データレイク・DWH・データマートとは?それぞれの違いと効果的な使い分けを徹底解説

 2025,05,14 2025.11.04

はじめに

 

デジタルトランスフォーメーション(DX)が経営の最重要課題となる現代において、その成否を分けるのが「データ活用」です。総務省の調査※でも、多くの日本企業がDX推進の重要性を認識していることが示されています。しかし、データ活用の現場では、「何から手をつければ良いかわからない」「専門用語が多くて理解が追いつかない」といった声が後を絶ちません。

特に、「データレイク」「データウェアハウス(DWH)」「データマート」は、データ活用の基盤を語る上で欠かせない要素ですが、これらの違いを明確に説明できる方は意外と少ないのではないでしょうか。

本記事では、企業のDX推進を担う決裁者層や担当者の皆様に向けて、これら3つのコンポーネントの役割と違い、そして自社に最適な形を見つけるための実践的な使い分けまでを解説します。XIMIXがこれまで多くの企業様をご支援してきた知見を交え、データ活用成功への具体的な道筋を示します。

※参考: 総務省「令和5年版 情報通信白書

まず結論から:データレイク・DWH・データマートの決定的な違い

まずは、3つのコンポーネントの違いを一覧表で確認しましょう。特に「データの状態」と「主な利用者」に着目すると、それぞれの役割が明確になります。

特徴 データレイク データウェアハウス (DWH) データマート
例え
(あらゆる水をそのまま貯蔵)
卸売倉庫
(整理・加工済みの商品を保管)
小売店
(特定の商品を陳列)
データの種類 あらゆる種類
(構造化・非構造化)
主に構造化データ 主に構造化データ
データの状態 生データ(未加工) 処理・加工済み
(高品質・統合済み)
DWHから抽出・集約済み
データ構造 スキーマ・オン・リード (※1) スキーマ・オン・ライト (※2) スキーマ・オン・ライト (※2)
主な目的 将来の分析に向けた全データ蓄積 全社的な経営分析・意思決定支援 特定部門・目的の迅速な分析
主な利用者 データサイエンティスト、エンジニア 経営層、ビジネスアナリスト 各事業部門のビジネスユーザー
柔軟性 高い 中程度 低い

(※1) スキーマ・オン・リード: データを読み込む際に構造を定義する方式。柔軟性が高い。
(※2) スキーマ・オン・ライト: データを書き込む前に構造を定義する方式。品質と一貫性が担保される。

データレイクとは?~あらゆるデータをそのまま貯蔵する「湖」~

概要と目的

データレイクとは、構造化データ(販売実績など)、半構造化データ(ログファイルなど)、非構造化データ(画像、SNS投稿など)といった、あらゆる形式の生データをそのままの形で一元的に蓄積するリポジトリ(貯蔵庫)です。

その名の通り、様々な水源から流れ込む水をそのまま受け入れる「湖」のように、将来の用途が未確定なデータも含めて、まずは失うことなく保存しておくことを主な目的とします。

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主な利点と留意点

  • 利点: あらゆるデータを保存できる柔軟性と、元データを失わない網羅性が最大の強みです。Google Cloud Storage のような安価なクラウドストレージを活用しやすく、機械学習やAIといった高度な分析のデータソースとしても活躍します。

  • 留意点: 生データを格納するため、品質が担保されていません。また、利用するには専門知識が求められます。適切な管理(データガバナンス)を怠ると、必要なデータが見つからない「データの沼(データスワンプ)」と化すリスクを常に内包しています。

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データウェアハウス(DWH)とは?~目的別に整理・統合された「倉庫」~

概要と目的

DWH(データウェアハウス)とは、社内の様々な業務システム(基幹システム、CRM、SFAなど)からデータを集め、分析や意思決定に使いやすいように目的別に整理・統合し、時系列で蓄積したデータベースです。

基本的にデータは、分析しやすいように品質を担保する処理(データクレンジングやETL/ELT処理)を経て格納されます。経営層やビジネスアナリストが、信頼できるデータに基づき迅速な意思決定を行うことを目的とした、いわばデータの「倉庫」です。

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主な利点と留意点

  • 利点: 格納されるデータの品質と信頼性が高く、BIツールなどで容易に分析できます。部門を横断した分析が可能になり、データドリブン経営の実現に貢献します。

  • 留意点: 事前にデータ構造を設計するため、導入に時間とコストがかかる場合があります。また、設計変更への柔軟性はデータレイクに劣り、主に構造化データを対象とします。

