【入門編】DLPとは?データ損失防止(情報漏洩対策)の基本をわかりやすく解説

 Apr 28, 2025 8:00:00 AM 2025.04.28

はじめに

企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)が進み、データの活用がビジネス成長の鍵となる一方で、情報漏洩のリスクはかつてないほど高まっています。顧客情報、技術情報、財務情報といった機密データがひとたび外部に流出すれば、企業の信用失墜、経済的損失、さらには法的責任問題へと発展しかねません。

このような背景から、情報セキュリティ対策の重要性が増す中で、「DLP」という言葉を耳にする機会が増えたのではないでしょうか。「DLPって何?」「自社にも必要なの?」「導入するとどんな良いことがあるの?」といった疑問をお持ちの企業担当者の方も多いかと思います。

DLP(Data Loss Prevention:データ損失防止)は、企業にとって最も重要な資産である「情報」を、意図しない流出や損失から守るための重要な仕組みです。

この記事では、DLPの基本的な意味や仕組み、なぜ現代のビジネス環境においてDLPが不可欠なのか、そして導入によってどのようなメリットが得られるのかについて、入門者の方にもご理解いただけるよう、わかりやすく解説します。また、Google Workspace や Google Cloud における DLP 機能にも触れ、具体的な活用イメージを持っていただけるように構成しています。

この記事を読むことで、以下の点を理解できます。

  • DLPの基本的な意味と目的
  • なぜ今、DLPによる情報漏洩対策が必要とされているのか
  • DLPがどのようにして機密情報を保護するのか(主な機能)
  • DLPを導入することによる具体的なメリット
  • Google Workspace や Google Cloud でのDLP活用例
  • DLP導入・運用における注意点

情報セキュリティ対策の第一歩として、DLPへの理解を深め、貴社の情報資産を守るためのヒントとしていただければ幸いです。

DLP (Data Loss Prevention) とは?

DLPは「Data Loss Prevention」の略で、直訳すると「データ損失防止」となります。しかし、一般的には単なるデータの消失対策というよりも、機密情報や重要データが、組織の管理下から意図せず外部へ流出すること(情報漏洩)を防ぐためのソリューションや考え方を指します。

もう少し具体的に言うと、DLPは以下の3つのステップを通じて、企業の重要データを保護することを目的としています。

  1. 特定 (Discover & Identify): 組織内にどのような機密情報(個人情報、マイナンバー、クレジットカード番号、設計情報、営業秘密など)が存在し、どこに保存されているかを特定・分類します。
  2. 監視 (Monitor): 特定された機密情報が、いつ、誰によって、どのように利用・移動されているか(メール送信、USBメモリへのコピー、クラウドストレージへのアップロード、印刷など)を監視します。
  3. 保護・制御 (Protect & Control): 事前に定められたセキュリティポリシーに基づき、機密情報の不正な持ち出しや不適切な共有といったリスクのある操作を検知し、警告、ブロック、暗号化、上長への通知などのアクションを実行して情報漏洩を未然に防ぎます。

つまりDLPは、社内外の脅威から企業の「情報資産」を守るための見張り番であり、防御システムのような役割を果たすのです。

なぜ今、DLPが必要なのか? - 高まる情報漏洩リスクとその背景

近年、DLPの必要性が叫ばれている背景には、企業を取り巻く環境の変化と、それに伴う情報漏洩リスクの増大があります。

①働き方の多様化(リモートワーク、クラウド利用)

  • 新型コロナウイルス感染症の影響もあり、リモートワークやハイブリッドワークが普及しました。働く場所がオフィスに限定されなくなったことで、社内ネットワーク外での機密データへのアクセスや持ち出しの機会が増加しました。
  • Google Workspace や Microsoft 365 といったクラウドサービスの利用が一般化し、データが社内サーバーだけでなくクラウド上に保存・共有されるようになりました。利便性が向上する一方で、設定ミスや不注意による情報漏洩のリスクも高まっています。

②サイバー攻撃の巧妙化・増加

  • 標的型攻撃メール、ランサムウェア、フィッシング詐欺など、企業から機密情報を窃取しようとするサイバー攻撃の手法は日々巧妙化し、その被害も増加傾向にあります。外部からの攻撃によって情報が盗み出されるリスクは常に存在します。

