基幹システムをGoogle Cloudへ移行する理由とは? メリットと失敗しないための留意点

 2025,10,25 2025.12.24

はじめに:そのクラウド移行、コスト削減だけが目的ですか?

多くの企業にとって、ERP、勘定系、生産管理システムといった「基幹システム」は、まさにビジネスを支える心臓部です。昨今、ハードウェアの保守切れや「2025年の崖」への対応として、これらをオンプレミス環境からクラウドへ移行する動きが急速に加速しています。

しかし、その移行目的を単なる「インフラコストの削減」や「ハードウェア保守からの解放」といった“守り”のIT投資だけに留めてしまってはいないでしょうか?

IPA(情報処理推進機構)の「DX白書」でも指摘されている通り、老朽化したレガシーシステムはDX(デジタルトランスフォーメーション)推進の大きな足かせとなります。

変化の激しい現代において、中堅・大企業が競争優位性を確立するために必要なのは、守りの投資を超えた“攻め”の投資です。すなわち、「データを活用した迅速な意思決定」と「ビジネスプロセスの変革」を実現できる基盤への刷新です。

本記事では、なぜ今、多くの企業がAWSやAzureではなく、基幹システムの移行先にGoogle Cloudを選ぶのか。その「真の理由」をビジネス価値(ROI)の観点から解説します。さらに、数多くの移行プロジェクトを支援してきたXIMIXの視点から、プロジェクトを成功させるために決裁者が見落としてはならない「重要な留意点」を深く掘り下げます。

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なぜ、基幹システムのインフラにGoogle Cloudが選ばれるのか

基幹システムに求められる要件は、極めて高い「信頼性(Availability)」、「堅牢なセキュリティ(Security)」、そして「安定したパフォーマンス(Performance)」です。

従来、これらを満たすのはオンプレミス環境が最適解とされてきましたが、現在はGoogle Cloudがこれらの要件を高度に満たしつつ、さらにビジネスの俊敏性を高める独自の強みを提供しています。

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1. 圧倒的な信頼性とグローバルスケールのインフラ

Google Cloudのインフラは、Google検索やYouTube、Gmailといった、数十億人が利用する巨大サービスを支える基盤そのものです。

特筆すべきは、基幹システム(特にSAP S/4HANA®などのインメモリーデータベース)に不可欠な、大容量メモリと高性能なコンピューティングリソースの提供能力です。

  • 高性能VM (Compute Engine): ミッションクリティカルなワークロードに最適化されたインスタンスタイプ。

  • Bare Metal Solution: 物理サーバーを専有し、Oracle Databaseなどをリフト&シフトすることが可能。

  • GCVE (Google Cloud VMware Engine): オンプレミスのVMware環境を、IPアドレスや運用ツールを変えずにそのままクラウドへ移行可能。

これにより、既存のアプリケーション資産を活かしつつ、Googleの高速なグローバルネットワークと高い可用性を享受できます。

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2. 「TCO削減」の先にある多角的なROI

クラウド移行によるTCO(総保有コスト)削減効果は確かに重要ですが、それはあくまで「守り」の成果です。Google Cloudへの移行で真に目指すべきは、基幹系データという「宝の山」を解放し、戦略的ROIを最大化することにあります。

Google CloudがもたらすROI(投資対効果)の3層構造

観点 具体的な効果
コスト削減 (守り)

・ハードウェア保守、DC費用、ライセンス費用の適正化
・従量課金制によるリソースの最適化

運用効率化 (守り)

・インフラ調達リードタイムの短縮 (数ヶ月→数分)
・マネージドサービス活用による管理工数の削減

ビジネス価値 (攻め)

データ活用: BigQueryによるリアルタイム分析
俊敏性: 新規事業の即時立ち上げ
変革: 生成AI (Gemini) による業務プロセスの自動化

3. データクラウドとしての優位性:BigQueryとの連携

ここが、Google Cloudが他のクラウドプラットフォームと決定的に異なる点です。

従来の基幹システムでは、分析のためにデータをETLツールで抽出し、DWH(データウェアハウス)へ夜間バッチで連携するのが一般的でした。これでは「昨日のデータ」しか見ることができません。

