マイクロサービス一辺倒の時代は終わったのか
「DXを推進するなら、システムはマイクロサービス化すべきだ」
ここ数年、多くのITセミナーや技術記事で繰り返されてきたこのフレーズは、ある種の「常識」として定着しました。特に巨大テック企業において、マイクロサービスがスケーラビリティと開発スピードを両立させるための「銀の弾丸」として機能したのは事実です。
しかし、現在、その潮流には変化が見られます。先行してマイクロサービスを導入した企業の中から、「運用コストの肥大化」や「トラブルシューティングの困難さ」に直面し、あえてモノリシックなアーキテクチャに回帰する事例が増えているのです。
Amazon Prime Videoの技術チームが、映像監視を行う一部のサブシステムにおいてマイクロサービスからモノリス構成へ移行し、コストを90%削減した事例などは、その象徴的な出来事と言えるでしょう。
なぜ、最先端のアプローチであったはずのマイクロサービスが、足枷となってしまうのでしょうか?
本記事では、数々のモダナイゼーション(システムの現代化)を支援してきた経験から、技術的な流行に流されず、ビジネス価値とROI(投資対効果)を最大化するために「あえてモノリシックアーキテクチャを選択すべき5つの戦略的なケース」について解説します。
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マイクロサービスが招く「分散のコスト」を直視する
マイクロサービスが適さないケースを理解するには、まずその導入によって発生する「見えにくいコスト(Microservice Premium / Tax)」を正しく認識する必要があります。
モノリシックであれば1つのアプリケーションと1つのデータベースで完結していた処理が、マイクロサービスではネットワーク越しの通信になります。これにより、以下の課題が必然的に発生します。
- インフラの複雑化: コンテナ管理(Kubernetes等)の運用負荷増大
- ネットワーク遅延: サービス間通信によるレイテンシの発生
- データ整合性の難易度: 分散トランザクション(Sagaパターン等)の実装工数増
- トラブルシューティングの困難さ: 障害原因の特定に高度な分散トレーシングが必要
これらは「技術力」だけで解決できるものではなく、相応の「組織的な体力」と「コスト」を要求します。これらを踏まえた上で、あえてモノリスを選ぶべき具体的なケースを見ていきましょう。
敢えてモノリシックアーキテクチャを選ぶべき5つのケース
「マイクロサービス化して失敗するプロジェクト」の共通点から逆説的に導き出した、モノリシックの方がビジネスメリットを出せる5つのケースです。
ケース1:新規事業やMVP(実用最小限の製品)開発のフェーズ
新規ビジネスの立ち上げ(0→1)フェーズでは、ビジネスモデルや要件自体が頻繁に変更されます。
この段階でサービス境界を厳密に定義してマイクロサービス化してしまうと、「Aという機能を修正するために、サービスBとCとDのAPI仕様変更とデプロイが必要になる」といった事態が頻発します。これでは、ビジネスのスピード感にシステムが追いつけません。
まずはモノリシックで開発し、市場の反応を見ながらコードベース内でリファクタリングを繰り返す。そして、事業が成長し、特定の機能だけを切り出す必要が出た段階で初めて分割を検討する。これが最もROIの高いアプローチと考えられます。
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ケース2:開発チームの規模が小さい(「2枚のピザ」ルール未満)
Amazonのジェフ・ベゾスが提唱した「2枚のピザ理論(チームは2枚のピザを分け合える人数=10人程度に留める)」は有名です。これはマイクロサービス運用の鉄則でもあります。
マイクロサービスのメリットは「チームごとに独立して開発・デプロイできること」にあります。もし、貴社の開発エンジニアが総勢で10〜20名程度であれば、マイクロサービス化による恩恵よりも、分割されたシステムを維持管理するオーバーヘッドの方が大きくなる可能性があります。
少人数の精鋭チームであれば、モノリシックなコードベースを共有する方が、コミュニケーションコストも低く、開発効率は圧倒的に高くなります。
ケース3:高いパフォーマンスと低遅延が絶対要件である場合
金融取引システムやリアルタイム制御システムなど、ミリ秒単位のレスポンスが求められる領域では、マイクロサービス特有のネットワーク通信(REST APIやgRPC)によるオーバーヘッドが致命的になることがあります。
