【入門】ノーコード・ローコード・スクラッチ開発の違いとは?DX推進のための最適な使い分けと判断軸を解説【Google Appsheet etc..】

 2025,05,01 2025.07.01

はじめに

企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)が経営の中核課題となる現代において、その実現を支えるシステム開発手法は「ノーコード」「ローコード」「スクラッチ開発」へと多様化しています。しかし、選択肢が増えたことで、かえって「自社のプロジェクトに最適な手法はどれか?」という新たな問いに直面しているご担当者様も多いのではないでしょうか。

特に、既存システムとの連携や高度なセキュリティ、将来の事業拡大を見据える中堅〜大企業にとって、開発手法の選択はDXプロジェクトの成否を分ける極めて重要な経営判断です。

  • 自社の複雑な要件を満たせるのは、どの開発手法なのか?

  • 開発スピード、コスト、そして品質。このトレードオフをどう判断すれば良いのか?

  • 将来のビジネス変化に柔軟に対応できるシステムを構築したいが、何から検討すべきか?

本記事では、このような課題意識を持つDX推進担当者や決裁者の皆様に向けて、3つの主要な開発手法を徹底比較。それぞれの基本的な違いから、メリット・デメリット、そして最も重要な「自社に最適な手法を見極めるための具体的な判断軸と選定プロセス」まで、専門家の視点から分かりやすく解説します。

この記事が、貴社のDXを加速させるための、戦略的な意思決定の一助となれば幸いです。

なぜ、開発手法の選択が重要なのか?DX推進の現状

現代のビジネス環境は変化のスピードが極めて速く、企業が競争優位性を確立するには、市場や顧客ニーズの変化に迅速に対応し、新たな価値を創出し続ける必要があります。DXの実現にシステム開発は不可欠ですが、従来型のスクラッチ開発だけでは、市場投入までの時間(Time to Market)の短縮や、限られたITリソースの最適化といった現代的な課題に対応しきれない場面が増えています。

この課題を背景に、専門家でない業務担当者でもアプリケーションを開発できる「市民開発」を可能にする、ノーコード/ローコードプラットフォームが急速に台頭しました。これにより、IT部門はより戦略的なコア業務にリソースを集中させつつ、現場主導で業務改善を加速させることが可能になったのです。適切な開発手法の選択は、もはや単なる技術選定ではなく、DXの成果を最大化するための経営戦略そのものと言えるでしょう。

関連記事:市民開発とは?メリットと導入のポイントを詳しく解説【Google Appsheet etc...】

ノーコード開発とは?特徴と適したユースケース

特徴とメリット・デメリット

ノーコード開発とは、その名の通りソースコードを一切記述せず、事前に用意されたコンポーネント(部品)をドラッグ&ドロップなどの直感的な操作で組み合わせ、アプリケーションを構築する手法です。

メリット:

  • 圧倒的な開発スピード: アイデアを即座に形にでき、プロトタイピングや短期間でのツールリリースに最適です。

  • 低コストでの導入: 専門的なエンジニアを必要としないため、開発に関わる人件費を大幅に抑制できます。

  • 現場主導の業務改善: IT部門を介さず、業務を最も理解している現場担当者自身がツールを開発・改善できます(市民開発)。

デメリット:

  • カスタマイズ性の限界: プラットフォームが提供する機能の範囲内でしか実装できず、独自の複雑な要件には対応困難です。

  • 大規模開発への不適合: 処理性能や拡張性に制約があり、全社規模の基幹システムなどには向きません。

  • プラットフォームへの依存: 特定のベンダー製品にロックインされ、将来的な移行や連携が難しくなるリスクがあります。

適したユースケース

  • 定型業務の自動化ツール: 交通費精算、稟議申請ワークフロー、日報管理など。

  • 部門内限定の情報共有アプリ: FAQサイト、備品管理台帳、簡易的な顧客管理リストなど。

  • 新規事業のアイデア検証(プロトタイピング): MVP(Minimum Viable Product)を迅速に構築し、市場の反応をテストする。

  • 一時的なイベント・キャンペーン用アプリ: 短期間のみ使用するアンケートフォームや情報提供サイト。

関連記事:
AppSheetでプロトタイプ開発のススメ:DX推進を加速するメリットと注意点

ローコード開発とは?特徴と適したユースケース

特徴とメリット・デメリット

ローコード開発は、基本的な開発をGUIの操作で行いつつ、必要に応じてコードを追記することで、より高度なカスタマイズを可能にする手法です。ノーコードの手軽さと、スクラッチ開発の柔軟性の「良いとこ取り」と言えます。

メリット:

