ローコード・ノーコードで作らない方がいいアプリとは?エンタープライズDXにおける適用領域の見極め方

 2026,02,20 2026.02.20

はじめに

「開発スピードが劇的に上がる」「現場の非エンジニアでもアプリが作れる」――こうした魅力的な謳い文句とともに、ローコード・ノーコードツールは多くの企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)を牽引してきました。

しかし、あらゆる業務をローコードでシステム化しようとした結果、想定外のパフォーマンス低下や運用保守の破綻に直面し、プロジェクトが頓挫するケースが後を絶ちません。

この記事では、ローコード・ノーコードツールの限界を正しく理解し、企業のROI(投資対効果)を最大化するために「あえてべきではないアプリ」の類型と、その適用領域を正確に見極めるための評価フレームワークを解説します。

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ローコード・ノーコード開発が抱える「光と影」

デジタル化の波が押し寄せる中、ローコード・ノーコード開発は企業にとって強力な武器となります。しかし、その強力さゆえに、取り扱いを誤れば将来的な足枷となるリスクも内包しています。

➀「想定外の壁」と技術的負債

Gartner社の予測によれば、新たなローコードクライアントの半数はIT部門以外のビジネスユーザーになるとされています。これは現場主導の迅速な課題解決が進む一方で、全社的なITガバナンスの統制が極めて困難になることを示唆しています。

多くのDX推進プロジェクトの現場で目にするのは、初期の開発スピードに目を奪われ、将来の拡張性や保守性を考慮せずに複雑な業務システムをローコードで構築してしまった結果生まれる「技術的負債」です。

ツール固有の仕様に縛られるベンダーロックインに陥り、法改正やビジネスモデルの転換に伴う大規模な仕様変更に対応できず、結局は莫大なコストをかけてゼロからスクラッチ開発(プロコード開発)をやり直す事態に陥る企業は少なくありません。

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②シャドーITの温床への懸念

IPA(情報処理推進機構)の「DX白書」などでも指摘される通り、非エンジニアによる開発は業務ニーズに直結しやすい反面、情報システム部門の目が行き届かない「シャドーIT」を生み出す温床となります。

セキュリティ要件を満たさないまま顧客データを取り扱うアプリが現場単位で乱立すれば、情報漏洩のリスクは跳ね上がります。また、似たような機能を持つアプリが各部門でサイロ化して乱立することは、データ統合の妨げとなり、経営層が期待する「データドリブンな意思決定」というDX本来の目的を大きく毀損することになります。

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ローコード・ノーコードで作るべきではない3つのアプリ類型

ツールにはそれぞれ「設計思想」があり、得意分野と不得意分野が存在します。エンタープライズの現場において、以下の3つの類型に当てはまるシステムは、原則としてローコード・ノーコードツールでの構築を避ける、あるいは慎重に検討すべきです。

➀複雑な業務ロジックと大規模なデータ処理を伴う基幹系システム

企業の心臓部となるERPのコアモジュールや、秒間何千・何万ものトランザクションが発生する大規模なデータ処理システムは、ローコードの適用領域外です。

ローコードツールは汎用性を高めるために、裏側で抽象化されたコードを生成・実行しています。そのため、数百万件のレコードを複雑な条件で結合・集計するといった処理を行わせると、パフォーマンスの低下を招きます。

また、独自の複雑な計算ロジック(例:特殊な歩合給の計算、多段階に分岐する高度な与信審査など)をツールのGUI上で無理に表現しようとすると、かえって保守性が著しく低下する「スパゲティ状態」に陥ります。

②厳格な要件と細やかなUI/UXが求められる顧客向け(BtoC)サービス

一般消費者をターゲットとしたアプリケーションにおいて、UI/UX(ユーザーインターフェース・ユーザーエクスペリエンス)の質は直結するビジネス価値そのものです。

ローコードツールはあらかじめ用意されたコンポーネント(部品)を組み合わせて画面を構築するため、ピクセル単位でのデザイン調整や、自社のブランドガイドラインに完全に準拠した独自のアニメーション、複雑な画面遷移を実現することには限界があります。

また、BtoCサービスで求められる厳格なセキュリティ要件(独自の高度な認証基盤との連携など)を、SaaS型のローコード環境で完全に満たすことは困難なケースがあります。

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③既存のレガシーシステム群との高度な連携が必須となるハブシステム

大企業の多くは、過去数十年かけて構築された複雑なオンプレミス(自社運用)のレガシーシステムを多数抱えています。これらのシステムの中核に位置し、多様なプロトコルやデータフォーマットをリアルタイムに変換・連携する「ハブ」としての役割をローコードツールに担わせるのは困難です。

標準的なREST APIなどを備えていない古いシステムとのデータ連携は、結局のところツール外での個別開発(スクラッチ開発)を大量に発生させます。「つなぎこみ」の部分がブラックボックス化しやすく、障害発生時の原因切り分けが極めて困難になるため、システム全体の可用性を低下させる要因となります。

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失敗を回避し、ROIを最大化する「適用領域の見極め方」

では、どのように対象業務を選定すればよいのでしょうか。重要なのは、「ビジネス価値」と「技術的要件」を客観的に評価することです。

➀業務の「可変性」と「重要度」によるマトリクス評価

システム化の対象となる業務を、「可変性(ビジネス環境の変化に合わせて頻繁な変更が必要か)」と「重要度(企業の競争優位性に直結するコア業務か、それともノンコア業務か)」の2軸で評価する手法が有効です。

