「グリーンIT」とは?導入・運用において、企業が取り組むべき実践ガイド

 2025,05,27 2025.11.07

はじめに:なぜ、グリーンITが「待ったなし」の経営課題なのか

現在、企業経営を取り巻く環境は大きな転換点を迎えています。世界的なカーボンニュートラルへの潮流、不安定なエネルギー価格高騰に加え、ここ数年で急速に進展した生成AIの爆発的な普及は、データセンターの電力需要をかつてないレベルで押し上げています。

これらの要素は、ITインフラのあり方を根本から見直すことを企業に迫っています。

このような背景から、ITの活用を通じて環境負荷の低減を目指す「グリーンIT」は、もはや単なる社会貢献活動(CSR)の一環ではありません。企業の競争力と持続可能性(サステナビリティ)を左右する「経営戦略そのもの」へと進化しました。

しかし、DX推進や経営企画を担う決裁者の方々からは、「何から手をつければ良いのか分からない」「具体的なコスト削減効果が見えにくい」「生成AIの活用と環境負荷はトレードオフではないか?」といったお話も多く伺います。

この記事では、中堅〜大企業の皆様へ向けて、グリーンITの本質的な意味から、具体的な実践ロードマップ、そしてGoogle Cloudのような先進技術をいかに活用し、事業成長と環境貢献を両立させるかまで、網羅的かつ具体的に解説します。

グリーンITの基本:2つの側面と企業が享受する4つのメリット

まずは、グリーンITの定義と、なぜ今、企業が最優先で取り組むべきなのかを明確に理解しましょう。

グリーンITとは?「Of Green」と「By Green」の視点

グリーンITとは、IT自体の環境負荷を低減する取り組み(Green of IT)と、ITを活用して社会全体の環境負荷を低減する取り組み(Green by IT)の2つの側面を持つ概念です。

  • Green of IT(IT自体のグリーン化: ITインフラや機器そのものの環境負荷を直接的に削減する活動です。

    • データセンターの省エネ化(高効率な冷却、再生可能エネルギーの利用)

    • サーバーの仮想化・統合による物理サーバー台数の削減

    • 省電力なPCやネットワーク機器の導入

    • IT機器のライフサイクル管理(リサイクル、適正廃棄)

  • Green by IT(ITによるグリーン化:ITを「ツール」として活用し、あらゆるビジネスプロセスや社会活動における環境効率を高める活動です。

    • ペーパーレス化(電子契約、ワークフローシステム)による森林資源の保護

    • リモートワーク推進による通勤・移動エネルギーの削減

    • AIによるエネルギー需要予測の最適化(工場の空調制御など)

    • スマートファクトリーによる生産効率向上と資源ロスの削減

企業の持続的成長のためには、この「Green of IT」と「Green by IT」の両輪を戦略的に回すことが、真のグリーンIT推進の鍵となります。

なぜ取り組むべきか?企業価値を高める4つの戦略的メリット

グリーンITは、コストや手間がかかるだけの取り組みではありません。むしろ、将来にわたって企業に多くの戦略的メリットをもたらします。

① 環境規制と社会からの要請への対応

各国で環境規制は年々強化されており、日本でも企業の温室効果ガス(GHG)排出量削減が強く求められています。投資家はESG(環境・社会・ガバナンス)の観点から企業を厳しく評価し、対応の遅れは資金調達にも影響を与えかねません。また、顧客や取引先も環境配慮型の製品やサービスを選ぶ傾向が強まっており、サプライチェーン全体での脱炭素対応は事業継続のための必須要件となりつつあります。

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② エネルギーコストの劇的な削減

ITインフラ、特にオンプレミスで運用されるデータセンターやサーバー群は「電気の大食らい」です。サーバーの集約・仮想化や、エネルギー効率の極めて高いパブリッククラウドサービスへ移行することは、電力消費量を大幅に抑制し、高騰を続ける電気料金という直接的なコスト負担を軽減します。これは、短期的に最も効果を実感しやすいメリットです。

③ 企業価値・ブランドイメージの向上

サステナビリティへ積極的に取り組む姿勢は、顧客、投資家、そして従業員といった全てのステークホルダーからの信頼を獲得し、企業価値(ブランドイメージ)を向上させます。特に、環境意識の高い優秀な人材を惹きつける「採用ブランディング」においても、今や不可欠な要素です。

④ 新たなビジネス機会の創出

グリーンITを通じて培った省エネ技術や環境負荷の可視化ノウハウは、それ自体が新たな環境配慮型サービスの開発や、サステナビリティ市場への参入機会を生み出す可能性があります。自社の取り組みをソリューションとして外部に提供することも夢ではありません。

