はじめに
「Google Cloudを導入してみたいけれど、いったい費用はいくらかかるのだろう?」 「従量課金制って聞くけど、料金体系が複雑そうで、コストの見当がつかない…」 「システムの構成案はあるけれど、それに基づいた月額費用を概算で知りたい」
Google Cloud の導入や移行を検討する際、多くの方が最初に直面するのが、この「利用料金」に関する疑問や不安ではないでしょうか。
クラウドサービスは、利用した分だけ料金が発生する従量課金制が基本であり、オンプレミス環境のような初期のハードウェア投資が不要な反面、月々の費用が変動するため、予算を立てにくいと感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、事前に利用料金の概算を把握しておくことは、導入の意思決定、社内での予算申請、そして費用対効果の検討において、非常に重要なプロセスです。
幸い、Google Cloudには、誰でも無料で利用できる公式の「Pricing Calculator(料金計算ツール)」が用意されています。このツールを使えば、想定しているシステム構成に基づいて、Google Cloudの利用料金を簡単に試算することができます。
この記事では、「Pricing Calculatorってどうやって使うの?」という疑問をお持ちの方に向けて、その基本的な使い方を、初めての方にも分かりやすく、ステップ・バイ・ステップで解説していきます。
このツールを使いこなして、Google Cloudのコスト感を掴み、具体的な導入計画を進めるための第一歩を踏み出しましょう!
Google Cloud Pricing Calculatorとは?
まず、Google Cloud Pricing Calculatorがどのようなツールなのか、基本的な点を押さえておきましょう。
- Google Cloud公式の無料料金見積もりツール: Google自身が提供しているWebベースのツールで、利用は無料です。Google Cloudの様々なサービスの利用料金を、ユーザーが指定した構成に基づいて試算できます。
- 様々なサービスに対応: Compute Engine(仮想マシン)、Cloud Storage(ストレージ)、Cloud SQL(データベース)、BigQuery(データウェアハウス)など、ほぼすべてのGoogle Cloudサービスに対応しています。
- あくまで「見積もり(概算)」: これが最も重要な注意点です。このツールで算出される金額は、入力されたパラメータに基づいた理論上の概算値です。実際の利用状況(例えば、想定以上のデータ転送量が発生した場合など)や、見積もりに含まれない料金(一部のネットワーク料金、サポートプラン料金など)によって、最終的な請求額とは異なる可能性があることを理解しておく必要があります。あくまで、コスト感を把握するための目安として活用しましょう。
- Googleアカウント不要で利用可能: 料金の見積もりを行うだけであれば、Googleアカウントでログインする必要はありません。誰でもすぐにアクセスして試算を開始できます。(ただし、見積もり結果を保存・管理したい場合はログインが必要です)
Pricing Calculatorの基本的な使い方 (ステップ・バイ・ステップ)
それでは、実際にPricing Calculatorの基本的な使い方を、主要なサービスであるCompute Engine(仮想マシン)を例にとって見ていきましょう。他のサービスを追加する場合も、基本的な流れは同様です。
ステップ1: Pricing Calculatorにアクセスする
まず、お使いのウェブブラウザで以下のURLにアクセスします。
Google Cloud Pricing Calculator: https://cloud.google.com/products/calculator?hl=ja
ステップ2: 見積もりたい製品を追加する
Pricing Calculatorの画面が開いたら、見積もりに含めたいGoogle Cloudのサービスを追加します。
- 画面中部の「Add to estimate」を押して利用したいサービスを選択します。(例: "Compute Engine"、"Cloud Storage"、"Cloud SQL")
- または、検索バーに表示されている目的のサービスを探してクリックします。
ここでは例として、「Compute Engine」を検索または選択してクリックします。
ステップ3: 構成パラメータを入力する (Compute Engineの例)
Compute Engineを選択すると、その利用料金を見積もるための詳細なパラメータを入力するフォームが表示されます。ここで、想定している仮想マシンの構成を入力していきます。主要な項目とその意味を理解しましょう。
- インスタンス数 (Number of instances): 同じ構成の仮想マシンを何台作成するかを入力します。(例: 3台)
- オペレーティング システム / ソフトウェア (Operating System / Software): 利用するOSを選択します。CentOSやUbuntuなどの無料Linuxディストリビューションか、Windows Server(ライセンス料が発生)などを選びます。
- プロビジョニング モデル (Provisioning model): 通常利用であれば「Regular」(標準)を選択します。短期的なバッチ処理などでコストを抑えたい場合はSpot VMなども選択肢になりますが、入門レベルではまずRegularで考えましょう。
