はじめに:そのクラウド移行、コスト削減だけが目的ですか?
多くの企業にとって、基幹システム(ERP、勘定系、生産管理など)は、ビジネスを支える心臓部です。近年、この基幹システムをオンプレミス環境からクラウドへ移行する動きが加速しています。しかし、その目的を「インフラコストの削減」や「ハードウェア保守からの解放」といった“守り”のIT投資だけに留めていないでしょうか。
IPA(情報処理推進機構)が発行する「DX白書」などの調査でも、レガシー化した基幹システムがDX推進の足かせとなっている実態が長年指摘されています。変化の激しい現代において、中堅・大企業が競争優位性を確立するために必要なのは、守りの投資に留まらない、“攻め”の投資、すなわち「データを活用した迅速な意思決定」と「ビジネスプロセスの変革」です。
この記事では、多くの企業が基幹システムの移行先にGoogle Cloudを選ぶ「真の理由」を、単なる機能メリットの羅列ではなく、ビジネス価値(ROI)の観点から解説します。さらに、数多くの移行プロジェクトを支援してきた専門家の視点から、プロジェクトを「失敗しないため」に決裁者が見落としてはならない「重要な留意点」を深く掘り下げます。
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なぜ、基幹システムのインフラにGoogle Cloudが選ばれるのか
基幹システムに求められる要件は、極めて高い信頼性、堅牢なセキュリティ、そして安定したパフォーマンスです。従来、これらの要件を満たすのはオンプレミス環境が主流でしたが、Google Cloudはこれらの要件を満たしつつ、ビジネスの俊敏性を高める独自の強みを持っています。
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①圧倒的な信頼性とグローバルスケールのインフラ
Googleが自社の検索エンジンやYouTubeといった巨大サービスを支えるために構築したインフラは、そのままGoogle Cloudの基盤となっています。
例えば、基幹システム、特にSAP S/4HANA®などのインメモリーデータベースには、大容量メモリと高性能なコンピューティングリソースが不可欠です。Google Cloudは、仮想マシンや、物理サーバーを専有できるBare Metal Solution などを提供し、ミッションクリティカルなワークロードにも応える高いパフォーマンスと安定性を実現します。
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②「TCO削減」の先にある多角的なROI
クラウド移行によるTCO(総保有コスト)削減効果は大きいですが、注目すべきは、それ以外のビジネス価値です。
Google CloudがもたらすROI(投資対効果)の構成要素
| 観点 | 具体的な効果 |
| コスト削減(直接的ROI) | 運用・保守コストの削減(ハードウェア保守、ライセンス費用、データセンター費用) 従量課金制によるリソースの最適化 |
| 運用効率の向上(間接的ROI) | インフラ構築・調達のリードタイム短縮 運用自動化ツールによる管理工数の削減 |
| ビジネス価値の創出(戦略的ROI) | データ活用: BigQueryとのシームレスな連携によるリアルタイム分析 俊敏性の向上: 新規事業やサービスの迅速な立ち上げ イノベーション: 生成AI(Vertex AI)活用による業務プロセス変革 |
TCO削減はあくまで「守り」の成果です。Google Cloudへの移行で真に目指すべきは、基幹系データという「宝の山」を解放し、戦略的ROIを最大化することにあります。
基幹系データ活用:BigQueryとの連携
Google Cloudが他のクラウドプラットフォームと比較して持つ最大の強みの一つが、データ分析基盤(DWH)である「BigQuery」の存在です。
従来の基幹システムでは、分析のためにデータをETL(抽出・変換・格納)ツールでDWHに連携するプロセスが必要でした。しかしGoogle Cloud上では、基幹システムのデータをBigQueryにほぼリアルタイムで連携させ、即座に分析にかけることが可能です。
これにより、例えば「最新の販売実績と在庫データを基にした需要予測」や「生産ラインの稼働状況と品質データのリアルタイム相関分析」など、これまで困難だった高度なデータ活用が実現し、データドリブンな経営判断を加速させます。
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基幹システム移行を成功に導く「5つのビジネス価値(メリット)」
Google Cloud上で基幹システムを稼働させることで、企業は具体的にどのような価値を享受できるのでしょうか。決裁者視点で特に重要な5つのポイントを解説します。
①高可用性(HA)と事業継続性(BCP)の抜本的強化
中堅・大企業の基幹システムは、万が一にも停止が許されません。Google Cloudは、ライブマイグレーション(仮想マシンを稼働させたまま物理ホストのメンテナンスを行う機能)などにより、計画停止時間を最小限に抑えます。
また、複数のリージョン(地域)やゾーン(データセンター群)を活用した災害対策(DR)構成も、オンプレミス環境に比べて遥かに低コストかつ柔軟に構築可能であり、事業継続性(BCP)を飛躍的に向上させます。
②ゼロトラストに基づく高度なセキュリティとコンプライアンス
「クラウドはセキュリティが不安」という時代は終わりました。Google Cloudは、Google自身の厳しいセキュリティ基準で運用されており、「ゼロトラスト」(何も信頼しない)の概念に基づいた多層的な防御を提供します。