③内部不正のリスク

  • 情報漏洩の原因は外部攻撃だけではありません。従業員や元従業員による意図的な機密情報の持ち出し(内部不正)や、操作ミス・不注意による情報漏洩も後を絶ちません。特に退職者による情報持ち出しは、企業にとって大きな脅威となり得ます。

④法規制・コンプライアンス要件の強化

  • GDPR(EU一般データ保護規則)や改正個人情報保護法など、個人情報やプライバシー保護に関する法規制は世界的に強化される傾向にあります。これらの法規制では、企業に対して厳格なデータ管理体制と、漏洩発生時の迅速な報告義務などが課せられており、違反した場合には高額な制裁金が科される可能性があります。DLPは、これらの法規制遵守を支援する上でも重要な役割を果たします。

⑤情報漏洩による甚大な損害

  • 一度情報漏洩が発生すると、企業は顧客や取引先からの信用の失墜、ブランドイメージの低下、株価下落といった社会的・経済的な損害を被ります。さらに、損害賠償請求や訴訟対応、原因調査、再発防止策の導入など、莫大なコストが発生する可能性もあります。

これらの要因が複合的に絡み合い、企業にとって情報漏洩対策は喫緊の経営課題となっています。DLPは、これらの多様化・複雑化するリスクに対応し、企業の重要な情報資産を守るための有効な手段として、その重要性を増しているのです。

DLPの主な機能 - どのように情報を守るのか?

DLPソリューションは、様々な機能を通じて機密情報の漏洩リスクを低減します。ここでは代表的な機能を見ていきましょう。

①機密情報の検知・識別

DLPの根幹となる機能です。どのようなデータが「機密情報」にあたるのかを正確に識別できなければ、効果的な保護はできません。主な検知方法には以下のようなものがあります。

  • キーワード: 「社外秘」「Confidential」といった特定の単語が含まれるファイルを検知します。
  • 正規表現: クレジットカード番号、マイナンバー、電話番号、メールアドレスなど、特定のパターン(形式)を持つ文字列を検知します。
  • データフィンガープリント: 機密文書の一部または全体を「指紋」のように登録し、それと一致または類似するデータを検知します。定型的な機密文書の検知に有効です。
  • 完全一致: データベースに登録された機密情報(顧客リストなど)と完全に一致するデータを検知します。
  • 機械学習: 文脈やデータの属性などを学習し、従来のパターンマッチングでは見つけにくい機密情報を検知します。

これらの方法を組み合わせることで、より高精度な機密情報の識別が可能になります。

②ポリシーに基づいた制御・アクション

機密情報が検知された場合に、どのような対応(アクション)を取るかは、事前に設定されたセキュリティポリシーによって決まります。一般的なアクションには以下のようなものがあります。

  • 警告 (Warn): ユーザーに操作のリスクを警告し、注意を促します。(例:「このメールには機密情報が含まれています。送信してもよろしいですか?」)
  • ブロック (Block): 機密情報の送信やコピーなどの操作そのものを禁止します。
  • 暗号化 (Encrypt): ファイルを自動的に暗号化し、権限のないユーザーが閲覧できないようにします。
  • 隔離 (Quarantine): 問題のあるファイルを特定の場所に隔離し、管理者が確認できるようにします。
  • ログ記録 (Log): 検知されたイベントの詳細(日時、ユーザー、ファイル名、操作内容など)を記録します。インシデント発生時の追跡や監査に役立ちます。
  • 通知 (Notify): 管理者や情報セキュリティ担当者に、ポリシー違反の疑いがあるイベントを通知します。

ポリシーは、「誰が」「どのような種類の機密情報を」「どこへ」「どのように」扱おうとした場合に、どのアクションを実行するかを柔軟に設定できます。

監視対象

DLPは、情報がやり取りされる様々な経路や保管場所を監視対象とします。

  • ネットワークDLP: メール、Web、FTPなど、ネットワーク通信経路上を流れるデータを監視します。
  • エンドポイントDLP: PCやサーバーなどのデバイス(エンドポイント)上での操作(USBメモリへのコピー、印刷、クリップボードへのコピー、アプリケーションへの入力など)を監視します。
  • ストレージDLP: ファイルサーバーやクラウドストレージ(Google Driveなど)に保管されているデータをスキャンし、機密情報を特定・分類します。
  • クラウドDLP: クラウドサービス(SaaS)上でのデータの利用や共有を監視します。

