AppSheetアプリの保守・改修ガイド【入門編】:担当者と進め方の基本を解説

 2025,05,19 2025.05.19

はじめに

近年、業務効率化やDX推進の切り札として、Google のノーコード開発プラットフォーム「AppSheet」を活用する企業が増えています。直感的な操作でビジネスアプリケーションを迅速に構築できるAppSheetは、現場部門主導のDX(市民開発)を力強く後押しします。

しかし、手軽にアプリを開発できる一方で、「開発したアプリを誰が、どのように保守・改修していくのか?」という課題に直面するケースも少なくありません。特に、初めてAppSheetを導入された企業や、専任のIT担当者がいない部門では、この点が大きな懸念事項となるでしょう。

本記事では、AppSheetで開発したアプリの保守・改修というテーマに焦点を当て、以下のような疑問をお持ちのDX推進担当者様や情報システム部門の皆様に向けて、基本的な考え方や進め方を分かりやすく解説します。

  • AppSheetアプリの保守・改修は、なぜ重要なのか?
  • 保守・改修作業は、誰が担当するのが適切なのか?(開発者自身、情報システム部門、外部パートナーなど)
  • 具体的に、どのような流れで保守・改修を進めれば良いのか?
  • 保守・改修を効率的に行うためのポイントは?

この記事を通じて、AppSheetアプリの持続的な活用と価値最大化に向けたヒントを得ていただければ幸いです。

AppSheetアプリにおける保守・改修の重要性

AppSheetで開発したアプリも、他の業務システムと同様に、開発して終わりではありません。ビジネス環境の変化、業務プロセスの変更、利用ユーザーからのフィードバック、あるいはAppSheet自体のアップデートなど、様々な要因によってアプリの修正や機能追加(改修)が必要になります。

保守とは、主にアプリの安定稼働を維持するための活動を指します。具体的には、AppSheetの仕様変更への対応、データソースとの連携確認、軽微なバグ修正、セキュリティアップデートへの追従などが含まれます。これらを怠ると、アプリが突然動かなくなったり、情報セキュリティ上のリスクが生じたりする可能性があります。

一方、改修は、アプリの機能改善や機能追加を目的とした活動です。ユーザーの利便性向上、新しい業務要件への対応、パフォーマンス改善などが該当します。適切な改修を行うことで、アプリはより使いやすく、業務への貢献度も高まります。

AppSheetアプリの保守・改修を継続的に行うことは、以下の観点から非常に重要です。

  • 業務継続性の確保: アプリの安定稼働により、業務が滞るリスクを低減します。
  • ユーザー満足度の向上: 使い勝手の改善や新機能の追加により、利用者の満足度を高めます。
  • 投資対効果の最大化: 開発したアプリを長く活用し続けることで、初期投資の回収と継続的な価値創出に繋がります。
  • DX推進の持続性: AppSheetを活用したDXの取り組みを一時的なもので終わらせず、組織全体に浸透させるために不可欠です。

特に、AppSheetのようにアジャイルに開発・改善を繰り返せるプラットフォームでは、定期的な見直しと改善がその真価を発揮する鍵となります。

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AppSheetアプリの保守・改修は誰が担当するべきか?

AppSheetアプリの保守・改修を誰が担うかは、企業の規模、ITリソースの状況、アプリの重要度や複雑性などによって最適な形が異なります。主な担当者のパターンと、それぞれのメリット・デメリットを見ていきましょう。

①開発者自身(個人または内製チーム)

AppSheetの大きな特長の一つは、プログラミングの専門知識がない業務部門の担当者でもアプリを開発できる「市民開発」を促進する点です。そのため、最初にアプリを開発した人がそのまま保守・改修も担当するケースは少なくありません。

  • メリット:
    • アプリの仕様や業務背景を最もよく理解しているため、迅速な対応が期待できる。
    • 軽微な修正であれば、外部に依頼する手間やコストがかからない。
    • 現場のニーズを直接反映しやすい。

  • デメリット:
    • 担当者の異動や退職により、保守・改修が困難になる「属人化」のリスクがある。
    • 担当者が本来の業務と兼務する場合、保守・改修に十分な時間を割けない可能性がある。
    • 複雑な改修や大規模な変更に対応できるスキルが不足している場合がある。
    • ドキュメントが整備されにくい傾向がある。

向いているケース: 比較的小規模でシンプルなアプリ、担当者が固定されておりスキルも有している場合。

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情報システム部門

企業の情報システム部門が、AppSheetアプリも含めた社内システムの保守・運用を一元的に管理するケースです。

  • メリット:
    • システム運用に関する専門知識や経験が豊富。
    • 全社的な視点でのガバナンスやセキュリティポリシーを適用しやすい。
    • ドキュメント作成やバージョン管理など、標準化された運用が期待できる。
    • 属人化のリスクを低減できる。

