クラウド導入におけるフィジビリティスタディとは?重要性と実践ガイド【入門編】

 2025,05,13 2025.06.25

はじめに:クラウド導入の「第一歩」で成否が決まる理由

デジタルトランスフォーメーション(DX)が企業の持続的成長に不可欠となる中、クラウド活用はその中核をなす取り組みです。しかし、クラウド導入は「魔法の杖」ではありません。事前の計画や評価が不十分なままプロジェクトを進めた結果、期待した効果を得られず、コストや運用負荷だけが増大するケースは後を絶ちません。

「自社に最適なクラウドは何か?」「導入効果をどう説明すれば、経営層の承認を得られるのか?」「潜在的なリスクをどう回避すればよいのか?」

こうした課題に対し、クラウド導入の成否を分ける極めて重要なプロセスが「フィジビリティスタディ(Feasibility Study:実現可能性調査)」です。本記事では、企業のDX推進を担う決裁者やご担当者様に向けて、フィジビリティスタディの基本から実践的な進め方、成功の鍵までを網羅的に解説します。

クラウド導入の羅針盤「フィジビリティスタディ」とは?

フィジビリティスタディとは、新規プロジェクトの実現可能性を、その計画段階で多角的な視点から調査・分析・評価するプロセスです。クラウド導入においては、プロジェクトを成功に導くための「羅針盤」の役割を果たします。

プロジェクトの実現可能性を多角的に見極める調査

クラウド導入におけるフィジビリティスタディは、単なる技術的な移行可否の判断に留まりません。

  • 経営戦略との整合性: クラウド導入がビジネス目標の達成にどう貢献するのか。
  • 投資対効果(ROI): 必要な投資と、それによって得られるリターンは妥当か。
  • 潜在的リスク: 技術、コスト、セキュリティ、運用体制などにおけるリスクは何か。
  • 業務・組織への影響: 既存の業務プロセスや組織体制にどのような変化が生じるか。

これらの要素を事前に見極めることで、企業は「なぜクラウドを導入するのか」という問いに、明確な根拠を持って答えることができるようになります。

なぜ、フィジビリティスタディが不可欠なのか?

「まずは使ってみる」というアプローチが通用したのは過去の話です。特にシステムが複雑化する中堅・大企業において、フィジビリティスタディを省略することは、大きな経営リスクに直結します。

不十分な準備が招く典型的な失敗例は以下の通りです。

  • コスト超過: 想定外のデータ転送料金や、既存システムとの連携改修費で予算が膨れ上がる。
  • 効果の形骸化: 明確な目的や効果測定の指標がなく、投資に見合うビジネス価値を創出できない。
  • 技術的負債の発生: 既存システムとの互換性問題やパフォーマンス不足が導入後に発覚し、手戻りが発生する。
  • 運用現場の混乱: 新技術を扱える人材がおらず、かえって運用負荷が増大し、管理が属人化する。

フィジビリティスタディは、これらのリスクを未然に防ぎ、客観的なデータに基づいた合理的な意思決定を可能にします。これにより、経営層や関連部門への説明責任を果たし、プロジェクトへの理解と協力を得やすくなるのです。

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クラウド導入におけるフィジビリティスタディの実践ガイド

フィジビリティスタディは、一般的に以下の4つのステップで進められます。これは、プロジェクトを体系的かつ効率的に推進するための基本的なフレームワークです。

ステップ1:準備・計画

フィジビリティスタディ自体の「計画」を立てるフェーズです。目的やスコープが曖昧なままでは、調査が迷走してしまいます。

  • 目的と範囲の明確化: 「全社的なクラウド活用方針の策定」なのか、「特定業務システムの移行可否判断」なのか、目的を具体的に定義します。調査対象とする業務、システム、期間もここで定めます。
  • 体制の構築: プロジェクトオーナー、リーダーを任命し、関連部門(情報システム、業務、経営企画、法務など)から担当者を選任します。必要に応じて、私たちのような外部の専門家の活用も検討します。
  • 情報収集計画の策定: ヒアリング、アンケート、既存資料の分析など、必要な情報を「誰から」「どのように」収集するかの計画を立てます。

