従業員エンゲージメント向上には「間接業務システムのUI/UX向上」が効く

 2025,08,15 2025.08.15

はじめに

「従業員エンゲージメント」を高めるため、人事制度の改革やコミュニケーション施策に注力されている企業は多いでしょう。しかし、多くの従業員が日々直面している「使いにくい社内システム」のストレスが見過ごされてはいないでしょうか。

この記事では、多くの中堅・大企業のDX推進を支援してきた専門家の視点から、従業員エンゲージメント向上のための強力な一手として「間接業務システムのUI/UX(ユーザーインターフェース/ユーザーエクスペリエンス)向上」がなぜ有効なのかを深掘りします。

日々の業務に潜む「小さな非効率」が、いかにして従業員の意欲を削ぎ、経営的な損失に繋がっているのか。そして、Google Cloud / Google Workspaceを活用してこの課題を解決し、従業員と企業の双方にとってプラスの循環を生み出すための具体的な道筋を、実践的な知見を交えて解説します。

なぜ、従業員エンゲージメントが経営の重要課題なのか?

従業員エンゲージメントとは、単なる従業員満足度とは一線を画し、「従業員が企業のビジョンや目標に共感し、自発的に貢献しようとする意欲」を指します。このエンゲージメントの高さが、企業業績に直結することが、数々の調査で明らかになっています。

例えば、米Gallup社の調査では、エンゲージメントの高いチームは低いチームに比べて、収益性が21%、生産性が23%、顧客評価が10%高いという結果が報告されています。国内においても、経済産業省が推進する「DX銘柄」の選定基準に「従業員のエンゲージメント向上」に関する項目が含まれるなど、その重要性は国レベルで認識されています。

労働人口の減少と人材の流動化が加速する現代において、優秀な人材を惹きつけ、その能力を最大限に引き出すことは、企業の持続的成長に不可欠です。従業員エンゲージメントは、もはや人事部門だけの課題ではなく、経営層がコミットすべき戦略的な投資領域なのです。

見過ごされる「間接業務UI/UX」というボトルネック

多くの企業では、顧客向けのサービスや製品のUI/UXには多額の投資が行われる一方で、従業員が日常的に使用する間接業務システム(経費精算、稟議申請、勤怠管理、情報共有ツールなど)のUI/UXは、長年にわたり据え置かれているのが実情です。

中堅・大企業においては、事業の成長過程で導入された複数のシステムが乱立し、それぞれが異なる操作性を持ち、データもサイロ化しているケースが散見されます。その結果、従業員は以下のような「見えないコスト」を日々強いられています。

  • 時間的コスト: 複雑な操作方法の習得や、システム間のデータ手入力、目的の情報が見つからないといった非効率な作業に時間を浪費する。

  • 心理的コスト: 「使いにくい」「反応が遅い」といった日々の小さなストレスが蓄積し、モチベーションの低下や疲弊感に繋がる。

  • 機会損失コスト: 本来注力すべき創造的な業務や、顧客価値の創出に向けられるべきエネルギーが、社内向けの煩雑な作業によって削がれてしまう。

これは、従業員に「会社は自分たちの働きやすさを軽視している」というネガティブなメッセージを与えかねません。ツールのための作業に追われる状況は、エンゲージメントを著しく毀損する大きな要因なのです。

UI/UX改善が従業員エンゲージメントを向上させるメカニズム

間接業務のUI/UXを改善することは、単に「業務が楽になる」というレベルの話に留まりません。それは、従業員の意識や行動にポジティブな影響を与え、エンゲージメントを醸成する強力なドライバーとなります。

①認知負荷の軽減と本質業務への集中

直感的で分かりやすいUIは、操作方法を覚えるといった「作業のための作業」から従業員を解放します。これにより生まれる認知的な余力は、本来の専門性を活かした高度な思考や、新たなアイデアの創出といった、付加価値の高い本質的な業務へと向けられます。

②自己効力感の向上と主体性の醸成

システムをスムーズに使いこなし、業務を自己完結できる体験は、「自分は効率的に仕事を進められる」という自己効力感を育みます。テクノロジーに振り回されるのではなく、テクノロジーを使いこなしているという感覚は、従業員の主体性と仕事へのオーナーシップを醸成します。

③公平性と透明性の担保による組織への信頼

例えば、申請・承認プロセスがシステム上で可視化され、誰でもステータスを即座に確認できる状態は、業務プロセスの公平性と透明性を担保します。こうした体験は、ブラックボックス化された非効率なプロセスへの不満を解消し、組織や経営に対する信頼感を高める効果があります。

Google Workspace/Google Cloudで実現する間接業務UI/UX改革

では、具体的にどのようにして陳腐化した間接業務のUI/UXを改革すればよいのでしょうか。ここで強力な解決策となるのが、多くの従業員が既に慣れ親しんでいるUIを持つGoogle Workspaceと、その柔軟な拡張を可能にするGoogle Cloudの活用です。

ユースケース1:申請・承認業務の効率化と可視化 (AppSheet活用)

紙やExcelベース、あるいは複雑なワークフローシステムで行われている各種申請業務は、プログラミング不要でビジネスアプリケーションを開発できるAppSheetを用いることで、劇的に改善できます。例えば、交通費精算アプリをスマートフォンから数タップで完了できるようにしたり、稟議書の承認状況をリアルタイムで関係者に通知したりすることが可能です。