また、金融業界向けのFISC安全対策基準や、医療情報を取り扱うための各種ガイドライン(3省2ガイドライン)など、日本の厳しい業界標準や規制要件にも対応しており、基幹システムに求められる高度なコンプライアンスを維持できます。
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③パフォーマンスの最適化と柔軟なリソース拡張
「月末月初のバッチ処理でリソースが逼迫する」「M&Aによる急なシステム統合が必要になった」といった課題は、オンプレミス環境では大きな経営問題となります。
Google Cloudであれば、必要な時に必要なだけリソースを即座に拡張(スケールアウト/スケールアップ)できます。これにより、ビジネスの成長や変化に合わせて、常に最適なパフォーマンスを維持しつつ、過剰なIT投資を避けることができます。
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④SAP S/4HANA移行の最適な受け皿
多くの企業が直面する「SAP ERP 6.0の2027年保守サポート終了問題」。このS/4HANAへの移行は、単なるバージョンアップではなく、ビジネスプロセス全体を見直す絶好の機会です。
Google Cloudは、前述のBare Metal Solutionや高性能VM、さらにBigQueryとの連携により、S/4HANAの能力を最大限に引き出すプラットフォームとして、SAP社自身からも高く評価されています。SAPデータの高度活用を見据えた場合、Google Cloudは極めて有力な選択肢となります。(関連サービス: SAP on Google Cloud)
⑤基幹システム × 生成AIによるイノベーションの加速
これがGoogle Cloudを選ぶ最大の戦略的価値かもしれません。生成AIの活用は企業の競争力を左右する重要テーマです。
Google Cloudは、「Vertex AI」プラットフォームや「Gemini」といった最先端のAIモデルを提供しています。基幹システムに蓄積された正確な業務データ(販売、会計、在庫など)をVertex AIと連携させることで、以下のような革新的な活用が可能になります。
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高度な需要予測: 過去の販売データと外部要因(天候、市場トレンド)をAIで分析し、高精度な需要予測を実現。
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インテリジェントな経営レポーティング: 経営層が自然言語で「先月の製品別収益トップ5とその要因は?」と質問するだけで、AIがBigQueryの基幹データを分析し、レポートを自動生成。
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業務プロセスの自動化: 請求書処理や問い合わせ対応など、基幹システムと連携する定型業務をAIで自動化。
移行プロジェクトを阻む「3つの壁」と実践的留意点
Google Cloudへの移行は多大なメリットをもたらしますが、その道のりは平坦ではありません。特に中堅・大企業の複雑な基幹システム移行では、技術的な課題以上に、計画や体制面での見落としがプロジェクトの成否を分けることが多々あります。
ここでは、多くのプロジェクトを支援してきた視点から、決裁者層が特に注意すべき「陥りがちな失敗」と、それを乗り越えるための留意点を3つのフェーズで解説します。
壁1:計画フェーズの「ROIの罠」とサイジングの難しさ
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陥りがちな失敗:
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ROIの過小評価: ROIを「インフラコストの削減」のみで算定してしまい、経営層への説明材料として弱くなる。
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過剰なサイジング: オンプレミス時代の「最大負荷」を前提にリソースを見積もり、クラウドの柔軟性を活かせずコスト高になる。
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既存ベンダーとの調整不足: 既存システムの運用ベンダーやアプリケーション保守ベンダーとの役割分担、連携仕様の調整が難航し、計画が遅延する。
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XIMIXの視点(留意点):
TCO削減効果(守りのROI)の試算は必須ですが、それ以上に「データ活用による売上向上」や「業務効率化による工数削減」といった戦略的ROIを、事業部門と連携して具体的に数値化することが決裁の鍵となります。また、クラウド移行の経験豊富なパートナーと共に、現行システムの稼働実態を詳細にアセスメントし、最適なサイジング(リソース設計)を行うことが重要です。
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壁2:移行フェーズの「連携システム」という地雷
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陥りがちな失敗:
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周辺システム連携の見落とし: 基幹システムに接続されている多数のサブシステム(EDI、ワークフロー、BIツールなど)とのインターフェース改修が想定外に膨らみ、工数とコストが増大する。
