サイバー攻撃の標的になりやすい業界・システム・情報とは?決裁者が知るべきリスクと対策の要点

 2025,08,13 2025.08.13

はじめに

「うちは大企業ではないから大丈夫だろう」「機密情報といっても、国家機密レベルのものはない」。もし、そうお考えであれば、その認識は今日のサイバー脅威の実態とは大きく異なっているかもしれません。サイバー攻撃は、もはや特定の巨大企業や政府機関だけの問題ではなく、あらゆる企業活動に潜む経営リスクとなっています。

攻撃者は、事業規模の大小を問わず、目的達成のために最も効率的な経路を狙ってきます。そして、そこには明確に「狙われやすいポイント」が存在します。

本記事では、中堅・大企業のDX推進を担う決裁者の皆様に向けて、以下の点について専門的な知見から分かりやすく解説します。

  • どのような業界、情報、システムが特にサイバー攻撃の標的となりやすいのか

  • なぜ、それらが標的として狙われるのか、その背景にあるビジネス上の理由

  • 脅威から事業を守り、安全なDXを推進するための対策の要点

この記事を最後までお読みいただくことで、自社のリスクレベルを客観的に把握し、次の一手を考えるための具体的なヒントを得られるはずです。

依然として深刻化するサイバー攻撃の現状

独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が発表した「情報セキュリティ10大脅威」によれば、組織向けの脅威として「ランサムウェアによる被害」が数年連続で1位となっています。次いで「サプライチェーンの弱点を悪用した攻撃」「内部不正による情報漏えい」と続いており、攻撃がより巧妙化し、企業の根幹を揺るがす事態に直結していることが伺えます。

ここで重要なのは、これらの攻撃が単発のITインシデントに留まらない点です。事業停止による直接的な損失はもちろん、顧客からの信頼失墜、ブランドイメージの低下、そしてサプライチェーン全体への波及による取引停止など、その影響は計り知れません。もはやサイバーセキュリティは、情報システム部門だけの課題ではなく、事業継続計画(BCP)の中核をなす経営マターなのです。

関連記事:
セキュリティインシデントが発生するとどうなるか?影響範囲を徹底解説、対策不備が招く事業存続の危機とは

サイバー攻撃の標的となりやすい【業界】とその理由

攻撃者は、闇雲に攻撃を仕掛けるわけではありません。そこには「攻撃対効果」、つまりROIの概念が存在します。では、どのような業界が特に狙われやすいのでしょうか。

①製造業:止まらない工場、狙われるサプライチェーン

製造業は、長年にわたりサイバー攻撃の主要な標的です。特に、工場の生産ラインを制御するOT(Operational Technology)システムは、一度停止すると甚大な被害に繋がるため、ランサムウェア攻撃の格好の的となります。

  • 狙われる理由:

    • 事業停止インパクトの大きさ: 生産ラインの停止は、1日あたり数億円規模の損失に繋がるケースも少なくありません。攻撃者は、この「事業を止められない」という弱みにつけ込み、身代金の支払いを強要します。

    • サプライチェーンのハブ: 大手の自動車メーカーや電機メーカーを頂点に、無数の中堅・中小企業が連なる複雑なサプライチェーンを形成しています。セキュリティ対策が手薄な関連会社を踏み台にして、最終的に本丸である大手企業へ侵入する「サプライチェーン攻撃」のリスクが常に存在します。

    • DX推進によるリスク拡大: スマートファクトリー化が進み、従来クローズドだった工場ネットワークがITネットワークやクラウドと接続されることで、攻撃の侵入口(アタックサーフェス)が拡大している点も、近年のリスク増大の要因です。

関連記事:
サプライチェーンセキュリティとは? DXに不可欠な理由と対策、Google Cloud/Google Workspace活用法を解説
【入門編】アタックサーフェスとは?DX時代に不可欠なサイバーセキュリティの要点を解説

②医療・ヘルスケア:人命と機微情報の天秤

電子カルテや医療情報システムが普及した現代において、医療機関もまた深刻な脅威に晒されています。

  • 狙われる理由:

