データ民主化推進の結果、コストが増大してしまった? / クラウド破産を防ぐための対策

 2025,10,03 2025.10.03

はじめに

「全社でデータ活用を推進する」という号令のもとデータ基盤を整備した結果、「クラウド破産」という言葉が頭をよぎるほどの、想定外のコスト増大に直面している──。

これは、DXを推進する多くの企業が直面しかねない、深刻な課題です。 データ民主化は、迅速な意思決定や新たなビジネス価値の創出に不可欠な経営戦略です。しかし、その推進とコスト管理がトレードオフの関係になってしまっては、投資対効果(ROI)の観点からプロジェクトの継続すら危ぶまれます。

本記事は、そうした課題に直面する経営層やDX推進の責任者の方々に向けて、データ民主化を止めずにコストを最適化し、クラウド破産を回避するための新たな羅針盤となる「FinOps」の考え方を解説します。単なるコスト削減のテクニックではなく、データドリブン経営を成功に導くための戦略的アプローチを、Google Cloud環境での実践例を交えて紐解いていきます。

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なぜデータ民主化は「クラウド破産」の引き金となるのか?

データ民主化の推進が、なぜ予期せぬコスト増大に繋がるのでしょうか。多くの企業で共通して見られる原因は、技術的な問題だけでなく、組織的な構造に根差しているケースが少なくありません。

落とし穴1:ガバナンス不在の「自由な」データ活用

最も典型的なパターンは、管理体制が追いつかないまま、各部門にデータアクセスの権限を渡してしまうケースです。利用者はコストを意識することなく、大規模なクエリを頻繁に実行したり、検証目的で作成したリソースを放置したりしがちです。良かれと思って行ったデータ活用が、結果として無駄なコストを積み上げてしまいます。これは、コストに対する当事者意識が利用部門とIT部門で分断されていることに起因します。

落とし穴2:サイロ化したコスト意識

部門ごとにデータ活用の予算を持つようになると、一見コスト意識が高まるように思えます。しかし、各部門が自部門の都合だけでリソースを確保し始めると、全社的には重複したデータストレージや処理系統が乱立し、非効率な状態に陥ります。全社最適の視点が欠如した「部分最適の罠」が、見えないところでコストを膨らませるのです。

落とし穴3:変化に対応できない静的な予算計画

クラウドのコストは、ビジネスの状況に応じて利用量が変動する「変動費」です。しかし、従来のオンプレミス時代と同じように、年次で固定的な予算を組んでいると、ビジネスが急拡大した際や、新たなデータ活用ニーズが生まれた際に、柔軟な対応ができません。結果として、機会損失を恐れて過剰なリソースを確保し続けたり、逆に予算超過を恐れてデータ活用が停滞したりといった事態を招きます。

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コスト削減から「価値最大化」へ:FinOpsという新たな羅針盤

これらの課題を解決するために注目されているのが、「FinOps(Financial Operations)」というアプローチです。

FinOpsとは、「クラウドの財務管理に対する文化的プラクティスであり、組織が最大のビジネス価値を引き出せるように、IT、財務、ビジネスの各チームがデータに基づいた意思決定で協業する運用モデル」と定義されます。

重要なのは、FinOpsが単なるコスト削減(Cost Saving)を目的としていない点です。その本質は、「クラウドへの投資1円あたりの価値を最大化すること」にあります。コストを悪と捉えるのではなく、ビジネス価値を生み出すための「投資」と捉え、その使い方を最適化していく考え方です。これにより、データ民主化のアクセルを緩めることなく、むしろROIを高めながら推進することが可能になります。

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Google Cloudで実践するFinOps:具体的な3つのフェーズ

FinOpsは、概念的なものだけではありません。Google Cloudが提供する豊富なツール群を活用することで、体系的に実践することができます。そのプロセスは、大きく3つのフェーズに分けることができます。

フェーズ1:通知 (Inform) - コストの完全な可視化

全ての最適化は、現状を正確に把握することから始まります。

  • コストの可視化と配賦: Cloud Billing のコスト管理ダッシュボードや Looker Studio を活用し、「いつ」「どのプロジェクトで」「どのサービスに」コストが発生しているかをリアルタイムで可視化します。プロジェクトやラベル機能を駆使して、コストを各事業部門に正確に配賦する仕組みを構築することが、当事者意識を醸成する第一歩です。

  • 異常検知とアラート:  予算アラート機能を設定し、予算の消化ペースが速い場合や、特定のサービスでコストが急増した場合に、関係者へ自動で通知が飛ぶようにします。これにより、問題の早期発見・早期対処が可能になります。

フェーズ2:最適化 (Optimize) - 価値を損なわない効率化

コスト構造を可視化できたら、次はその効率化に取り組みます。

  • リソースの最適化: アイドル状態のリソース(停止中のVMインスタンスや未接続のディスクなど)を検出する Active Assist の推奨事項を活用し、無駄を排除します。また、コンピューティングリソースに対しては、継続利用割引(CUD)や確約利用割引(SUD)を計画的に適用し、コスト効率を最大化します。

