改めて、クラウドセキュリティの「責任共有モデル」とは?自社の責任範囲と対策をわかりやすく解説

 2025,05,02 2025.10.28

はじめに

企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)推進において、クラウドサービスの活用は不可欠な経営戦略となっています。しかし、その利便性の裏側で、「クラウドのセキュリティは、サービス提供事業者が全て担保してくれる」という誤解が、今もなお深刻なセキュリティインシデントを引き起こす原因となっています。

クラウド環境の安全性を確保する上で、絶対に避けて通れない考え方が「責任共有モデル(Shared Responsibility Model)」です。これは、クラウドのセキュリティ責任を、サービス提供事業者(ベンダー)と利用企業(ユーザー)とで明確に分担するという、クラウド利用における大原則です。

この「責任分界点」を正しく認識せずに「ベンダー任せ」にしてしまうと、設定ミスや対策漏れといった脆弱性が生まれ、情報漏洩や不正アクセスといった重大な事故に直結します。

本記事では、企業のDX推進を担う決裁者層の方々に向けて、クラウドセキュリティの根幹をなす「責任共有モデル」について、以下の点を網羅的かつ分かりやすく解説します。

  • 責任共有モデルの基本概念と、なぜ今改めて重要なのか

  • サービスモデル(IaaS, PaaS, SaaS)による責任範囲の明確な違い

  • 主要3大クラウド(Google Cloud, AWS, Azure)における考え方の比較

  • 利用企業が具体的に実践すべき「技術的対策」と「組織的対策」

  • DX推進の足かせとなりかねない、よくある危険な誤解

この記事を読めば、クラウド環境で自社が担うべき責任範囲が明確になり、安全なクラウド活用によるDX推進に向けた、確かな一歩を踏み出すことができます。

クラウドセキュリティの根幹「責任共有モデル」とは

責任共有モデルとは、クラウド環境におけるセキュリティの責任を、クラウドサービスを提供するベンダーと、サービスを利用するユーザーとで明確に分担するという考え方です。

オンプレミスとの決定的な違い

オンプレミス環境(自社運用)では、データセンターの物理的なセキュリティから、サーバー、ネットワーク、OS、アプリケーション、データに至るまで、すべてを自社で管理し、そのセキュリティ責任も全面的に負っていました。

一方、クラウドサービスでは、この責任の一部をベンダーが担います。例えば、データセンターへの物理的な侵入対策や、サーバーハードウェアの管理などは、ベンダーが責任を持って行います。

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【入門編】クラウドとオンプレミスのセキュリティを比較!自社に最適な環境選びのポイントとは

ユーザーの責任はゼロにはならない

最も重要なのは、ユーザーの責任がゼロになるわけではない、という点です。サービスの利用形態(後述するIaaS, PaaS, SaaS)によって責任の分界点は変動しますが、ユーザーが保護すべき領域は常に存在します

総務省が公表する「クラウドサービス利用・提供における適切な設定のためのガイドライン」でも、利用者側の設定不備による情報漏洩リスクが繰り返し指摘されています。DXを安全に加速させるためには、まずこの責任共有モデルを正しく理解し、自社が「何を」守るべきかを定義することが全ての始まりとなります。

【サービスモデル別】IaaS, PaaS, SaaSにおける責任範囲の違い

責任共有モデルにおけるユーザーとベンダーの責任分界点は、利用するクラウドサービスのモデルによって大きく異なります。ここでは、代表的な3つのモデル「IaaS」「PaaS」「SaaS」それぞれの責任範囲を解説します。

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【クラウド導入の基本】いまさら聞けないIaaS・PaaS・SaaSの違い - 特徴から最適な選び方まで

①IaaS (Infrastructure as a Service)

サーバーやストレージ、ネットワークといったITインフラ(基盤)を提供するサービスです。OS以上の層はユーザーが自由に構築・管理できます。

  • ベンダーの責任範囲: データセンター、物理サーバー、ネットワーク機器など、物理的なインフラの保護。

  • ユーザーの責任範囲: OS、ミドルウェア、アプリケーション、データ、ID・アクセス管理、ネットワーク設定(ファイアウォールなど)、脆弱性対応など、非常に広範な領域

