Google Workspace アカウント乗っ取りを防ぐための管理者と従業員のためのセキュリティ対策【入門編】

 2025,05,09 2025.06.23

はじめに

近年、多くの企業で導入が進む Google Workspace は、ビジネスの生産性を飛躍的に向上させる一方、その利便性の裏側で悪意ある第三者によるサイバー攻撃の標的となりやすいという側面も持っています。

「自社のセキュリティ設定は本当に万全だろうか?」 「アカウント乗っ取り対策と言われても、何から手をつければ良いかわからない」

本記事は、こうした課題を抱えるDX推進担当者や情報システム管理者の方々に向け、Google Workspace のアカウント乗っ取りを防ぐための具体的なセキュリティ対策を、「従業員編」と「管理者編」に分けて網羅的に解説します。企業の重要な情報資産を守り、安全なDXを実現するための第一歩として、ぜひご活用ください。

アカウント乗っ取りの現実と企業が負う深刻なリスク

なぜ、Google Workspace のアカウントが執拗に狙われるのでしょうか。その理由は、そこに企業の重要な情報資産が集中しているからです。メール、ストレージ、各種ドキュメントには、顧客情報、財務データ、技術情報など、漏洩すれば事業の根幹を揺るがしかねない情報が詰まっています。

実際にアカウントが乗っ取られた場合、企業は以下のような深刻なリスクに直面します。

  • 機密情報の漏洩: 顧客リストや開発情報が流出し、損害賠償やブランドイメージの失墜に繋がる。
  • 金銭的被害: 経理担当者になりすまして不正送金を指示されたり、ランサムウェアに感染させられたりする。
  • 事業の停止: データが改ざん・削除され、正常な業務遂行が不可能になる。復旧には多大なコストと時間が必要。
  • 信用の失墜と取引停止: セキュリティ体制の不備が露呈し、顧客や取引先からの信頼を失う。
  • 攻撃の踏み台化: 乗っ取ったアカウントから取引先へフィッシングメールが送信され、自社が加害者となってしまう。

独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が発表した「情報セキュリティ10大脅威 2024」においても、「フィッシングによる個人情報等の詐取」や「内部不正による情報漏えい」は依然として組織にとっての大きな脅威として上位に挙げられています。アカウント乗っ取りは、これらの脅威の直接的な原因となりうるのです。

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対策の土台となる3つの基本原則

具体的な設定に着手する前に、組織全体で共有すべきセキュリティの基本的な考え方があります。この土台がしっかりしているかどうかが、対策の実効性を大きく左右します。

①全てを疑う「ゼロトラスト」の概念

従来の「社内ネットワークは安全」という境界型セキュリティは、クラウドの普及した現代では通用しません。「いかなる通信も信頼しない(Never Trust, Always Verify)」というゼロトラストの考え方に基づき、全てのアクセス要求を検証し、権限を最小化することが不可欠です。Google Workspace を利用する上でも、この原則を基本にアクセス制御や認証方法を設計することが求められます。

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②一度きりで終わらない継続的な改善

サイバー攻撃の手口は日々巧妙化し、Google Workspace の機能も常に進化しています。セキュリティ対策は「一度設定すれば終わり」ではありません。最新の脅威情報を収集し、自社の設定や運用体制を定期的に見直し、改善し続ける姿勢が重要です。

③万が一に備えるインシデント対応体制

どれほど万全な対策を講じても、インシデント発生のリスクをゼロにすることはできません。アカウント乗っ取りの疑いが生じた際に、誰が、何を、どのように対応するのか。事前にインシデントレスポンスプランを策定し、報告体制や初動対応の手順を明確化しておくことが、被害の拡大を防ぐ鍵となります。

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【従業員編】全社員が実践すべき必須セキュリティ対策

組織のセキュリティは、システムだけでなく、従業員一人ひとりの意識と行動に支えられています。ここでは、Google Workspace を利用する全ての従業員が取り組むべき基本的な対策を解説します。

