はじめに
近年、サイバー攻撃はますます巧妙化・複雑化しており、従来の受動的なセキュリティ対策だけでは、企業の情報資産を完全に守り切ることが困難になっています。ファイアウォールや侵入検知システム(IDS/IPS)といった境界防御型のセキュリティ製品を導入していても、それをすり抜けてくる脅威は後を絶ちません。このような状況下で、注目度を高めているのが「脅威ハンティング」というプロアクティブなセキュリティアプローチです。
「言葉は聞いたことがあるけれど、具体的に何を指すのか、なぜ重要なのかよく分からない」「自社でも取り組むべきなのだろうか?」といった疑問をお持ちのDX推進担当者や情報システム部門の責任者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
本記事では、脅威ハンティングの基本的な意味合いから、その目的、重要性、そして実施する上でのポイントや注意点について、入門者向けに網羅的かつ分かりやすく解説します。この記事を読むことで、脅威ハンティングの全体像を理解し、自社のセキュリティ戦略を考える上での一助となれば幸いです。
脅威ハンティングとは何か?
脅威ハンティング(Threat Hunting)とは、既存のセキュリティシステムが検知できなかった、あるいはまだ検知されていない潜在的なサイバー攻撃の痕跡を、攻撃者の視点に立って能動的かつ仮説主導で探し出すプロアクティブなセキュリティ活動のことです。
従来のセキュリティ対策が、既知の攻撃パターンやシグネチャに基づいて「受動的」に脅威を検知・ブロックするのに対し、脅威ハンティングは、システム内にすでに侵入しているかもしれない「未知の脅威」や「潜伏している脅威」を「能動的」に発見しようとする点が大きな違いです。
これは、例えるなら、防犯カメラや警報システムを設置して泥棒の侵入を待つだけでなく、定期的に警備員が巡回し、不審な痕跡がないか、隠れている侵入者がいないかを探し出す活動に似ています。
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脅威ハンティングの目的
脅威ハンティングの主な目的は以下の通りです。
- 未知の脅威・潜伏する脅威の早期発見: 自動化されたセキュリティツールが見逃してしまう可能性のある、高度な攻撃や未知のマルウェア、内部不正の兆候などを早期に発見し、被害を未然に防ぐ、あるいは最小限に抑えます。
- インシデント対応能力の向上: 攻撃者の手口や侵入経路、影響範囲などを詳細に調査することで、インシデント発生時の迅速かつ的確な対応を可能にします。
- セキュリティ対策の継続的な改善: ハンティング活動を通じて得られた知見(新たな攻撃手法、脆弱性など)を既存のセキュリティ対策にフィードバックし、防御体制を強化します。
- 攻撃対象領域の理解深化: 自社のIT環境における弱点や、攻撃者にとって魅力的なターゲットとなりうる箇所を特定し、より効果的な予防策を講じます。
脅威ハンティングが注目される背景
脅威ハンティングが近年特に注目されている背景には、以下のような要因が挙げられます。
- サイバー攻撃の高度化・巧妙化: 標的型攻撃(APT攻撃)やゼロデイ攻撃など、従来の対策だけでは検知が難しい攻撃が増加しています。これらの攻撃者は、数ヶ月から数年にわたりシステム内に潜伏し、活動を続けることがあります。
- 検知回避技術の進化: 攻撃者は、セキュリティ製品による検知を回避するための技術を常に開発しており、シグネチャベースの検知だけでは限界があります。
- 攻撃を受けていることへの認識(Assume Breachマインドセット): 「いつ攻撃を受けてもおかしくない」「既に侵入されているかもしれない」という前提(Assume Breach)に立ち、対策を講じる必要性が認識されるようになりました。
- DX推進による攻撃対象領域の拡大: クラウドサービスの利用拡大やIoTデバイスの増加、リモートワークの普及などにより、企業が保護すべきIT環境は複雑化し、攻撃者にとっての侵入口も増えています。
これらの背景から、受動的な防御だけでなく、能動的に脅威を探し出す脅威ハンティングの重要性が高まっているのです。
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脅威ハンティングの重要性
脅威ハンティングは、現代の企業にとってなぜそれほど重要なのでしょうか。
①プロアクティブなセキュリティ体制の実現
最大のメリットは、セキュリティ体制を「受動的」から「能動的(プロアクティブ)」へと転換できる点です。攻撃の発生を待つのではなく、先手を打って脅威の芽を摘み取ることで、インシデント発生のリスクを大幅に低減できます。これは、事業継続性の観点からも極めて重要です。
②インシデント発生時の被害最小化
万が一、巧妙な攻撃によってシステムへの侵入を許してしまった場合でも、脅威ハンティングによって早期にその痕跡を発見できれば、被害が拡大する前に対処することが可能です。情報漏洩やシステム停止といった深刻な事態に至る前に、封じ込めと復旧を行うことで、事業への影響やブランドイメージの低下を最小限に食い止められます。
③セキュリティ運用の成熟度向上
脅威ハンティングを継続的に実施する過程で、セキュリティ担当者のスキルや知識が向上し、組織全体のセキュリティ運用の成熟度が高まります。攻撃者の視点や最新の攻撃トレンドを学ぶことで、より効果的な対策立案やインシデント対応が可能になります。
脅威ハンティングの基本的な実行プロセス
脅威ハンティングは、一般的に以下のようなプロセスで進められます。ただし、これは一例であり、組織の状況や利用するツール、フレームワークによって詳細は異なります。
1. 仮説の立案 (Hypothesis Generation)
脅威ハンティングは、「どのような攻撃者が、どのような手法で、どのシステムを狙っている可能性があるか」という仮説を立てることから始まります。この仮説は、最新のサイバー攻撃に関する情報、自社のビジネス環境やシステム構成、過去のインシデント事例などを基に立案します。
