はじめに
企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を支えるITインフラの選定は、事業成長を左右する重要な経営判断です。数ある選択肢の中で、今改めて「ベアメタルサーバー」が注目を集めています。
「仮想サーバーと何が違うの?」「どんな時に選ぶべき?」 こうした疑問をお持ちのDX推進担当者様に向けて、本記事ではベアメタルサーバーの基礎から、ビジネス要件に合わせた選び方までを網羅的に解説します。
この記事でわかること
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ベアメタルサーバーの正確な定義と、物理サーバーや仮想サーバーとの違い
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ビジネスにおける具体的なメリットと、事前に把握すべき留意点
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性能・コスト・セキュリティ要件に応じた最適なユースケース
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自社に最適なベアメタルサーバーを選定するための比較ポイント
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Google Cloudをはじめとする主要クラウドサービスのベアメタルソリューション
ベアメタルサーバーとは?
ベアメタルサーバー(Bare Metal Server)とは、ハイパーバイザーなどの仮想化レイヤーを介さず、OSが物理ハードウェア上に直接インストールされているサーバーを指します。「ベアメタル(むき出しの金属)」という名の通り、物理的なコンピューターリソース(CPU、メモリ、ストレージなど)を単一の利用者(テナント)が完全に専有できる点が最大の特徴です。
特にクラウドサービスの文脈で、物理サーバーをオンデマンドで利用できるサービス形態を指して「ベアメタルサーバー」または「ベアメタルクラウド」と呼ぶのが一般的です。
なぜ、ベアメタルサーバーが再注目されるのか?
仮想サーバーが主流の現代において、ベアメタルサーバーが再注目される背景には、主に2つの理由があります。
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特定ワークロードにおけるパフォーマンスの要求: AI/機械学習、大規模データ分析、HPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)など、仮想化による性能オーバーヘッドが許容されない、極めて高い処理能力を要するシステムの需要が増加しています。
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クラウドの利便性との融合: 従来、物理サーバーは調達や設定に時間がかかるのが難点でした。しかし現在では、クラウドサービスのように迅速にデプロイでき、運用管理の負荷も軽減された「ベアメタルクラウド」が登場し、物理サーバーの性能とクラウドの俊敏性を両立できるようになったことが大きな要因です。
「物理サーバー」「仮想サーバー」との違いを整理
ベアメタルサーバーを正しく理解するために、混同されがちな「物理サーバー」「仮想サーバー」との違いを明確にしておきましょう。
特徴 | ベアメタルサーバー (クラウド) | 仮想サーバー (VM) | 物理サーバー (オンプレミス) |
リソース | 物理リソースを完全に専有 | 物理リソースを他VMと共有 | 物理リソースを完全に専有 |
パフォーマンス |
非常に高い・安定 |
ハイパーバイザーによる僅かなオーバーヘッド | 非常に高い・安定 |
分離性 | 物理的に分離 (高セキュリティ) |
論理的に分離(他テナントの影響を受ける可能性あり) | 物理的に分離 |
導入時間 | 迅速(数時間〜数日) |
非常に迅速 |
長い(数週間〜数ヶ月) |
管理負荷 | ハードウェア管理は事業者が担当 | インフラ管理は事業者が担当 | ハードウェアの運用管理も自社で対応 |
拡張性 | サービス範囲内で柔軟に対応可能 | 非常に高い柔軟性 | 物理的な作業が必要で手間がかかる |
コスト | 比較的高価だが、運用コストは抑制 | スモールスタートしやすく、変動費化しやすい | 高額な初期投資と維持管理コスト |
ベアメタルサーバー vs 仮想サーバー
最大の違いは「リソースの専有」にあります。ベアメタルサーバーはハードウェアを丸ごと専有するため、性能が安定し、他の利用者の影響を受けません。一方、仮想サーバーは1台の物理サーバーを複数のユーザーで共有するため、コスト効率に優れますが、「うるさい隣人(Noisy Neighbor)」問題など、他者の影響を受ける可能性がゼロではありません。
関連記事: 【入門編】仮想マシンとは?サーバーとの違いから仕組み、メリットまでわかりやすく解説
ベアメタルサーバー vs 物理サーバー
両者は物理リソースを専有する点で同じですが、利用形態と管理の所在が異なります。一般的に「物理サーバー」は自社データセンターなどに資産として保有(オンプレミス)する形態を指し、ハードウェアの調達から運用管理まで全て自社で行います。対して「ベアメタルサーバー」は、クラウド事業者などが提供するサービスとして利用する形態を指し、物理的な管理は事業者に委任できます。
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ベアメタルサーバーを導入する4つのメリット
ベアメタルサーバーを選択することで、企業はどのような恩恵を受けられるのでしょうか。
① 最高のパフォーマンスと安定性
