション(DX)を加速させ、新たな事業価値を創出したい」 多くの企業経営者やDX推進担当者が強い意欲を持つ一方で、その実現を阻む大きな壁が存在します。それは、既存システムの運用・保守といった「守りのIT」に、予算や人材といった貴重なリソースの大半が割かれてしまうという現実です。
- 「IT予算の8割が、現行システムの維持管理費で消えていく」
- 「情報システム部門は日々のトラブル対応やセキュリティ対策に追われ、戦略的な業務に着手できない」
- 「老朽化した基幹システム(レガシーシステム)が足かせとなり、新しい技術を導入できない」
このような課題は、企業の成長を鈍化させる深刻な問題です。本記事では、DX時代の企業経営に不可欠な「守りのIT」と「攻めのIT」の最適なバランスを見つけるための考え方と、具体的なアプローチを解説します。特に、クラウド技術、中でも Google Cloud や Google Workspace がこの課題解決にどう貢献するのか、専門的な視点から掘り下げていきます。
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守りのITと攻めのIT:それぞれの役割と具体例
まず、「守りのIT」と「攻めのIT」がそれぞれ何を指すのか、その定義と役割を明確にしましょう。
守りのIT(Run the Business):事業継続を支える基盤
「守りのIT」とは、既存の事業運営を安定的に維持し、効率化するためのIT投資です。企業の根幹を支える土台であり、電気や水道のようなインフラに例えられます。これがなければ、日々の業務は成り立ちません。
- 基幹システム(ERP等)の運用保守: 業務の中核をなすシステムの安定稼働、法改正への対応
- インフラ(サーバー・NW)の維持管理: ハードウェアの保守、OSやミドルウェアの更新
- セキュリティ対策: サイバー攻撃からの防御、情報漏洩対策、脆弱性対応
- 社内ヘルプデスク・PC管理: 従業員からの問い合わせ対応、IT資産の管理
これらの活動は、事業継続性の担保とコンプライアンス遵守に不可欠です。
攻めのIT(Change the Business):未来の成長を創り出すエンジン
「攻めのIT」とは、ビジネスモデルの変革や新たな価値創造を通じて、企業の競争優位性を確立し、事業成長を加速させるための戦略的なIT投資です。
- 新規デジタルサービスの開発: 新技術を活用した商品・サービスの市場投入
- 顧客体験(CX)の向上: CRM/MAツールを活用したパーソナライズ施策、アプリやWebサイトの機能強化
- データ駆動型経営の実現: データ分析基盤の構築、AI/機械学習による需要予測や意思決定支援
- 新たな働き方の推進: コラボレーションツールの活用による生産性向上、イノベーション創出
- ビジネスモデルの変革: デジタル技術を核とした新たな収益モデルの構築(例:製造業のサービス化)
「攻めのIT」は、企業の未来を切り拓くための投資であり、成長の原動力となる重要な役割を担います。
なぜバランスが重要なのか?多くの日本企業が直面する課題
「守り」と「攻め」、どちらも重要であることは論を俟ちません。しかし、問題は両者のバランスにあります。IPA(独立行政法人情報処理推進機構)の「DX白書2023」をはじめとする各種調査では、依然として多くの日本企業がIT投資を「守り」に偏重させている実態が指摘されています。
守りに偏るリスク:市場からの脱落
IT予算の大半を現行システムの維持に費やす状況が続くと、「攻め」に振り向ける余力が枯渇します。結果として、市場の変化や新たなテクノロジーに適応できず、競合に後れを取ることに。経済産業省が警鐘を鳴らした「2025年の崖」は、まさにこのレガシーシステムが引き起こすDXの停滞と経済的損失のリスクを象徴しています。
攻めに偏るリスク:脆弱な基盤
逆に、基盤となる「守り」をおろそかにして「攻め」の施策ばかりを進めると、システム障害や大規模なセキュリティインシデントを招く危険性が高まります。脆弱な土台の上では、いかに革新的なアプリケーションも安定して稼働させることはできず、顧客や従業員の信頼を失うことにも繋がります。
企業が持続的に成長するためには、「守りのIT」という安定した基盤の上で、「攻めのIT」という成長エンジンを力強く回す、この両輪駆動が不可欠なのです。