  • 代表的なサービス: Google Compute Engine, Amazon EC2, Microsoft Azure Virtual Machines

IaaSは自由度が高い反面、ユーザーが担うセキュリティ責任の範囲が最も広くなります。OSのパッチ適用やアプリケーションの脆弱性対策など、オンプレミス環境に近いレベルでの高度なセキュリティ管理が求められます。

②PaaS (Platform as a Service)

アプリケーションの開発・実行環境(プラットフォーム)を提供するサービスです。OSやミドルウェアはベンダーが管理します。

  • ベンダーの責任範囲: IaaSの範囲に加え、OS、ミドルウェア、ランタイム環境の管理とセキュリティ。

  • ユーザーの責任範囲: 開発したアプリケーション、データ、ID・アクセス管理、アプリケーションレベルのセキュリティ設定。

  • 代表的なサービス: Google App Engine, AWS Elastic Beanstalk, Microsoft Azure App Service

PaaSではOSなどの管理負担が軽減されますが、自社で開発したアプリケーション自体の脆弱性や、そこに格納するデータの保護、誰がアクセスできるかの管理は、引き続きユーザーの重要な責任です。

③SaaS (Software as a Service)

完成されたソフトウェア(アプリケーション)をインターネット経由で提供するサービスです。

  • ベンダーの責任範囲: PaaSの範囲に加え、アプリケーション自体の管理とセキュリティ。

  • ユーザーの責任範囲: データそのものユーザーアカウント管理アクセス権限の設定、サービスが提供するセキュリティ機能の適切な設定・利用、クライアント端末のセキュリティ。

  • 代表的なサービス: Google Workspace, Microsoft 365, Salesforce

SaaSは最も手軽に利用できますが、「SaaSだから安全」と考えるのは大きな誤解です。私たちのご支援の中でも、「退職者のアカウントが放置されている」「ファイル共有設定が不適切で、意図せず情報が外部公開状態になっている」といったヒューマンエラーに起因する問題が散見されます。

これらはすべて、ユーザー側の責任範囲で発生する典型的なセキュリティリスクです。

【3大クラウド比較】Google Cloud・AWS・Azureの責任共有モデル

責任共有モデルはクラウド業界の共通概念ですが、各ベンダーの表現や考え方には若干の違いがあります。

①Google Cloud

Googleは「Fate-sharing model(運命共有モデル)」という一歩進んだ考え方を提唱することもありますが、基本は責任共有モデルです。Googleがインフラのセキュリティを強固に保護し、ユーザーがその上で安全にサービスを構築・利用できるよう、Security Command Centerのような高度なセキュリティ管理ツールを提供しているのが特徴です。ユーザーはこれらのツールを適切に設定・運用する責任を負います。

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なぜGoogle Cloudは安全なのか? 設計思想とゼロトラストで解き明かすセキュリティの優位性【徹底解説】

②Amazon Web Services (AWS)

AWSは「クラウド”の”セキュリティ」と「クラウド”における”セキュリティ」という表現で責任範囲を明確に分けています。

  • クラウド”の”セキュリティ(AWSの責任): AWSがサービスを提供しているすべてのインフラストラクチャ。

  • クラウド”における”セキュリティ(ユーザーの責任): ユーザーが選択したクラウドサービス、OSやアプリケーションの管理、データ保護、ID・アクセス管理など。

この分かりやすい切り分けは、多くの企業で責任共有モデルを理解する際の基準となっています。

③Microsoft Azure

Microsoft Azureも基本的な考え方は同じですが、「責任は常に保持される、移管される、あるいは共有される」と定義し、役割が重複する領域があることを示唆しています。特にID管理(Azure AD / 現 Entra ID)やハイブリッドクラウド環境における責任分界点が、企業の利用実態に合わせて詳細に定義されている点が特徴的です。

結局のところ、どのクラウドを利用するにせよ、「データ」「アクセス権」「クライアント端末」「設定」といった領域は、ほぼ常にユーザーの責任範囲に残る、と理解することが重要です。

利用者が実践すべき具体的なセキュリティ対策

責任共有モデルを理解した上で、利用企業(ユーザー)が自社の責任範囲で具体的に何をすべきか。これは「技術的領域」と「組織的・運用的領域」の2つの側面から考える必要があります。ツール導入(技術)と体制構築(組織)は、セキュリティを担保する上で車の両輪となります。

