はじめに
Google Cloudをはじめとするクラウドサービスの活用がDX推進の鍵となる一方、「クラウドのセキュリティは本当に万全なのか?」「自社の設定ミスで情報漏洩事故を起こさないか?」といったセキュリティへの不安は、多くの企業が抱える共通の課題です。特にクラウド利用経験の浅いご担当者様にとっては、どこから手をつけるべきか分からず、導入の障壁となり得ます。
Google Cloudは、Google自身が利用する極めて堅牢なセキュリティ基盤上で提供されています。しかし、その安全性を最大限に享受するためには、サービス提供者(Google)と利用者(ユーザー企業)の双方がそれぞれの責任を果たす「責任共有モデル」の理解が不可欠です。つまり、Google Cloudが提供する豊富なセキュリティ機能を、利用者が自社のポリシーに合わせて適切に設定・運用することが、安全なクラウド活用の絶対条件なのです。
本記事では、Google Cloudのセキュリティ対策にこれから取り組む方、あるいは現在の対策に不安を感じているDX推進のご担当者様に向けて、「まずやるべき基本対策」から「組織として取り組むべき発展的アプローチ」までを網羅的かつ分かりやすく解説します。
この記事を通じて、Google Cloudセキュリティの確かな第一歩を踏み出し、安心してクラウド活用を推進するための知識を深めていただければ幸いです。
(重要: セキュリティの脅威や技術は常に変化します。本記事では2025年現在の基本的な対策と考え方を解説しますが、最新情報の収集と専門家への相談を継続することを強く推奨します。)
Google Cloudセキュリティの根幹「責任共有モデル」
対策を講じる前に、必ず理解すべきが「責任共有モデル (Shared Responsibility Model)」です。これは、クラウド環境のセキュリティ責任を、クラウド事業者と利用者の間で明確に分担するという、クラウドセキュリティの基本原則です。
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Google Cloudの責任範囲: データセンターの物理的セキュリティ、サーバー・ネットワーク機器といったインフラ、基盤ソフトウェアなどの「クラウドそのもの」のセキュリティは、Googleが責任を持ちます。
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利用者の責任範囲: クラウド上に構築するOS、ミドルウェア、アプリケーション、保存データ、ネットワーク構成(ファイアウォール)、そして誰が何をできるかを管理するアクセス権限(IAM)など、「クラウドの上の部分」については、利用者がセキュリティ対策の責任を負います。
つまり、「Google Cloudを使っていれば自動的に安全」という誤解は禁物です。利用者側での適切な設定と運用こそが、セキュリティレベルを決定づけるのです。
関連記事:
改めて、クラウドセキュリティの「責任共有モデル」とは?自社の責任範囲と対策をわかりやすく解説
まずはここから!Google Cloud 基本セキュリティ対策5選
数あるセキュリティ機能の中から、情報漏洩や不正アクセスといった重大インシデントを防ぐために、まず押さえるべき基本的な対策を5つご紹介します。これらは利用者責任範囲における「必須科目」と言えます。
①アクセス権限を適切に管理する (IAM)
IAM (Identity and Access Management) は、「誰(ID)が、どのリソースに、どのような操作(権限)をできるか」を制御する、セキュリティの要です。設定ミスは深刻なセキュリティインシデントに直結します。
やるべきこと:
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最小権限の原則の徹底: ユーザーやプログラム(サービスアカウント)には、業務遂行に必要な最小限の権限(ロール)のみを付与します。例えば、「データを閲覧するだけ」のユーザーに「編集権限」や「削除権限」を与えてはいけません。
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事前定義ロールの活用: Google Cloudには「コンピューティング閲覧者」「ストレージオブジェクト作成者」など、一般的な役割に応じた権限をまとめた「事前定義ロール」が多数用意されています。まずはこれらを適切に割り当てることから始めましょう。
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カスタムロールは慎重に: 事前定義ロールで要件を満たせない場合に限り、必要最低限の権限を組み合わせたカスタムロールを作成・利用します。
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定期的な権限の見直し: 従業員の異動や退職、プロジェクトの終了に伴い、不要になったアカウントや権限は速やかに削除・変更する運用を徹底します。
【NI+Cの支援ポイント】 中堅〜大企業のお客様では、部署や役職に応じた権限設計が複雑化しがちです。私たちは、お客様の組織構造や業務フローをヒアリングした上で、管理しやすく、かつ最小権限の原則を遵守したIAMポリシーの設計をご支援します。
関連記事:
【入門編】Google CloudのIAMとは?権限管理の基本と重要性をわかりやすく解説
【入門編】最小権限の原則とは?セキュリティ強化とDXを推進する上での基本を徹底解説
②不正アクセスを水際で防ぐ (認証強化)
適切な権限管理とセットで、ユーザー認証の強化が不可欠です。IDとパスワードの漏洩による不正アクセスを断固として防ぎます。
やるべきこと:
