AppSheetアプリの保守・改修ガイド【入門編】:担当者と進め方の基本を解説

 2025,05,19 2025.07.06

はじめに

近年、多くの企業がDX推進の強力なツールとして、Google のノーコード開発プラットフォーム「AppSheet」の活用を始めています。現場部門が自ら業務アプリを開発する「市民開発」は、業務効率化を加速させる切り札です。

しかし、その手軽さの裏側で、「開発したアプリが野良化・ブラックボックス化する」「担当者の異動で誰も触れなくなる」といった課題が顕在化しているのも事実です。アプリは開発して終わりではありません。その価値を持続させ、全社的なDXの成果に繋げるためには、戦略的な保守・改修(運用)体制の構築が不可欠です。

本記事では、AppSheetで開発したアプリの保守・改修というテーマについて、多くの企業をご支援してきたXIMIX(NI+C)の知見を交えながら、以下のような疑問や課題にお答えします。

  • なぜAppSheetアプリの保守・運用が重要なのか?放置するとどうなる?

  • 保守・運用は誰が担当すべき?情シス?現場?外部?

  • 属人化を防ぎ、ガバナンスを効かせるための具体的なルールとは?

  • 信頼できる外部パートナーは、どうやって選べば良いのか?

この記事が、AppSheet活用の次のステップへ進むための、確かな指針となれば幸いです。

関連記事:
【基本編】AppSheetとは?ノーコードで業務アプリ開発を実現する基本とメリット

なぜAppSheetアプリの保守・運用は重要なのか?

AppSheetアプリは、ビジネス環境の変化、業務プロセスの見直し、ユーザーからの要望、そしてAppSheet自体のアップデートなど、様々な要因に対応し続ける必要があります。この継続的な対応が「保守・運用」であり、その重要性は大きく分けて以下の4点に集約されます。

  • 事業継続性の確保: アプリが突然停止するリスクを防ぎ、業務の安定稼働を守ります。

  • ユーザー満足度の向上: 利用者の声(フィードバック)を反映した改善を重ねることで、アプリはより使いやすく、業務に不可欠なツールへと進化します。

  • 投資対効果(ROI)の最大化: 開発したアプリを長期的に活用し続けることで、初期投資を回収し、継続的な業務改善という価値を生み出し続けます。

  • DX推進の持続性: 市民開発を「一時的なブーム」で終わらせず、組織文化として定着させるための土台となります。

関連記事:市民開発とは?メリットと導入のポイントを詳しく解説【Google Appsheet etc...】

保守・運用を怠った場合の「よくある失敗例」

もし、これらの保守・運用が適切に行われないと、どうなるでしょうか。私たちがご支援する中でも、以下のような課題に直面するケースは少なくありません。

  • サイレント障害: AppSheetのアップデートやデータソース(Google スプレッドシートなど)の仕様変更により、ある日突然アプリが動かなくなり、業務が停止する。

  • 野良アプリの乱立: 各部門で似たようなアプリが乱立し、どれが正式なものか分からなくなる。データの分断や二重入力が発生し、逆に非効率になる。

  • セキュリティリスクの増大: 適切なアクセス権限が設定されておらず、意図せず機密情報が漏洩するリスクを抱え続ける。

  • 「塩漬け」アプリの属人化: 開発した担当者が異動・退職した途端、誰も改修できなくなり、業務実態と乖離した「使えない」アプリが放置される。

特に、市民開発を推進する企業ほど、こうしたリスクは増大します。独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の調査でも、DX推進における課題として「人材不足」が常に上位に挙げられており、個人のスキルに依存した開発・運用体制の脆さが浮き彫りになっています。 手軽に始められるAppSheetだからこそ、その価値を持続させるための組織的な運用設計が成功の鍵を握るのです。

関連記事:【入門編】シャドーIT・野良アプリとは?DX推進を阻むリスクと対策を徹底解説【+ Google Workspaceの導入価値も探る】

AppSheetアプリの保守・運用は誰が担当するべきか?

