複数拠点でGoogle Workspaceをスムーズに運用するための基礎知識

 2025,04,28 2025.10.28

はじめに:複数拠点でのGoogle Workspace運用、その難しさとは?

Google Workspaceは、場所を選ばない働き方を実現し、企業のコラボレーションを促進する強力なクラウドサービスです。しかし、本社、支社、営業所、工場など複数の拠点を持つ企業にとって、その運用は単一拠点のケースとは異なる、特有の難しさを伴います。

情報システム部門のご担当者様や決裁者の皆様は、このような課題をお持ちではないでしょうか?

  • 拠点や部署ごとに、利用できる機能を柔軟に制限したい

  • 本社と各拠点で、管理者の権限を適切に分けたい

  • 全社で統一されたセキュリティポリシーを、どうすれば全拠点に徹底できるのか

  • ユーザー数の増加に伴い、管理業務が煩雑になり、設定ミスが怖い

これらの課題は、数百〜数千人規模の組織になるほど深刻化し、放置すれば利便性の低下や、深刻なセキュリティインシデントにつながるリスクさえあります。

本記事では、複数拠点を持つ中堅〜大企業がGoogle Workspaceを効果的かつ安全に運用するための要点、特に「①組織部門の戦略的設計」「②グループ機能の活用」「③管理者権限の委任」「④サービスごとのポリシー適用」という核となるポイントに焦点を当て、その基礎知識と実践的な考え方を分かりやすく解説します。

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なぜ複数拠点での管理は「難しい」のか?

複数拠点でのGoogle Workspace運用が単一拠点に比べて難しい理由は、主に「全社統制」と「現場の利便性」という、相反する要求のバランスを取る必要があるためです。

拠点ごとのニーズと全社統制のジレンマ

各拠点の業務内容や役割が異なれば、当然Google Workspaceに求める要件も多様化します。

  • 営業部門では、 顧客との円滑な連携のため、外部へのファイル共有を積極的に許可したい。

  • 開発部門では、 機密情報を守るため、外部共有や特定アプリの利用を厳しく制限したい。

  • 特定の支社でのみ、 ウェビナー開催のためにGoogle Meetの録画機能を有効にしたい。

このように、拠点ごとの個別最適を追求すると、全社としての一貫したガバナンスが効かせにくくなります。逆に、全社統制を過度に優先すれば、現場の利便性が損なわれ、業務効率の低下や、管理者の許可なく使われる「シャドーIT」のリスクを招きかねません。

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管理の複雑化が招くセキュリティリスク

管理対象となるユーザー、デバイス、データが地理的に分散し、数が増えるほど、管理は複雑化します。これにより、ヒューマンエラーによる設定ミスや管理漏れが発生しやすくなります。

不適切な権限設定は、意図しない情報漏洩や、悪意ある第三者による不正アクセスの足がかりとなる可能性があります。実際に、大手企業においても、クラウドサービスの設定不備が原因となる情報漏洩事故は後を絶ちません。数百、数千人規模の組織になればなるほど、計画的で体系的な管理体制の構築が不可欠となるのです。

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ガバナンスの基盤:「組織部門」の戦略的設計

これらの課題に対応する第一歩が、Google Workspaceの管理機能の中核である「組織部門」を正しく設計することです。これは、一度設定すると後からの大幅な変更が難しい、最も重要な基盤となります。

組織部門とは?

 

組織部門とは、管理コンソール内で、会社の組織構造(例:本社、支社、部署)に合わせてユーザーをグループ化するための「箱」です。すべてのユーザーは必ずいずれか一つの組織部門に所属し、階層構造を組むことができます。

▼組織部門の階層構造(例)

[会社全体] (最上位の親組織)
├─ [本社]
│ ├─ [営業本部]
│ └─ [管理本部]
└─ [支社]
├─ [大阪支社]
└─ [福岡支社]

なぜ組織部門の設計が最重要なのか?

