クラウド時代のIT資産ライフサイクルマネジメントの基本:プロセスと重要性・実施時のポイント

 2025,10,14 2025.10.14

はじめに:なぜ今、IT資産管理の「基本」を見直すべきなのか

企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進に伴い、IT環境はオンプレミスからクラウドへと大きくシフトしました。手軽に利用できるSaaS、柔軟性の高いIaaS/PaaSはビジネスを加速させる一方、従来の方法では管理しきれないほどのIT資産の多様化と増加を招いています。

「気づけば誰も使っていないSaaSの契約が続いていた」 「クラウドの請求額が想定を超えて高騰している」 「退職者のアカウントが有効なまま放置され、セキュリティリスクになっている」

このような課題は、多くの企業が直面している現実です。この変化の激しい時代だからこそ、IT資産をその誕生から廃棄まで一貫して管理する「IT資産ライフサイクルマネジメント」の基本に立ち返り、クラウド時代に合わせてアップデートすることが不可欠です。

本記事では、DXを推進する立場の方に向けて、クラウド時代のIT資産ライフサイクルマネジメントの基本的なプロセス、その重要性、そして失敗しないための実施ポイントを分かりやすく解説します。

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そもそもIT資産ライフサイクルマネジメントとは?

IT資産ライフサイクルマネジメント(ITAM: IT Asset Management)とは、企業が保有または利用するIT資産を、その計画段階から調達、導入、運用、そして廃棄に至るまでの一連のサイクル(ライフサイクル)を通じて、統合的に管理する戦略的なアプローチです。

その主な目的は、IT資産の価値を最大化し、同時にコストとリスクを最小化することにあります。単なる資産台帳の作成に留まらず、IT投資全体の最適化を目指す経営管理手法の一つと位置づけられています。

なぜ今、IT資産ライフサイクルマネジメントが重要なのか?

クラウドの普及により、IT資産管理の重要性はかつてなく高まっています。その理由は、従来の管理手法では対応できない3つの大きな変化があるからです。

理由1:管理対象の爆発的な増加と「シャドーIT」のリスク

手軽に契約できるSaaSの普及により、情報システム部門が把握していないところで各事業部門が独自にITツールを導入する、いわゆる「シャドーIT」が深刻な問題となっています。これにより、ライセンスの重複契約による無駄なコストが発生するだけでなく、全社的なセキュリティポリシーが適用されず、情報漏洩などの重大なインシデントを引き起こすリスクが増大します。

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理由2:「所有」から「利用」へ、コスト構造の変化

物理的なサーバーやパッケージソフトウェアを「所有」していた時代と異なり、クラウドサービスはサブスクリプション型の「利用」が基本です。コストは固定資産ではなく、利用量に応じて変動する経費となります。利用状況を正確に把握し、継続的に見直さなければ、コストは際限なく膨れ上がってしまいます。IT資産管理は、この変動するコストを最適化する上で中心的な役割を担います。

理由3:コンプライアンスとガバナンスの複雑化

クラウドサービスごとにライセンス体系は異なり、非常に複雑です。意図せずライセンス違反を犯してしまえば、監査で多額の追徴金を請求される可能性があります。また、従業員の入退社に伴うアカウント管理が不十分であれば、内部不正や情報漏洩のリスクにも繋がります。ライフサイクル全体を適切に管理することは、企業のガバナンスを維持し、信頼性を担保するために不可欠です。

クラウド時代のIT資産ライフサイクル:5つの基本プロセス

IT資産ライフサイクルの基本的なプロセスは5つのフェーズに分けられます。ここでは各フェーズの概要と、クラウド時代における特有のポイントを解説します。

フェーズ1:計画

IT資産の導入を検討する最初の段階です。

  • 主な活動: 事業戦略や業務ニーズに基づき、必要なIT資産の要件を定義します。

  • クラウド時代のポイント: 新規にサービスを契約する前に、まず社内で利用中の既存サービスで代替できないかを徹底的に確認します。これにより、機能が重複するツールの乱立を防ぎ、投資の無駄をなくします。

フェーズ2:調達

計画に基づき、IT資産を実際に購入・契約する段階です。

  • 主な活動: 複数の製品やサービスを比較検討し、契約を締結します。

  • クラウド時代のポイント: 価格だけでなく、セキュリティ基準、サポート体制、他システムとの連携性などを多角的に評価します。特にSaaSでは、将来の利用者数の増減を予測し、柔軟にプランを変更できる契約形態を選ぶことがコスト最適化の鍵となります。

フェーズ3:導入

調達したIT資産を社内に展開し、利用できる状態にする段階です。

  • 主な活動: ソフトウェアのインストール、アカウントの作成と権限設定、利用者へのトレーニングなどを行います。

  • クラウド時代のポイント: アカウントの払い出しと権限設定を厳格に管理することが重要です。職務に必要な最小限の権限のみを付与する「最小権限の原則」を徹底し、内部不正や操作ミスによるリスクを低減します。