何から始める?企業が実践すべきグリーンIT導入ロードマップ

グリーンITを効果的に進めるには、計画的なアプローチが不可欠です。ここでは、現実的かつ効果的な4つのステップを提案します。

ステップ1:現状把握と目標設定(As-Is / To-Be)

最初の最重要ステップは、自社のITインフラがどれだけの環境負荷を生んでいるかを「可視化」することです。

  • 電力消費量の測定: オンプレミスのサーバー、ストレージ、ネットワーク機器ごとの消費電力を(可能であれば)実測または推計します。

  • CO2排出量の算出: クラウドを利用している場合、ベンダーが提供する排出量可視化ツールを活用します。例えば、Google Cloudには「Carbon Footprint」というツールが標準提供されています。これにより、利用中のサービスごと、プロジェクトごと、リージョン(地域)ごとに、どれだけの温室効果ガス(GHG)排出量が発生しているかをダッシュボードで正確に把握できます。

  • KPIの設定: このような可視化データを基に、「2030年までにITインフラのCO2排出量をXX%削減する」「クラウド利用におけるカーボンフリーエネルギー比率をX%向上させる」といった具体的な目標(KPI)を設定します。SBT(Science Based Targets)などの国際的な基準を参考にすることも有効です。

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ステップ2:ITインフラの最適化(Green of ITの実践)

目標が決まったら、ITインフラそのもののグリーン化に着手します。最大の効果が期待できるのが、クラウドの戦略的活用です。

①オンプレミス環境の見直し

  • サーバーの仮想化と統合: 稼働率の低い物理サーバーを仮想環境に集約します。物理サーバーを仮想化した場合、消費電力を大きく削減できるケースも珍しくありません。

  • 省エネルギー機器へのリプレース: サーバーやネットワーク機器を更新する際は、エネルギー効率を示すスペック(例: 80 PLUS認証)を必ず確認し、省電力なモデルを選定します。

  • ライフサイクル管理: IT機器の調達から運用、廃棄に至る全段階で環境負荷を考慮します。リサイクルや適正な処分が可能なベンダーを選定することも重要です。

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②クラウドへの移行と最適化

個々の企業がオンプレミスで実現するよりも、はるかに効率的で環境負荷の低いITインフラを共同利用できるのが、パブリッククラウドの最大のメリットです。

  • Google Cloudへの移行: Googleは2007年からカーボンニュートラルを維持し、2030年までには100%カーボンフリーエネルギーでの事業運営を目指しています。Googleの超高効率なデータセンターへシステムを移行するだけで、多くの場合、ITインフラのカーボンフットプリントを大幅に削減(ゼロに近づけることも)可能です。

  • 生成AI時代におけるクラウドの重要性: 特に、莫大な計算リソースと電力を消費する生成AIの活用においては、インフラの選択が環境負荷に直結します。エネルギー効率に優れた専用チップ(TPU:Tensor Processing Unit)を有し、AIの学習・推論プロセスにおいても再生可能エネルギーの利用を最大化しているGoogle Cloudの優位性は、今後ますます際立っていくでしょう。

  • 低炭素リージョンの選択: Google Cloudでは、利用するデータセンターのリージョン(地域)を、カーボンフリーエネルギーの比率(CFE%)に基づいて選択できます。

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ステップ3:業務プロセスのグリーン化(Green by ITの推進)

ITをツールとして活用し、日常業務に潜む環境負荷を削減します。これは全従業員が参加できる取り組みです。

  • ペーパーレス化の徹底: Google Workspaceのようなコラボレーションツールを活用すれば、稟議書や契約書、会議資料などを根本から電子化できます。Google ドライブでの資料共有や電子署名サービスの導入は、紙の消費だけでなく、印刷や保管に関わるコストとエネルギーも削減します。

  • 働き方の変革: リモートワークやハイブリッドワークを推進することで、従業員の通勤に伴うエネルギー消費を削減できます。これも立派なグリーンITの一環です。

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ステップ4:データとAI活用による高度な環境貢献

データ分析やAIを活用することで、より高度で広範な環境負荷低減が可能になります。

  • エネルギー需要の最適化: 工場やビルの電力消費データをBigQueryのようなデータ分析基盤で分析し、AIを用いて需要を予測。空調や生産設備の稼働を最適化し、無駄なエネルギー消費を防ぎます。

  • サプライチェーンの効率化: サプライチェーン全体のデータを分析し、輸送ルートの最適化や需要予測の精度向上を図ることで、物流におけるCO2排出量削減に貢献します。