- マシン ファミリー (Machine Family) / シリーズ (Series) / マシンタイプ (Machine Type): 仮想マシンの「性能」を決める重要な項目です。
- マシンファミリー: 用途(汎用、コンピューティング最適化、メモリ最適化など)に合わせて選びます。一般的なWebサーバーなどであれば「General Purpose」(汎用)から選択することが多いです。
- シリーズ: E2, N2, N2D, C3など、世代やCPUの種類によってシリーズが分かれています。新しいシリーズほど性能対コスト比が良い傾向があります。
- マシンタイプ: 具体的なvCPU(仮想CPU)コア数とメモリ容量を選択します。(例: e2-standard-2 はvCPUが2つ、メモリが8GB)スペックが高いほど料金も高くなります。
- GPU: 機械学習やグラフィック処理などでGPUが必要な場合に、種類(NVIDIA Tesla T4, V100など)と数を指定します。不要な場合は空欄または「None」のままにします。
- ローカルSSD / 永続ディスク (Local SSD / Persistent Disk): 仮想マシンの「記憶装置」の設定です。
- 永続ディスク (Persistent Disk): OSイメージや永続的なデータ保存に利用します。種類(標準HDD、バランス型SSD、パフォーマンスSSD)と容量(GB単位)を指定します。SSDの方が高速ですが高価です。
- ローカルSSD (Local SSD): 非常に高速ですが、インスタンスを停止するとデータが消える一時的なディスクです。キャッシュなどに利用されます。
- リージョン (Region) / ロケーション (Location): 仮想マシンをどの地域のデータセンターで稼働させるかを選択します。リージョンによって利用料金が異なるため、非常に重要な選択項目です。ユーザーに近いリージョンを選ぶのが一般的です。日本のユーザー向けであれば、通常 asia-northeast1 (東京) または asia-northeast2 (大阪) を選択します。
- 稼働時間 (Usage): 仮想マシンを1ヶ月あたりどのくらいの時間、稼働させるかを指定します。デフォルトでは24時間/日 * 30日/月 = 730時間(1ヶ月間稼働し続ける想定)になっています。もし、開発環境などで夜間や週末は停止させる場合は、実際の稼働時間を入力することで、より正確なコストを見積もることができます。
- 確約利用割引 (Committed use discount - CUD): 「1年間」または「3年間」の継続利用をGoogleに約束(コミット)することで、オンデマンド料金(通常の従量料金)から大幅な割引(最大70%以上の場合も)を受けられる制度です。本番環境などで長期的に利用することが決まっている仮想マシンについては、このCUDを適用することを強く推奨します。 適用する場合は「1-year」または「3-year」を選択します。選択しない場合は割引なし(オンデマンド料金)での見積もりになります。
これらの項目を、ご自身が想定しているシステム構成に合わせて、できるだけ具体的に入力していきます。もし不明な点があれば、まずは標準的な選択肢を選んで試算してみましょう。
ステップ4: 他の製品も追加する (必要な場合)
もし、仮想マシンbだけでなく、Cloud Storage(ファイル保存)やCloud SQL(データベース)なども利用する場合は、画面右上部の「Add to estimate」それぞれのサービスを選択し、構成パラメータを入力して見積もりに追加していきます。
ステップ5: 見積もり結果を確認する
サービスを見積もりに追加すると、画面の右側に見積もり結果のサマリーが表示されます。
- 製品ごとの料金: 追加した各サービス(Compute Engine, Cloud Storageなど)について、入力した構成に基づいた月額の概算料金が表示されます。
- 合計料金: 最下部には、選択した全てのサービスの合計月額概算料金が表示されます。
- 通貨の変更: デフォルトではUSD(米ドル)表示かもしれませんが、見積もり結果の右上あたりにある通貨のプルダウンメニューで「JPY」(日本円)を選択すれば、日本円での概算料金を確認できます。
ステップ6: 見積もりを共有・ダウンロードする (任意)
作成した見積もり内容は、後で参照したり、チームメンバーや上司と共有したりするために、保存や共有が可能です。
- 共有 (Share): 「共有」ボタンをクリックすると、この見積もり内容を閲覧できる専用のURLリンクが生成されます。このリンクを送れば、他の人も同じ見積もり結果を確認できます。
- エクスポート (Export): 見積もり内容をCSVファイル形式などでダウンロードし、表計算ソフトで開いたり、資料に添付したりすることができます。
見積もり時の注意点とポイント
Pricing Calculatorは非常に便利なツールですが、より正確なコスト感を掴むために、以下の点に注意しましょう。
- サポートプラン料金: Google Cloudの技術サポート(有償)を利用する場合、そのプラン料金はPricing Calculatorの見積もりには含まれません。別途加算する必要があります。