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フェーズ4:運用・保守

IT資産が実際に利用されている期間の管理を行う、最も重要な段階です。

  • 主な活動: パフォーマンスの監視、トラブル対応、ライセンスの棚卸し、契約更新などを行います。

  • クラウド時代のポイント: 利用状況のモニタリングを継続的に行い、活用されていないライセンスは即座に停止・回収します。また、IaaS/PaaSの利用料を監視・最適化する「FinOps」の考え方を取り入れ、コスト効率を常に追求することが求められます。

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フェーズ5:廃棄

IT資産の利用を終了し、処分または契約を解除する最終段階です。

  • 主な活動: ハードウェアの物理的な廃棄、データの消去、ソフトウェアのアンインストール、契約の解除などを行います。

  • クラウド時代のポイント: サービスの契約解除時に、データの完全なバックアップと消去を確実に行うことが極めて重要です。また、退職者や異動者のアカウントがサービス上に残存しないよう、削除プロセスを徹底する必要があります。

IT資産ライフサイクルマネジメントを成功させる3つのポイント

プロセスを理解しても、実践でつまずく企業は少なくありません。ここでは、我々が多くの企業をご支援する中で見えてきた、成功に不可欠な3つのポイントをご紹介します。

ポイント1:専門部署任せにしない「組織横断」の体制づくり

IT資産管理は、情報システム部門だけの仕事ではありません。実際にSaaSを利用する事業部門、契約を管理する購買部門、予算を策定する経理部門など、関係各所を巻き込んだ全社的な取り組みが不可欠です。まずは各部門から責任者を集めた横断チームを組成し、「誰が、いつ、何を申請し、承認するのか」という全社共通のルールとプロセスを整備することから始めましょう。

ポイント2:「勘」ではなく「データ」で判断する文化の醸成

クラウド時代のIT資産管理の核心は、利用実態の可視化にあります。「どの部署が、どのサービスを、どのくらい利用しているか」というデータを正確に把握し、そのデータに基づいて投資判断を行う文化を根付かせることが重要です。定期的に利用状況レポートを経営層や事業部門長に共有し、コスト意識を全社的に高めていくことが、継続的な最適化に繋がります。

ポイント3:目的に合ったITAMツールを賢く活用する

数百、数千に及ぶSaaSアカウントやクラウド上のリソースを手作業で管理することは、もはや不可能です。IT資産管理ツール(ITAMツール)の活用は必須ですが、その選定には注意が必要です。重要なのは、いきなり高機能なツールを導入するのではなく、「自社の最も大きな課題は何か」を明確にすることです。まずはSaaSの契約・アカウント管理に特化したツールからスモールスタートするなど、自社の成熟度に合ったツールを選び、段階的に管理レベルを向上させていくアプローチが成功の鍵です。

XIMIXによる支援案内:専門家の知見で最適なIT資産管理を実現

ここまで解説してきたように、クラウド時代のIT資産ライフサイクルマネジメントは、組織横断のプロセス構築からデータ活用の文化醸成まで、多岐にわたる取り組みが求められます。

これらをすべて自社リソースだけで推進するには、高度な専門知識と多くの時間が必要です。特に、Google Cloudのような大規模なクラウドプラットフォームのコストやリソースを最適化し続けるには、深い知見と経験が欠かせません。

NI+Cの『XIMIX』は、多くの中堅・大企業のDX推進を支援してきた経験に基づき、お客様のIT資産管理の基本の定着から高度化までをトータルでご支援します。

  • プロセス構築支援: お客様の組織体制に合わせて、実用的で継続可能な管理プロセスとルールの設計をご支援します。

  • Google Cloud / Google Workspaceの最適化: 専門家の視点からライセンスやクラウド利用料の無駄を発見し、コストとパフォーマンスの最適化を実現します。

IT資産管理の第一歩でお悩みの場合や、DX投資のROI最大化にご関心をお持ちでしたら、ぜひお気軽にご相談ください。

XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
XIMIXのGoogle Cloud 導入支援についてはこちらをご覧ください。

まとめ

本記事では、クラウド時代におけるIT資産ライフサイクルマネジメントの基本について解説しました。

  • IT資産管理の重要性: クラウドの普及により、コスト、セキュリティ、ガバナンスの観点からその重要性は増している。

  • 基本の5プロセス: 「計画」「調達」「導入」「運用・保守」「廃棄」の各フェーズで、クラウド特有のポイントを押さえる必要がある。

  • 成功への3つのポイント: 「組織横断の体制」「データに基づく判断」「目的に合ったツール活用」が成功の鍵を握る。

IT資産は、もはや単なる「コスト」ではなく、ビジネスの成長を支える「戦略的資源」です。本記事を参考に、自社のIT資産管理のあり方を見直し、価値を最大化する一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。


クラウド時代のIT資産ライフサイクルマネジメントの基本:プロセスと重要性・実施時のポイント

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