グループ会社全体のセキュリティガバナンスを強化する- Google Cloudで実現する次世代IT統制

 2025,10,01 2025.10.01

はじめに

「子会社で発生したセキュリティインシデントが、グループ全体のブランドイメージを毀損し、事業継続に深刻な影響を及ぼした」――。このような事態は、もはや他人事ではありません。M&Aによる事業拡大、サプライチェーンの複雑化、そしてDXの加速に伴い、グループ会社全体のセキュリティガバナンスは、企業の成長を左右する極めて重要な経営課題となっています。

しかし、多くの場合、本社主導の画一的なルール適用は現場の反発を招き、結果としてガバナンスが形骸化してしまうという現実に直面します。重要なのは、各社の事業の自律性を尊重しつつ、グループ全体としてブレないセキュリティの軸を持つ「自律と統制の両立」です。

本記事では、多くの中堅・大企業の課題解決を支援してきた専門家の視点から、グループ全体のセキュリティガバナンス強化がなぜ急務なのかを解き明かし、従来の対策が抱える限界を指摘します。その上で、解決策の鍵となるGoogle Cloudを活用し、事業成長を阻害しない、しなやかで強固なガバナンス体制を構築するための具体的なアプローチを徹底解説します。

なぜ今、グループ全体のセキュリティガバナンスが経営課題なのか?

個別のセキュリティ対策だけでは不十分であり、グループ全体での統一されたガバナンスが求められる背景には、現代企業を取り巻く深刻なリスクが存在します。

①M&Aや事業の多角化によるIT環境の複雑化

企業の成長戦略として不可欠なM&Aや新規事業の立ち上げは、一方でIT環境の「サイロ化」と「ブラックボックス化」を急速に進行させます。買収した子会社の情報システム、海外拠点で独自に導入されたクラウドサービスなど、本社側が全体像を正確に把握できていないケースは少なくありません。このような環境では、セキュリティポリシーの統一は困難を極め、脆弱な一点がグループ全体の致命的な弱点となり得ます。

②サプライチェーン全体を狙うサイバー攻撃の高度化

独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が発表する「情報セキュリティ10大脅威」では、毎年「サプライチェーンの弱点を悪用した攻撃」が上位にランクインしています。攻撃者は、セキュリティレベルが比較的低いと想定される海外拠点や子会社を踏み台にし、最終的に本社の重要情報へアクセスしようと試みます。もはや、自社だけを守るという考え方では不十分であり、グループ全体、ひいては取引先まで含めたサプライチェーン全体でのセキュリティレベルの底上げが不可欠です。

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③内部不正や情報漏洩リスクの増大

ガバナンスの欠如は、外部からの脅威だけでなく、内部からのリスクも増大させます。各社でID管理やアクセス権限のルールが異なれば、退職者のアカウントが放置されたり、不適切な権限が付与されたままになったりする危険性が高まります。こうした管理の隙が、意図的であるか否かにかかわらず、重大な情報漏洩につながるのです。

陥りがちな失敗:本社主導の"画一的"なルールが招く反発と形骸化

これらのリスクに対し、多くの企業が本社主導でセキュリティポリシーを策定し、グループ各社にトップダウンで展開しようと試みます。しかし、このアプローチはしばしば失敗に終わります。事業内容も企業文化も異なる各社の実情を無視した画一的なルールは、現場の業務効率を著しく低下させ、結果として「ルールは存在するが、誰も守らない」という最も危険な状況、すなわちガバナンスの形骸化を招いてしまうのです。

従来の対策では限界が。グループガバナンスにおける3つの壁

多くの企業が直面するのは、従来のセキュリティ対策の延長線上では乗り越えられない、構造的な「3つの壁」です。

①「サイロ化の壁」:各社の状況が見えない

各社が個別のセキュリティ製品やクラウドサービスを導入しているため、グループ全体のセキュリティリスクを一元的に可視化・評価することができません。「どこに、どのようなリスクが、どれだけ存在するのか」を把握できなければ、当然、適切な投資判断や対策の優先順位付けも不可能です。