①推測されにくい「強力なパスワード」の運用

パスワードは認証の第一関門です。以下のポイントを徹底し、安易なパスワードによる侵入リスクを排除しましょう。

  • 複雑性: 大文字・小文字・数字・記号を組み合わせ、12文字以上の長さを確保する。
  • 独自性: 他のサービスとのパスワード使い回しは絶対に避ける。
  • 管理: 記憶に頼るのではなく、信頼できるパスワードマネージャーを活用する。

近年では、パスワードレス認証を実現するパスキーの利用も広がっています。パスキーは生体認証などを利用するため、フィッシングに強く、より安全な認証方法として注目されています。

②パスワード漏洩に備える「多要素認証(MFA)」の有効化

IDとパスワードだけの認証は、それらが漏洩してしまえば簡単に突破されてしまいます。多要素認証(MFA)は、パスワード(知識情報)に加え、スマートフォンへの通知(所持情報)やセキュリティキーなどを組み合わせることで、本人以外による不正ログインを極めて困難にします。Google Workspace では「2段階認証プロセス」として提供されており、全従業員が必ず有効にすべき必須の機能です。

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③巧妙化する「フィッシング詐欺」への警戒

攻撃者は、実在のサービスや人物をかたって認証情報や個人情報をだまし取ろうとします。特に近年は生成AIの悪用により、極めて自然な文面のフィッシングメールも増えています。

  • 送信元の確認: 見慣れない相手や、普段と違う件名・文面のメールはまず疑う。
  • 安易なクリックの禁止: メッセージ内のリンクや添付ファイルを不用意に開かない。
  • URLの目視確認: リンクにカーソルを合わせ、表示されるURLが正規のドメインか確認する。
  • 迷ったら報告: 少しでも怪しいと感じたら、自己判断せず情報システム部門にすぐ報告・相談する。

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④安全でないWi-Fi環境での業務リスク認識

カフェやホテルなどの公共Wi-Fiは、通信が暗号化されていない場合が多く、通信内容を盗み見される危険性があります。機密性の高い情報を扱う際は利用を避けるか、必ずVPN(仮想プライベートネットワーク)を介して通信を暗号化しましょう。

⑤使用するデバイスとソフトウェアの最新化

利用するPCやスマートフォンのOS、Webブラウザ、セキュリティ対策ソフトは、常に最新の状態を保ちましょう。ソフトウェアの脆弱性を放置することは、攻撃者に侵入経路を与えることと同義です。

【管理者編】組織として講じるべきセキュリティ設定と運用

従業員の意識向上に加え、管理者によるシステム的な統制と継続的な運用が、組織全体のセキュリティレベルを決定づけます。

①利用ルールの基盤となる「セキュリティポリシー」の策定

まず、Google Workspace の利用に関する明確なルール(セキュリティポリシー)を策見し、全社に周知徹底することがスタート地点です。パスワードの強度要件、データの共有範囲、インシデント発生時の報告義務などを明文化し、組織としての統一された基準を設けましょう。

②不正アクセスを困難にする「強力なパスワードポリシー」の強制

管理コンソールから、従業員が設定するパスワードの最低文字数や複雑性(大文字・小文字・数字・記号の使用)を強制できます。安易なパスワードが設定されることをシステム的に防ぎ、セキュリティのベースラインを引き上げます。

③セキュリティの要「多要素認証(MFA)」の利用強制

従業員の任意設定に任せるのではなく、管理者側で多要素認証(2段階認証プロセス)の利用を必須に設定することが極めて重要です。多くの企業様をご支援してきた経験上、この設定を強制化しているかどうかが、セキュリティレベルの大きな分水嶺となります。導入時の混乱を避けるため、設定マニュアルの配布や説明会の実施も併せて行いましょう。

④権限の過剰付与を防ぐ「アクセス権限」の最適化

従業員には、その業務に必要な最低限の権限のみを付与する「最小権限の原則」を徹底します。特に、退職者や異動者のアカウントは速やかに停止・削除する運用フローを確立することが不可欠です。放置されたアカウントは、不正アクセスの温床となります。