メモリ内で関数呼び出しだけで完結するモノリシックアーキテクチャは、通信遅延が実質ゼロであり、ハードウェアのリソース効率も高くなります。「クラウドコストの削減」を主目的とする場合、無駄な通信や重複するリソース消費を排除できるモノリス構成の方が有利なケースは少なくありません。
ケース4:業務ドメインが複雑に絡み合っている場合
ECサイトのように「商品カタログ」「カート」「決済」と機能が明確に分かれている場合はマイクロサービスに向いていますが、多くの企業の基幹システム(ERPなど)は、データやロジックが複雑に依存し合っています。
これを無理に分割しようとすると、サービス間で大量のデータを同期する必要が生じたり、データの整合性を保つ仕組みが極めて複雑になったりします。
「無理に分けるくらいなら、堅牢なモノリスとして一元管理し、トランザクションの一貫性を保証する」ほうが、システムの信頼性(Reliability)を担保しやすいのです。
ケース5:組織がDevOpsカルチャーに未成熟な場合
これは技術ではなく組織の問題ですが、最も重要な視点です。
マイクロサービスは、CI/CD(継続的インテグレーション/デプロイ)の自動化や、開発チーム自身がインフラ運用まで責任を持つDevOps文化が前提となります。
もし、貴社の組織が「インフラ構築は申請書ベースで別部署に依頼」「デプロイは月に1回の手動作業」という運用のままであれば、マイクロサービス化はただの「悪夢」になります。
デプロイのたびに複数のチーム間調整が発生し、開発スピードはむしろ低下するでしょう。組織文化の変革が追いついていない場合は、モノリシックの方が安全かつ効率的に運用できます。
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第三の選択肢:「モジュラーモノリス」という現実解
ここまで「モノリシック vs マイクロサービス」の二項対立で語ってきましたが、実は今、その中間のアプローチである「モジュラーモノリス(Modular Monolith)」が、現実的な最適解として注目されています。
「美しいモノリス」を作る
モジュラーモノリスとは、デプロイ単位(実行ファイルやコンテナ)は1つの「モノリス」でありながら、内部のコード構造は機能(モジュール)ごとに綺麗に分割・整理されているアーキテクチャです。
- メリット: ネットワーク通信が発生しないため高速で、インフラ構成もシンプル。
- 将来性: 内部でモジュール間の依存関係が整理されているため、将来的に特定のモジュールだけをマイクロサービスとして切り出すことが容易。
Google Cloudの「Cloud Run」のようなサーバーレス環境とも非常に相性が良く、まずはモジュラーモノリスで構築し、ビジネスの成長に合わせて徐々にマイクロサービスへ移行するという戦略(ストラングラーパターン)こそが、リスクを最小化する賢いモダナイゼーションの手法です。
自社に最適なアーキテクチャを見極めるために
重要なのは、Google CloudやKubernetesといった「技術」から入るのではなく、「解決したいビジネス課題」と「現在の組織能力」から逆算してアーキテクチャを決めることです。
しかし、長年運用してきた既存システム(レガシーシステム)を抱える企業にとって、この判断は容易ではありません。「どこまでを現状維持とし、どこからモダナイズすべきか」「モジュラーモノリスで設計するにはどうすればいいか」の線引きには、客観的な視点と豊富な経験則が必要です。
私たちXIMIXは、お客様のビジネスゴールに合わせた「アーキテクチャ設計」から支援を行っています。
- 現状分析: ビジネス要件と既存システムのギャップ分析
- アーキテクチャ選定: 組織規模に合わせた、モノリス/モジュラーモノリス/マイクロサービスの適材適所の提案
- Google Cloud活用: Cloud RunやGKEを活用した、運用負荷の低いモダンなインフラ構築
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まとめ
マイクロサービスは強力なアーキテクチャですが、それは「目的」ではなく「手段」の一つに過ぎません。組織のフェーズや目的によっては、モノリシックアーキテクチャの方が、コスト・スピード・品質のすべての面で勝るケースがあります。
「流行りの技術」ではなく「自社に勝たせる技術」を選びましょう。もし、現在のシステム刷新プロジェクトでアーキテクチャ選定に迷われているなら、ぜひ一度XIMIXにご相談ください。
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