これらの監視対象を組み合わせることで、様々な経路からの情報漏洩リスクに対応します。

DLP導入による具体的なメリット

DLPを導入し、適切に運用することで、企業は以下のような多くのメリットを享受できます。

①機密情報の漏洩防止・セキュリティ強化

  • これがDLPの最も直接的かつ重要なメリットです。意図しない操作ミスや内部不正、外部への送信ミスによる情報漏洩を未然に防ぎ、企業全体のセキュリティレベルを向上させます。

②コンプライアンス遵守の支援

  • 個人情報保護法やGDPR、業界固有の規制(PCIDSSなど)で求められるデータ保護要件を満たす上で、DLPは強力なツールとなります。機密データの管理状況を可視化し、規制遵守を証明する上でも役立ちます。

③内部不正の抑止

  • DLPによる監視が行われていることを従業員が認識することで、「見られている」という意識が働き、機密情報の不正な持ち出しに対する抑止効果が期待できます。

④従業員のセキュリティ意識向上

  • DLPの警告機能などを通じて、従業員はどのような情報が機密であり、どのような操作にリスクがあるかを具体的に学ぶ機会を得られます。これにより、従業員一人ひとりのセキュリティ意識向上につながります。

⑤インシデント発生時の迅速な対応と原因究明

  • 万が一、情報漏洩インシデントが発生した場合でも、DLPのログ記録機能によって、いつ、誰が、どの情報を、どのように漏洩させたのかを迅速に特定し、被害の拡大防止や原因究明、再発防止策の策定に役立てることができます。

⑥企業の信頼性向上

  • 適切な情報セキュリティ対策を講じていることを示すことは、顧客や取引先、株主からの信頼を得る上で不可欠です。DLPの導入は、企業の信頼性向上に貢献します。

Google Workspace / Google Cloud におけるDLP機能

Google が提供するクラウドサービスにも、強力なDLP機能が組み込まれています。

  • Google Workspace DLP:

    • Google Workspace の Enterprise エディションなどで利用可能な機能です。
    • 対象: Gmail、Google ドライブ、Google Chat、Google Meet など。
    • 機能: 事前定義された検知ルール(マイナンバー、クレジットカード番号など)やカスタムルールに基づき、メールの送信やファイルの共有時に機密情報が含まれていないかをスキャンし、ポリシー違反があれば警告、ブロック、管理者への通知などのアクションを実行します。

  • Cloud DLP (Cloud Data Loss Prevention):

    • Google Cloud のサービスの一つです。
    • 対象: Cloud Storage, BigQuery, Datastore など、Google Cloud 上に保存されているデータや、任意のテキスト・画像データ。
    • 機能: 150種類以上の事前定義された情報タイプ(個人情報、認証情報、財務情報など)やカスタム情報タイプを用いて、大量のデータの中から機密情報を高精度に検出し、分類、マスキング(墨塗り)、トークン化などを行うことができます。データ分析基盤やアプリケーション開発におけるデータ保護に活用されます。

これらの機能を活用することで、Google のクラウド環境における情報漏洩リスクを効果的に低減できます。

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DLP導入・運用における注意点

DLPは強力なツールですが、導入・運用にあたってはいくつかの注意点があります。

  • ポリシー設計の重要性:
    • 最も重要なのがポリシー設計です。検知ルールが厳しすぎると、正当な業務に必要な操作までブロックしてしまい(過検知、False Positive)、業務効率を低下させる可能性があります。逆に緩すぎると、本来防ぐべき情報漏洩を見逃してしまいます(検知漏れ、False Negative)。
    • 自社の業務内容や扱う情報の種類、リスクレベルを十分に考慮し、バランスの取れたポリシーを設計・実装する必要があります。
  • 継続的なチューニングと見直し:
    • ビジネス環境や扱う情報、脅威の状況は常に変化します。一度設定したポリシーが永続的に最適とは限りません。
    • DLPの検知ログを定期的に分析し、過検知や検知漏れの状況を確認しながら、ポリシーを継続的にチューニング・見直していくことが重要です。
  • 従業員への説明と理解促進:
    • DLPは従業員の操作を監視・制限する側面があるため、導入目的やルール、なぜそれが必要なのかを事前に従業員へ丁寧に説明し、理解と協力を得ることが不可欠です。一方的な導入は、従業員の不信感や反発を招き、形骸化につながる恐れがあります。

