はじめに
企業のDX推進が加速する中、ITインフラの選択は経営の根幹を揺るがす重要な意思決定となっています。特に、従来の自社運用(オンプレミス)からクラウドへの移行を検討する際、多くの担当者が直面するのが「セキュリティ」に関する懸念ではないでしょうか。
「クラウドは本当に安全なのか?」 「オンプレミスと比較して、どのようなメリット・デメリットがあるのか?」 「自社の重要なデータを預ける上で、どのような点に注意すべきか?」
このような疑問や不安から、クラウド化への一歩を踏み出せずにいる企業も少なくありません。
本記事では、企業のDX推進やインフラ選定に携わる決裁者層の方々に向けて、セキュリティの観点からクラウドとオンプレミスを中立的に比較・解説します。両者の違いを正しく理解し、自社にとって最適なITインフラを選択するための一助となれば幸いです。
そもそもクラウドとオンプレミスとは?
比較に入る前に、まずは「クラウド」と「オンプレミス」の基本的な定義をおさらいしておきましょう。
オンプレミス
オンプレミスとは、サーバーやネットワーク機器といったITインフラを、自社が管理する施設(データセンターやサーバールーム)内に設置し、運用する形態を指します。物理的な機器の購入から、ソフトウェアのインストール、日々の運用・保守まで、すべてを自社で管理するのが特徴です。
クラウド
クラウド(クラウドコンピューティング)とは、インターネットを経由して、サーバー、ストレージ、データベース、ソフトウェアといったITリソースを利用する形態です。物理的な機器を自社で保有する必要がなく、サービス提供事業者が管理する広大なインフラを、必要に応じて利用できます。代表的なサービスに、Google Cloud やAmazon Web Services (AWS)、Microsoft Azureなどがあります。
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【比較】クラウド vs オンプレミス 7つのセキュリティ観点
それでは、本題であるセキュリティ観点での比較に入ります。ここでは、7つの重要な切り口から、それぞれのメリット・デメリットを掘り下げていきます。
比較観点 | クラウド (IaaS/PaaSの場合) | オンプレミス |
---|---|---|
責任範囲 | 責任共有モデルに基づき、事業者と利用企業で分担 | すべて利用企業が責任を負う |
物理セキュリティ | 事業者が最高レベルの対策を実施 | 自社で対策を講じる必要があり、レベルは投資に依存 |
ネットワークセキュリティ | 高度な機能(DDoS対策等)を標準/オプション提供 | 自社で専用機器の導入・設定・運用が必要 |
データ保護と暗号化 | 保存・転送時の暗号化を標準提供。高度な鍵管理も可能 | 自社で暗号化の仕組みを構築・管理する必要がある |
脅威の検知と対応 | AIを活用した高度な脅威インテリジェンスを提供 | 自社で情報を収集し、専門人材による分析・対応が必要 |
コンプライアンス | 各国の規制や認証(ISO等)に準拠。監査レポートも提供 | 自社で準拠性を維持し、監査に対応する必要がある |
可用性と災害対策 | 地理的に離れた複数拠点での冗長化が容易 | 自社でDRサイトの構築・運用が必要となり、高コスト |
責任の所在:「責任共有モデル」の理解が鍵
クラウドセキュリティを理解する上で最も重要なのが「責任共有モデル」という考え方です。これは、セキュリティに対する責任を、クラウドサービスを提供する事業者と、それを利用する企業とで分担するというものです。
例えばGoogle Cloudのようなクラウド事業者は、データセンターの物理的なセキュリティや、サーバー、ストレージ、ネットワークといった基盤部分の安全性を保証します。一方で、利用企業は、その基盤の上で自社が構築するOS、アプリケーション、データアクセス管理などのセキュリティに責任を持ちます。
- クラウドのメリット: 自社が担うべきセキュリティ対策の範囲が限定され、本来注力すべきアプリケーションやデータの保護にリソースを集中できます。
- オンプレミスの特徴: 物理層からアプリケーション層まで、すべてのセキュリティ責任を自社で負います。コントロールの自由度は高い反面、莫大なコストと専門知識が求められます。
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物理・ネットワークセキュリティ:専門家による最高レベルの防御
オンプレミス環境では、サーバー室への入退室管理や監視カメラの設置、災害対策などをすべて自社で行う必要があります。大企業であっても、Googleのような巨大クラウド事業者が世界中で展開するデータセンターと同レベルの物理セキュリティを維持するのは、現実的ではありません。
また、DDoS攻撃のような大規模なサイバー攻撃に対する防御も、クラウド事業者が提供する高度なサービスを利用する方が、はるかに効率的かつ効果的です。
- クラウドのメリット: 物理的なインフラや大規模なネットワーク攻撃からの防御を、セキュリティの専門家に任せることができます。
- オンプレミスの課題: 自社で対策を講じる必要があり、対策レベルが投資コストや人材に大きく左右されます。
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データ保護とコンプライアンス:グローバル基準の安全性を確保
