【入門編】クラウドとオンプレミスのセキュリティを比較!自社に最適な環境選びのポイントとは

 2025,06,06 2025.11.10

はじめに

企業のDX推進が加速する中、ITインフラの選択は経営の根幹を揺るがす重要な意思決定となっています。特に、従来の自社運用(オンプレミス)からクラウドへの移行を検討する際、多くの担当者が直面するのが「セキュリティ」に関する深刻な懸念ではないでしょうか。

「クラウドは本当に安全なのか?」

「オンプレミスと比較して、どのようなメリット・デメリットがあるのか?」

「自社の重要なデータを預ける上で、どのような点に注意すべきか?」

このような疑問や不安から、クラウド化への一歩を踏み出せずにいる企業も少なくありません。

本記事では、企業のDX推進やインフラ選定に携わる決裁者層の方々に向けて、セキュリティの観点からクラウドとオンプレミスを中立的かつ深く比較・解説します。両者の違いを正しく理解し、今後のビジネス環境を見据えた、貴社にとって最適なITインフラを選択するための一助となれば幸いです。

そもそもクラウドとオンプレミスとは?

比較に入る前に、まずは「クラウド」と「オンプレミス」の基本的な定義をおさらいしておきましょう。

オンプレミス

オンプレミスとは、サーバーやネットワーク機器といったITインフラを、自社が管理する施設(データセンターやサーバールーム)内に設置し、運用する形態を指します。

物理的な機器の購入から、ソフトウェアのインストール、日々の運用・保守まで、すべてを自社で管理するのが特徴です。「自社保有」とも呼ばれます。

クラウド

クラウド(クラウドコンピューティング)とは、インターネットを経由して、サーバー、ストレージ、データベース、ソフトウェアといったITリソースを利用する形態です。

物理的な機器を自社で保有する必要がなく、サービス提供事業者が管理する広大なインフラを、必要に応じて利用できます。代表的なサービスに、Google Cloud やAmazon Web Services (AWS)、Microsoft Azureなどがあります。

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クラウド vs オンプレミス 7つのセキュリティ観点別 徹底比較

それでは、本題であるセキュリティ観点での比較に入ります。ここでは、7つの重要な切り口から、それぞれのメリット・デメリットを掘り下げていきます。

比較観点 クラウド (IaaS/PaaSの場合) オンプレミス
責任範囲 責任共有モデルに基づき、事業者と利用企業で分担 すべて利用企業が責任を負う
物理セキュリティ 事業者が最高レベルの対策を実施 自社で対策を講じる必要があり、レベルは投資に依存
ネットワークセキュリティ 高度な機能(DDoS対策等)を標準/オプション提供 自社で専用機器の導入・設定・運用が必要
データ保護と暗号化 保存・転送時の暗号化を標準提供。高度な鍵管理も可能 自社で暗号化の仕組みを構築・管理する必要がある
脅威の検知と対応 AIを活用した高度な脅威インテリジェンスを提供 自社で情報を収集し、専門人材による分析・対応が必要
コンプライアンス 各国の規制や認証(ISO等)に準拠。監査レポートも提供 自社で準拠性を維持し、監査に対応する必要がある
可用性と災害対策 地理的に離れた複数拠点での冗長化が容易 自社でDRサイトの構築・運用が必要となり、高コスト

①【重要】セキュリティ責任の所在:「責任共有モデル」の理解

クラウドセキュリティを理解する上で最も重要なのが「責任共有モデル」という考え方です。これは、セキュリティに対する責任を、クラウドサービスを提供する事業者と、それを利用する企業とで分担するというものです。

  • クラウド事業者の責任: Google Cloudのような事業者は、データセンターの物理的なセキュリティや、サーバー、ストレージ、ネットワークといった基盤部分(インフラストラクチャ)の安全性を保証します。

  • 利用企業の責任: 一方で、利用企業は、その基盤の上で自社が構築するOS、アプリケーション、データアクセス管理、ID管理などのセキュリティに責任を持ちます。

クラウドのメリット: 自社が担うべきセキュリティ対策の範囲が限定され、本来注力すべき「データそのもの」や「アプリケーション」の保護にリソースを集中できます。

オンプレミスの特徴: 物理層からアプリケーション層まで、すべてのセキュリティ責任を自社で負います。コントロールの自由度は高い反面、莫大なコストと高度な専門知識、24時間365日の監視体制が求められます。

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②物理・ネットワークセキュリティ:専門家による最高レベルの防御

オンプレミス環境では、サーバー室への入退室管理や監視カメラの設置、施錠管理、災害対策(耐震、防火、防水)などをすべて自社で行う必要があります。大企業であっても、Googleのような巨大クラウド事業者が世界中で展開する、生体認証や多重のセキュリティゲートを備えたデータセンターと同レベルの物理セキュリティを維持するのは、現実的ではありません。

また、DDoS攻撃のような大規模なサイバー攻撃に対する防御も同様です。クラウド事業者が提供するグローバルなネットワークインフラと高度な防御サービスを利用する方が、はるかに効率的かつ効果的です。