  • デメリット:
    • 現場の業務詳細やアプリ開発の経緯の理解に時間がかかる場合がある。
    • 多数のシステムを管轄している場合、AppSheetアプリへの対応リソースが限られる可能性がある。
    • 市民開発のスピード感や柔軟性が損なわれる場合がある。

向いているケース: 複数の部門でAppSheetが利用されている、全社的なITガバナンスが重視される、アプリの重要度が高い場合。

外部の専門家・SIer(システムインテグレーター)に委託

AppSheetの開発・運用に関する専門知識を持つ外部のパートナー企業に、保守・改修業務を委託する方法です。

  • メリット:
    • AppSheetに関する高度な専門知識や最新情報を活用できる。
    • 社内リソースが不足している場合でも、安定した保守・改修体制を確保できる。
    • 客観的な視点からの改善提案や、より高度な機能開発が期待できる。
    • 契約に基づいたサービスレベルでの対応が期待できる。

  • デメリット:
    • 外部委託費用が発生する。
    • 社内にノウハウが蓄積しにくい場合がある。
    • 委託先とのコミュニケーションや情報共有が重要になる。

向いているケース: 社内に専門知識を持つ人材がいない、より高度な改修や技術サポートが必要、コア業務に集中したい場合。

初期は開発者自身や情報システム部門が担当し、アプリの数が増えたり、より高度な運用が求められるようになった段階で、外部の専門家のサポートを検討するというパターンも有効です。

AppSheetアプリの保守・改修をどのように行うべきか? 基本的な流れとポイント

AppSheetアプリの保守・改修をスムーズに進めるためには、基本的な流れと押さえるべきポイントがあります。ここでは、入門者向けに分かりやすく解説します。

1. 現状把握と課題整理

まず、対象となるAppSheetアプリの現状を正確に把握し、保守・改修が必要な箇所や課題を明確にします。

  • ユーザーからのフィードバック収集: 利用者からの要望、不具合報告、改善提案などを集めます。「使いにくい」「こういう機能が欲しい」といった声は貴重な情報源です。
  • アプリの動作確認: 定期的にアプリが正常に動作しているか、データ連携に問題はないかなどを確認します。
  • 利用状況の分析: AppSheetの監査ログや利用統計機能(利用可能な場合)を活用し、どの機能がよく使われているか、どこでエラーが発生しやすいかなどを分析します。
  • 課題のリストアップと優先順位付け: 収集した情報をもとに、対応すべき課題をリストアップし、緊急度や重要度に応じて優先順位を付けます。

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2. 保守・改修計画の策定

課題と優先順位が明確になったら、具体的な保守・改修計画を立てます。

  • 対応範囲とゴールの設定: 今回の保守・改修で何を目指すのか、どこまで対応するのかを明確にします。
  • 具体的な作業内容の洗い出し: どのような修正や機能追加を行うのか、具体的な作業ステップを検討します。
  • 担当者とスケジュールの決定: 誰がいつまでに作業を行うのかを決めます。
  • 影響範囲の確認: 改修によって他の機能や連携しているシステムに影響が出ないか確認します。特にデータ構造の変更などは慎重な検討が必要です。

3. 設計・開発(修正・機能追加)・テスト

計画に基づいて、実際の修正作業や機能追加を行います。

  • AppSheetエディタでの作業: AppSheetの編集画面で、データソースの変更、ビューの調整、アクションの追加、セキュリティ設定の見直しなどを行います。
  • テスト環境での検証 (推奨): 可能であれば、本番環境とは別にテスト用のアプリを用意し、そこで修正内容を十分に検証します。AppSheetにはアプリのコピー機能があるため、これを活用できます。
  • 単体テスト・結合テスト: 修正した箇所だけでなく、関連する機能や全体の動作に問題がないかを確認します。
  • ユーザー受け入れテスト (UAT): 実際に利用するユーザーに新しいバージョンを試してもらい、フィードバックを得ます。

4. デプロイ(展開)と運用保守

テストで問題がないことが確認できたら、修正・改修内容を本番環境に反映(デプロイ)します。

  • デプロイ手順の確認: AppSheetでは、アプリのバージョン管理機能やデプロイ設定を利用して、安全に新しいバージョンをユーザーに展開できます。
  • ユーザーへの周知: 改修内容や変更点をユーザーに事前に通知し、必要であれば操作マニュアルを更新します。
  • デプロイ後のモニタリング: デプロイ後もアプリが安定して動作しているか、予期せぬ問題が発生していないかを注意深く監視します。
  • 継続的な保守: バグ修正、AppSheetのアップデートへの対応、パフォーマンス監視などを継続的に行います。

5. ドキュメント整備の重要性

AppSheetアプリの保守・改修において、意外と見落とされがちですが非常に重要なのがドキュメントの整備です。

  • アプリ設計書: どのような目的で、どのような機能を持つアプリなのか。データ構造、主要なビュー、アクション、セキュリティ設定などを記録します。
  • 改修履歴: いつ、誰が、どのような目的で、何を修正・変更したのかを記録します。これにより、問題発生時の原因究明や、将来の改修時の参考になります。
  • 操作マニュアル: ユーザー向けの利用方法をまとめた資料です。改修に合わせて更新します。