ステップ2:現状調査・分析

定義した範囲に基づき、現状(As-Is)を客観的かつ定量的に把握します。この精度が、後続のステップの質を大きく左右します。

  • IT資産の棚卸し: サーバー、ネットワーク等のインフラ構成やコスト、アプリケーションの機能、ライセンス契約などを詳細に調査します。
  • 業務プロセスの可視化: 対象業務の流れ、課題、関連部署を明確にし、クラウド化による影響範囲を特定します。
  • コスト分析: ハードウェア保守費、ソフトウェアライセンス費、運用人件費、データセンター費用など、現状のITコストを正確に算出します。
  • 要件の整理: 業界特有の規制や社内規程など、遵守すべきセキュリティ・コンプライアンス要件を洗い出します。

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ステップ3:クラウドソリューションの検討・評価

現状分析の結果と導入目的を基に、最適なクラウドソリューション(To-Be)の候補を多角的に評価・選定します。

  • サービスモデルの選定: IaaS、PaaS、SaaSの中から、目的に合ったモデルやその組み合わせを検討します。
  • プロバイダーの比較検討: Google Cloud をはじめ、主要なクラウドプロバイダーのサービス、料金、セキュリティ、サポート体制などを比較します。現在では、生成AI活用のための基盤(例: Vertex AI)やデータ分析基盤(例: BigQuery)の優位性も重要な比較ポイントです。
  • 各種評価の実施: 技術、経済、運用、リスクの観点から実現可能性を評価します(詳細は次章で解説)。

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ステップ4:報告・意思決定

調査・分析・評価の結果を報告書にまとめ、経営層や関係者の意思決定を促します。

  • 報告書の作成: 調査の背景と目的、現状分析、評価結果、ROI分析、リスク評価、そして推奨する実行計画案などを、誰が読んでも理解できるように分かりやすくまとめます。
  • プレゼンテーション: 報告書に基づき、関係者への説明会を実施します。質疑応答を通じて疑問や懸念を解消し、プロジェクト推進の合意形成を図ります。

このプロセスを経て初めて、企業は自信を持って「クラウド導入を推進する」という、根拠のある経営判断を下すことができるのです。

主要な評価項目:何をどのような観点で評価すべきか?

フィジビリティスタディでは、以下の4つの観点から網羅的に評価を行うことが不可欠です。

①技術的実現性:既存システムとの連携やセキュリティは万全か

  • 互換性・連携: 既存システムはクラウドと連携可能か。改修が必要な場合、その難易度やコストはどの程度か。
  • データ移行: 大量のデータを安全かつ計画通りに移行できるか。業務停止時間は許容範囲内か。
  • パフォーマンスと拡張性: クラウド上で期待する性能を確保できるか。将来のビジネス成長に対応できる拡張性はあるか。
  • セキュリティ: クラウド事業者が提供する機能と自社のポリシーは整合するか。遵守すべきセキュリティ要件を満たせるか。

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②経済的実現性:投資対効果(ROI)をどう試算するか

  • コストの試算(TCO): 初期費用(設計・構築、移行)と運用費用(サービス利用料、人件費)を合わせた総所有コスト(TCO)を算出します。
  • コスト削減効果: ハードウェア購入費や運用保守費など、クラウド化によって削減が期待できるコストを具体的に見積もります。
  • 投資対効果(ROI): 上記のコストと削減効果に加え、ビジネスの俊敏性向上や新たな価値創出といった「定性的効果」も加味して、投資の妥当性を評価します。経営層を納得させるには、このROIの明確化が極めて重要です。

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③運用的実現性:導入後の体制や業務プロセスは回るか

  • 運用体制とスキル: クラウド環境を運用・保守する体制は構築できるか。必要なスキルセットを持つ人材はいるか。不足している場合、どのように育成・確保するか計画します。 
  • 業務プロセスへの影響: クラウド導入による業務フローの変更点と、それに対する現場の対応準備は十分か。
  • 障害対応: 万一の障害発生時の対応プロセスや、事業継続計画(BCP)は明確か。

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④法的・コンプライアンス的実現性:法規制や契約条件はクリアできるか