クラウドのメリット: 物理的なインフラや大規模なネットワーク攻撃からの防御を、世界トップレベルのセキュリティ専門家集団に任せることができます。

オンプレミスの課題: 自社で対策を講じる必要があり、対策レベルが投資コストや人材リソースに大きく左右されます。

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③データ保護と暗号化:コンプライアンスの基盤

多くのクラウドサービスでは、保存データ(at-rest)や通信経路(in-transit)の暗号化が標準で提供されています。特にGoogle Cloudは、保存データを標準で暗号化する先進的なアプローチで知られています。

オンプレミスでも暗号化は可能ですが、その導入や複雑な鍵の管理・ローテーションをすべて自社で行う必要があり、運用負荷と人的ミスのリスクが伴います。

クラウドのメリット: 高度な暗号化技術や鍵管理サービス(KMS)を容易に利用でき、データの安全性を効率的に確保できます。

オンプレミスの課題: 暗号化の導入や鍵の管理、認証取得などをすべて自社で行う必要があり、複雑な運用と高いコストが発生します。

④脅威の検知とインテリジェンス:AIがもたらす防御の進化

オンプレミス環境では、脅威の検知(SIEM/SOARの構築・運用)は自社の人材に依存します。新たな脅威(ゼロデイ攻撃など)に対応するには、常に最新の情報を収集し、膨大なログを分析できる高度なセキュリティ専門家が必要です。

一方、Google Cloudのようなクラウド事業者は、グローバルなサービス提供を通じて収集される膨大な脅威インテリジェンスを保有しています。これらをAIで分析し、不審なアクティビティや新たなマルウェアのパターンを即座に検知・ブロックする仕組みが提供されています。

クラウドのメリット: 自社で高度なセキュリティ人材を確保せずとも、AIを活用した最新の脅威インテリジェンスによる防御を享受できます。

オンプレミスの課題: 脅威検知のレベルが、自社のセキュリティ部門のスキルとリソースに直結します。24時間体制での監視は困難な場合が多いです。

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⑤コンプライアンスとガバナンス:グローバル基準への対応

ビジネスがグローバル化する中、ISO 27001(ISMS)やSOC報告書、さらにはGDPR(欧州)、HIPAA(医療)、FISC(金融)など、国内外の厳しい規制や認証への対応が求められます。

オンプレミスでこれらすべての認証を自社で取得・維持するには、膨大な監査対応とコストが発生します。クラウド事業者は、これらの主要な認証をあらかじめ取得しており、利用企業は事業者が提供する監査レポートを活用することで、自社のコンプライアンス対応の負荷を大幅に軽減できます。

クラウドのメリット: 事業者が取得したグローバルな認証プログラムを容易に利用でき、コンプライアンス遵守を効率的に実現できます。

オンプレミスの課題: 認証の取得・維持に関するすべてのプロセスとコストを自社で負担する必要があります。

⑥可用性と災害対策(DR):事業継続性(BCP)の確保

オンプレミスで大規模災害に備えた災害対策(DR)を実現するには、物理的に離れた場所にもう一つのデータセンター(DRサイト)を構築し、データを同期・運用する必要があります。これは極めて高コストです。

クラウドでは、地理的に離れた複数拠点(リージョン、ゾーン)での冗長化が容易に設計・実装できます。これにより、一つの拠点が停止してもサービスを継続できる高い可用性を、オンプレミスよりもはるかに低コストで実現できます。

クラウドのメリット: 複数の拠点を利用した高度なDR構成を、比較的低コストかつ迅速に構築できます。

オンプレミスの課題: DRサイトの構築・運用には莫大な初期投資と維持コストがかかります。

セキュリティの新しい常識「ゼロトラスト」とクラウドの親和性

近年、セキュリティの考え方として「ゼロトラスト」が主流になりつつあります。これは、「社内ネットワークは安全」という従来の境界型防御の前提を捨て、「すべてのアクセスを信頼しない(ゼロトラスト)」という前提に立ち、通信をすべて検証・認証するアプローチです。

境界型防御の限界とゼロトラストの必要性

従来のオンプレミス中心のセキュリティは、ファイアウォールで「内側(社内)」と「外側(インターネット)」を分け、「内側」を信頼する「境界型防御」が基本でした。

しかし、リモートワークの普及、SaaS利用の拡大、内部不正のリスク増大により、この境界は曖昧になり、一度侵入を許すと内部で被害が拡大する(ラテラルムーブメント)脆弱性が露呈しました。

クラウドがゼロトラスト実現を加速する理由

このゼロトラストモデルは、実はクラウド環境と非常に親和性が高いと言えます。

  • IDベースのアクセス制御: クラウドサービスは、ユーザーIDやデバイスIDに基づいて厳格なアクセス制御を行うことが得意です。

  • 詳細なログと可視性: クラウド上でのあらゆる操作はログとして記録されるため、不審なアクティビティの監視や分析が容易です。

  • 動的なポリシー適用: ユーザーの状況(場所、デバイス、時間など)に応じてアクセス権限を動的に変更するといった、柔軟なセキュリティポリシーを適用できます。

オンプレミスでゼロトラストを実現しようとすると、複数のセキュリティ製品を複雑に組み合わせる必要がありますが、Google Cloudのような先進的なクラウドプラットフォームでは、ゼロトラストを実現するための機能(例: Identity-Aware Proxy (IAP))が体系的に提供されています。