①技術的領域の対策

システム的な防御と設定に焦点を当てた対策です。

①ID・アクセス管理 (IAM)

不正アクセスや内部不正による情報漏洩を防ぐ、セキュリティの最も基本的な要です。「誰が」「何に」「どこまで」アクセスできるかを厳密に管理します。

  • 最小権限の原則: Google Cloud IAM などを活用し、ユーザーやサービスアカウントには業務上必須のロール(役割)のみを付与します。

  • 多要素認証 (MFA) の徹底: 管理者アカウントはもちろん、可能な限り全ユーザーに対してMFAを強制し、認証を強化します。

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②データ保護

クラウド上に保管する機密情報や個人情報の保護は、企業の信頼そのものです。

  • データの分類と暗号化: どのデータが機密情報かを定義(データ分類)し、保管・通信時の暗号化を徹底します。Cloud Storageなどではデフォルトで暗号化されますが、その管理ポリシーを定めるのはユーザーの責任です。

  • 設定ミスの防止: Security Command Center などのCSPM(Cloud Security Posture Management)ツールを利用して、ストレージが意図せず公開設定になっていないか等を継続的に監視します。

  • バックアップと復旧計画: データの損失に備え、定期的なバックアップと、有事を想定した復旧手順を確立・テストしておきます。

③ネットワークセキュリティ

意図しない通信を防ぎ、攻撃対象領域(アタックサーフェス)を最小化します。

  • ファイアウォール設定: VPCファイアウォール ルールを適切に設定し、不要なポートやIPアドレスからのアクセスを厳格に制限します。

  • セグメンテーション: ネットワークを適切に分割(例:本番環境と開発環境)し、万が一侵害された場合の影響範囲を限定します。

④脆弱性対策と構成管理

IaaS/PaaSで利用するOSやソフトウェアの脆弱性、あるいはクラウドサービス自体の設定ミスは、攻撃の直接的な侵入口となります。

  • 脆弱性スキャンの自動化: Security Command Centerなどの脆弱性スキャン機能を有効化し、OSやコンテナの脆弱性を継続的に検知・評価します。

  • パッチ適用の迅速化: 発見された脆弱性に対して、速やかにパッチを適用する運用体制を構築します。

②組織的・運用的領域の対策

決裁者層が特に主導すべき、体制とプロセスに関する対策です。XIMIXのご支援でも、この領域の整備がセキュリティレベルを左右する最大の要因であると実感しています。

①セキュリティポリシーと体制の構築

技術的な対策の「土台」となるものです。

  • ポリシー策定: クラウド利用に関するセキュリティポリシー(データ分類、アクセス制御ルール、利用可能サービスなど)を明確に文書化します。

  • 責任体制の明確化: 誰がクラウドセキュリティの責任者(またはチーム)であるかを定義し、権限と役割を明確にします。

②ログ監視とインシデント対応計画 (IRP)

インシデントの早期発見と迅速な対応は、被害を最小限に食い止めるために不可欠です。

  • ログの一元管理と分析: Cloud LoggingCloud Monitoring を活用し、各種サービスのログを収集・分析。不審なアクティビティを検知するためのアラートを設定します。

  • IRPの策定と訓練: インシデント発生時の報告ルート、調査、封じ込め、復旧、関係各所への報告といった一連の対応手順を事前に文書化し、定期的に訓練を実施します

関連記事:
クラウド時代のインシデント対応計画(IRP) – 押さえておくべき留意点と実践ポイント

③継続的な監査と従業員教育

セキュリティは「一度設定したら終わり」ではありません。

  • 権限の定期的な棚卸し: プロジェクトの終了や担当者の異動に伴い、不要になったアカウントや権限を放置しないよう、定期的にレビューし、削除するプロセスを確立します(退職者アカウントの放置は重大リスクです)。

  • 従業員教育: 従業員がSaaSの共有設定を誤る、といったヒューマンエラーを防ぐため、セキュリティポリシーとツールの正しい使い方に関する継続的な教育が不可欠です。

