なぜシステムの運用コストは膨らむのか?Google Cloudで実現するTCO最適化とポイント

 2025,10,10 2025.10.10

はじめに

システム開発プロジェクトが無事に完了し、サービスが稼働を開始したにもかかわらず、「なぜか想定以上に保守・運用のコストがかさんでいる」「IT予算の大部分が既存システムの維持に消えてしまい、新たな戦略的投資ができない」――。多くの企業のDX推進担当者や決裁者の皆様が、このような悩ましい現実に直面しているのではないでしょうか。

本記事では、システム開発完了後に運用コストが膨らんでしまう構造的な原因を、SIerとして多くのお客様を支援してきた視点から深掘りします。

そして、その解決策として、単なるインフラコストの削減に留まらない、Google Cloudを活用したTCO(総所有コスト)の抜本的な最適化と、その実現に向けた重要なポイントを具体的に解説します。この記事を最後までお読みいただくことで、貴社のシステム運用を「コストセンター」から「バリューセンター」へと変革させるための、明確な道筋が見えるはずです。

なぜ、システムの保守・運用コストは想定を超えてしまうのか?

開発が完了したシステムは、本来であれば安定稼働し、ビジネスに貢献し続けるはずです。しかし、時間の経過とともに、見えないコストが雪だるま式に膨れ上がっていくケースは少なくありません。その根本原因は、単一ではなく複合的に絡み合っています。

「見えないコスト」の正体:技術的負債という名の時限爆弾

技術的負債とは、短期的な視点で非効率な設計や場当たり的な改修を繰り返した結果、将来的にシステムの変更や拡張を困難にし、運用コストを増大させる要因のことです。

多くの企業が陥りがちなのは、開発スピードを優先するあまり、将来の運用を見据えた設計が後回しにされてしまうことです。その結果、以下のような問題が発生します。

  • 複雑怪奇なシステム: スパゲッティのように絡み合ったコードやデータ連携は、些細な修正にも広範囲な影響調査を必要とし、人件費を増大させます。

  • 脆弱性の放置: 古いライブラリやフレームワークを使い続けることで、セキュリティリスクが高まり、その対策やインシデント対応に多大なコストが発生します。

  • ドキュメントの不備: 仕様書や設計書が更新されず、システムの挙動が「特定の担当者の記憶」にしか存在しない状態になります。

IPA(情報処理推進機構)の調査においても、国内企業の多くが技術的負債の存在を認識しながらも、具体的な対策に着手できていない現状が指摘されており(出典: IPA「DX白書」)、これは日本企業全体の根深い課題といえます。

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「職人芸」に依存する運用の限界

システムの複雑化は、必然的に運用の属人化を招きます。特定の担当者しか対応できない「ブラックボックス化した業務」が増え、その担当者の不在がビジネスのボトルネックとなるリスクを抱え込みます。

このような「職人芸」に依存した運用体制は、担当者の異動や退職によって容易に崩壊します。ノウハウの継承は困難を極め、新たな担当者の育成にも多大な時間とコストを要することになるのです。

事業スピードにシステムが追いつけない現実

市場の変化はますます速くなり、ビジネスサイドからは次々と新しい機能の追加や仕様変更の要求が寄せられます。しかし、技術的負債を抱え、運用が硬直化したシステムでは、これらの要求に迅速に応えることができません。

結果として、ビジネスチャンスを逃すだけでなく、市場の変化に対応するための改修コストが際限なく膨らみ続け、IT予算全体を圧迫する悪循環に陥ってしまうのです。

対症療法から根本治療へ:運用コスト最適化へのアプローチ

目の前のコスト削減だけを追求する対症療法では、根本的な問題解決には至りません。持続可能なコスト最適化を実現するためには、より俯瞰的な視点からのアプローチが必要です。

TCOの再評価:氷山の一角しか見ていない危険性

サーバー費用やライセンス費用といった直接的なコストは、運用コスト全体の氷山の一角に過ぎません。TCO(Total Cost of Ownership:総所有コスト)の観点では、以下のような間接的なコストも考慮に入れる必要があります。

  • 人件費: 障害対応、手動での定型作業、問い合わせ対応などに費やされる時間

  • 機会損失コスト: システムのパフォーマンス低下や障害によって失われるビジネスチャンス

  • ビジネス俊敏性の低下: 市場の変化に対応できないことによる競争力低下

これらの「見えないコスト」を含めてTCOを正しく評価することが、真のコスト最適化への第一歩となります。

クラウド活用の真価:インフラコスト削減の先にあるもの

クラウド移行は、サーバーなどのハードウェア費用を削減する手段として注目されがちですが、その本質的な価値は別にあります。それは、運用管理の負荷をクラウド事業者に任せ、自社のエンジニアがより付加価値の高い業務に集中できる環境を手にいれることです。

特にGoogle Cloudのようなパブリッククラウドが提供するマネージドサービスや自動化の仕組みを最大限に活用することで、これまで運用に費やしてきた人的リソースを、新たなサービス開発やビジネス改善といった「攻めのIT」へとシフトさせることが可能になります。

SREに見る、運用と開発の融合

SRE(Site Reliability Engineering)は、Googleが自社のサービスを安定的に運用するために提唱した考え方であり、ソフトウェアエンジニアリングのプラクティスをIT運用に適用するアプローチです。

SREでは、手作業による運用業務(トイル)を徹底的に自動化し、サービスの信頼性を定量的な目標(SLO:サービスレベル目標)として設定・管理します。これにより、運用チームと開発チームが共通の目標に向かって協力する文化が生まれ、システムの信頼性向上と運用効率の劇的な改善を両立させることができます。