組織部門を設計する最大の目的は、Google Workspaceの各種設定やポリシー(サービスのON/OFF、共有制限など)を、効率的かつ柔軟に適用する「単位」 を作ることです。

  • 設定の継承による効率化: 上位の組織部門(親組織)の設定は、原則として下位の組織部門(子組織)に自動で引き継がれます。これにより、全社共通のポリシーは最上位で一度設定するだけで済みます。

  • 部署・拠点ごとのポリシー適用: 子組織で個別の設定を行うことで、親組織の設定を上書き(オーバーライド)できます。「本社ではA機能を有効、大阪支社では無効」といった、拠点や部署の実態に合わせた柔軟な制御が可能です。

失敗しないための設計の考え方と実践

組織部門の設計に絶対の正解はありませんが、「どのような単位でポリシー(ルール)を変えたいか」が設計の軸となります。

よくある失敗パターン:

  • 細かく分けすぎる: 実際の人事組織図をそのまま反映し、課やチーム単位まで細分化してしまうケースです。人事異動のたびに組織部門の移動が発生し、管理コンソール上のメンテナンスが非常に煩雑になります。ポリシーが同じであれば、無理に分ける必要はありません。

  • 拡張性を考慮しない: M&Aによるグループ会社の追加や、将来の組織再編を想定していない設計にすると、後で根本から作り直すことになりかねません。

推奨される設計の軸: XIMIXがご支援する中堅・大企業様では、以下の要素を組み合わせて設計することが一般的です。

  1. 物理的な拠点: 支社、営業所、工場など。(例:場所によってアクセス制御を変えたい場合)

  2. 機能別の部署: 営業、開発、人事、経理など。(例:部署によって使うアプリや共有権限を変えたい場合)

  3. 役職や雇用形態: 役員、管理職、正社員、契約社員、インターンなど。(例:雇用形態によって利用できるデータを制限したい場合)

  4. 関連会社: グループ全体で利用する場合。

重要なのは、将来の組織変更にも耐えうる、シンプルで拡張性の高い構造を意識することです。まずは大枠の拠点と主要部署で構成し、ポリシーを分けたい単位が明確になった際に細分化するのが賢明です。

組織部門を補完する「Googleグループ」の戦略的活用

組織部門とよく混同されるのが「Googleグループ」です。複数拠点管理において、この2つを正しく使い分けることが、運用効率を飛躍的に高める鍵となります。

組織部門とグループの決定的な違い

  • 組織部門 (ポリシー適用の箱):

    • 目的: サービス設定やセキュリティポリシーを適用するため。

    • 所属: ユーザーは1つの組織部門にしか所属できない。

    • 特徴: 階層構造を持ち、設定が継承される。

  • Googleグループ (権限付与・通知の束):

    • 目的: メーリングリスト、カレンダーやドライブのアクセス権管理のため。

    • 所属: ユーザーは複数のグループに所属できる。

    • 特徴: 階層構造を持たない(グループの入れ子は可能)。

なぜグループの活用が重要なのか?

例えば、「大阪支社の営業部」という単位でポリシーを適用したい場合、組織部門を [大阪支社] - [営業部] と階層化します。

しかし、ここに「全社横断のプロジェクトA」が発足し、大阪支社営業部のAさん、本社開発部のBさん、福岡支社のCさんが参加したとします。このチーム専用の共有ドライブへのアクセス権を付与したい場合、組織部門では対応できません(3人は異なる組織部門に所属しているため)。

ここで「プロジェクトAグループ」というGoogleグループを作成し、3人を所属させます。そして、共有ドライブの権限をこの「グループ」に対して付与します。これにより、人事異動でAさんが東京本社に異動(組織部門が変更)しても、グループに所属している限り、プロジェクトAのドライブにはアクセスし続けることができます。

このように、ポリシー適用は組織部門、アクセス権管理や通知はグループ、と明確に使い分けることが、柔軟で破綻のない管理体制の秘訣です。

セキュリティと効率を両立する「管理者権限」の委任

組織という「箱」と「束」を用意したら、次に「誰が」「何を」管理できるのかを定義する「権限管理」が重要になります。

管理者権限の種類:特権管理者と役割別管理者

Google Workspaceには、強力な権限から特定の業務に特化した権限まで、様々な「管理者ロール」が用意されています。

  • 特権管理者 (Super Admin):