  • 開発効率と柔軟性の両立: ノーコードより格段に高いカスタマイズ性を持ちつつ、スクラッチ開発より高速な開発を実現します。

  • 高度なシステム連携: APIなどを活用し、既存の基幹システムや外部サービスとの連携が比較的容易です。

  • 開発者の生産性向上: プロの開発者が利用することで、定型的な部分の開発を自動化し、より付加価値の高い作業に集中できます。

デメリット:

  • 一定の技術スキルが必要: 高度なカスタマイズや連携を行うには、プログラミングやAPIに関する知識が求められます。

  • 学習コスト: プラットフォーム固有の開発作法や仕様を習得する必要があります。

  • 完全な自由度はない: スクラッチ開発ほどの完全な自由はなく、プラットフォームの制約を受ける部分も存在します。

適したユースケース

  • 特定の業務領域に特化したシステム: 営業支援(SFA)や顧客管理(CRM)の周辺機能、在庫管理システムなど。

  • 既存システムのフロントエンド改善: レガシーシステムのUI/UXを現代的に改修するインターフェース部分の開発。

  • 複数のデータソースを統合するダッシュボード: 散在するデータを集約し、可視化するアプリケーション。

スクラッチ開発とは?特徴と適したユースケース

特徴とメリット・デメリット

スクラッチ開発は、既存のプラットフォームに依存せず、ゼロから完全にオーダーメイドでシステムを設計・構築する伝統的な開発手法です。

メリット:

  • 無限の自由度とカスタマイズ性: ビジネス要件に合わせて、機能、デザイン、性能のすべてを自由に設計・実装できます。

  • 複雑・大規模な要件への対応力: 企業の競争力の源泉となる、独自の複雑なビジネスロジックや大規模なトランザクション処理に対応可能です。

  • 独自の知的財産の構築: 開発したソフトウェアそのものが、他社にはない競争優位性を持つ資産となります。

  • 技術的な制約からの解放: 特定のプラットフォームに縛られず、最適な技術を自由に選択できます。

デメリット:

  • 長期の開発期間と高額なコスト: 要件定義から設計、開発、テストまで多くの工数と、高度なスキルを持つエンジニアが必要なため、時間も費用もかかります。

  • 高度な専門知識の要求: プロジェクト全体を管理し、品質を担保するための専門的なPM(プロジェクトマネジメント)能力が不可欠です。

  • 仕様変更への対応の難しさ: 開発途中の大きな仕様変更は、手戻りが大きく、コスト増や納期遅延に直結します。

  • 継続的な保守・運用コスト: 技術の陳腐化への対応やセキュリティアップデートなど、維持管理にも専門知識とコストが必要です。

適したユースケース

  • 企業の基幹システム: ERP(統合基幹業務システム)、SCM(サプライチェーン・マネジメント)など、事業の中核を担うシステム。

  • 競争優位性を生むコア・ビジネスシステム: 他社との差別化を図る独自のサービスやプラットフォーム。

  • 厳格な要件が求められるシステム: 金融機関の勘定系システムなど、極めて高いセキュリティやコンプライアンス基準を満たす必要があるもの。

Google Cloud は、Compute Engine や App Engine、Cloud SQL、Spanner といった多様なサービス群を提供し、こうした要求の厳しいスクラッチ開発においても、スケーラビリティと信頼性の高いインフラ基盤として強力に支援します。

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基本編】Google Cloudでできることとは? ビジネス活用事例をわかりやすく解説

【比較表】ノーコード・ローコード・スクラッチ開発の違いが一目でわかる

判断軸

ノーコード開発

ローコード開発

スクラッチ開発

要件の複雑性

中~高

開発スピード

最速

速い

遅い

開発コスト(初期)

カスタマイズ性

低(提供機能の範囲内)

中(コードで拡張可能)

高(制約なし)

拡張性

必要な技術スキル

不要

基本的なIT知識~プログラミング

高度な専門知識

運用・保守の負荷

低(プラットフォーム依存)

高(すべて自社責任)

主な開発者

業務部門(市民開発者)

IT部門、業務部門

IT部門、開発ベンダー

 

最適な開発手法を選ぶための4ステップ・フレームワーク

理論を理解した上で、次に重要になるのが「自社にどう当てはめるか」です。ここでは、意思決定を支援するための実践的なフレームワークを4つのステップでご紹介します。

ステップ1:開発目的と解決したい課題の明確化

まず、「何のためにシステムを作るのか?」という目的を解像度高く定義します。

  • 「特定の定型業務(例:請求書処理)の工数を月50時間削減したい」のか?

  • 「新しい顧客体験を提供する、業界初のWebサービスを立ち上げたい」のか?