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IT投資の最適バランスを実現する5つのステップ
自社のIT投資を理想的なバランスへシフトさせるためには、戦略的なアプローチが必要です。ここでは、NI+Cがお客様をご支援する際に重視している5つのステップをご紹介します。
ステップ1:現状把握と課題の可視化
まずは、自社のIT投資が「守り」と「攻め」にどのような割合で配分されているかを客観的に把握することから始めます。
- IT予算の分類: 運用保守費、新規開発費、ライセンス費用、人件費などを「守り」「攻め」の観点で仕分けします。
- IT部門の工数分析: 担当者が日々の運用業務と戦略的プロジェクトに費やす時間の比率を分析します。
- 経営層・事業部門へのヒアリング: 既存システムへの不満や、事業成長のためにITに何を期待するかを明らかにします。
これにより、自社が抱える課題の輪郭が明確になります。
ステップ2:経営戦略とIT戦略の完全な連携
IT投資のバランスは、必ず全社の経営戦略と連動していなければなりません。「3年後にどの市場でNo.1を目指すのか」「そのために、どのような顧客価値を提供するのか」といった経営目標を達成するための手段として、IT戦略を位置づけます。経営層とIT部門が密に連携し、「守り」と「攻め」それぞれで達成すべき目標を具体化することが極めて重要です。
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ステップ3:「守りのIT」の徹底的な効率化・最適化
「攻め」の投資原資を生み出す最も効果的な方法は、「守り」のコスト構造を見直すことです。ここで鍵となるのが、クラウドの活用です。 サーバーの管理やソフトウェアのアップデートといった定型的な運用業務から解放されるSaaSや、リソースを柔軟に伸縮させられるIaaS/PaaSへ移行することで、運用負荷とコストを劇的に削減できる可能性があります。
特に Google Cloud のようなモダンなパブリッククラウドは、インフラ管理の大部分をGoogleに任せられるため、情報システム部門はより付加価値の高い業務に集中できるようになります。
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ステップ4:「攻めのIT」投資領域の優先順位付け
経営戦略に基づき、「攻め」として注力すべき領域を特定し、優先順位をつけます。「まずはデータ分析基盤を整備し、顧客インサイトの深化を図る」「次に、その知見を活かしてパーソナライズされたマーケティング施策を展開する」といったように、段階的かつ戦略的に投資領域を定めます。
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ステップ5:ロードマップ策定と継続的な評価・改善
上記ステップを踏まえ、中長期的なIT投資計画(ロードマップ)を策定し、単年度の予算配分を見直します。「守り」の効率化で創出したリソースを、計画的に「攻め」の領域へ再配分していくのです。一度計画を立てて終わりではなく、投資の効果(ROIだけでなく、顧客満足度や従業員エンゲージメントなども含めて)を定期的に測定し、戦略を柔軟に見直していくPDCAサイクルを回し続けることが成功の鍵となります。
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バランス最適化を阻む「3つの罠」と回避策
理想のバランスを目指す過程には、いくつかの注意点が存在します。
- 罠1:短期的な成果の追求: 「攻めのIT」は、その効果が表れるまでに時間がかかるケースも少なくありません。短期的なROIばかりを求めると、真の変革に必要な中長期的な投資が実行できなくなります。経営層の理解とコミットメントが不可欠です。
- 罠2:レガシーシステムの放置: 複雑化・ブラックボックス化したレガシーシステムは、「守り」のコストを肥大化させ、「攻め」への挑戦を阻む最大の要因です。見て見ぬふりをするのではなく、計画的なモダナイゼーション(近代化)に着手することが、結果的に「攻め」への近道となります。
- 罠3:IT部門と事業部門の断絶: IT投資の最適化は、IT部門だけの問題ではありません。事業部門が抱える現場の課題やニーズを深く理解し、一体となって解決策を模索する体制を構築することが、投資効果を最大化させます。