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Google Cloudが実現する、持続可能なコスト最適化

Google Cloudは、TCOを抜本的に改善し、持続可能なシステム運用を実現するための強力なサービスとツール群を提供しています。

①GKEやCloud Runによる運用負荷の抜本的削減

コンテナ仮想化技術は、アプリケーションのポータビリティを高め、開発から本番環境までの一貫性を保つ上で非常に有効です。Google CloudのGoogle Kubernetes Engine (GKE) やサーバーレス環境である Cloud Run を活用することで、OSのパッチ適用やインフラのプロビジョニングといった煩雑な管理業務から解放されます。

これにより、運用チームはインフラの維持管理ではなく、アプリケーションのパフォーマンス最適化や信頼性向上といった、より本質的な業務に注力できるようになります。

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②Operations Suiteによる可視化と迅速な問題解決

システムの状況を正確に把握できなければ、適切な改善は望めません。Google Cloudの運用スイートである Operation Suite(旧Stackdriver)は、システムのログ、メトリクス、トレースを一元的に収集・可視化する強力な機能を提供します。

これにより、障害の予兆検知や、パフォーマンスボトルネックの特定が容易になり、問題解決に要する時間を大幅に短縮。結果として、運用に関わる人件費を大きく削減できます。

③コスト管理の文化を醸成するFinOpsとGoogle Cloudのツール

クラウドの利用が拡大すると、コスト管理が新たな課題となります。FinOpsとは、財務(Finance)と開発・運用(DevOps)を組み合わせた考え方で、クラウドコストに対する組織的な説明責任と管理体制を構築するプラクティスです。

Google Cloudは、詳細なコスト分析が可能なダッシュボードや、予算アラート、コスト最適化のための推奨事項(Recommender)など、FinOpsを実践するためのツールを豊富に提供しています。これらを活用し、コストを「見える化」することで、組織全体でコスト意識を高め、無駄のないクラウド利用を促進できます。

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④Gemini for Google Cloudによる運用自動化と高度化

生成AIの活用はシステム運用の世界にも大きな変革をもたらしています。Gemini for Google Cloud は、Google Cloudに組み込まれたAIアシスタントであり、運用の各フェーズでエンジニアを強力に支援します。

  • 問題の迅速な特定: 自然言語でシステムログの要約や異常検知を依頼できる。

  • コード生成支援: 運用自動化のためのスクリプトや構成ファイルを自動生成する。

  • コスト最適化の提案: 利用状況を分析し、よりコスト効率の高い構成を具体的に提案する。

このような最新技術を積極的に活用することで、運用業務のさらなる自動化・高度化を実現し、これまでにないレベルでのコスト効率を達成することが可能です。

コスト最適化を成功に導くためのポイント

Google Cloudのような強力なプラットフォームを導入するだけでは、コスト最適化は実現しません。成功のためには、技術と組織の両面からアプローチすることが重要なポイントとなります。

ポイント1:一度きりの移行で終わらせない、継続的な改善サイクル

コスト最適化は、一度実施すれば終わりというプロジェクトではありません。ビジネスの変化や技術の進化に合わせて、常に見直しと改善を続ける必要があります。

前述のSREやFinOpsといった考え方を組織に根付かせ、定期的にTCOを評価し、改善アクションを実行する継続的な改善サイクル(CI/CDならぬCI/CO - Continuous Improvement / Continuous Optimization)を確立することが、長期的な成功の鍵となります。

ポイント2:内製化と外部パートナーの最適なバランス

全ての専門知識を自社で抱えることが、必ずしも最善の選択とは限りません。特に、SREの導入、FinOps文化の醸成、生成AIの活用といった新しい領域においては、専門的な知見と豊富な経験を持つ外部パートナーの活用が成功への近道となる場合があります。

重要なのは、パートナーに丸投げするのではなく、共同でプロジェクトを推進し、その過程でノウハウを自社内に蓄積していくことです。これにより、将来的な内製化への道筋をつけながら、短期間で成果を最大化するという、最適なバランスを実現できます。

XIMIXによるご支援

私たち『XIMIX』は、単にお客様のシステムをGoogle Cloudへ移行するだけのSIerではありません。

お客様のビジネス成長に寄り添い、今回ご紹介したGeminiをはじめとするAI技術の活用など、運用最適化のその先にある「ビジネス価値の最大化」を包括的にご支援します。長年の経験で培ったノウハウを基に、貴社の状況に合わせた最適なロードマップを策定し、継続的な改善サイクルが自走するまで伴走いたします。

現在の保守・運用コストに課題を感じ、より戦略的なIT投資を実現したいとお考えでしたら、ぜひ一度XIMIXにご相談ください。

XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
XIMIXのGoogle Cloud 導入支援についてはこちらをご覧ください。

まとめ

開発完了後に想定外の運用コストに悩まされる問題は、技術的負債や運用の属人化といった根深い課題に起因します。この問題を根本的に解決するには、TCOの視点を持ち、対症療法ではない本質的なアプローチが必要です。

Google Cloudは、GKEやCloud Runといったマネージドサービス、Cloud Operationsによる可視化、そしてGemini for Google Cloudによる運用の高度化を通じて、持続可能なコスト最適化を実現する強力な基盤を提供します。

成功のポイントは、継続的な改善サイクルを組織に根付かせ、必要に応じて外部の専門家の知見を活用することです。この記事が、貴社のシステム運用を「守り」から「攻め」へと転換させる一助となれば幸いです。


なぜシステムの運用コストは膨らむのか?Google Cloudで実現するTCO最適化とポイント

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