【入門編】生成AI導入は「ユースケース洗い出し」から。失敗しないための具体的手順と成功の秘訣

 2025,07,17 2025.07.19

はじめに

「生成AIを導入して、自社のビジネスを革新したい」 多くの企業でこのような機運が高まる一方、「何から手をつければ良いのかわからない」「具体的な活用イメージが湧かない」といった声が聞かれるのも事実です。話題性だけでツールを導入したものの、思うような成果に繋がらず、プロジェクトが停滞してしまうケースも少なくありません。

本記事では、これから生成AIの導入を本格的に検討する、中堅・大企業のDX推進担当者や決裁者の皆様に向けて、プロジェクト成功の礎となる「ユースケースの洗い出し」の重要性と、その具体的な進め方を解説します。

この記事を最後までお読みいただくことで、単なる事例の模倣ではない、自社の課題に根ざした、投資対効果(ROI)の高いユースケースを見つけ出し、プロジェクトを成功に導くための確かな第一歩を踏み出すことができます。

なぜ生成AI導入が思うように進まないのか?

生成AIへの期待は大きいものの、実際の導入プロジェクトが難航するケースには、いくつかの共通した課題が見られます。これらは、技術そのものの問題ではなく、導入アプローチに起因することがほとんどです。

①「とりあえず導入」の罠:目的の形骸化

最も陥りやすいのが、「競合もやっているから」といった理由で、明確な目的がないままツール導入が先行してしまうパターンです。これでは、現場の従業員も何のために使うのか分からず、利用が定着しません。結果として、「誰も使わない高価なツール」が残り、費用対効果を問われることになります。

②PoC(概念実証)の先が見えない「PoC貧乏」

小規模なチームで特定の課題に対する技術検証、すなわちPoC(Proof of Concept)を行うアプローチは有効です。しかし、「PoCは成功したが、全社的な展開や本格的な業務プロセスへの組み込みに進めない」という、いわゆる「PoC貧乏」に陥る企業は少なくありません。これは、PoCの段階でビジネスインパクトや費用対効果、拡張性といった視点が欠けているために起こります。

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費用対効果(ROI)を説明できない課題

決裁者を納得させ、本格的な予算を獲得するためには、生成AI導入によって「どれだけのコストが削減できるのか」「どれだけの売上向上が見込めるのか」といったROIの明確な提示が不可欠です。しかし、導入初期段階でこのROIを具体的に描けず、プロジェクトが承認されない、あるいは尻すぼみになってしまうケースが多く見られます。

成功の鍵は「ユースケースの洗い出し」にあり

前述のような失敗を避け、生成AIプロジェクトを成功に導く鍵こそが、導入の最優先課題である「ユースケースの洗い出し」です。それも、単に事例をリストアップするのではなく、自社の経営課題や業務課題に根ざした、戦略的なアプローチが求められます。

「技術起点」ではなく「課題起点」で考える重要性

「このAI技術で何ができるか?」という技術起点の考え方(テクノロジー・プッシュ)では、前述の「使い道のないツール」という罠に陥りがちです。重要なのは、「自社のこの課題を、生成AIでどう解決できるか?」という課題起点(マーケット・プル)の発想です。まずは自社のペインポイント(痛み)を徹底的に洗い出し、それを解決する手段として生成AIの活用を検討する。この順番こそが、真に価値のある活用法を見つけるための王道です。

ビジネスインパクトの大きい領域を見極める

洗い出した課題の中から、解決した際のビジネスインパクトが大きい領域、つまりROIが高いユースケースを見極めることが重要です。例えば、「全社で月間1,000時間かかっている定型的な報告書作成業務」と「特定部署の数名が月間10時間かけている作業」とでは、効率化によるインパクトは大きく異なります。インパクトの大きい領域に初期投資を集中させることが、プロジェクトの推進力を生み出します。

スモールスタートと成功体験の創出

最初から大規模で複雑なプロジェクトを目指す必要はありません。ビジネスインパクトが見込め、かつ実現可能性の高いユースケースからスモールスタートし、早期に成功体験を創出することが極めて重要です。小さな成功は、社内での協力者を増やし、次のより大きな挑戦への機運を醸成し、経営層への説得材料ともなります。

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【実践】自社の宝を見つける、ユースケース洗い出しの具体的なステップ

では、具体的にどのようにユースケースを洗い出していけば良いのでしょうか。ここでは、我々が多くの企業をご支援する中で実践している、実用的な3つのステップをご紹介します。

ステップ1:現状業務の棚卸しと課題のマッピング

まずは、部署や業務プロセスごとに、どのような作業が行われているかを可視化します。その上で、「時間がかかりすぎている」「ミスが多い」「属人化している」「付加価値が低い」といった観点から、課題をマッピングしていきます。このプロセスには、現場担当者へのヒアリングが不可欠です。

ステップ2:ユースケース候補を「量」で出す(アイデアソン/ワークショップ)

次に、ステップ1で洗い出した課題をインプットとして、関係者を集めたワークショップやアイデアソンを実施します。「この課題、生成AIを使えばこう解決できるのでは?」というアイデアを、質より量を重視して、とにかくたくさん出すことが目的です。この段階では、技術的な実現可能性は一旦脇に置き、自由な発想を促すことが重要です。 例えば、Google Cloudの Gemini のような高性能な生成AIが、どのような能力を持っているか(文章生成、要約、翻訳、アイデア出し、コード生成など)を事前にインプットしておくと、アイデアが広がりやすくなります。