その思い込みが危険!責任共有モデルのよくある誤解

最後に、クラウドセキュリティに関して企業が陥りがちな、危険な思い込みを3つ紹介します。これらは私たちがお客様をご支援する中で、実際に直面する課題でもあります。

誤解1:「SaaSを使っていれば、セキュリティはベンダー任せで安心」

真実: 最も危険な誤解です。前述の通り、SaaSであってもデータの管理、アカウント管理、共有設定、情報分類は明確にユーザーの責任です。Google Workspaceで発生するセキュリティインシデントの多くは、技術的な脆弱性よりも、ユーザーによる設定ミスや管理不備が原因です。

 

誤解2:「高度なセキュリティツールを導入すれば、それで対策は完了」

真実: ツールはあくまで手段です。例えば Security Command Center は非常に強力ですが、その検知結果を「誰が」「どのように」評価し、「対策を実行する」のかという運用プロセスがなければ宝の持ち腐れです。ツールを適切に設定し、運用し続けることこそがユーザーの責任です。

誤解3:「責任共有モデルは、一度理解すればOK」

真実: クラウドサービスは日々進化し、新しい機能が次々とリリースされます。それに伴い、セキュリティの考え方やユーザーが設定すべき項目も変化します。自社が利用するサービスについて継続的に情報を収集し、セキュリティ設定を定期的に見直す(監査する)姿勢が不可欠です。

対策にお悩みならXIMIXへ

ここまで解説した通り、クラウドセキュリティは「責任共有モデル」に基づき、利用企業側にも戦略的かつ継続的な対策(技術と組織の両面)が求められます。

しかし、多くの企業様から、以下のようなお悩みを伺います。

  • 「自社の責任範囲で、具体的に何をどこまでやれば良いのか判断できない」

  • 「Google Cloudの多様なセキュリティ機能を使いこなす専門知識やリソースがない」

  • 「ツールは導入したが、アラートを監視・対応する運用体制が追いつかない」

  • 「日々の業務に追われ、最新の脅威や対策をキャッチアップしきれない」

私たち XIMIX は、数多くの企業のDXをご支援してきた豊富な経験と実績に基づき、お客様のビジネスとセキュリティ要件に最適な対策をご提案します。

  • セキュリティアセスメント: お客様のGoogle Cloud環境を専門家の視点で評価し、責任共有モデルにおける課題と対策の優先順位を明確化します。

  • ポリシー策定と実装支援: お客様の事業内容や規制要件に合わせ、IAM設計、ネットワークセキュリティ、ログ監視体制の構築まで、実効性のあるセキュリティ基盤を共に築き上げます。

  • 継続的な運用支援: 最新の脅威情報やGoogle Cloudのアップデートを踏まえ、お客様のセキュリティレベルを継続的に維持・向上させるためのご支援(監視・運用代行など)を提供します。

責任共有モデルを正しく理解し、自社で担うべき対策を着実に実施することは、もはや守りのIT投資ではありません。それは、ビジネスを止めないための基盤であり、攻めのDXを加速させるための戦略的投資です。

クラウドセキュリティに少しでも不安をお持ちでしたら、ぜひ一度XIMIXにご相談ください。お客様のビジネスを守り、成長を加速させるための最適なパートナーとして、伴走いたします。

XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
XIMIXのGoogle Cloud 導入支援についてはこちらをご覧ください。

まとめ

本記事では、クラウドセキュリティの基本となる「責任共有モデル」について、その重要性から具体的な対策、そしてよくある誤解までを深く掘り下げて解説しました。

  • クラウドのセキュリティは、ベンダーとユーザーが責任を分担する「責任共有モデル」が基本原則です。

  • IaaS, PaaS, SaaS のモデルによってユーザーの責任範囲は大きく異なり、特に「データ」「アクセス権」「設定」は常にユーザーの責任です。

  • ユーザーは、ID管理などの「技術的対策」と、体制構築やIRP策定などの「組織的・運用的対策」の両面から、自社の責任範囲において具体的な対策を講じる必要があります。

  • Google Cloudをはじめとする主要クラウドは豊富なセキュリティ機能を提供しますが、それらを適切に設定・運用することがユーザーに求められます。

クラウドの利便性を最大限に引き出し、安全なDXを実現するためには、この責任共有モデルの深い理解が不可欠です。本記事が、貴社のクラウドセキュリティ戦略を見直し、強化する一助となれば幸いです。


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