②「スピードの壁」:統制強化がビジネスの足枷になる

厳格なガバナンスを追求するあまり、新規事業で必要なクラウドサービスの利用申請に数週間かかったり、些細な設定変更に本社の承認が必要になったりするなど、ビジネスのスピード感を著しく損なうケースがあります。これでは、市場の変化に迅速に対応できず、かえって企業競争力を削ぐ結果になりかねません。

③「コストの壁」:個別最適の積み重ねによる投資の非効率化

グループ各社がそれぞれにセキュリティツールを導入・運用することは、ライセンス費用や運用人材の観点から非常に非効率です。スケールメリットを活かせず、グループ全体として見れば、重複した機能に過剰な投資を行っていることも少なくありません。

Google Cloudが実現する、"自律と統制"を両立した新時代のガバナンス

これらの根深い課題を解決し、「自律と統制」という、一見すると相反する要求を両立させる強力な基盤となるのがGoogle Cloudです。

①階層的な組織管理とポリシーの強制適用

Google Cloudでは、現実の企業組織構造(本社、事業部、子会社、プロジェクトチームなど)に合わせて、リソースを階層的に管理できます。そして、組織ツリーの上位で設定したセキュリティポリシー(例:特定のリージョン以外でのリソース作成を禁止する、外部へのデータ公開を禁止するなど)を、配下にあるすべての子会社やプロジェクトに強制的に継承・適用させることが可能です。これにより、グループとしての最低限のセキュリティベースラインを確保しつつ、現場の裁量を許容する柔軟な運用が実現します。

②ゼロトラストモデルによる境界線に縛られないセキュリティ

従来の境界型防御モデルは、社内外の境界が曖昧になった現代のビジネス環境では機能しません。Google Cloudは、「すべてを信頼しない」ことを前提とするゼロトラストの考え方に基づいています。BeyondCorp Enterpriseのようなソリューションを活用すれば、従業員がどこから、どのようなデバイスでアクセスしても、ユーザーとデバイスを厳格に認証・認可し、業務に必要な情報へのアクセスのみを許可します。これにより、子会社や海外拠点、テレワーク環境でも、本社と同等のセキュアなアクセス環境を提供できます。

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③クラウドネイティブな監視・分析基盤によるリスクの可視化

Security Command Center を活用すれば、Google Cloud上のすべてのアセット(資産)に対するセキュリティリスク(設定ミス、脆弱性、脅威など)を、単一のダッシュボードで一元的に可視化できます。さらに、Google Security Operationsのようなセキュリティ分析プラットフォームを組み合わせることで、グループ全体の膨大なログデータを横断的に分析し、巧妙なサイバー攻撃の兆候を早期に検知・対応することが可能になります。Gemini for Google Cloud のような生成AIの活用も進んでおり、脅威の分析やインシデント対応報告書の自動生成など、セキュリティ運用(SecOps)の大幅な効率化・高度化が期待されています。

【実践編】Google Cloudを活用したグループガバナンス強化の具体策

では、具体的にGoogle Cloudのどのサービスをどう組み合わせれば、強固なガバナンスを実現できるのでしょうか。ここでは、その中核となる4つのステップをご紹介します。

Step1: 組織と権限の設計 - Google Cloud 組織 と IAM

まず、ガバナンスの土台として、Google Cloud 組織 (Organization) リソースを現実の組織構造に合わせて設計します。その上で、Identity and Access Management (IAM) を用いて、「誰が」「どのリソースに対して」「何をする権限を持つか」を最小権限の原則に基づき定義します。役割ベースのアクセス制御(RBAC)を徹底することで、不要な権限の付与を防ぎ、内部不正のリスクを低減します。

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Step2: ポリシーによる統制 - Organization Policy Service

次に、Organization Policy Service を使用して、組織全体に適用するセキュリティ上の「制約」を設定します。例えば、「VMインスタンスの外部IPアドレス作成を禁止する」「特定の国・地域以外でのリソース展開を制限する」といったポリシーを定義し、組織全体に適用します。これにより、各プロジェクトが意図せず危険な設定を行ってしまうことを防ぎ、ガバナンスを強制します。