保守・運用の担当者には、主に3つのパターンがあり、それぞれにメリット・デメリットが存在します。自社の規模やアプリの重要性に応じて最適な形を判断することが重要です。

① 開発者自身(市民開発者)

アプリを開発した現場担当者が、そのまま保守・運用を担うケースです。

  • メリット: 業務知識が豊富で、現場のニーズを即座に反映したスピーディな改修が可能です。

  • デメリット: 属人化のリスクが最も高い形態です。担当者の異動・退職で運用が破綻する可能性があります。また、本来業務との兼任で、十分な時間を割けないことも少なくありません。

  • 向いているケース: 個人業務の効率化を目的とした、ごく小規模でシンプルなアプリ。

② 情報システム部門

企業のITガバナンスを司る情報システム部門が、一元的に管理するケースです。

  • メリット: システム運用の専門知識に基づき、全社的なセキュリティポリシーや標準ルールを適用できます。ドキュメント管理やバージョン管理も徹底され、属人化を防ぎやすいのが強みです。

  • デメリット: 現場の細かな業務ニュアンスの理解に時間がかかる場合があります。また、多くのシステムを管轄しているため、市民開発のスピード感が損なわれる可能性も考慮すべきです。

  • 向いているケース: 複数の部門でAppSheetが利用され、全社的な統制とセキュリティが重視される場合。

③ 外部の専門家・SIer(システムインテグレーター)

AppSheetに関する高度な知見を持つ、XIMIXのような外部パートナーに委託するケースです。

  • メリット: 社内リソースに依存せず、安定的かつ専門的な保守・運用体制を確保できます。最新のアップデート情報や高度な技術トレンドを反映した、客観的な改善提案が期待できます。

  • デメリット: 外部委託費用が発生します。また、パートナーとの密な情報共有やコミュニケーションが不可欠となり、丸投げでは期待した成果は得られません。

  • 向いているケース: 社内に専門人材がいない、コア業務に集中したい、より高度で複雑な改修を行いたい場合。

XIMIXの推奨モデルは、これらを組み合わせたハイブリッド型です。日常的な軽微な修正は現場の市民開発者が行い、情シス部門が全社的なガバナンスとルールを策定・監督する。そして、技術的に高度な改修や、全体最適化のコンサルティングを外部パートナーが支援する。この三位一体の体制が、スピードとガバナンスを両立させる最も効果的なアプローチです。

AppSheetアプリ 保守・改修の具体的な進め方とルール作り

AppSheetアプリの価値を持続させるためには、場当たり的な対応ではなく、体系化されたプロセスとルールに基づいた運用が不可欠です。

基本的な保守・改修のサイクル

保守・改修は、以下のサイクルを継続的に回していくことが基本です。

  1. 課題の収集と評価: ユーザーからの要望や不具合報告を収集します。Google Workspaceを活用している企業であれば、Google Chatの専用スペースやGoogleフォームでフィードバックを集約すると効率的です。集まった課題は、緊急度と重要度で優先順位を付けます。

  2. 計画策定: 対応する課題のゴールと範囲を明確にし、具体的な作業内容、担当者、スケジュールを決定します。特にデータ構造の変更は影響範囲が広いため、慎重な影響調査が必要です。

  3. 開発とテスト: AppSheetエディタで修正作業を行います。この際、必ず本番アプリをコピーしたテスト環境で検証してください。修正箇所だけでなく、関連機能も動かして問題がないか(回帰テスト)を確認します。

  4. デプロイと展開: テスト完了後、AppSheetのデプロイ機能を使って、新バージョンを本番環境に反映します。変更点はユーザーへ事前に周知し、必要であればマニュアルも更新します。

  5. モニタリング: デプロイ後、アプリが安定稼働しているか、新たな問題が発生していないかを監視します。

関連記事: なぜ「フィードバック文化」が大切なのか?組織変革を加速する醸成ステップと心理的安全性

属人化を防ぐためのドキュメント整備

AppSheet運用において、ドキュメントの整備は最も重要なタスクの一つです。これをおろそかにすると、確実に属人化を招きます。

  • アプリ設計書: アプリの目的、機能一覧、データ構造(テーブル定義)、主要なロジック(Automation、Action)の概要を記します。

  • 改修履歴(変更管理簿): 「いつ、誰が、なぜ、何を、どのように変更したか」を必ず記録します。これにより、問題発生時の原因究明が迅速になります。

  • 操作マニュアル: 利用者向けの簡易な操作説明書です。

これらのドキュメントは、完璧を目指す必要はありません。スプレッドシートや共有ドキュメントに、要点を簡潔に記録するだけでも、将来の保守性は劇的に向上します。

成功の鍵を握る「ガバナンス」と「高度な運用」

アプリの数が増え、利用範囲が全社に広がってくると、「守り」と「攻め」の運用が重要になります。

「守りの運用」:ガバナンスとセキュリティの強化

ガバナンスとは、市民開発の自由度と、企業として守るべき統制のバランスを取る仕組みです。

  • 命名規則の統一: アプリ名、テーブル名、カラム名などに一貫したルール(例: アプリ名_テーブル名_yyyyMMdd)を設けることで、管理性が向上します。

  • 共通コンポーネントの提供: 会社ロゴや共通のメニューなど、テンプレートとなるアプリを用意することで、品質の標準化と開発効率の向上が図れます。

  • セキュリティポリシーの徹底: AppSheetのセキュリティフィルタ機能 (USEREMAIL()など) を用いたアクセス制御は必須です。誰がどのデータにアクセスできるかを厳密に定義し、定期的に見直す体制を構築します。