  • データ分析基盤のコスト最適化: データウェアハウスである BigQuery では、ストレージとコンピューティングが分離されています。データのパーティション分割やクラスタリングを適切に行い、クエリがスキャンするデータ量を最小限に抑えることが重要です。また、2023年に登場した料金モデル「BigQuery Editions」は、利用状況に応じて柔軟にコンピュート容量を割り当てられるため、より予測可能で効率的なコスト管理を実現します。

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フェーズ3:運用 (Operate) - 継続的な改善サイクル

FinOpsは一度きりのプロジェクトではありません。ビジネスの成長に合わせて継続的に改善していく「文化」です。

  • ガバナンスの自動化: 組織ポリシー を利用して、高価なリソースタイプの利用を制限したり、リソース作成時にコスト配賦に必要なラベル付けを強制したりするなど、コストガバナンスを自動化します。

  • 全社的な文化醸成: 定期的にIT、財務、事業部門が集まり、コストとビジネス価値の関連性についてレビューする会議体を設けます。データ活用がもたらした成果を共有し、次の投資判断に繋げることで、全社でFinOpsの文化を根付かせていきます。

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【応用編】生成AI時代におけるデータ基盤のROI最大化

生成AIの活用はデータドリブン経営の新たなフロンティアとなっています。Vertex AI のようなプラットフォームを活用すれば、社内データを用いた高精度な予測モデルや、業務を効率化するカスタムAIアシスタントを構築できます。

しかし、生成AIの活用は新たなコスト要因にもなり得ます。モデルのトレーニングや推論には相応のコンピューティングリソースが必要です。ここでもFinOpsの考え方が重要になります。単にAIの利用コストを抑えるだけでなく、「生成AIによってどれだけの業務効率化が実現できたか」「どれだけの新たな収益機会が生まれたか」といったビジネス価値を定量的に測定し、TCO(総保有コスト)とROIを評価する仕組みを構築することが、持続的なAI活用には不可欠です。

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データドリブン経営を成功させるための組織的なアプローチ

これまで見てきたように、データ民主化とコスト最適化の両立には、ツールの導入だけでなく、組織横断での協力体制が不可欠です。多くの企業を支援してきた経験から、成功の鍵は、IT部門が単独でコスト管理を担うのではなく、財務部門や事業部門を巻き込んだCCoE(Cloud Center of Excellence)のような専門組織を立ち上げ推進することにあると言えます。

CCoEが中心となり、全社的なクラウド利用のベストプラクティスを策定・展開し、各部門の相談役となることで、ガバナンスとイノベーションを両立させることが可能になります。

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専門家と共に歩む、データ民主化とコスト最適化の両立

FinOpsの導入やCCoEの立ち上げは、企業文化の変革を伴う大きな取り組みです。何から手をつけるべきか、自社に最適なツールや運用方法は何か、判断に迷う場面も多いでしょう。 特に、データ基盤の設計段階からコスト効率を考慮に入れることや、既存の環境に対して客観的なアセスメントを行うことは、高度な専門知識を要します。

このような戦略的な取り組みを確実に推進するためには、外部の専門家の知見を活用することも有効な選択肢です。私たちXIMIXは、Google Cloudのプロフェッショナルとして、数多くの中堅・大企業のデータ基盤構築とコスト最適化を支援してきました。技術的な知見はもちろん、組織的な課題解決までを視野に入れたご支援が可能です。

XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
XIMIXのGoogle Cloud 導入支援についてはこちらをご覧ください。

まとめ

データ民主化に伴うコスト増大は、成長過程で多くの企業が直面する課題です。しかし、それはデータ活用が失敗している証拠ではなく、次のステージへ進むためのサインに他なりません。

本記事で解説した「FinOps」は、コストを制約と捉えるのではなく、ビジネス価値を最大化するための投資として管理する、攻めの財務戦略です。

  • コスト増大の根本原因は、技術だけでなく組織の仕組みにあることを理解する。

  • FinOpsを羅針盤とし、コスト削減から価値最大化へと意識を転換する。

  • Google Cloudのツールを活用し、「通知」「最適化」「運用」のサイクルを回す。

  • CCoEのような推進母体を組織し、全社的な文化として定着させる。

これらのアプローチを通じて、クラウド破産のリスクを回避し、データ民主化のアクセルを最大限に踏み込みながら、持続可能なデータドリブン経営を実現することが可能です。まずは自社のクラウドコストを可視化し、どこに最適化の余地があるのかを把握することから始めてみてはいかがでしょうか。


データ民主化推進の結果、コストが増大してしまった? / クラウド破産を防ぐための対策

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