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データマートとは?~特定用途に特化した「小売店」~

概要と目的

データマートとは、DWHに格納された膨大なデータの中から、特定の部門や目的に合わせて必要な部分だけを抽出し、小規模にまとめたデータベースです。

DWHが企業全体のデータを扱う「卸売倉庫」なら、データマートは営業部向け、マーケティング部向けといった形で、特定の顧客(ユーザー)のニーズに応える「小売店」に例えられます。ユーザーが必要なデータに迅速かつ容易にアクセスできる環境を提供することが目的です。

主な利点と留意点

  • 利点: 対象データが小さいため高速な分析が可能で、部門ごとのニーズに即応しやすい点が魅力です。DWHに比べて迅速かつ低コストで導入できる場合もあります。

  • 留意点: 複数のデータマートが乱立すると、データ定義の不整合やデータの冗長性が生じ、かえって混乱を招く「サイロ化のリスク」があります。

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データレイク・DWH・データマートの具体的な使い分け(ユースケース)

3つの違いを理解した上で、最も重要な「自社ではどれが必要か」という問いにお答えします。これらは排他的なものではなく、目的応じて連携・使い分けます。

ユースケース1:経営ダッシュボードで全社状況を可視化したい

  • 主なコンポーネント: DWH + データマート

  • 思考プロセス:

    • 目的は「信頼できるデータ」に基づき「全社横断」で「迅速な意思決定」を行うことです。

    • 各システム(販売、会計、人事など)からデータをDWHに集約し、ETL/ELT処理でクレンジング・統合します。

    • 経営層向け、財務部向けなど、用途別にデータマートを構築し、BIツール(例: Looker Studio)で可視化します。

    • このケースでは、生データを扱うデータレイクは必須ではありませんが、将来的な分析のためにDWHへの投入元データをデータレイクに保存しておく構成も一般的です。

ユースケース2:AI/機械学習で需要予測や異常検知を行いたい

  • 主なコンポーネント: データレイク + DWH

  • 思考プロセス:

    • AI/機械学習のモデル開発には、構造化データ(過去の販売実績)だけでなく、非構造化データ(気象情報、SNSの口コミ、IoTセンサーログ)を含む、できるだけ多くの「生データ」が必要です。

    • まず全ての生データをデータレイクに蓄積します。

    • データサイエンティストがデータレイク上のデータを直接分析・加工し、モデルを開発します。

    • モデル開発に必要な「教師データ」や、予測結果を全社で共有するために、データレイクから必要なデータをDWHに連携させることもあります。

ユースケース3:全社的なデータ活用基盤(モダンデータスタック)を構築したい

  • 主なコンポーネント: データレイク + DWH + データマート(すべて)

  • 思考プロセス:

    • これは、全社的なデータドリブン経営を目指す、最も包括的なアーキテクチャです。

    • データレイク: 社内外のあらゆる生データを一元的に蓄積する「受け皿」となります。(データの網羅性)

    • DWH: データレイクから必要なデータを抽出し、全社共通の「信頼できる唯一の真実(Single Source of Truth)」として加工・整理します。(データの信頼性)

    • データマート: DWHのデータを基に、各部門が必要なデータに迅速にアクセスできるようにします。(データの利便性)

この「データレイクの柔軟性」と「DWHの信頼性・分析性能」を両立させる連携こそが、現代のデータ基盤(モダンデータスタック)の主流です。

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Google Cloud で実現する高効率なデータ基盤

ユースケース3で示したモダンデータスタックを構築する際、クラウドサービスの選択が成否を分けます。私たちXIMIXは、Google Cloud が最も優れた選択肢の一つであると考えています。

なぜGoogle Cloudが選ばれるのか?

Google Cloud は、データレイク、DWH、データマート(BI)の各機能を、シームレスかつ高次元で連携できるように設計されています。

  • データレイク (Google Cloud Storage): 非常に安価でスケーラビリティ(拡張性)の高いストレージサービスです。あらゆるデータを容量無制限で、かつ低コストで蓄積できます。

  • DWH (BigQuery): Google Cloud の中核となるサーバーレスDWHです。

    • 圧倒的な処理速度: 大容量データでも極めて高速な分析を実行します。

    • 高い柔軟性: Google Cloud Storage(データレイク)上のデータを直接クエリできるため、データをDWHに移動させる手間(ETL)を大幅に削減できます。

    • コスト効率: サーバーの管理が不要なサーバーレスアーキテクチャであり、使った分だけの課金(分析量またはストレージ量)が可能です。

  • データマート/BI (Looker Studio): BigQuery とのネイティブな連携により、DWH上の信頼できるデータを、誰もが簡単に可視化・分析できる環境を提供します。