ステップ3:「効果」と「実現性」の2軸で評価・優先順位付け

最後に、出てきた多数のアイデアを、以下の2つの軸で評価し、取り組むべきユースケースの優先順位を決定します。

  • ビジネス効果: 効率化によるコスト削減、生産性向上、売上向上、顧客満足度向上など、ビジネスへの貢献度

  • 実現性: 技術的な難易度、データ準備の容易さ、既存システムとの連携コスト、セキュリティ・コンプライアンス上の課題など

この2軸でマッピングすることで、「効果は高いが実現が難しい(将来的な目標)」「効果は低いがすぐに実現できる(クイックウィン)」「効果も高く実現性も高い(最優先で着手すべき領域)」といった形で、戦略的に取り組むべきテーマが可視化されます。

評価軸 高い 低い
ビジネス効果 【最優先領域】
大きな投資対効果が期待できる。
【ニッチ領域】
限定的な効果。後回しで良い。
実現性 【クイックウィン】
スモールスタートに最適。
【検討領域】
技術的な調査や環境整備が必要。

部門別・よくある生成AIユースケースの具体例

自社の課題と照らし合わせるための参考として、部門ごとの代表的なユースケースをご紹介します。これらをヒントに、自社ならではの活用法を検討してみてください。

マーケティング・営業部門:顧客体験の向上と効率化

  • パーソナライズされたDM・メール文面の自動生成

  • 顧客からの問い合わせに対する回答案の自動作成

  • 商談議事録の自動要約とNext Actionの抽出

  • 市場調査レポートや競合分析レポートの自動生成

開発・IT部門:生産性の劇的な向上

  • ソースコードの自動生成、レビュー、デバッグ支援

  • 仕様書からテストケースを自動生成

  • システム障害発生時の原因調査と対応策の提案

  • レガシーシステムのコード解析とドキュメント生成

管理部門(人事・総務・経理):定型業務の自動化

  • 社内規定に関する問い合わせへのチャットボット対応

  • 契約書や稟議書の要約とリスクチェック

  • 採用候補者のエントリーシート内容の分析・評価支援

  • 請求書データの自動読み取りと会計システムへの入力

ユースケース洗い出しを成功させるための3つのポイント

最後に、この一連のプロセスを成功に導くために、特に中堅・大企業が見落としてはならない3つの重要なポイントを挙げます。

ポイント1:経営層と現場を巻き込む体制づくり

生成AIの導入は、単なるITツールの導入ではありません。業務プロセスの変革を伴う、全社的な取り組みです。そのためには、経営層の強力なコミットメントと、実際に業務を行う現場の協力が不可欠です。プロジェクトの初期段階から、双方を巻き込んだ推進体制を構築することが、成功への第一歩となります。

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ポイント2:セキュリティとガバナンスを初期段階から考慮する

特に顧客情報や機密情報を扱う場合、セキュリティとガバナンスの確保は最優先事項です。入力したデータがAIの学習に使われないか、情報漏洩のリスクはないか、といった懸念を払拭しなければ、現場は安心してAIを利用できません。Vertex AI のように、エンタープライズレベルのセキュリティとデータガバナンスを提供するプラットフォームを選定し、利用ガイドラインを策定するなど、初期段階からの検討が不可欠です。

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ポイント3:外部の専門知識を積極的に活用する

「自社だけで最適なユースケースを見つけ出すのは難しい」「最新の技術動向や他社事例がわからない」「客観的な視点でROIを評価したい」。このような場合は、外部の専門家の知見を活用することが有効な選択肢となります。 客観的な視点を持つパートナーは、社内のしがらみなく各部門の課題をヒアリングし、業界のベストプラクティスや最新の技術トレンドを踏まえた上で、企業にとって本当に価値のあるユースケースの特定と、その実現に向けたロードマップ策定を支援できます。

XIMIXが提供する導入支援

私たち『XIMIX』は、これまで多くの中堅・大企業のDX推進を支援してきた実績と、Google Cloudに関する深い知見を活かし、お客様の生成AI導入プロジェクトを強力にサポートします。

お客様の課題や成熟度に合わせた伴走支援サービスを提供しています。何から始めれば良いか分からない、プロジェクトが停滞しているといった課題をお持ちでしたら、ぜひ一度、我々にご相談ください。お客様のビジネスに最適な、価値ある一歩を共に考えます。

XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
XIMIXのGoogle Cloud 導入支援についてはこちらをご覧ください。

まとめ

本記事では、生成AI導入プロジェクトを成功させるための最初の、そして最も重要なステップである「ユースケースの洗い出し」について、その重要性から具体的な進め方、成功のポイントまでを解説しました。

  • 失敗の多くは「目的の欠如」と「ROIの不明確さ」に起因する。

  • 成功の鍵は、「技術起点」ではなく「課題起点」で考えること。

  • 「業務棚卸し」「アイデア創出」「評価・優先順位付け」の3ステップで、自社に最適なユースケースを見つけ出す。

  • 「体制づくり」「セキュリティ」「外部専門家の活用」が成功を後押しする。

生成AIは、正しく活用すれば、企業の生産性を飛躍的に向上させ、新たなビジネス価値を創出する強力な武器となります。まずは本記事を参考に、自社の課題と向き合い、価値あるユースケースを見つけ出すことから始めてみてはいかがでしょうか。


【入門編】生成AI導入は「ユースケース洗い出し」から。失敗しないための具体的手順と成功の秘訣

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