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多要素認証 (MFA) の必須化: パスワードに加え、スマートフォンアプリやセキュリティキーなどを組み合わせた認証(MFA)を、特に管理者権限を持つ特権ユーザーに対して必ず有効化します。これは、情報処理推進機構(IPA)が発表する「情報セキュリティ10大脅威」でも常に上位に挙げられる「不正ログイン」への極めて有効な対策です。
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サービスアカウントキーの厳重管理: プログラムがAPIを利用する際に使う「サービスアカウントキー」は、万能の合鍵のようなものです。漏洩は致命的な被害に繋がるため、コードに直接書き込まず、Secret Manager などの専用サービスで安全に管理し、定期的にキーを更新(ローテーション)します。可能な限りキーを使わない認証方法(Workload Identity連携など)への移行を検討しましょう。
③ネットワークの入口を固める (VPCファイアウォール)
外部からの不審な通信を遮断するため、仮想ネットワーク(VPC)レベルでのファイアウォール設定は、城壁の役割を果たします。
やるべきこと:
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デフォルトDenyの原則: 明示的に許可した通信以外は、すべて拒否(Deny)する設定を基本とします。不要なポートは原則としてすべて閉じます。
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必要な通信のみ許可: WebサーバーであればHTTPS(ポート443)、管理用のSSH接続であれば特定のIPアドレスからのみポート22を許可するなど、業務上不可欠な通信プロトコル、ポート番号、送信元IPアドレスの範囲を限定して許可ルールを作成します。
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定期的なルールの棚卸し: システム変更などで不要になったルールが放置されると、それが新たなセキュリティホールになり得ます。定期的にルールを見直し、常に最小限の状態を維持します。
④重要データを確実に保護する (暗号化)
万が一、データが外部に漏れたとしても、その中身を解読されなければ被害を最小限に抑えられます。暗号化はそのための最後の砦です。
やるべきこと:
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保管時の暗号化(Encryption at Rest): Cloud Storageや永続ディスクに保存されるデータは、デフォルトでGoogleが管理する鍵によって暗号化されています。この標準機能が有効であることを基本とし、特別なコンプライアンス要件がなければ、まずはこのGoogle管理の暗号化を信頼しましょう。
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転送時の暗号化(Encryption in Transit): 利用者とGoogle Cloud間、あるいはサービス間のデータ通信は、TLSによって自動的に暗号化されます。ユーザーが独自に構築したアプリケーションにおいても、HTTPS通信を徹底することが重要です。
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【検討】顧客管理の暗号鍵 (CMEK): より厳格なコンプライアンスやセキュリティポリシーが求められる場合、暗号鍵をユーザー自身がCloud KMSで管理する「CMEK (Customer-Managed Encryption Keys)」の利用を検討します。ただし、鍵の管理責任も利用者側となるため、運用体制を考慮した上で導入を判断する必要があります。
⑤何が起きているかを把握し、備える (ログ監査)
セキュリティインシデントの早期発見や原因究明には、操作ログの記録と監視が欠かせません。問題の予兆を捉え、迅速に対応するための基盤となります。
やるべきこと:
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監査ログ (Cloud Audit Logs) の有効化: 「誰が」「いつ」「どのリソースに」「何をしたか」を記録する監査ログは、セキュリティの根幹情報です。特に管理者権限の操作やデータのアクセスに関するログは必ず有効化し、保管します。
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ログの集約と監視 (Cloud Logging): ログは Cloud Logging に集約されます。不正操作の疑いがあるアクティビティ(例: IAMポリシーの意図しない変更、ファイアウォールルールの無効化など)がないか、定期的に確認するプロセスを構築します。
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【推奨】ログベースのアラート設定: 特定の不審なログが記録された際に、担当者に自動で通知するアラートを設定します。これにより、インシデントへの初動対応を大幅に迅速化できます。
セキュリティレベルをさらに引き上げる発展的対策
基本の5項目を押さえたら、次はより高度で包括的なセキュリティ体制の構築を目指します。特に中堅〜大企業においては、これらの対策が不可欠です。
①脅威と脆弱性を一元管理する (Security Command Center)