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グリーンIT導入の具体的な例

理論だけでなく、実際に企業がどのようにグリーンITを推進しているのか、具体的な例(業種・課題・施策・効果)を見ていきましょう。

例1:製造業A社

  • 課題: 老朽化したオンプレミスサーバー群の電力消費と運用コストが増大。取引先からの環境対応要請も強まっていた。

  • 施策: 基幹システムの一部を除く情報系システムを全面的にGoogle Cloudへ移行。同時にGoogle Workspaceを全社導入し、ペーパーレス化を断行。

  • 効果: サーバー運用にかかる電力消費量を削減。Google Cloudの「Carbon Footprint」により、移行前後の排出量を定量的に把握し、ステークホルダーへの報告にも活用。紙の使用量も削減し、年間数千万円のコスト削減と環境負荷低減を同時に達成した。

例2:小売業B社

  • 課題: 全国多店舗展開により、店舗ごとのエネルギー使用量が把握できず、非効率な運用が常態化。

  • 施策: 各店舗の電力・空調データをGoogle Cloud (BigQuery) に収集・蓄積。AI(機械学習)を用いて店舗ごとの需要予測モデルを構築し、空調や照明の自動最適制御システムを導入。

  • 効果: 無駄なエネルギー消費を徹底的に排除し、全社的なエネルギーコストを約15%削減。需要予測の精度向上により、食品廃棄ロス削減(Green by IT)にも寄与。

グリーンIT導入の壁と成功に導く5つの鍵

グリーンITの導入にはメリットが多い一方、いくつかの課題(壁)も存在します。これらを事前に認識し、対策を講じることが成功の鍵です。

よくある課題

  • 初期投資コスト: 最新の省エネ機器導入やクラウド移行には、初期費用が発生します。

  • スキル・ノウハウ不足: 環境負荷の可視化や、クラウドの最適設計には専門知識が必要です。

  • 効果測定の難しさ: 取り組みによるCO2削減効果や経済的メリットを定量的に評価する仕組みの構築が求められます。

  • 組織の壁: IT部門だけでなく、経営層から現場まで、全社的な理解と協力体制が不可欠です。

成功のための5つの鍵

  1. 強力なトップコミットメント 経営層がグリーンITを「コスト」ではなく「未来への投資」として認識し、経営課題としてその重要性を全社に発信することが全ての始まりです。

  2. スモールスタートと段階的な拡大 全てを一度に進めるのではなく、効果が出やすく着手しやすい領域(例: Google Workspaceによるペーパーレス化、一部システムのクラウド移行)から始め、成功事例を作りながら全社へ展開します。

  3. 費用対効果(ROI)の明確化 初期投資だけでなく、将来的なエネルギーコストの削減額、運用工数の削減、ブランド価値向上といった無形の効果も含めてROI(投資対効果)を試算し、経営層や関連部門の理解を得ます。

  4. 従業員への教育と文化醸成 グリーンITの重要性や、節電、ペーパーレスといった日常業務で貢献できることを全従業員に伝え、意識と行動の変容を促します。

  5. 信頼できる外部パートナーの活用 自社だけでは対応が難しい課題(環境負荷の正確な可視化、クラウドの専門知識)は、専門知識を持つパートナーの支援を積極的に活用します。特にGoogle Cloudのような先進技術の導入・運用では、実績豊富なパートナーとの連携が成功を大きく左右します。

     

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XIMIXの支援

これまで述べてきたように、グリーンITの推進は多岐にわたり、専門的な知見と戦略的なアプローチが求められます。

特に、Google Cloudのような先進的なプラットフォームを最大限に活用し、サステナビリティとビジネス成長を両立させるためには、信頼できるパートナーの存在が不可欠です。

私たちXIMIXは、Google CloudおよびGoogle Workspaceの導入・活用支援における豊富な実績と専門知識を基に、実装、運用改善まで一気通貫でサポートします。

XIMIXが提供する価値

  • Google Cloudを活用した最適なシステム設計・構築: お客様のビジネス要件を満たす、最適なGoogle Cloudのアーキテクチャを設計・構築します。

  • Google Workspaceによる業務プロセスの改革支援: ペーパーレス化やハイブリッドワークの実現を通じて、組織全体の環境貢献(Green by IT)を促進します。

サステナビリティを考慮したIT戦略は、もはや避けては通れない経営課題です。

お客様のビジネスを、より強く、よりサステナブルな未来へ。私たちがその歩みを力強くサポートします。

XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
XIMIXのGoogle Cloud 導入支援についてはこちらをご覧ください。


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