ハイパーバイザーを介さないため、アプリケーションはハードウェアリソースを直接、最大限に活用できます。これにより、仮想化に伴う性能劣化(オーバーヘッド)がなく、処理遅延が許されないミッションクリティカルなシステムや、膨大な計算処理を行うHPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)に最高のパフォーマンスを提供します。
関連記事: なぜHPCにGoogle Cloud?メリット・コスト・活用例をわかりやすく解説
② 厳格なセキュリティとコンプライアンス要件への対応
物理的に他のテナントから隔離されているため、非常に高いセキュリティレベルを確保できます。これは、個人情報や決済情報といった機密性の高いデータを扱う金融・医療・EC業界や、特定のセキュリティ基準(PCI DSSなど)への準拠が必須のシステムにとって、何よりのメリットです。データの物理的な保管場所が明確になるため、データ主権(データガバナンス)の要件も満たしやすくなります。
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③ ハードウェアの柔軟なカスタマイズと直接制御
OSの選定やカーネルの調整、GPUやFPGAといった特殊なハードウェアの搭載など、物理層に近いレベルでの高度なカスタマイズが可能です。これにより、独自の要件を持つアプリケーションや、特定のドライバーが必要なシステムにも柔軟に対応できます。
④ 特定ライセンス体系におけるコスト最適化
ソフトウェアの中には、CPUの物理コア数に基づいて課金されるライセンスが存在します。仮想環境では、意図せず物理ホスト全体のコア数が課金対象となり、ライセンス費用が高騰するケースがあります。ベアメタルサーバーであれば、利用する物理コア数を明確に分離・確定できるため、ライセンスコストを最適化できる可能性があります。
ベアメタルサーバーの留意点(デメリット)
多くのメリットがある一方で、導入前に把握しておくべき点も存在します。
① 相対的に高めな利用コスト
物理サーバーを専有するため、リソースを共有する仮想サーバーと比較して、時間単価や月額費用は高くなる傾向があります。リソース使用量の変動が激しいワークロードや、小規模な開発環境には、コスト効率の面で仮想サーバーが適している場合が多いでしょう。
② スケーラビリティの制約
CPUやメモリの増強(スケールアップ)は、仮想サーバーのように数クリックで完了するわけではなく、サービスによっては再起動や短いダウンタイムを伴う場合があります。また、急激なトラフィック増に対応するための迅速なスケールアウト(サーバー台数を増やす)も、仮想サーバーほどの俊敏性はありません。そのため、導入前に綿密なサイジング(リソース見積もり)が重要になります。
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ベアメタルサーバーの選び方と比較ポイント
自社の要件に最適なベアメタルサーバーを導入するためには、以下の3つのポイントで比較検討することが重要です。
ポイント1:提供形態(オンプレミス or クラウド)
まず、自社で物理サーバーを資産として保有する「オンプレミス型」か、サービスとして利用する「クラウド型(ベアメタルクラウド)」かを判断します。
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クラウド型が推奨されるケース: 導入スピードを重視し、ハードウェアの運用管理負荷を削減したい場合。初期投資を抑え、最新のハードウェアを継続的に利用したい場合。
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オンプレミス型を検討するケース: 非常に特殊なハードウェア構成が必要で、クラウドサービスでは提供されていない場合。既存のデータセンター設備を有効活用したい場合。
ポイント2:ワークロードとの適合性
ベアメタルサーバーは万能ではありません。その特性が最も活かされるユースケースを見極めることが成功の鍵です。
用途・ユースケース | なぜベアメタルが適しているか |
大規模データベース・ERP (SAP, Oracle) | 高いI/O性能と安定性が求められ、物理コアベースのライセンス体系を持つため。 |
HPC・AI/機械学習 | 膨大な並列計算処理に、GPUなどの専用ハードウェア性能を最大限引き出す必要があるため。 |
ゲーム・動画ストリーミング | 低遅延(低レイテンシ)と安定したレスポンスがユーザー体験に直結するため。 |
セキュリティ・コンプライアンス要件 | 金融取引や個人情報など、物理的な分離による高度なセキュリティ統制が必須なため。 |
プライベートクラウド基盤 | 自社専用の仮想化環境を構築する際、ホストマシンとして高い集約率と性能を実現するため。 |
ポイント3:サービス事業者の比較
ベアメタルクラウドを利用する場合、どの事業者のサービスを選ぶかが重要になります。以下の観点で比較しましょう。
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ハードウェア構成の選択肢: 提供されるCPU、メモリ、ストレージ、GPUの種類やスペックが要件に合うか。
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ネットワーク性能: 他のクラウドサービスやオンプレミス環境との接続性、帯域、遅延。
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料金体系: 時間課金、月額課金、リザーブドインスタンスなど、利用期間や形態に応じたコスト効率。
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サポート体制: 導入支援、技術サポート、障害対応などの品質。
主要クラウドにおけるベアメタルソリューション