    • 人命への直接的影響: システムが停止すれば、診療や手術が不可能になるなど、人命に直接関わります。この緊急性の高さが、攻撃者にとって有利な交渉材料となります。

    • 極めて機微な個人情報: 患者の病歴や遺伝子情報などは、漏えいした際の影響が計り知れない「機微な個人情報」です。これらの情報は、ダークウェブで高値で取引される傾向にあります。

③金融・保険:金銭と信用の最前線

金銭を直接取り扱う金融機関が標的となるのは自明ですが、その手口は巧妙化しています。

  • 狙われる理由:

    • 直接的な金銭窃取: オンラインバンキングシステムへの不正アクセスや、顧客情報の詐取による不正送金などが典型です。

    • 信用の毀損: 金融機関にとって「信用」は事業の根幹です。わずかな情報漏えいインシデントでも、大規模な顧客離れを引き起こす可能性があります。この「信用の脆弱性」を狙った脅迫も行われます。

④建設・不動産:巨大プロジェクトと関連企業の連鎖

大規模なインフラ開発や都市開発プロジェクトは、多くの関連企業が関与するため、ここでもサプライチェーン攻撃のリスクが高まります。

  • 狙われる理由:

    • 情報集約点としてのリスク: 設計図や入札情報、顧客情報などが一元的に管理されているケースが多く、ここを狙われるとプロジェクト全体に影響が及びます。

    • 協力会社・下請け企業の多さ: プロジェクトには、設計事務所、ゼネコン、専門工事業者など多数の企業が関わります。セキュリティレベルが比較的低い小規模な事業者が攻撃の起点とされるケースが後を絶ちません。

標的となりやすい【情報】と【システム】

業界だけでなく、企業が保有する「情報」や利用する「システム」にも狙われやすい傾向があります。

狙われる情報の種類

  • 個人情報: 氏名、住所、連絡先はもちろん、クレジットカード情報やマイナンバーなど。ECサイトや会員制サービスを持つ企業は常に標的です。

  • 知的財産・技術情報: 製品の設計図、ソースコード、研究開発データ、製造ノウハウなど。競合他社や国家が背後にいる産業スパイ活動の標的となります。

  • 認証情報: IDやパスワード。これを窃取することで、正規の利用者になりすましてシステム内部へ侵入します。

  • 経営・財務情報: 未公開のM&A情報や決算情報。インサイダー取引などに悪用される可能性があります。

狙われるシステムの種類

  • VPN機器: リモートワークの普及で利用が急増しましたが、設定不備や脆弱性を放置したVPN機器は、社内ネットワークへの格好の侵入口となります。

  • リモートデスクトップ(RDP): 設定が不十分なRDPは、外部から簡単にアクセスされ、サーバー乗っ取りの足掛かりにされます。

  • Active Directory(AD): 多くの企業でユーザー認証の基盤となっているADは、攻撃者に掌握されると、ドメイン内のあらゆるシステムへのアクセス権を奪われることになり、被害が甚大化します。

  • クラウド設定の不備: DX推進でクラウド利用が加速する一方、設定ミス(例えば、ストレージの公開設定の誤り)による情報漏えいが多発しています。これは、利便性の裏に潜む新たなリスクと言えるでしょう。

関連記事:
クラウドの設定ミスが招く深刻なリスクとは?原因と今すぐできる対策を徹底解説【入門編】

脅威への対策:経営視点で考えるべきこと

では、これらの脅威に対して、企業はどのように向き合うべきでしょうか。単に高価なセキュリティ製品を導入するだけでは不十分です。

従来型対策の限界と「ゼロトラスト」という考え方

かつてのセキュリティ対策は、社内と社外を明確に分け、その境界線を守る「境界型防御」が主流でした。しかし、クラウド利用やリモートワークが当たり前になった現在、その境界は曖昧になっています。

そこで重要になるのが「ゼロトラスト」という考え方です。「社内ネットワークも信頼しない(Trust No One, Verify Everything)」を前提に、すべてのアクセスに対して正当性を検証することで、たとえ侵入を許したとしても、被害を最小限に食い止めることを目指します。