ローコード・ノーコード開発が最も輝くのは、「可変性が高く、重要度が中〜低(ノンコア)」の領域です。

例えば、社内の承認ワークフロー、現場の設備点検レポート、部門内の簡易な予実管理などです。これらは「まずは作って運用しながら、現場のフィードバックを得て俊敏に改善を繰り返す(アジャイルなアプローチ)」ことが求められるため、ローコードの強みを最大限に活かせます。

一方で、「可変性が低く、重要度が極めて高い(コア)」領域(基幹システムの中核など)は堅牢なパッケージ製品の導入を、「可変性が高く、重要度も極めて高い」領域(競争優位性を生む独自の顧客向けサービスなど)は、制約のないスクラッチ開発(モダンアプリケーション開発)を選択するのが定石です。

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②ガバナンス要件とセキュリティ基準のすり合わせ

適用領域を決定する際は、非機能要件(セキュリティ、可用性、パフォーマンスなど)の評価も欠かせません。

システム部門は、全社のガバナンス方針に基づき、「どのようなデータ(個人情報や機密情報を含むか)を扱う場合はローコードを許可しないか」といった明確なガイドラインとガードレール(安全策)を事前に策定する必要があります。

この統制環境があって初めて、ビジネス部門は安心してローコードツールを活用した業務改善に専念できるようになります。

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スクラッチ開発とのハイブリッド戦略が導く最適解

ローコードか、スクラッチ開発かの二元論で考える必要はありません。エンタープライズDXにおいて最も投資対効果が高く、将来の技術的負債を防ぐのは「適材適所のハイブリッド戦略」です。

➀適材適所のアーキテクチャ設計がもたらすビジネス価値

重厚長大なコアシステム(SoR:System of Record)は堅牢なプロコードやエンタープライズ向けパッケージで構築・維持しつつ、エンドユーザーが直接触れるフロントエンドや、日々変化する現場の業務プロセス(SoE:System of Engagement)にはローコードツールを適用する「バイモーダルIT(2つの流儀を持つIT)」のアプローチが重要です。

APIを通じて両者を疎結合に連携させることで、コアシステムの安定性を担保しながら、現場のビジネスアジリティ(俊敏性)を飛躍的に向上させることが可能になります。

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②Google Cloudを活用したモダンアプリケーション開発という選択肢

このハイブリッド戦略を高度に実現する基盤として、世界中のエンタープライズ企業から選ばれているのがGoogle Cloudです。

例えば、現場のデータ入力や簡易な業務アプリには、Google が提供する強力なノーコードプラットフォームであるAppSheetを採用します。そして、AppSheetで収集したデータの複雑な集計・分析や、既存システムとの高度な連携処理、機械学習モデルの適用といった「重たい処理」は、Google Cloud上のBigQuery(データウェアハウス)やCloud Run(サーバーレス環境)といったプロコードベースのモダンなアーキテクチャにオフロード(委譲)するのです。

この構成により、フロントエンドの開発スピードを維持しつつ、バックエンドではGoogle Cloudの無限の拡張性と高度なセキュリティ、そして最先端のデータ分析能力をフルに享受できます。これが、ベンダーロックインを回避し、真のデータドリブン経営を実現するための最適解と言えます。

XIMIXが伴走する、持続可能なエンタープライズDX

ローコード・ノーコードツールは、適切な領域に、適切なアーキテクチャ設計のもとで適用してこそ、真のビジネス価値を生み出します。ツールの選定や導入そのものが目的化してしまっては、決してDXは成功しません。

『XIMIX』は、単なるツールの導入支援には留まりません。中堅・大企業様が抱える複雑な既存システムの紐解きから、ITガバナンスの策定、そして「AppSheet」と「Google Cloudネイティブ環境」を組み合わせたハイブリッド・アーキテクチャの設計・構築まで、お客様のDXジャーニーに強力に伴走します。

「現在検討中のプロジェクトにローコードを適用すべきか迷っている」「乱立した現場のアプリを統合し、安全なデータ分析基盤を構築したい」といった課題をお持ちの決裁者様は、ぜひ一度XIMIXの専門家にご相談ください。貴社のビジネス戦略に直結する、持続可能でセキュアなシステム環境の実現を支援します。

XIMIXによるGoogle Cloud / Google Workspaceを活用したDX推進支援についてはお気軽にお声がけください。

XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
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まとめ

本記事では、ローコード・ノーコードで作るべきではないアプリの類型と、エンタープライズにおける適切な適用領域の見極め方について解説しました。

  • ローコードの限界を無視した適用は、深刻な技術的負債とシャドーITを引き起こすリスクがある。
  • 「複雑な基幹系システム」「厳密な要件を持つBtoCサービス」「高度な連携を伴うハブシステム」への適用は避けるべきである。
  • 業務の「可変性」と「重要度」を見極め、ROIが最大化する領域を冷静に選定することが不可欠である。
  • コアシステムはプロコード(Google Cloud環境など)、フロントエンドはローコード(AppSheetなど)を使い分けるハイブリッド戦略が、現代のエンタープライズDXの最適解である。

技術の進化は目覚ましいですが、それを見極め、自社のビジネスモデルにどう組み込むかを決断するのは「人」です。将来を見据えた確かなアーキテクチャ戦略のもと、次なる成長への投資を加速させていきましょう。


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