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データ移行の遅延: 基幹システムが持つ膨大な(数テラバイト級の)データを、業務停止時間を最小限にしつつ新環境へ移行する計画が甘く、リハーサルで失敗する。
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XIMIXの視点(留意点):
基幹システムは単体で動いているわけではありません。アセスメント段階で、システム相関図を徹底的に洗い出し、連携方式(API、ファイル連携など)やデータ形式の変更要否を精査する必要があります。特にデータ移行は、Google Cloudが提供する移行ツール(Database Migration Serviceなど)の活用や、専門家による綿密なリハーサルが不可欠です。
壁3:運用フェーズの「スキルギャップ」とセキュリティポリシー
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陥りがちな失敗:
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運用体制のスキル不足: オンプレミス運用の経験しかない情報システム部門が、クラウド特有の運用(リソース監視、セキュリティ設定、コスト管理)に対応できず、運用負荷が増大する。
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セキュリティポリシーの形骸化: クラウドの利便性(どこからでもアクセスできる)と、基幹システムの堅牢性(厳格なアクセス制御)のバランスが取れたセキュリティポリシーを再定義できず、セキュリティホールが生まれる。
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専門家の視点(留意点):
Google Cloudへの移行は「導入して終わり」ではありません。むしろ移行後の「運用フェーズ」こそが重要です。Google Cloudの運用自動化ツール(Cloud Deployment Manager, Terraformなど)を活用し、運用をいかに効率化・標準化するかが鍵となります。また、自社のセキュリティ基準をクラウド時代に合わせてアップデートし、Google Cloudのセキュリティ機能(VPC, IAM, Cloud Armorなど)を適切に設定・監視する体制構築が求められます。
XIMIXが提供する支援
基幹システムのGoogle Cloud移行は、単なるインフラの引越しではなく、企業のDX戦略そのものです。計画フェーズの綿密なROI策定、移行フェーズの確実なプロジェクト管理、そして運用フェーズの継続的な最適化とデータ活用支援。これら全てを成功させるには、Google Cloudの技術力と、中堅・大企業の業務・システムを深く理解したパートナーの存在が不可欠です。
『XIMIX』は、Google Cloudのプレミアパートナーとして、豊富な導入実績に基づき、お客様の課題に寄り添います。私たちは、単にインフラを構築するだけではありません。
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ロードマップ策定支援: お客様のビジネス課題をヒアリングし、Google Cloudを活用した最適な移行ロードマップを共に策定します。
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確実な移行: Google Cloudエンジニアが、周辺システムとの連携も含めて確実な移行プロジェクトを推進します。
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移行後の運用・活用支援: クラウド移行後の運用(MSPサービス)や、BigQuery、Vertex AIを活用したデータ分析基盤の構築、AI活用までをワンストップでご支援し、お客様のDX実現を伴走します。
クラウド化に関するお悩みや、具体的な移行計画のご相談がございましたら、ぜひXIMIXまでお気軽にお問い合わせください。
XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
XIMIXのGoogle Cloud 導入支援についてはこちらをご覧ください。
まとめ
本記事では、中堅・大企業の決裁者層に向けて、基幹システムをGoogle Cloudへ移行する「理由」(メリット)と、移行を「失敗しないため」の実践的な留意点を解説しました。
この記事のポイント
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Google Cloudへ移行する真の理由は、単なるTCO削減(守り)ではなく、データ活用とAI連携によるビジネス価値創出(攻め)のための戦略的投資である。
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BigQueryとのシームレスな連携が、データドリブン経営を実現する強力な武器となる。
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移行プロジェクトの成功には、計画段階での「戦略的ROIの策定」、移行段階での「周辺システム連携の精査」、運用段階での「スキルギャップ対策」という3つの壁を越える必要がある。
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技術力と業務理解を兼ね備えたパートナーとの連携が、プロジェクトの成否を分ける。
基幹システムの刷新は、企業の未来を左右する重要な経営判断です。この記事が、貴社のDX推進の一助となれば幸いです。
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