はじめに
近年、サイバー攻撃は極めて巧妙化・複雑化し、従来の受動的なセキュリティ対策だけでは企業の情報資産を完全に守ることが困難になっています。ファイアウォールや侵入検知システム(IDS/IPS)を導入していても、それをすり抜ける未知の脅威は後を絶ちません。
このような状況で、セキュリティ対策の新たな標準となりつつあるのが「脅威ハンティング」というプロアクティブなアプローチです。
「言葉は聞いたことがあるが、具体的に何をすべきかわからない」「自社のセキュリティをもう一段階引き上げたいが、何から手をつければ…」 本記事では、こうした課題意識を持つDX推進担当者や情報システム部門の責任者様に向けて、脅威ハンティングの全体像から実践的な進め方、成功の鍵までを網羅的かつ分かりやすく解説します。
脅威ハンティングとは?従来型セキュリティとの違い
脅威ハンティング(Threat Hunting)とは、既存のセキュリティツールが検知できていない潜在的なサイバー攻撃の痕跡を、攻撃者の視点で能動的かつ仮説主導で探し出す、プロアクティブなセキュリティ活動です。
従来のセキュリティ対策が、既知の攻撃パターン(シグネチャ)に基づき「受動的」に脅威を待ち構える「警報システム」だとすれば、脅威ハンティングは、施設内を定期的に巡回し、隠れた侵入者の痕跡を探す「能動的」な「パトロール活動」に例えられます。両者は対立するものではなく、組み合わせることで防御をより強固にする関係にあります。
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従来型対策(受動的): 既知の脅威を自動で検知・ブロックする。
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脅威ハンティング(能動的): 未知・潜伏中の脅威を専門家が探しに行く。
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なぜ今、脅威ハンティングが不可欠なのか
脅威ハンティングが注目される背景には、現代企業を取り巻く深刻な脅威環境があります。
①サイバー攻撃の高度化と潜伏期間の長期化
標的型攻撃(APT)やゼロデイ攻撃に代表されるように、攻撃者は検知を回避する技術を駆使し、一度侵入すると数ヶ月から数年にわたりシステム内に潜伏します。実際に、セキュリティベンダーの調査では、侵入を検知するまでの平均時間(Mean Time to Detect: MTTD)が長期にわたるケースが報告されており、気づかぬうちに被害が深刻化するリスクが高まっています。
②「侵入前提社会」への意識変革
もはや「100%の防御は不可能」であり、「いつ攻撃を受けてもおかしくない」「既に侵入されているかもしれない」という前提(Assume Breach)に立つことが、現代のセキュリティの常識です。この考え方に基づき、侵入された後の発見と対応を迅速化する脅威ハンティングの重要性が増しています。
③DX推進による攻撃対象領域の拡大
クラウド利用、リモートワーク、IoTデバイスの普及といったDXの進展は、ビジネスに利便性をもたらす一方、企業が守るべきIT環境(攻撃対象領域)を複雑化・広範化させました。これにより、攻撃者にとっての侵入口が増え、従来の境界防御だけでは守りきれない状況が生まれています。
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脅威ハンティングがもたらす3つの重要な価値
脅威ハンティングは、企業に具体的にどのようなメリットをもたらすのでしょうか。
①プロアクティブなセキュリティ体制への転換
最大の価値は、セキュリティ体制を「受動的」から「能動的(プロアクティブ)」へと転換できる点です。インシデント発生を待つのではなく、先手を打って脅威の芽を摘むことで、事業継続を脅かすリスクを大幅に低減します。
②インシデント被害の最小化
万が一侵入を許しても、脅威ハンティングによって早期に発見できれば、情報漏洩やランサムウェア被害といった最悪の事態に至る前に対処できます。迅速な封じ込めと復旧により、事業への影響、ブランドイメージの毀損、復旧コストを最小限に抑えます。
③組織全体のセキュリティレベル向上
脅威ハンティングのプロセスを通じて得られる知見(新たな攻撃手法、自社の脆弱性など)は、組織にとって貴重な財産です。この知見をセキュリティ対策にフィードバックすることで、防御・検知・対応の能力が継続的に向上し、組織全体のセキュリティ運用の成熟度が高まります。
脅威ハンティングの基本的な実行プロセス
脅威ハンティングは、一般的に「仮説立案」「調査」「発見」「対応」というサイクルを繰り返します。
①仮説の立案 (Hypothesis Generation)
「どのような攻撃者が、どのような手法で、どの資産を狙うか」という仮説を立てることから始めます。ここで有効なのが、攻撃者の戦術・技術・手順を体系化したフレームワーク「MITRE ATT&CK®」です。自社の環境と最新の脅威トレンドをATT&CKフレームワークに照らし合わせることで、質の高い仮説を立てることができます。