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それでも残る懸念:オンプレミスが選ばれる理由とクラウドのリスク

ここまでクラウドの優位性を多く述べましたが、オンプレミスが依然として有効なケースや、クラウドならではのリスクも存在します。決裁者としては、両面を把握することが重要です。

オンプレミスが依然として有効なケース

  • 厳格なデータ保管場所の指定: 業界の規制やポリシーにより、「データを物理的に国内の特定の場所に保管すること」が厳しく義務付けられている場合。

  • 既存システムとの複雑な連携: クラウド移行が技術的に困難な、極めて複雑なレガシーシステムと密結合している場合。

  • 超低遅延が求められる処理: 工場の制御システムなど、ネットワーク遅延が許されない特定のワークロードを自社内で処理したい場合。

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クラウド利用時に注意すべきセキュリティリスク

クラウドが安全なインフラを提供していても、利用企業の「使い方」に起因するリスクは存在します。

  • 設定ミス(Misconfiguration): 最も一般的なリスクです。ストレージのアクセス権限を誤って「公開」にしてしまうなど、単純な設定ミスが重大な情報漏洩に繋がります。

  • IDとアクセス管理(IAM)の不備: 管理者権限を必要以上に多くのユーザーに付与してしまうと、内部不正やアカウント乗っ取り時の被害が甚大になります。

これらのリスクは、クラウド事業者の責任ではなく、利用企業の責任(責任共有モデルにおける)です。クラウドのメリットを享受するには、こうしたクラウド特有の設定を正しく管理する知識と体制が必要となります。

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結論:自社に最適なITインフラとセキュリティ戦略とは

クラウドとオンプレミスのセキュリティは、どちらが一方的に優れているというものではありません。自社のビジネス要件や規制、IT人材の状況などを総合的に勘案して判断することが重要です。

「ハイブリッドクラウド」という現実的な選択肢

多くの企業、特に既存システムを抱える中堅〜大企業にとって、すべてをクラウド化する「フルクラウド」は現実的ではありません。

そこで、オンプレミスの良さ(既存資産の活用、厳格なデータ管理)を活かしながら、クラウドのメリット(スケーラビリティ、最新のセキュリティ)を取り入れる「ハイブリッドクラウド」が、最も現実的かつ効果的な解となるケースが非常に多いです。機密性の高いデータはオンプレミスに置きつつ、外部公開システムやデータ分析基盤はクラウドに置く、といった柔軟な構成が可能です。

XIMIXが提供するセキュリティ支援

クラウドとオンプレミスの比較、そしてゼロトラストという新たな概念を踏まえ、自社に最適なセキュリティ環境を判断・構築することは、決して容易ではありません。

特に、クラウドの設定ミスを防ぐガバナンス体制の構築や、既存システムからの移行計画、クラウド特有のセキュリティ設定には、高度な知見と経験が求められます。

私たちXIMIXは、Google Cloud / Google Workspace の導入支援において、多くの中堅・大企業様の移行をご支援してきました。その経験から、お客様のビジネス要件やセキュリティポリシーを深く理解し、単にクラウドを導入するだけでなく、オンプレミスも含めた「最適なITインフラのグランドデザイン」の策定から、セキュリティを担保した上での設計・構築、そして導入後の運用サポートまで、一気通貫でご支援します。

クラウド移行におけるセキュリティアセスメントや、Google Cloudの高度なセキュリティ機能を活用したゼロトラスト環境の実現など、専門的な知見を要する課題も、ぜひ私たちにご相談ください。

XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
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まとめ

本記事では、セキュリティの観点からクラウドとオンプレミスを詳細に比較解説しました。重要なのは、両者のメリット・デメリットを正しく理解し、自社の状況に合った選択を行うことです。

  • クラウドセキュリティの鍵: 事業者と利用者の「責任共有モデル」を正しく理解すること。

  • クラウドの強み: 物理・ネットワークセキュリティ、AIによる脅威検知、グローバルなコンプライアンス対応力。

  • クラウドのリスク: 「設定ミス」や「ID管理の不備」といった、利用者側の管理不備に起因するリスク。

  • 新しい常識: 「ゼロトラスト」モデルはクラウドと親和性が高く、より堅牢なセキュリティを実現する。

  • 最適な選択: 自社の要件、規制、リソースを考慮し、多くの場合「ハイブリッドクラウド」が現実的な解となる。

ITインフラの選択は、もはや単なるコストや効率の問題ではなく、企業の事業継続性や競争力を左右する経営課題です。本記事が、貴社のDX推進における、より安全で最適なインフラ選択の一助となれば幸いです。


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