Google Cloudであれば、基幹システムのデータをデータ分析基盤「BigQuery」へほぼリアルタイムに連携可能です。これにより、「今の在庫状況に基づいたダイナミックプライシング」や「生産ラインのリアルタイム品質監視」など、これまで不可能だったデータドリブンな経営判断が可能になります。

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基幹システム移行を成功に導く「5つのビジネス価値」

Google Cloud上で基幹システムを稼働させることで、企業は具体的にどのようなメリットを享受できるのでしょうか。決裁者が押さえておくべき5つのポイントを解説します。

① 高可用性(HA)と事業継続性(BCP)の抜本的強化

中堅・大企業の基幹システムにおいて、システム停止は許されません。Google Cloudは「ライブマイグレーション」という独自の技術により、ハードウェアやソフトウェアのメンテナンス時でも、仮想マシンを停止することなく稼働させ続けることができます。

また、東京・大阪といった複数のリージョン(地域)を活用した災害対策(DR)構成も、オンプレミス環境に比べて低コストかつ柔軟に構築可能です。これにより、自然災害等の有事における事業継続性(BCP)を飛躍的に向上させます。

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② ゼロトラストに基づく高度なセキュリティとコンプライアンス

「クラウドはセキュリティが不安」という認識は過去のものです。Google Cloudは、Google自身の厳格なセキュリティ基準で運用され、デフォルトでデータが暗号化されます。

さらに、「ゼロトラスト(何も信頼しない)」の概念に基づいた多層防御を提供しており、VPNを使わずに安全に社内システムへアクセスできる仕組み(BeyondCorp)なども構築可能です。

また、ISMAP(政府情報システムのためのセキュリティ評価制度)への登録をはじめ、FISC安全対策基準や3省2ガイドラインなど、日本の厳しい業界規制やコンプライアンス要件にも対応しています。

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③ パフォーマンスの最適化と柔軟なリソース拡張

「月末月初の処理でシステムが重くなる」「M&Aで急にユーザー数が増えた」といった課題に対し、オンプレミスではハードウェアの増強に数ヶ月を要しました。

Google Cloudであれば、必要な時に必要なだけリソースを即座に拡張(スケールアウト/スケールアップ)できます。ビジネスの成長に合わせて常に最適なパフォーマンスを維持しつつ、過剰投資(オーバープロビジョニング)のリスクを回避できる点は、経営上の大きなメリットです。

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④ SAP S/4HANA移行の最適な受け皿

多くの企業が直面する「SAP 2027年問題」。SAP S/4HANAへの移行は、ビジネスプロセス全体を見直す絶好の機会です。

Google Cloudは、SAP社と戦略的パートナーシップを結んでおり、SAPワークロードの稼働に最適なプラットフォームとして認定されています。特に、SAPデータをBigQueryやVertex AIと統合する「Google Cloud Cortex Framework」を活用することで、SAPの中に眠っていたデータの価値を最大化し、サプライチェーンの最適化や需要予測の高度化を実現します。

⑤ 基幹システム × 生成AIによるイノベーションの加速

これが、これからの時代にGoogle Cloudを選ぶ最大の戦略的価値です。

Google Cloudは、「Vertex AI」や「Gemini」といった最先端のAIモデルを提供しています。基幹システムに蓄積された正確な業務データ(1次データ)をこれらのAIと連携させることで、以下のような革新が生まれます。

  • 高度な需要予測: 過去の販売データと気象情報などの外部データを掛け合わせ、AIが高精度に需要を予測。

  • 対話型経営コックピット: 「先月の製品別利益率の変動要因は?」と自然言語で尋ねるだけで、AIがBigQuery内のデータを分析し、レポートと考察を自動生成。

  • 業務プロセスの自動化: 請求書の読み取りから基幹システムへの入力、承認ワークフローまでをAIエージェントが自律的に処理。

移行プロジェクトを阻む「3つの壁」と実践的留意点

Google Cloudへの移行は多大なメリットをもたらしますが、その道のりは平坦ではありません。特に複雑な基幹システムの移行では、技術的な課題以上に、計画や体制面での見落としがプロジェクトの成否を分けます。