(例)「経理部門を狙い、請求書を装ったメールで侵入し、認証情報を窃取して基幹システムへ横展開する(ラテラルムーブメント)攻撃が発生しているのではないか?」
②情報収集・調査 (Investigation)
仮説を検証するため、関連するログデータを多角的に収集・分析します。ここで中心的な役割を果たすのが、SIEM (Security Information and Event Management) や EDR (Endpoint Detection and Response) といったツールです。これらのツールを用いて、通常とは異なる通信、不審なプロセス実行、異常なアカウントアクセスといった攻撃の痕跡を探します。
③脅威の発見と特定 (Discovery and Identification)
調査によって仮説が裏付けられ、脅威の痕跡(IoC: Indicator of Compromise や IoA: Indicator of Attack)が発見された場合、その詳細を特定します。攻撃の全体像(使用されたマルウェア、影響範囲、攻撃者の目的など)を解明します。
④対応と報告 (Response and Reporting)
発見した脅威を封じ込め、駆除、復旧するインシデント対応を実施します。同時に、活動結果を経営層や関連部署に報告し、得られた知見を防御ルールの改善や脆弱性へのパッチ適用といった恒久対策に繋げます。このサイクルを継続することが重要です。
関連記事:クラウド時代のインシデント対応計画(IRP) – 押さえておくべき留意点と実践ポイント
脅威ハンティング成功の鍵と体制の作り方
脅威ハンティングを成功させるためには、ツール導入だけでなく、人材と体制の構築が不可欠です。
成功に導くためのポイント
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優秀な人材の確保・育成: 攻撃者の思考を理解し、多様なログを読み解く高度なスキルを持つ人材(スレットハンター)が不可欠です。
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適切なツールの活用:膨大なデータを効率的に分析するため、SIEMやEDRの活用は必須です。特に、Google Cloudの「Chronicle Security Operations」のような、ペタバイト級のデータを高速で分析できるプラットフォームは、脅威ハンティングの強力な武器となります。
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最新の脅威インテリジェンス: 新たな攻撃手法や脆弱性に関する情報を常に取り入れ、ハンティングの仮説をアップデートし続ける必要があります。
体制の選択肢: 内製(SOC)か、外部委託(MDR)か?
脅威ハンティングを担う体制には、大きく分けて自社でセキュリティ監視チーム(SOC: Security Operation Center)を構築する「内製」と、外部の専門サービス(MDR: Managed Detection and Response)を利用する「外部委託」があります。
内製 (自社SOC) |
外部委託 (MDR) |
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メリット |
・自社環境への深い理解 |
・高度な専門知識と人材の即時活用 |
デメリット |
・高度なスキルを持つ人材の確保と維持が困難 |
・自社環境の深い理解に時間がかかる場合がある |
どちらが最適かは企業の規模や成熟度によりますが、高度な専門性と24時間体制が求められる脅威ハンティングでは、専門のMDRサービスを活用することが現実的かつ効果的な選択肢となる場合が多いです。
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まとめ
本記事では、脅威ハンティングの基本からその重要性、実践的なプロセス、そして成功のための体制づくりまでを解説しました。
サイバー攻撃が巧妙化し、「侵入されること」が前提となった今、脅威ハンティングはもはや一部の先進企業だけのものではなく、事業継続に不可欠なセキュリティ活動です。未知の脅威を早期に発見し被害を最小化するだけでなく、組織全体のセキュリティレベルを継続的に引き上げる原動力となります。
自社ですべてを内製化することが難しくても、MDRサービスや専門家の支援を適切に活用することで、その第一歩を踏み出すことは可能です。
まずは自社のセキュリティ体制を客観的に評価し、プロアクティブな防御への転換をご検討ください。この記事が、そのきっかけとなれば幸いです。
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