主要なパブリッククラウドも、特定のワークロード向けにベアメタルソリューションを提供しています。
Google Cloud: Bare Metal Solution
Google Cloudが提供する「Bare Metal Solution」は、特に Oracle Database などのエンタープライズワークロードをクラウドへ移行するために最適化されています。オンプレミスの既存システムを最小限の変更で移行しつつ、ベアメタルサーバーの性能とライセンスメリットを享受できるのが特徴です。
さらに、Bare Metal Solution上のシステムは、BigQuery(データウェアハウス)やVertex AI(AIプラットフォーム)といったGoogle Cloudの先進的なサービス群と低遅延で直接接続できます。これにより、既存の基幹システム資産を活かしながら、本格的なデータ活用やDXを推進することが可能になります。
その他の主要クラウドサービス
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AWS (Amazon Web Services): 「EC2ベアメタルインスタンス」として、様々な種類のインスタンスを提供しており、汎用的なワークロードに幅広く対応しています。
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Microsoft Azure: 現時点では汎用的なベアメタルサービスの提供は限定的で、SAP HANAやVMwareなど特定のソリューションに特化した大規模インスタンスが中心です。
このように、事業者ごとにサービスの特色や得意領域が異なるため、自社の目的と照らし合わせて選定することが肝要です。
XIMIXによる最適なインフラ導入支援
「自社のどのシステムにベアメタルが最適なのか判断できない」 「Oracleなどの既存システムを、ライセンスや性能の不安なくクラウドへ移行したい」 「Bare Metal Solutionに興味はあるが、導入・運用のノウハウがない」
こうした課題をお持ちの中堅〜大企業のDX推進担当者様は少なくありません。
私たちXIMIXは、Google CloudおよびGoogle Workspaceの導入・活用を専門とするサービスプロバイダーとして、お客様のDXを強力にサポートしています。NI+Cが長年培ってきた豊富なインフラ構築・運用の実績に基づき、お客様のビジネス課題やシステム要件を深く理解した上で、最適なインフラ環境の実現をご支援します。
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ITインフラコンサルティング: 現状アセスメントから、ベアメタル、仮想サーバー、各種クラウドサービスを組み合わせたハイブリッド構成のご提案まで、中立的な視点で最適な解を導き出します。
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Google Cloud導入支援: 豊富な実績に基づき、計画策定、設計・構築、データ移行から運用設計までワンストップでサポートします。
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運用・保守サポート: 導入後の安定稼働はもちろん、将来のビジネス変化を見据えた継続的な改善まで、お客様に伴走します。
XIMIXは技術を提供するだけでなく、お客様のビジネス成長に貢献することを第一に考えています。ITインフラに関するお悩みは、ぜひお気軽にXIMIXまでご相談ください。
XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
XIMIXのGoogle Cloud 導入支援についてはこちらをご覧ください。
よくある質問(Q&A)
Q1 ベアメタルサーバーはどのような企業に向いていますか?
特に、高い処理性能がビジネスに直結するオンラインサービス事業者、厳格なセキュリティ・コンプライアンスが求められる金融・医療機関、Oracle Databaseなどの特定のソフトウェアライセンスを最適化したい大企業などに向いています。
Q2 仮想サーバーからベアメタルサーバーへの移行は可能ですか?
はい、可能です。ただし、OSやアプリケーションの互換性、データ移行の方法、ネットワーク設定の切り替えなど、専門的な知見を要する計画が必要です。移行を検討される際は、経験豊富なパートナーにご相談いただくことをお勧めします。
Q3 ベアメタルサーバーのコストはどのくらいですか?
コストは、サーバーのスペック(CPU、メモリ、ストレージ)、契約期間、利用するデータセンターの場所などによって大きく変動します。一概には言えませんが、同等スペックの仮想サーバーに比べて専有する分、高価になる傾向があります。しかし、ライセンスコストの削減やパフォーマンス向上によるビジネス機会の創出など、TCO(総所有コスト)の観点で評価することが重要です。
まとめ
本記事では、DX推進を担当される皆様に向けて、ベアメタルサーバーの基礎から、仮想サーバーとの違い、メリット・留意点、そして実践的な選び方までを解説しました。
ベアメタルサーバーは、最高のパフォーマンス、強固なセキュリティ、柔軟なカスタマイズ性を武器に、特定のワークロードにおいて依然として最も有効な選択肢です。クラウド時代においては、仮想サーバーや各種クラウドサービスと適材適所で組み合わせることで、ITインフラ全体の価値を最大化できます。
重要なのは、自社のビジネス戦略やアプリケーションの特性を深く理解し、最適なインフラポートフォリオを構築することです。この記事が、皆様のインフラ選定における一助となり、DX推進をさらに加速させるきっかけとなれば幸いです。
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