目的が業務効率化であればノーコード/ローコードが、競争優位性の創出であればスクラッチ開発が視野に入ります。

ステップ2:システム要件の具体化と複雑性の評価

次に、目的達成に必要な機能(システム要件)を洗い出し、その複雑性を評価します。

  • 機能要件: 必要な機能は標準的なものか?(例:データ入力、承認フロー) 非常に特殊な業務ロジックを含むか?

  • 非機能要件: どの程度のデータ量を扱うのか? 24時間365日の稼働が必須か? 業界特有のセキュリティ準拠が必要か?

要件がシンプルであればノーコード、複雑性が増すにつれてローコード、そしてスクラッチ開発の必要性が高まります。

ステップ3:スピード・コスト・リソースの制約条件の確認

プロジェクトに与えられた制約条件を整理します。

  • スピード: いつまでにリリースする必要があるか? 市場投入の速さが最優先か?

  • コスト: 開発にかけられる初期予算はいくらか? 月々のライセンス費用や保守費用は許容できるか?

  • リソース: 社内に開発経験のある人材はいるか? IT部門の協力は得られるか?

早く、安く」が絶対条件ならノーコード/ローコードが有力です。一方、長期的な価値を重視し、予算とリソースを確保できるならスクラッチ開発も選択肢となります。

ステップ4:ハイブリッドアプローチの検討と中長期的視点

最後に、単一の手法に固執せず、複数の手法を組み合わせる「ハイブリッドアプローチ」を検討します。

  • コアと周辺の分離: 競争力の源泉となる基幹部分はスクラッチで堅牢に構築し、各部門の業務効率化ツールはローコードで迅速に開発する。

  • 段階的開発: まずノーコードでプロトタイプを作成してユーザーの意見を収集し、要件を固めてからローコードやスクラッチで本格開発に着手する。

また、5年後、10年後のビジネスの変化にシステムが追従できるか、という中長期的な視点(拡張性、保守性)を持つことが、持続可能なDXの鍵となります。

XIMIXによるDX推進の伴走支援

ここまで開発手法の選定方法について解説してきましたが、理論と実践の間には多くの壁が存在します。

「自社の業務を客観的に評価し、最適な手法を判断するのは難しい」 「Google Cloud や AppSheet を活用したいが、具体的な開発ノウハウがない」 「開発後の運用や、全社的な内製化をどう進めれば良いか分からない」

このような課題に対し、私たち XIMIX は、Google Cloud と Google Workspace の豊富な知見と多数のDX支援実績に基づき、お客様の「伴走者」としてプロジェクトを成功に導きます。

  • 開発手法選定 お客様のビジネス課題やシステム環境を深くヒアリングし、机上の空論ではない、現実に即した最適な開発アプローチ(ノーコード、ローコード、スクラッチ、あるいはその組み合わせ)をご提案します。

  • Google Cloud / Workspace 開発支援: AppSheet を用いた市民開発の推進から、Google Cloud のPaaS/IaaSを活用した本格的なスクラッチ開発まで、Google テクノロジーを最大限に活用したシステム構築をワンストップでご支援します。

  • 内製化と組織変革のサポート: お客様自身がDXを推進できる組織となるよう、技術トレーニングや開発ガイドラインの策定、ガバナンス体制の構築までトータルでサポートします。

開発手法の選択は、DXのゴールではなく、あくまでスタート地点です。その先のゴールまで確実にたどり着くためのパートナーとして、ぜひXIMIXにご相談ください。

XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
XIMIXのGoogle Cloud 導入支援についてはこちらをご覧ください。

まとめ

本記事では、DX推進に不可欠な3つの開発手法「ノーコード」「ローコード」「スクラッチ開発」について、その違いと最適な使い分けを解説しました。

  • ノーコード開発: 迅速・低コストが魅力。シンプルな業務改善やプロトタイプに最適。

  • ローコード開発: 開発効率とカスタマイズ性のバランスに優れる。ノーコードでは難しいが、スクラッチ開発までする必要のない業務システム向き。

  • スクラッチ開発: 自由度と拡張性が最も高い。企業の競争力の核となる基幹システムや独自サービスに不可欠。

最適な手法を選ぶ鍵は、「目的と要件」「スピードとコスト」「カスタマイズ性と拡張性」といった複数の判断軸を基に、ご紹介した4ステップのフレームワークに沿って総合的に検討することです。

また、単一の手法に固執せず、それぞれの長所を活かすハイブリッドアプローチや、中長期的な視点を持つことが、変化の時代を勝ち抜く持続可能なDXを実現します。

今回の記事が、貴社の開発手法選択の一助となり、DX推進をさらに加速させるきっかけとなれば幸いです。


【入門】ノーコード・ローコード・スクラッチ開発の違いとは?DX推進のための最適な使い分けと判断軸を解説【Google Appsheet etc..】

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