関連記事:
今さら聞けない「ゼロトラスト」とは?基本概念からメリットまで徹底解説

クラウド活用による高度なセキュリティ対策

DX推進の文脈で導入が進むクラウドプラットフォームは、正しく活用すれば、オンプレミス環境よりも高度なセキュリティを実現する強力な武器となります。特に Google Cloud は、Google 自らが世界最大級の攻撃に耐えうるインフラを基盤としており、企業のセキュリティ強化に大きく貢献します。

  • 脅威インテリジェンスの活用: Google が世界中から収集・分析している最新の脅威情報を活用し、未知の攻撃を早期に検知・防御します。(例: Mandiant の脅威インテリジェンス)

  • セキュリティ態勢の可視化と統制: クラウド環境全体の設定不備や脆弱性を一元的に可視化し、コンプライアンスを維持します。(例: Security Command Center

  • AIによるセキュリティ運用の自動化: 生成AIを活用して、膨大なセキュリティログの分析や脅威への対応を自動化・高速化し、セキュリティ担当者の負担を軽減します。(例: Google Security AI

これらの機能を活用することで、巧妙化・大規模化するサイバー攻撃に対し、よりプロアクティブ(能動的)な防御体制を構築することが可能になります。

関連記事:
なぜGoogle Cloudは安全なのか? 設計思想とゼロトラストで解き明かすセキュリティの優位性【徹底解説】
プロアクティブセキュリティとは?DX時代に不可欠な「先手」のサイバー対策をGoogle Cloud / Workspace 活用と共に解説

成功の鍵はパートナー選びにあり

ここまで解説してきたように、現代のサイバーセキュリティ対策は、多岐にわたる専門知識と継続的な運用が不可欠です。特に、クラウド環境のセキュリティを最大限に活用するには、その特性を熟知した専門家の知見が欠かせません。

多くの企業が直面する課題として、「自社にセキュリティ専門家がいない」「どのソリューションが最適か判断できない」「導入後の運用体制を構築できない」といった点が挙げられます。これらは、技術的な問題だけでなく、組織やリソースの問題でもあります。

このような複雑な課題を解決し、安全なDXを成功に導くためには、信頼できる外部の専門家をパートナーとして迎えることが極めて有効な選択肢となります。自社のビジネスとIT環境を深く理解し、客観的な視点から最適なセキュリティ戦略を共に描いてくれるパートナーの存在が、プロジェクトの成否を分けると言っても過言ではありません。

XIMIXによる支援

私たち『XIMIX』は、これまで多くの中堅・大企業の皆様のDX推進を、Google Cloud と Google Workspace の導入・活用を通じて支援してまいりました。

その豊富な実績の中で培った知見を活かし、お客様のビジネス環境やリスクレベルに応じた最適なセキュリティソリューションをご提案します。

  • セキュリティアセスメント: お客様の現状のセキュリティを客観的に評価し、潜在的なリスクと優先すべき課題を明確化します。

  • Google Cloud セキュリティ設計・導入支援: Security Command Center やゼロトラストソリューション(BeyondCorp Enterprise)など、Google Cloud の先進的なセキュリティ機能を活用した最適な環境を設計・構築します。

  • 運用支援と伴走: 導入後のモニタリングやインシデント対応支援など、お客様のセキュリティチームの一員として継続的にご支援します。

自社のセキュリティ対策に少しでも不安をお持ちでしたら、ぜひ一度、私たちにご相談ください。

XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
XIMIXのGoogle Cloud 導入支援についてはこちらをご覧ください。

まとめ

本記事では、サイバー攻撃の標的になりやすい業界や情報、そしてその背景にある理由を解説しました。

  • 攻撃者は「事業インパクト」と「サプライチェーンの弱点」を狙う

  • 製造業、医療、金融などは、そのビジネスモデル上、特に狙われやすい

  • DX推進に伴い、クラウドの設定不備などが新たなリスクとなっている

  • 対策の鍵は「ゼロトラスト」と、Google Cloud のような先進的なクラウドの活用

  • 自社だけで抱え込まず、専門知識を持つパートナーとの連携が成功への近道

サイバー攻撃は、もはや対岸の火事ではありません。本記事が、皆様の会社の事業継続と成長のためのセキュリティ戦略を見直す一助となれば幸いです。


サイバー攻撃の標的になりやすい業界・システム・情報とは?決裁者が知るべきリスクと対策の要点

BACK TO LIST