例えば、「最近流行している特定のマルウェアファミリーが、メールを介して社内に侵入し、機密情報を保管するファイルサーバーを狙っているのではないか」といった仮説が考えられます。
2. 情報収集・調査 (Investigation)
立案した仮説を検証するために、関連するログデータ(エンドポイント、ネットワーク、サーバー、アプリケーションなど)を収集し、分析・調査を行います。ここでは、SIEM (Security Information and Event Management) や EDR (Endpoint Detection and Response)、NDR (Network Detection and Response) といったセキュリティソリューションが活用されることが一般的です。
収集したデータの中から、攻撃の兆候を示す不審なアクティビティやパターンの発見を試みます。例えば、通常とは異なる通信、不審なプロセス実行、異常なアカウントアクセスなどが調査対象となります。
3. 脅威の発見と特定 (Discovery and Identification)
調査の結果、仮説が裏付けられ、実際に脅威の痕跡(Indicators of Compromise: IoCや、Indicators of Attack: IoA)が発見された場合、その脅威の詳細を特定します。どのようなマルウェアが使用されたのか、どの程度の範囲に影響が及んでいるのか、攻撃者はどのような目的で活動しているのかなどを明らかにします。
4. 対応と報告 (Response and Reporting)
発見された脅威に対して、封じ込め、駆除、復旧といったインシデント対応プロセスを実行します。同時に、今回の脅威ハンティング活動の結果、得られた知見、発見された脅威、対応策などを経営層や関連部署に報告し、今後のセキュリティ対策の改善に繋げます。
このプロセスは一度きりで終わるものではなく、継続的に繰り返すことで、セキュリティ体制を強化していくことが重要です。
脅威ハンティング実行時のポイントと注意点
脅威ハンティングを効果的に実施するためには、いくつかのポイントと注意点があります。
ポイント
- 明確な目的とスコープの設定: 何のために脅威ハンティングを行うのか、どの範囲を対象とするのかを明確に定義することが重要です。
- 優秀な人材の確保・育成: 脅威ハンティングには、攻撃者の手法やITシステム、ログ分析に関する高度な知識とスキルを持つ人材が必要です。外部専門家の活用や内部人材の育成が鍵となります。
- 適切なツールの活用: SIEM、EDR、NDR、脅威インテリジェンスプラットフォームなど、効率的な情報収集と分析を支援するツールを適切に選択し、活用することが求められます。Google Cloud環境であれば、Security Operations のような高度なセキュリティ分析プラットフォームが強力な助けとなります。
- 最新の脅威インテリジェンスの活用: 新たな攻撃手法や脆弱性に関する情報を常に入手し、ハンティング活動に活かすことが不可欠です。
- 自動化と手動分析のバランス: 定型的な分析は自動化しつつ、高度な判断が求められる部分は専門家による手動分析を行うなど、バランスの取れたアプローチが効果的です。
注意点
- 過度な期待をしない: 脅威ハンティングは万能ではありません。全ての脅威を発見できるわけではないことを理解しておく必要があります。
- 網羅性よりも仮説の質: 手当たり次第にログを調べるのではなく、質の高い仮説に基づいて効率的に調査を進めることが重要です。
- 継続的な取り組みが必要: 一度実施しただけで安心せず、継続的に取り組み、改善していくことが求められます。
- 誤検知(False Positive)への対応: 調査の過程で、実際には脅威ではないものを脅威と誤認する可能性があります。誤検知を適切に処理し、分析精度を高めていく必要があります。
- コストと効果のバランス: 脅威ハンティングにはコスト(人的リソース、ツール導入費など)がかかります。投資対効果を考慮し、自社に合ったレベルで始めることが大切です。
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XIMIXによる支援サービス
脅威ハンティングの重要性は理解できても、「専門的な知識を持つ人材がいない」「何から手をつければ良いか分からない」「日々の運用で手一杯だ」といった課題をお持ちの企業様も少なくないでしょう。
私たちXIMIXは、Google Cloud および Google Workspace の導入支援、SI、伴走支援、コンサルティングサービスを提供しており、お客様のセキュリティ強化のご支援も得意としております。
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まとめ
本記事では、脅威ハンティングの基本的な意味、目的、重要性、そして実行時のポイントや注意点について解説しました。
サイバー攻撃が高度化し続ける現代において、従来の受動的なセキュリティ対策だけでは不十分であり、脅威ハンティングのようなプロアクティブなアプローチが不可欠です。脅威ハンティングは、未知の脅威を早期に発見し、被害を最小限に抑えるだけでなく、組織全体のセキュリティレベルを向上させるための重要な活動です。
脅威ハンティングの導入は、専門的な知識やリソースが必要となるため、決して容易なことではありません。しかし、段階的に取り組みを進め、必要に応じて外部の専門家の支援も活用することで、着実に成果を上げることが可能です。
まずは、自社の現状のリスクを正しく評価し、脅威ハンティングの第一歩を踏み出すことをご検討ください。この記事が、そのきっかけとなれば幸いです。
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