  • 利用状況のモニタリング: AppSheetの監査ログ(Audit History)を活用し、アプリの利用状況やエラー発生状況を定期的に監視します。XIMIXでは、この監査ログをGoogle CloudのBigQueryにエクスポートし、Looker Studioで可視化・分析する高度なモニタリング体制の構築も支援しています。 これにより、利用頻度の低いアプリの棚卸しや、エラーの予兆検知が可能になります。

「攻めの運用」:継続的な改善と活用の高度化

保守・運用は、単なる現状維持活動ではありません。

  • 定期的な見直し会の実施: 半年に一度など、関係者(ユーザー代表、開発者、情シス)が集まり、アプリの価値や課題を議論する場を設けます。

  • AppSheet最新情報のキャッチアップ: AppSheetは日々進化しています。新機能をキャッチアップし、既存アプリの改善に活かせないか検討する姿勢が重要です。

  • アジャイルな改善サイクル: 小さな改善要望に迅速に応え続けることで、ユーザーの満足度と信頼を維持します。これは、DXプロジェクトを成功に導くアジャイル思考そのものです。

関連記事:

AppSheet保守・運用の外部委託(SIer) 賢いパートナーの選び方

社内リソースだけで対応が難しい場合、外部パートナーへの委託は有効な選択肢です。しかし、パートナー選びを間違えると、コストだけがかかり期待した効果が得られない結果になりかねません。

以下の基準で、信頼できるパートナーを見極めましょう。

  • AppSheetの専門性と実績: AppSheetに関する深い知識はもちろん、どれだけ多くの企業の開発・運用を支援してきたか、具体的な実績を確認しましょう。

  • Google Cloud / Workspaceへの知見: AppSheetはGoogle Cloudの一部です。データソースとなるスプレッドシートやBigQuery、認証基盤となるGoogle Workspaceなど、周辺技術も含めた包括的な提案ができるかは、極めて重要な選定基準です。

  • 伴走支援の姿勢: 単なる請負開発(下請け)ではなく、お客様の内製化を促進し、最終的には自走できるよう支援してくれる「伴走型」のパートナーであるかを見極めましょう。

  • ガバナンス設計の知見: アプリを一つ作るスキルだけでなく、全社展開を見据えた運用ルールやガバナンス体制の構築を支援できるコンサルティング能力があるかを確認します。

XIMIXによるAppSheet保守・改修支援サービス

私たちXIMIXは、Google CloudおよびGoogle Workspaceの正規パートナーとして、AppSheetの導入から開発、そして本記事で解説した保守・運用体制の構築、ガバナンス設計、内製化支援まで、一気通貫でご支援しています。

  • 社内のAppSheet専門人材が不足している

  • アプリが増えすぎて管理が行き届かない

  • 属人化を解消し、全社的なガバナンスを効かせたい

  • Google Cloudと連携した、より高度なアプリ活用を実現したい

このような課題をお持ちでしたら、ぜひ一度XIMIXにご相談ください。多くの企業様のDX推進をご支援してきた豊富な実績と、Google テクノロジーに精通した専門家が、お客様のビジネスに最適な保守・運用体制の実現を力強くサポートします。

XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
XIMIXのGoogle Cloud 導入支援についてはこちらをご覧ください。

まとめ

本記事では、AppSheetで開発したアプリの価値を最大化するための、保守・改修(運用)について網羅的に解説しました。

AppSheetは誰でも簡単にアプリを開発できる強力なツールですが、その真価は継続的な運用によってのみ発揮されます。場当たり的な管理から脱却し、組織としてAppSheetを育てていくための体制とルールを構築することが、DX成功の分水嶺となります。

この記事を参考に、まずは自社の現状を把握し、「誰が」「何を」「どのように」管理していくのか、小さな一歩からでも検討を始めてみてください。そして、専門家のサポートが必要だと感じられた際には、いつでも私たちXIMIXにお声がけください。


AppSheetアプリの保守・改修ガイド【入門編】:担当者と進め方の基本を解説

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