これらのドキュメントは、担当者が変わった場合のスムーズな引き継ぎや、将来的なアプリの拡張性を担保する上で不可欠です。AppSheetは直感的に開発できる反面、複雑なロジックを組むと後から見返した際に理解が難しくなることもあります。コメント機能などを活用しつつ、設計思想や変更点を記録しておくことを強く推奨します。

AppSheetアプリの保守・改修を効率化するポイント

最後に、AppSheetアプリの保守・改修をより効率的に、そして持続可能なものにするためのポイントをいくつかご紹介します。

①AppSheetの機能を最大限に活用する

AppSheetには、保守・改修作業を助ける機能が備わっています。

  • バージョン管理: アプリの変更履歴を保存し、必要に応じて過去のバージョンに戻すことができます。安心して改修作業を進める上で重要な機能です。
  • 監査ログ: アプリの利用状況やエラー発生状況などを記録する機能です。問題の原因特定や利用状況の分析に役立ちます。(プランによって利用可否あり)
  • アプリのコピー: 既存のアプリを複製して、テスト環境や開発環境として利用できます。

これらの機能を理解し、活用することで、保守・改修の負担を軽減できます。

②シンプルな設計を心がける

開発当初から、保守・改修のしやすさを意識したシンプルな設計を心がけることが重要です。

  • データ構造の正規化: 適切にテーブルを分割し、冗長なデータを減らすことで、データの整合性を保ちやすく、改修時の影響範囲も限定的になります。
  • 命名規則の統一: テーブル名、カラム名、アクション名などに一貫した命名規則を適用することで、後から見返した際の可読性が向上します。
  • 複雑すぎるロジックの回避: 一つのアクションや数式に多くの処理を詰め込みすぎると、理解や修正が困難になります。可能な範囲で処理を分割することを検討しましょう。

③定期的な見直しと改善サイクルを回す

一度開発したアプリも、定期的に見直しを行い、継続的に改善していくことが大切です。

  • 利用状況の定期的なチェック: 半年に一度、一年に一度など、定期的にアプリの利用状況やユーザーからのフィードバックを確認する機会を設けます。
  • 小さな改善の積み重ね: 大きな改修だけでなく、日々の小さな改善要望にも耳を傾け、迅速に対応することで、ユーザーの満足度を維持しやすくなります。
  • AppSheetの最新情報のキャッチアップ: AppSheetは頻繁にアップデートされ、新機能が追加されます。これらの情報をキャッチアップし、アプリの改善に活かせないか検討しましょう。

XIMIXによるAppSheet保守・改修支援サービス

ここまで、AppSheetで開発したアプリの保守・改修の重要性、担当者の考え方、具体的な進め方について解説してきました。実際に自社でこれらの体制を整え、運用していく中で、

  • 「AppSheetの専門知識を持つ人材が社内に不足している」
  • 「開発したアプリの数が増えてきて、管理が行き届かなくなってきた」
  • 「より高度な機能を実現したいが、自社だけでは難しい」
  • 「全社的なAppSheet活用推進のためのガバナンス体制を構築したい」

といった新たな課題やお悩みが生じることもあるかと存じます。

私たちXIMIXは、Google CloudおよびGoogle Workspaceの正規パートナーとして、AppSheetの導入支援から、アプリ開発、そして今回ご紹介した保守・運用サポート、さらには内製化支援コンサルティングまで、お客様の状況やニーズに合わせた包括的なサービスを提供しております。

多くの企業様のDX推進をご支援してきたXIMIXの豊富な実績と、Google Cloud技術に精通した専門スタッフが、お客様のAppSheet活用を力強くバックアップいたします。AppSheetアプリの保守・改修でお困りの場合や、さらなる活用をご検討の場合は、ぜひお気軽にXIMIXにご相談ください。お客様のビジネスに最適なソリューションをご提案させていただきます。

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まとめ

本記事では、AppSheetで開発したアプリの保守・改修について、その重要性から担当者の考え方、具体的な進め方、そして効率化のポイントまで、入門者向けに解説しました。

AppSheetは手軽にアプリを開発できる強力なツールですが、その価値を最大限に引き出し、持続的に活用するためには、適切な保守・改修体制を構築し、運用していくことが不可欠です。

今回の内容を参考に、まずは自社の状況に合わせて、誰が、どのようにAppSheetアプリの保守・改修を担っていくのかを検討し、小さなステップからでも実践してみてください。そして、もし専門家のサポートが必要だと感じられた際には、ぜひXIMIXまでお声がけいただければ幸いです。

この記事が、皆様のAppSheetを活用したDX推進の一助となれば幸いです。


AppSheetアプリの保守・改修ガイド【入門編】:担当者と進め方の基本を解説

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