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Google Cloud / Google Workspace が投資バランスを最適化する理由
モダンなクラウドプラットフォームである Google Cloud と、コラボレーションツールスイートの Google Workspace は、「守り」と「攻め」の両面で企業のIT投資バランスの最適化に大きく貢献します。
「守りのIT」を効率化・高度化する
- インフラ運用からの解放: Google Cloud のIaaS/PaaS(例: Google Kubernetes Engine)を活用することで、サーバーのプロビジョニング、パッチ適用、監視といった運用負荷を大幅に削減。情シス部門を本来注力すべき戦略的業務へシフトさせます。
- セキュリティとコンプライアンスの強化: Google Workspace や Google Cloud は、Google自身のグローバルなインフラとセキュリティ専門家によって保護されています。常に最新のセキュリティが適用されるため、自社で高度なセキュリティ対策を維持する負担を軽減します。
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「攻めのIT」を加速させる
- 最先端テクノロジーの民主化: AI/機械学習プラットフォームの Vertex AI や、超高速なデータ分析を可能にする BigQuery など、これまで一部の先進企業しか利用できなかった高度なテクノロジーを、低コストかつスピーディーにビジネスへ組み込めます。
- イノベーションを生む協業文化の醸成: Google Workspace は、組織や場所の壁を越えたシームレスなコラボレーションを促進します。これにより、部門横断的なアイデア創出や、スピーディな意思決定が可能となり、イノベーションが生まれやすい企業文化を育みます。
これらのツールを戦略的に活用することで、「守り」のコストと工数を最適化しながら、そこで生まれたリソースを「攻め」の活動へと振り向け、企業の成長を加速させる好循環を生み出すことが可能です。
XIMIXによる支援
「守りと攻めのバランスの重要性は理解できたが、具体的に何から手をつければいいのか分からない」 このようなお悩みを抱える企業様は少なくありません。
- 「自社のIT資産を客観的に評価し、課題を特定したい」
- 「クラウド移行によって、どの程度のコスト削減が見込めるか知りたい」
- 「データ活用やAI導入など、『攻め』の領域で何に投資すべきか、専門家の意見が欲しい」
私たち XIMIX は、長年にわたる豊富な実績と、Google Cloud に関する高度な専門知識を基に、お客様の状況に合わせたIT投資の最適化をご支援します。
現状のITコスト構造や運用体制を分析するITアセスメントサービスから、Google Cloud / Google Workspace の導入・移行、データ分析基盤の構築、AI活用支援まで、一気通貫でサポート。お客様が「守り」の負荷から解放され、「攻め」のDXを力強く推進できるよう、ビジネスパートナーとして伴走します。
XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
XIMIXのGoogle Cloud 導入支援についてはこちらをご覧ください。
まとめ:未来への投資原資は「守りのIT」改革から生まれる
DX時代の変化の激しい市場環境で持続的に成長するためには、「守りのIT」と「攻めのIT」のバランスを戦略的に管理し、最適化することが不可欠です。多くの日本企業が直面する「守り」偏重の構造から脱却し、「攻め」への投資を加速させる必要があります。
その最も効果的な一手が、クラウド活用による「守りのIT」の変革です。インフラ運用を効率化・高度化することで、コストと人材を「攻めのIT」領域、すなわち新たな顧客価値の創造やビジネスモデルの変革へとシフトさせることができます。
まずは自社のIT投資の現状を客観的に見つめ直し、経営戦略との連携を確認することから始めてみてはいかがでしょうか。その上で、Google Cloud のような先進的なテクノロジーをいかに活用していくか。その戦略的な判断が、企業の未来を大きく左右する鍵となるでしょう。
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