Security Command Center (SCC) は、Google Cloud環境全体のセキュリティ状況を可視化し、脅威の検出、脆弱性の特定、コンプライアンス遵守状況の確認を一元的に行うためのセキュリティ・ポスチャー管理サービスです。 SCCを活用することで、設定ミスや潜在的なリスクをプロアクティブに発見し、対処することが可能になります。セキュリティ対策の司令塔として、まず有効化を検討すべきサービスです。
②WebアプリケーションとAPIを保護する (Cloud Armor)
WebサイトやAPIを公開している場合、DDoS攻撃やSQLインジェクションのようなWebアプリケーションへの攻撃から保護する WAF (Web Application Firewall) が必須です。Google Cloudでは Cloud Armor がその役割を担い、世界最大級のGoogleのネットワークエッジで脅威をブロックします。
③ゼロトラストアクセスを実現する (Identity-Aware Proxy)
Identity-Aware Proxy (IAP) は、VPNを使わずに、ユーザーのIDとコンテキスト(どのデバイスから、どの場所からアクセスしているか等)に基づいてアプリケーションへのアクセスを制御するサービスです。これにより、「社内ネットワークだから安全」という考え方を排した「ゼロトラスト」セキュリティモデルの実現に貢献します。
関連記事:今さら聞けない「ゼロトラスト」とは?基本概念からメリットまで徹底解説
④機密情報を安全に管理する (Secret Manager)
前述のサービスアカウントキーや、APIキー、パスワードといった機密情報(シークレット)を、コードや設定ファイルに直接記述するのは非常に危険です。Secret Manager を利用してこれらを安全に保管し、IAMと連携してプログラムからのアクセスを厳密に制御しましょう。
⑤データ漏洩を組織レベルで防ぐ (VPC Service Controls)
機密性の高いプロジェクトにおいて、内部関係者による意図しない、あるいは悪意のあるデータ持ち出しを防ぐための強力な機能が VPC Service Controls です。承認されたネットワークやID以外からGoogle Cloudサービスへのアクセスを禁止する境界を作成し、データ漏洩リスクを大幅に低減します。
組織としてセキュリティを維持・向上させるために
ツールや設定だけでなく、組織的な取り組みがセキュリティレベルを決定づけます。
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定期的な設定レビューと脆弱性診断: 一度設定して終わりではなく、ビジネス環境の変化に合わせてIAMポリシーやファイアウォールルールを定期的に見直します。また、Security Command Centerなどを活用して定期的な脆弱性スキャンを実施する体制を構築します。
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クラウド利用に関するセキュリティポリシーの策定: クラウド利用のルールを明確に文書化し、全社で共有します。データの分類基準、アクセス権限の申請・承認フロー、インシデント発生時の報告ルートなどを定めます。
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従業員への継続的な教育: セキュリティポリシーの内容や、新たな脅威に対する意識向上のため、従業員への教育を継続的に行います。DXを推進する上で、全社のセキュリティリテラシー向上は不可欠な投資です。
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インシデント対応体制の構築: 万が一インシデントが発生した際に、誰が責任者となり、どのような手順で調査、復旧、報告を行うのかを定めた「インシデントレスポンスプラン」を準備しておくことが重要です。
関連記事:
【入門編】クラウド利用規定・ガイドライン策定ガイド|進め方から必須項目、注意点まで網羅解説
クラウド時代のインシデント対応計画(IRP) – 押さえておくべき留意点と実践ポイント
XIMIXによる支援サービス:セキュリティの不安を解消し、安全な活用を
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まとめ
本記事では、Google Cloudのセキュリティ対策について、初心者がまず取り組むべき5つの基本から、組織として目指すべき発展的なアプローチまでを解説しました。
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アクセス権限を適切に管理する (IAM)
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不正アクセスを防ぐ (認証強化)
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ネットワークの入口を守る (VPCファイアウォール)
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データを保護する (暗号化)
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何が起きているか把握する (ログ監査)
クラウドセキュリティは「責任共有モデル」に基づき、利用者自身の主体的な対策が成功の鍵を握ります。まずはこれらの基本を確実に押さえ、さらにSecurity Command Centerの活用や組織的な体制構築へとステップアップしていくことが、安全なクラウド活用への王道です。
自社だけでの対策に不安がある場合や、より高度で網羅的なセキュリティ体制を迅速に構築したい場合は、どうぞお気軽に専門家である私たちにご相談ください。
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