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ユースケース2:散在する情報への統一的なアクセス (Googleサイト, Cloud Search活用)

社内の各部門に散らばる規程やマニュアル、ナレッジといった情報は、ノーコードで社内ポータルを構築できるGoogleサイトに集約できます。さらに、Cloud Searchを導入すれば、Google Workspace内のデータ(Gmail, ドライブ, カレンダー等)の横断的な検索が可能となり、「探す時間」を限りなくゼロに近づけます。

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ユースケース3:データドリブンな意思決定の支援 (Looker Studio活用)

各システムに蓄積されたデータを、ビジネスインテリジェンス(BI)ツールであるLooker Studioを用いて可視化することで、誰もが直感的に状況を把握できるダッシュボードを構築できます。これにより、勘や経験に頼った意思決定から、データに基づいた客観的な意思決定へとシフトを促します。

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【トレンド】生成AIがもたらすUI/UXのパラダイムシフト (Gemini for Google Workspace活用)

Gemini for Google Workspaceのような生成AIの組み込みは、UI/UXの概念を根底から変える可能性を秘めています。例えば、「先月のAプロジェクトに関する議事録を要約して」と自然言語で指示するだけで、AIがドライブ内を検索し、要点をまとめてくれる。このような体験は、もはや「システムを操作する」という感覚すらなくし、従業員一人ひとりに優秀なアシスタントが付くようなものです。

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間接業務DXを成功に導くための3つの要諦

テクノロジーを導入するだけで、自動的にUI/UXが改善され、エンゲージメントが向上するわけではありません。これまでの支援経験から、プロジェクトを成功に導くためには、特に以下の3つの点が重要であると断言できます。

①「全体最適」の視点を持つリーダーシップ

各部門が個別の課題解決のためにバラバラにツールを導入すると、新たなサイロ化を生み、かえってUI/UXを悪化させる「部分最適の罠」に陥りがちです。経営層やDX推進部門が強いリーダーシップを発揮し、全社的な視点からデータ連携やシステム統合を見据えたグランドデザインを描くことが不可欠です。

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②現場を巻き込むアジャイルなアプローチ

最初から完璧なシステムを目指すウォーターフォール型のアプローチは、現場のニーズと乖離しがちです。まずは特定部門のスモールスタートで小さく始め、現場からのフィードバックを迅速に反映しながら改善を繰り返すアジャイルな進め方が、最終的な成功確率を大きく高めます。

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③テクノロジーの導入で終わらせない「定着化」への投資

どんなに優れたシステムも、使われなければ価値を生みません。導入後のトレーニングや、活用を促すためのコミュニケーション、効果測定と改善のサイクルを回し続ける「定着化」への取り組みこそが、投資対効果を最大化する上で最も重要な要素です。

専門家と共に描く、従業員エンゲージメント向上のロードマップ

ここまで見てきたように、間接業務のUI/UX改革は、単なるITプロジェクトではなく、経営、人事、現場を巻き込んだ全社的な変革活動です。しかし、自社のリソースだけで、全体最適の視点を持ち、最新技術の知見をキャッチアップしながら、現場を巻き込んでいくことには多くの困難が伴います。

私たちXIMIXは、Google Cloud / Google Workspaceの技術的な専門性はもちろんのこと、中堅・大企業の組織課題を熟知したコンサルタントが、お客様の変革パートナーとして伴走します。

現状の業務プロセスやシステム課題を可視化するアセスメントから、全体最適を見据えたDX戦略の策定、AppSheetやGoogle Cloudを活用した具体的なソリューションの実装、そして最も重要な「定着化」までをワンストップでご支援します。

従業員エンゲージメントの向上は、待ったなしの経営課題です。その第一歩として、日々の業務に潜む「使いにくさ」から見直してみませんか? XIMIXが提供するサービスにご興味をお持ちいただけましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。 

XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
XIMIXのGoogle Cloud 導入支援についてはこちらをご覧ください。

まとめ

本記事では、従業員エンゲージメントという経営課題に対し、「間接業務のUI/UX改善」という新たな視点からその解決策と投資対効果を解説しました。

  • 従業員エンゲージメントは、企業の生産性や収益性に直結する経営の最重要課題である。

  • 見過ごされがちな間接業務の劣悪なUI/UXは、従業員の生産性を下げ、エンゲージメントを毀損する「見えないコスト」となっている。

  • UI/UXの改善は、従業員の認知負荷を下げ、自己効力感を高めることで、エンゲージメントを本質的に向上させる。

  • Google WorkspaceとGoogle Cloudは、この課題を解決するための強力なソリューションを提供し、生成AIの活用はその効果をさらに加速させる。

  • プロジェクトの成功には、全体最適の視点、アジャイルなアプローチ、そして「定着化」への投資が不可欠である。

従業員一人ひとりがストレスなく、創造性を最大限に発揮できる業務環境を構築すること。それこそが、これからの時代を勝ち抜くための最も確実な投資と言えるでしょう。


従業員エンゲージメント向上には「間接業務システムのUI/UX向上」が効く

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