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Step3: ネットワーク境界の防御 - VPC Service Controls

機密データを扱うプロジェクトや子会社の環境に対しては、VPC Service Controls で仮想的なセキュリティ境界を作成します。これにより、承認されていないネットワークからのデータアクセスや、内部からの機密データの持ち出し(データ漏洩)を強力に防止できます。M&Aで統合した企業のシステムをセキュアな環境下で管理する際にも極めて有効です。

Step4: 脅威の可視化と対応 - Security Command Center と Google SecOps

最後に、Security Command Center を有効化し、グループ全体のGoogle Cloud環境に対する脅威を継続的に監視します。設定ミスによる脆弱性や潜在的な脅威が自動的に検出され、ダッシュボードに集約されます。さらに  Security Operations と連携させることで、高度な脅威ハンティングや迅速なインシデント対応が可能となり、セキュリティ運用体制を次のレベルへと引き上げます。

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成功の鍵はパートナー選びにあり。専門家と推進するガバナンス強化

Google Cloudが強力なツールであることは間違いありません。しかし、その機能を最大限に引き出し、自社の状況に合わせた最適なガバナンス体制を構築するには、高度な専門知識と経験が不可欠です。

技術と組織、両輪での変革が不可欠

グループガバナンスの強化は、単なるツール導入プロジェクトではありません。各社の事業内容や文化を理解し、現場の合意を形成しながら進める、組織横断の変革プロジェクトです。技術的な知見と、組織変革を成功に導くプロジェクトマネジメント能力の両方が求められます。

投資対効果(ROI)を最大化する導入計画とは

決裁者にとって最も重要なのは、セキュリティ投資がビジネス価値にどう結びつくか、という点です。リスク低減効果はもちろんのこと、ガバナンス強化によってIT運用がどれだけ効率化されるか、M&A後の統合(PMI)がどれだけ迅速に進むか、といった観点から投資対効果(ROI)を明確に提示し、段階的かつ現実的な導入計画を策定することが成功の鍵となります。

XIMIXによる支援案内

私たちXIMIXは、Google Cloudに関する深い知見と、多くの中堅・大企業のDXをご支援してきた豊富な経験を兼ね備えています。私たちは、単にGoogle Cloudの導入を行うだけでなく、お客様の企業文化や事業戦略を深く理解した上で、ガバナンスの設計、段階的な導入、そして運用までをワンストップで伴走支援します。 グループ全体のセキュリティガバナンスという複雑で困難な課題に対し、現実的かつ効果的な解決策をご提案し、お客様の事業成長をセキュアな基盤の上で加速させるお手伝いをいたします。

より具体的な進め方や、貴社の状況に合わせたご提案をご希望の場合は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
XIMIXのGoogle Cloud 導入支援についてはこちらをご覧ください。

まとめ

本記事では、M&AやDXが進む現代において、グループ全体のセキュリティガバナンスを強化することがいかに重要であるかを解説しました。そして、従来の対策が抱える「サイロ化」「スピード」「コスト」という3つの壁を乗り越え、「自律と統制」を両立させるための強力なソリューションとして、Google Cloudを活用したアプローチを具体的にご紹介しました。

  • グループガバナンスは、事業成長を支えるための経営課題である。

  • 画一的なルール適用は形骸化を招き、自律と統制の両立が鍵となる。

  • Google Cloudは、組織管理、ゼロトラスト、リスクの可視化を通じて、次世代のガバナンスを実現する。

  • 成功には、技術と組織変革の両面を理解する専門家の伴走が不可欠である。

セキュリティガバナンスの強化は、もはやコストではなく、未来への投資です。本記事が、貴社の持続的な成長と企業価値向上の一助となれば幸いです。


グループ会社全体のセキュリティガバナンスを強化する- Google Cloudで実現する次世代IT統制

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