    • すべての設定を変更できる最強の権限です。

    • 組織に最低1名は必須ですが、この権限を持つアカウントは厳重に管理し、日常業務での使用は絶対に避けるべきです。人数も最小限(推奨2〜3名)に絞り込みます。

  • 役割別の管理者:

    • 「ユーザー管理」「グループ管理」「サービス設定」など、特定の管理タスクのみを実行できる、多数の定義済みロールが用意されています。

セキュリティの鉄則「最小権限の原則」

セキュリティ管理の基本は「最小権限の原則」です。これは、管理者であっても、担当業務の遂行に必要最小限の権限しか付与しないという考え方です。これにより、万が一アカウントが侵害された場合や、操作ミスが発生した場合の影響範囲を最小限に抑えることができます。

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拠点管理者への適切な権限委任と「カスタムロール」

複数拠点を持つ企業では、各拠点に情報システム担当者を置き、日常業務を委任するのが効率的です。この際、特権管理者の権限を渡すのは避けるべきです。

代わりに、業務内容に応じて役割別の管理者ロールを割り当てます。さらに、「カスタムロール」を作成すれば、自社の運用に最適化された権限を柔軟に作成できます。

▼カスタムロールの活用例:拠点管理者 多くの企業で求められる「拠点管理者」には、以下のような権限を組み合わせたカスタムロールを作成し、管理対象を「その拠点の組織部門のみ」に限定して割り当てます。

  • ユーザー管理: パスワードのリセット、アカウント情報の更新

  • グループ管理: 拠点内のメーリングリストの作成・編集

  • デバイス管理: 拠点内で利用されるモバイルデバイスの承認・ワイプ

このように、本社で全社的なポリシーを管理しつつ、各拠点には必要最小限の権限を委任することで、ガバナンスと業務効率の最適なバランスを実現できます。

拠点・部署ごとに最適化するサービス利用ポリシー

組織部門と権限管理の基盤が整ったら、いよいよ具体的なアプリケーションやサービスの設定を、組織部門ごとに最適化していきます。

利用サービスを組織部門ごとにON/OFF制御する

Google Workspaceには多くのサービスが含まれますが、すべての従業員がすべてのサービスを必要とするわけではありません。管理コンソールでは、組織部門ごとにサービスの有効/無効を簡単に切り替えられます。

  • 経理部門では、 電子情報開示とアーカイブのため「Google Vault」を有効にする。

  • 一時的なプロジェクトチームでは、 情報拡散を防ぐため「Google Chat」を無効にする。

  • 新入社員の組織部門では、 慣れるまで一部の高度な機能(例: Marketplaceアプリのインストール)を無効にする。

このように制御することで、ライセンスコストの最適化や、不要なサービス利用によるリスクの低減につながります。

GoogleドライブやGmailの共有・セキュリティ設定を最適化

サービスごとの詳細設定も、組織部門単位で柔軟に変更できます。これは複数拠点運用におけるセキュリティ確保の要です。

  • Googleドライブ: 開発部門では「外部ユーザーとの共有を禁止」し、営業部門では「警告付きで許可」するなど、部署の特性に合わせて共有ポリシーを分ける。

  • Gmail: 全社共通で「不審な添付ファイルのブロック」を強化しつつ、特定の組織部門のみ外部へのメール自動転送を許可する。

  • Google Meet: 全社で録画機能を許可しつつ、特定の機密会議を行う組織部門では録画を禁止する。

【応用編】高度なセキュリティによる拠点管理

さらに高度な管理が求められる場合、以下のような機能を組織部門と組み合わせて活用します。

  • コンテキストアウェアアクセス (CAA): 「どの組織部門のユーザーが」「どのデバイスから」「どのIPアドレス(拠点)から」アクセスしているかに応じて、サービスへのアクセスを動的に制御できます。