XIMIXによる導入・運用支援

DLPの導入・運用には、適切な製品選定、効果的なポリシー設計、継続的なチューニング、そして従業員への理解促進など、専門的な知識とノウハウが求められます。特に、Google Workspace や Google Cloud 環境での DLP 活用においては、各サービスの特性を理解した上での設定・運用が重要となります。

「どのDLPソリューションを選べばいいのか?」「自社に合ったポリシーをどう設計すればいいのか?」「Google Workspace の DLP設定がよくわからない」「運用を始めたが、アラートが多くて対応しきれない」といった課題をお持ちではないでしょうか。

私たちXIMIXは、Google Workspace および Google Cloud のプレミアパートナーとして、多くのお客様の情報セキュリティ強化をご支援してきた実績があります。DLP に関しても、お客様のビジネス環境やリスクレベルに応じた最適なソリューションの選定から、効果的なポリシーの設計・実装、Google Workspace DLP や Cloud DLP の設定支援、導入後の運用サポートまで、一貫したサービスを提供しています。

XIMIXが提供できる価値:

  • 現状アセスメントと要件定義: お客様の情報資産や業務プロセス、リスクを分析し、最適なDLP導入計画と要件を定義します。
  • ポリシー設計・実装支援: 過検知・検知漏れを最小限に抑え、業務効率とセキュリティのバランスを取った実用的なポリシーを設計・実装します。
  • Google Workspace / Cloud DLP 設定・活用支援: Google 環境に最適化された DLP 設定を行い、その効果的な活用方法を支援します。
  • 運用サポート・チューニング: DLP導入後のログ監視、インシデント対応支援、定期的なポリシーの見直し・チューニングを行い、継続的なセキュリティレベルの維持・向上をサポートします。

多くの企業様の情報セキュリティ対策をご支援してきた経験に基づき、貴社の状況に合わせた最適なDLP導入・運用プランをご提案いたします。情報漏洩対策やDLP導入に関して、お困りのことがございましたら、ぜひお気軽にXIMIXにご相談ください。

XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
XIMIXのGoogle Cloud 導入支援についてはこちらをご覧ください。

まとめ

この記事では、DLP(データ損失防止)の基本的な意味から、その必要性、主な機能、導入メリット、そして運用上の注意点について解説しました。

この記事のポイント:

  • DLPは、機密情報が組織外へ意図せず流出すること(情報漏洩)を防ぐための仕組み。
  • 働き方の多様化、サイバー攻撃の増加、法規制強化などにより、DLPの重要性は増している。
  • DLPは機密情報の「特定」「監視」「保護・制御」を通じて情報を守る。
  • 導入メリットは、情報漏洩防止、コンプライアンス遵守、内部不正抑止、信頼性向上など多岐にわたる。
  • Google Workspace や Google Cloud にも強力なDLP機能が搭載されている。
  • 効果的な導入・運用には、適切なポリシー設計と継続的な見直し、従業員の理解が不可欠。

DX推進においてデータの利活用が不可欠となる一方で、それに伴う情報漏洩リスクへの対策は、企業の持続的な成長と信頼を守るための生命線です。DLPは、そのための重要なセキュリティ対策の一つと位置づけられます。

まずは自社の情報資産のリスクを把握し、DLPがどのように貢献できるかを検討することから始めてみてはいかがでしょうか。情報セキュリティ対策は一朝一夕に実現できるものではありませんが、DLPはその確かな一歩となります。具体的な導入計画や運用についてお悩みの際は、ぜひ専門家の支援もご検討ください。


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