ここでは、多くのプロジェクトを支援してきたXIMIXの視点から、陥りがちな「3つの壁」とその対策を解説します。

壁1:計画フェーズの「ROIの罠」とサイジング

【陥りがちな失敗】

ROIを「インフラコストの削減額」だけで算出してしまい、移行コストとのバランスで経営層の承認が得られない、あるいはオンプレミス時代の「最大負荷」に合わせて過剰なサイジングを行い、コスト高になるケースです。

【XIMIXの視点(対策)】

「守りのROI(TCO削減)」だけでなく、「攻めのROI(データ活用による売上向上、工数削減)」を事業部門と連携して数値化することが重要です。また、クラウドの経験豊富なパートナーと共に現行システムの稼働実態をアセスメント(評価)し、ライトサイジング(適正規模化)を行うことで、無駄のないコスト設計が可能になります。

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壁2:移行フェーズの「連携システム」という地雷

【陥りがちな失敗】

基幹システムは単独では存在しません。EDI、ワークフロー、周辺サブシステムなどとの連携インターフェースの改修が想定外に膨らむことや、数テラバイト級のデータ移行に失敗し、業務停止時間が長引くトラブルが散見されます。

【XIMIXの視点(対策)】

アセスメント段階でシステム相関図を徹底的に洗い出し、移行方式(リホスト、リプラットフォームなど)を精査する必要があります。特にデータ移行に関しては、Google Cloudの「Database Migration Service」などの活用や、専用回線(Cloud Interconnect)の敷設、そして専門家による綿密なリハーサルが不可欠です。

壁3:運用フェーズの「スキルギャップ」と「形骸化」

【陥りがちな失敗】

「移行して終わり」ではありません。オンプレミスの運用手法をそのまま持ち込むと、クラウド特有のメリット(自動化、柔軟性)を活かせず、運用負荷が増大します。また、セキュリティ設定の不備により、意図しない外部公開リスクが発生することもあります。

【XIMIXの視点(対策)】

クラウドネイティブな運用体制へのシフトが必要です。Terraform等を用いた「Infrastructure as Code (IaC)」による運用の自動化・標準化や、Google Cloudのセキュリティ機能(VPC Service Controls, Cloud Armorなど)を適切に設定・監視する体制構築が求められます。

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XIMIXが提供する支援

基幹システムのGoogle Cloud移行は、単なるサーバーの引越しではなく、企業のDX戦略そのものです。成功には、Google Cloudの深い技術力と、中堅・大企業の複雑な業務プロセスを理解したパートナーの伴走が不可欠です。

『XIMIX』は、Google Cloudのプレミアパートナーとして、数多くのシステム移行・構築実績を有しています。

  • ロードマップ策定支援: お客様の経営課題をヒアリングし、「どのシステムから、どのように移行すべきか」という最適なロードマップを共に策定します。

  • 確実な移行 (Migration): 高度な専門性を持つエンジニアが、GCVEやBare Metal Solutionなどを活用し、リスクを最小化した移行プロジェクトを推進します。

  • データ活用・AI導入支援: 移行後のBigQueryによるデータ分析基盤の構築や、Vertex AIを活用した業務変革までをワンストップで支援し、お客様のDX実現を最後まで伴走します。

クラウド化に関するお悩みや、具体的な移行計画のセカンドオピニオンなど、まずはXIMIXまでお気軽にお問い合わせください。

XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
XIMIXのGoogle Cloud 導入支援についてはこちらをご覧ください。

まとめ

本記事では、中堅・大企業の決裁者層に向けて、基幹システムをGoogle Cloudへ移行する「理由」と、失敗しないための留意点を解説しました。

この記事のポイント

  • Google Cloudへの移行は、TCO削減だけでなく、データ活用とAI連携によるビジネス変革(攻め)のための戦略的投資である。

  • BigQueryとのシームレスな連携や、GCVEによるスムーズな移行性が、Google Cloudを選ぶ大きな理由となる。

  • 成功には、計画時の「戦略的ROI」、移行時の「システム連携の精査」、運用時の「クラウドネイティブ化」という3つの壁を越える必要がある。

基幹システムの刷新は、企業の未来を左右する重要な経営判断です。この記事が、貴社のDX推進の確かな一歩となれば幸いです。


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