- 割引の活用を最大限に: Compute Engineなどでは、1ヶ月間継続して利用すると自動的に適用される継続利用割引(SUD)もありますが、最も割引率が高いのは確約利用割引(CUD)です。特に本番環境で1年以上の利用が見込まれる場合は、必ずCUDを適用した見積もりを確認し、オンデマンド料金と比較検討しましょう。
- 常に最新情報を確認: クラウドサービスの料金体系や割引制度、そしてPricing Calculator自体の機能やUIは、頻繁に更新・変更される可能性があります。特に重要な予算策定に関わる見積もりの場合は、ツールの情報だけでなく、Google Cloudの公式サイトで最新の料金情報を確認するように心がけましょう。
- 見積もりはあくまで「概算」と心得る: 何度も強調しますが、これは試算ツールです。特に、利用量に応じて課金される部分(データ転送量、ストレージ使用量、APIリクエスト数など)は、実際の利用状況によって大きく変動します。算出された金額は参考値として捉え、実際の予算計画ではある程度のバッファ(余裕)を見ておくことが賢明です。
- ネットワーク下り(Egress)料金: Google Cloudからインターネットへデータを送信する際にかかる「下りネットワーク料金」は、大量のデータを外部に配信するようなサービス(動画配信、大容量ファイルダウンロードなど)では、このネットワーク料金が想定以上にかかる可能性があるため、別途考慮が必要です。(Calculator内にもNetwork TiersやEgress Trafficの項目がありますが、正確な予測は難しい場合があります)
より正確な見積もりやコスト最適化のために
Pricing Calculatorは、基本的な構成でのコスト感を掴むのに非常に役立ちます。しかし、以下のようなケースでは、ツールだけでは限界があるかもしれません。
- 想定しているシステム構成が複雑で、多数のサービスを組み合わせる必要がある場合。
- ネットワーク構成やセキュリティ要件が特殊な場合。
- 既存のオンプレミスシステムからの移行コストも含めて試算したい場合。
- 算出された見積もり額から、さらにコストを削減するための具体的な方法(アーキテクチャの見直し、適切なサービス選定、運用方法の改善など)を知りたい場合。
このような場合は、Google Cloudの導入・運用支援に関する専門知識と実績を持つパートナー企業に相談することを強くおすすめします。パートナーは、お客様の個別の要件や状況を深く理解した上で、より実現性の高い構成案の作成、詳細なコスト試算、そしてコスト最適化のための具体的なアドバイスを提供してくれます。
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「Pricing Calculatorの入力項目が多くて、どれを選べばいいか自信がない…」 「見積もりは出せたけど、この構成で本当にパフォーマンスが出るのか、逆にオーバースペックではないか不安だ…」 「確約利用割引(CUD)や他の割引を、どう組み合わせれば最もお得になるのか分からない…」 「Google Cloud全体のコストを最適化するためのベストプラクティスを知りたい」
私たちXIMIX は、このようなお客様のお悩みを解決するために、Google Cloudに関する幅広いご支援を提供しています。
Google Cloudの導入検討段階のお客様に対して、専門のエンジニアがお客様のビジネス要件や技術要件を丁寧にヒアリング。最適なシステムアーキテクチャの設計から、Pricing Calculatorを用いた具体的なコスト試算のご支援、確約利用割引(CUD)などの割引制度の効果的な活用プランニング、さらには既存環境からの移行アセスメントや、導入後のコストモニタリング・最適化コンサルティングまで、お客様のGoogle Cloud活用におけるコストに関する課題をトータルでサポートいたします。
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※Google Cloud については、こちらのコラム記事もご参照ください。
【基本編】Google Cloudとは? DX推進の基盤となる基本をわかりやすく解説
【基本編】Google Cloud導入のメリット・注意点とは? 初心者向けにわかりやすく解説
まとめ
Google Cloud Pricing Calculatorは、Google Cloudの利用料金を事前に把握するための強力な公式無料ツールです。Compute Engineをはじめとする各種サービスの構成を指定することで、月額の概算費用を手軽に試算できます。
使い方に慣れれば、様々な構成パターンでのコスト比較や、確約利用割引(CUD)を適用した場合の効果測定なども可能です。Google Cloud導入の検討、予算策定、サービス比較を行う上で、まずこのツールを使ってみることが非常に重要です。
ただし、算出されるのはあくまで概算値であり、ネットワーク料金や実際の利用量によって変動する可能性がある点には注意が必要です。
ぜひ、この記事を参考にPricing Calculatorを活用し、Google Cloud導入に向けた具体的な一歩を踏み出してください。そして、より詳細な見積もり、複雑な構成の相談、あるいは本格的なコスト最適化をお考えの場合は、いつでもお気軽にXIMIXまでご相談ください。
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