関連記事:
なぜデータ分析基盤としてGoogle CloudのBigQueryが選ばれるのか?を解説

XIMIX(NI+C)が提供する支援

多くの企業様が、BigQuery のような強力なツールを導入しても、「どう使えばいいか分からない」「データガバナンスが統制できない」という壁に直面します。

XIMIX (NI+C) は、Google Cloud の豊富な導入実績に基づき、ツールの導入(構築)だけでなく、お客様のビジネス課題のヒアリング、データ活用の目的設定、データガバナンスの設計、そして活用を組織に定着させるための伴走支援までをワンストップでご支援します。

XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
XIMIXのGoogle Cloud 導入支援についてはこちらをご覧ください。

モダンデータ基盤の潮流「データレイクハウス」とは?

近年、データレイクとDWHの「良いとこ取り」をした「データレイクハウス」という新しいアーキテクチャが注目されています。

データレイクハウスは、データレイクの柔軟性と低コスト性を維持しながら、DWHが持つデータ管理機能(トランザクション処理など)や高い分析パフォーマンスを、直接データレイク上で実現しようとするアプローチです。

これにより、データレイクからDWHへデータを移動・コピーする手間やコストを削減し、よりシンプルで高速なデータ活用が期待できます。この分野の技術は急速に進化しており、Google Cloud の BigQuery もこの思想(データレイク上のデータを直接扱える機能)を強力にサポートしています。

関連記事:
【入門編】データレイクハウスとは?今さら聞けない基本からGoogle Cloudでの実現法まで徹底解説

データ基盤構築を成功に導く実践的3ステップ

「理論はわかったが、自社ではどう進めればいいのか?」という疑問にお答えします。XIMIXが推奨する、失敗を回避するための実践的なステップをご紹介します。

ステップ1:データ活用の「目的」を明確にする

最も重要なステップです。「何のためにデータを活用するのか」という目的を具体的に定義します。「経営状況をリアルタイムに可視化したい」「顧客解像度を上げてLTVを最大化したい」など、ビジネス上のゴールを明確にしましょう。

よくある失敗: 「とりあえずデータを貯めよう」と目的なく巨大なデータレイクを構築し、誰も使えず「データの沼(データスワンプ)」にしてしまう。

関連記事:
DXにおける適切な「目的設定」入門解説 ~DXを単なるツール導入で終わらせないために~

ステップ2:現状のデータ資産とIT環境を把握する

次に、社内のどこに、どのようなデータが存在するのかを棚卸しします。各業務システムの仕様、データの形式、更新頻度などを把握し、目的達成に必要なデータが揃っているか、不足しているかを確認します。既存のITインフラや、運用を担当する人材のスキルレベルも重要な判断材料です。

ステップ3:スモールスタートで拡張性のある設計を選ぶ

最初から完璧なデータ基盤を目指す必要はありません。

よくある失敗: 壮大な全社基盤を計画し、導入までに数年を要し、完成した頃にはビジネス環境が変わってしまっている。

XIMIXのアプローチ: 特定の課題(例:営業部門の売上分析)を解決するための最小限の構成(データマートなど)から始め、成功体験を積みながら段階的に全社的なDWHへと拡張していくアプローチを推奨します。

将来的な拡張を見据え、BigQuery のようなスケーラビリティの高いクラウドサービスを選択することが、長期的な投資対効果を高める鍵です。

関連記事:
なぜDXは小さく始めるべきなのか? スモールスタート推奨の理由と成功のポイント、向くケース・向かないケースについて解説

まとめ

本記事では、データ活用の要となる3つのコンポーネントについて、その違いと実践的な使い分けを解説しました。

  • データレイク(湖): あらゆる生データを蓄積。柔軟性が強み。AI・機械学習のデータソースに。

  • DWH(倉庫): 分析用に加工・統合されたデータを蓄積。信頼性が強み。全社的な意思決定の基盤に。

  • データマート(小売店): 特定用途のデータを集約。迅速性が強み。部門ごとのBI分析に。

これら3つは、自社の「目的」と「フェーズ」に応じて使い分けることが重要です。

XIMIXでは、Google Cloud のテクノロジーとNI+Cの豊富な導入実績を組み合わせ、構想策定から構築、運用、活用定着までをワンストップでご支援します。データ基盤の構築やデータ活用に関するお悩みは、ぜひお気軽にXIMIXにご相談ください。


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