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⑤不正の兆候を早期に発見する「ログ監視とアラート」

不審なログイン(深夜や海外からのアクセスなど)や通常と異なる操作を検知するため、アラートセンターやレポート機能を活用したログ監視体制を構築します。これにより、インシデントの兆候を早期に察知し、迅速な初動対応に繋げることができます。何を見るべきか分からない場合は、まず「ログイン監査ログ」や「管理アクティビティログ」から確認を始めるのが良いでしょう。

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⑥情報漏洩リスクを管理する「サードパーティアプリ」の監査

従業員が各自の判断で連携を許可した外部アプリ(サードパーティアプリ)に過剰な権限が付与されているケースは少なくありません。定期的に連携アプリの一覧を監査し、不要なものや信頼性の低いアプリへのアクセス許可を取り消すよう指導、または管理者側で制御する仕組みが必要です。

⑦設定の穴を見つける「定期的なセキュリティ診断」

自社のセキュリティ設定がベストプラクティスに沿っているか、定期的に客観的な視点で評価することが推奨されます。Google が提供する「セキュリティ チェックリスト」の活用はもちろん、より高度な設定項目を含む「セキュリティセンター」での健全性チェックが有効です。

⑧全社の意識を底上げする「継続的なセキュリティ教育」

フィッシング詐欺の手口や社内ルールについて、定期的な教育や擬似訓練を実施することが不可欠です。技術的な対策をすり抜けるソーシャルエンジニアリングへの対抗策は、従業員の知識と意識の向上が最も効果的です。

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高度なセキュリティ対策はパートナーの支援活用も有効

ここまで解説した対策は、Google Workspace のセキュリティを確保するための基本的な項目です。しかし、 「自社の設定が本当に最適化されているか、客観的な評価が欲しい」 「ログ監視やアプリ監査まで、情報システム部門のリソースが足りない」 「より高度なセキュリティ機能(DLP、コンテキストアウェアアクセスなど)を活用したい」 といった課題に直面することも少なくありません。

私たち XIMIX は、Google Cloud および Google Workspace のプレミアパートナーとして、長年にわたり数多くのお客様の導入から運用、セキュリティ強化までをトータルでご支援してまいりました。

豊富な実績を持つ専門家が、お客様の利用状況やビジネス要件を深く理解した上で、現状のセキュリティ診断から最適な設定のご提案、高度な機能の導入支援、継続的な運用サポート、従業員向けトレーニングまで、実践的なサービスを提供します。自社だけで対策を進めることに不安や限界を感じている場合は、ぜひ一度ご相談ください。

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まとめ

本記事では、Google Workspace のアカウント乗っ取りという深刻なリスクから企業の情報資産を守るため、管理者と従業員がそれぞれ実践すべきセキュリティ対策を解説しました。

  • 基本原則: 「ゼロトラスト」を前提とし、対策は「継続的」に行い、万が一の「インシデント対応体制」を準備する。
  • 従業員の対策: 強力なパスワード運用、多要素認証の必須化、フィッシング詐欺への警戒など、日々の業務における高いセキュリティ意識が求められる。
  • 管理者の対策: ポリシー策定、アクセス権限の最小化、ログ監視、そして従業員教育といった、組織的かつシステム的な統制が不可欠。

今日のサイバー攻撃は非常に巧妙化しており、アカウント乗っ取りは決して他人事ではありません。技術的対策と人的対策の両輪で、組織全体のセキュリティレベルを継続的に向上させることが、ビジネスの安全と成長を守る鍵となります。

まずは本記事のチェックリストを参考に、自社で未対応の項目がないかを確認し、着実な一歩を踏み出しましょう。より専門的な知見や支援が必要な際には、お気軽に私たちXIMIXまでお問い合わせください。


Google Workspace アカウント乗っ取りを防ぐための管理者と従業員のためのセキュリティ対策【入門編】

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