多くのクラウドサービスでは、保存データや通信経路の暗号化が標準で提供されています。特にGoogle Cloudは、保存データを標準で暗号化する先進的なアプローチで知られています。また、ISO 27001やSOC報告書など、国際的な第三者認証を取得しているため、国内外の厳しいコンプライアンス要件にも対応しやすくなります。
- クラウドのメリット: 高度な暗号化技術やグローバルな認証プログラムを容易に利用でき、データの安全性とコンプライアンス遵守を効率的に実現できます。
- オンプレミスの課題: 暗号化の導入や鍵の管理、認証取得などをすべて自社で行う必要があり、複雑な運用と高いコストが発生します。
セキュリティの新しい常識「ゼロトラスト」とクラウドの親和性
近年、セキュリティの考え方として「ゼロトラスト」が主流になりつつあります。これは、「社内ネットワークは安全」という従来の境界型防御の前提を捨て、「すべてのアクセスを信頼しない(ゼロトラスト)」という前提に立ち、通信をすべて検証・認証するアプローチです。
このゼロトラストモデルは、実はクラウド環境と非常に親和性が高いと言えます。
- IDベースのアクセス制御: クラウドサービスは、ユーザーIDやデバイスIDに基づいて厳格なアクセス制御を行うことが得意です。
- 詳細なログと可視性: クラウド上でのあらゆる操作はログとして記録されるため、不審なアクティビティの監視や分析が容易です。
- 動的なポリシー適用: ユーザーの状況(場所、デバイス、時間など)に応じてアクセス権限を動的に変更するといった、柔軟なセキュリティポリシーを適用できます。
オンプレミスでゼロトラストを実現しようとすると、複数のセキュリティ製品を複雑に組み合わせる必要がありますが、Google Cloudのような先進的なクラウドプラットフォームでは、ゼロトラストを実現するための機能が体系的に提供されています。
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結論:自社にとって最適な選択とは?
ここまで見てきたように、クラウドとオンプレミスのセキュリティは、どちらが一方的に優れているというものではありません。自社のビジネス要件や規制、IT人材の状況などを総合的に勘案して判断することが重要です。
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クラウドが適しているケース:
- 最新のセキュリティ対策を迅速に取り入れたい企業
- 専門的なセキュリティ人材の確保が難しい企業
- グローバルに事業を展開し、各国のコンプライアンスに対応する必要がある企業
- 初期投資を抑え、スピーディに事業を立ち上げたい企業
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オンプレミスが依然として有効なケース:
- 業界の規制やポリシーにより、データを特定の場所に保管することが厳しく義務付けられている場合
- 既存システムとの連携が極めて複雑で、クラウド移行が技術的に困難な場合
- 超低遅延が求められる特定のワークロードを自社内で処理したい場合
多くの場合、すべてをクラウド化するのではなく、オンプレミスの良さを活かしながらクラウドのメリットを取り入れる「ハイブリッドクラウド」が現実的な解となることも少なくありません。
XIMIXが提供するセキュリティ構築支援
クラウドとオンプレミスの比較、そしてゼロトラストという新たな概念を踏まえ、自社に最適なセキュリティ環境を判断・構築することは、決して容易ではありません。特に、既存システムからの移行計画や、クラウド特有のセキュリティ設定には、高度な知見と経験が求められます。
私たちXIMIXは、多くの企業様をご支援してきた経験から、お客様のビジネス要件やセキュリティポリシーを深く理解し、最適なITインフラ環境のグランドデザイン策定から、セキュリティを担保した上での設計・構築、そして導入後の運用サポートまで、一気通貫でご支援します。
クラウド移行におけるセキュリティアセスメントや、Google Cloudの高度なセキュリティ機能を活用したゼロトラスト環境の実現など、専門的な知見を要する課題も、ぜひ私たちにご相談ください。
XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
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まとめ
本記事では、セキュリティの観点からクラウドとオンプレミスを比較解説しました。重要なのは、両者のメリット・デメリットを正しく理解し、自社の状況に合った選択を行うことです。
- クラウドセキュリティの鍵: 事業者と利用者の「責任共有モデル」を理解すること。
- クラウドの強み: 専門家による最高レベルの物理・ネットワークセキュリティや、最新の脅威インテリジェンスを活用できる点。
- 新しい常識: 「ゼロトラスト」モデルはクラウドと親和性が高く、より堅牢なセキュリティを実現する。
- 最適な選択: 自社のビジネス要件、規制、リソースを考慮し、時にはハイブリッドクラウドも視野に入れる。
ITインフラの選択は、もはや単なるコストや効率の問題ではなく、企業の事業継続性や競争力を左右する経営課題です。本記事が、貴社のDX推進における、より安全で最適なインフラ選択の一助となれば幸いです。
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