  • データ損失防止 (DLP): 組織部門ごとに、ドライブやGmailで「機密情報(例:マイナンバー、クレジットカード番号)が外部共有されていないか」をスキャンし、自動的にブロックまたは警告するルールを設定できます。

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運用を盤石にするための継続的なチェックポイント

初期設定が完了しても、管理は終わりではありません。組織の成長や変化に合わせて、継続的に設定を見直し、監視する体制が不可欠です。

①全社で徹底すべき基本的なセキュリティ設定

拠点や部署に関わらず、全社(最上位の組織部門)で徹底すべきセキュリティ設定があります。

  • 2段階認証プロセスの必須化: 不正アクセス対策の基本です。

  • 強固なパスワードポリシーの設定: 文字数や複雑性の要件を定めます。

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②監査ログの活用による継続的な監視

管理コンソールの監査ログを確認すれば、「いつ」「誰が」「どのような管理操作を行ったか」をすべて追跡できます。

特に、拠点管理者に権限を委任している場合、本社(特権管理者)は定期的にログをレビューし、意図しない設定変更や不審な操作がないかを監視する体制が、内部統制の観点からも極めて重要です。

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高度な課題解決なら、専門家の支援という選択肢を

ここまで、複数拠点でのGoogle Workspace運用における管理ポイントを解説しました。しかし、数百〜数千人規模の組織では、より高度で複雑な課題に直面することも少なくありません。

  • 自社の複雑な組織構造や将来の再編を見据えた、最適な組織部門を設計できない。

  • 拠点や役職ごとに細分化した権限を、カスタムロールでどう設計すれば良いか分からない。

  • 策定した全社セキュリティポリシーを、抜け漏れなくGoogle Workspaceの設定に反映させたい。

  • 情報システム部門の負荷が高く、管理・運用業務の一部をアウトソースしたい。

このような課題は、導入初期の設計が将来の運用効率とセキュリティレベルを大きく左右します。

XIMIXがお手伝いできること

私たちXIMIXは、Google Cloudの認定パートナーとして、多くの中堅・大企業様のGoogle Workspace導入から運用までをご支援してきた豊富な実績とノウハウがあります。

  • 最適な組織・権限設計: お客様の組織構造、業務フロー、ガバナンス要件を深くヒアリングし、「よくある失敗パターン」を回避しながら、拡張性とセキュリティを両立した最適な組織部門・グループ・管理者権限の設計をご提案します。

  • ポリシー策定・適用支援: お客様のセキュリティポリシー策定から、それを実現するための具体的な管理コンソール設定(コンテキストアウェアアクセス等も含む)代行まで、一気通貫でサポートします。

  • 運用代行・サポート: 日常的なアカウント管理や問い合わせ対応など、管理者様の高負荷な業務を代行し、コア業務への集中をご支援します。

Google Workspaceの新規導入はもちろん、既存環境の運用見直しや最適化をご検討の際には、ぜひお気軽にXIMIXにご相談ください。

XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
XIMIXのGoogle Cloud 導入支援についてはこちらをご覧ください。

まとめ:計画的な管理設計で、複数拠点運用を成功に導く

本記事では、複数拠点を持つ企業がGoogle Workspaceを運用する上で不可欠な、4つの基本要素を解説しました。

  1. 組織部門の設計: 会社の構造を反映させ、ポリシー適用の効率的な「単位」を作る。

  2. Googleグループの活用: 組織部門を補完し、アクセス権管理や通知の「束」として使い分ける。

  3. 権限管理の委任: 「最小権限の原則」に基づき、役割に応じた適切な管理権限(カスタムロール)を割り当てる。

  4. サービス設定の最適化: 組織部門ごとに利用サービスやアプリ設定を調整し、利便性とセキュリティを両立させる。

これらの初期設定と継続的な見直しが、複数拠点でのGoogle Workspace運用を成功させる鍵となります。

計画的な管理設計によってGoogle Workspaceのポテンシャルを最大限に引き出し、全社の生産性向上とセキュアなコラボレーション基盤を実現しましょう。


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