  • データガバナンス: データの保管場所が、国内外の法規制(個人情報保護法、GDPRなど)や業界のガイドラインに準拠しているか。
  • 契約内容の精査: クラウド事業者とのSLA(サービス品質保証)や責任分界点が、自社の要求水準を満たしているか。
  • 監査対応: 内部・外部監査に対応できるログ管理やアクセス制御が可能か。

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フィジビリティスタディを成功に導く3つの鍵

精度の高いフィジビリティスタディを実施し、プロジェクトを成功に導くためには、いくつかの重要なポイントがあります。

鍵1:目的の明確化と関係者の巻き込み

最も重要なのは、「何のためにクラウド化するのか」という目的をプロジェクトの最初に定義し、関係者間で共有することです。情報システム部門だけでなく、実際にクラウドを利用する事業部門や経営層を早期から巻き込むことで、多角的な視点を取り入れ、全社的な協力体制を築くことができます。

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鍵2:客観的データとスモールスタートの活用

意思決定は、感覚ではなく客観的なデータに基づいて行うべきです。コスト比較は具体的な金額で、性能評価は具体的な数値目標で行うことで、計画の説得力は格段に向上します。 また、大規模システムでリスク判断が難しい場合は、特定の業務に絞って効果を検証する「PoC(Proof of Concept:概念実証)」やスモールスタートが有効です。小さく始めることで、リスクを最小限に抑えながら、技術的な実現性や費用対効果を具体的に検証できます。

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鍵3:外部の専門知識の活用

2025年現在、クラウド技術は急速に進化しており、自社のリソースだけですべてをキャッチアップし、最適な判断を下すことは容易ではありません。実際、米Gartner社の調査でも、クラウド戦略の策定におけるスキル不足が、多くの企業の課題として指摘されています。

このような状況では、経験豊富な外部の専門家やパートナーの知見を活用することが、成功への近道となります。客観的な第三者の視点を取り入れることで、社内では見過ごされがちなリスクの発見や、より高度なソリューションの検討が可能になります。

XIMIXが提供する支援

私たちXIMIX(株式会社NI+C)は、Google Cloud のプレミアパートナーとして、数多くのお客様のDX推進を、その黎明期からご支援してまいりました。その豊富な実績とノウハウを基に、お客様の状況に合わせた最適なフィジビリティスタディの実行を強力にサポートします。

  • 最適なクラウド戦略策定: NI+Cの多様な業界における導入実績に基づき、お客様のビジネス目標達成に最も貢献する Google Cloud の活用戦略やロードマップ策定をご支援します。
  • PoC(概念実証)支援: 小規模な実証環境の構築から、具体的な効果検証、評価までをトータルで伴走支援し、確実な意思決定をサポートします。

フィジビリティスタディは、お客様のDX戦略における重要な第一歩です。クラウド導入の検討段階で課題をお持ちの企業様は、ぜひ一度XIMIXにご相談ください。

XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
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まとめ:確実なクラウド導入は、精度の高いフィジビリティスタディから

本記事では、クラウド導入を成功に導く鍵となる「フィジビリティスタディ」の重要性、進め方、成功のポイントを解説しました。

最後に、この記事の要点を再確認しましょう。

  • フィジビリティスタディは、クラウド導入の実現可能性を技術・経済・運用・法務など多角的に評価する不可欠なプロセスです。
  • 実施することで、失敗リスクを低減し、客観的データに基づく合理的な意思決定が可能となり、経営層や関係者の合意形成を促進します。
  • 進め方は、「準備・計画」「現状調査・分析」「ソリューション検討・評価」「報告・意思決定」の4ステップが基本です。
  • 成功の鍵は、「明確な目的の共有」「関係者の巻き込み」「客観的データとスモールスタートの活用」、そして「外部専門知識の活用」にあります。

クラウド導入は、もはや単なるITインフラの刷新ではありません。ビジネスモデルそのものを変革し、新たな競争力を生み出す原動力です。そのポテンシャルを最大限に引き出すためにも、まずは精度の高いフィジビリティスタディから始めてみてはいかがでしょうか。


クラウド導入におけるフィジビリティスタディとは?重要性と実践ガイド【入門編】

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