攻撃者の意欲を削ぐ「攻めにくいシステム」とは?Google Cloudで実現する次世代セキュリティ

 2025,07,24 2025.11.26

はじめに

巧妙化・高度化するサイバー攻撃に対し、ファイアウォールやアンチウイルスソフトといった従来の「境界型防御」だけでは、もはや企業のビジネス資産を完全に守り抜くことは困難になっています。多くの企業が多額の予算を投じて対策を講じているにもかかわらず、なぜ侵入を許し、ランサムウェア被害や情報漏洩といったインシデントが後を絶たないのでしょうか。

その答えは、防御を「攻撃者」の視点から捉え直すことで見えてきます。

本質的に「攻めにくいシステム」とは、単に防御壁を高くすることだけではありません。攻撃にかかるコストや手間を極大化させ、そこから得られるリターンを極小化することで、攻撃者自身の意欲を削ぐシステムのことです。

本記事では、中堅・大企業のDX推進とセキュリティ強化を数多く支援してきた視点から、「攻撃者の経済合理性(ROI)」に着目した堅牢なシステムの設計思想を解説します。さらに、その理想的な環境をGoogle Cloudの先進的な機能を活用して、いかに現実のものとするか、具体的なアーキテクチャやサービスを交えながら解き明かしていきます。

なぜ従来のセキュリティ対策は破られるのか?

多くの企業がセキュリティ対策を実施しているにも関わらず、なぜ被害を防げないのでしょうか。その根本原因は、攻撃者の思考プロセスと防御側の対策の間に存在する「致命的なギャップ」にあります。

攻撃者の思考プロセス:「ROI」で動くビジネスとしての攻撃

プロのサイバー犯罪者集団は、愉快犯ではなく「ビジネス」として攻撃を仕掛けています。彼らは極めて合理的に、以下の計算式でターゲットを選定します。

  • 攻撃コスト: 侵入にかかる時間、手間、必要な技術レベル、ツールの費用

  • 期待リターン: 盗み出せる情報の価値、身代金の額

彼らは常に「ROI(投資対効果)」が最も高いと判断したターゲットを狙います。侵入が容易で、かつ価値の高い情報が眠っているシステムは格好の標的です。

逆に、侵入に多大な手間と時間がかかり、高度なスキルが要求される割に得られるリターンが少ないシステムは、「割に合わない」として攻撃対象リストから外される(攻撃の優先順位が下がる)のです。

防御側の陥りがちな罠:ツール導入が目的化する「パッチワーク型」

一方、防御側で頻繁に見られるのが「パッチワーク型セキュリティ」という課題です。

  • 新しい脅威が出るたびに、都度別のソリューションを追加購入する。

  • 各ツールが連携しておらず、全体像を誰も把握できていない。

  • 運用が複雑化し、設定ミス(Human Error)が起きやすい環境になっている。

IPA(情報処理推進機構)が発表する「情報セキュリティ10大脅威」でも、修正プログラムの未適用や設定不備を突いた攻撃は常に上位にランクインしています。ツールを導入することで安心し、システム全体を俯瞰した戦略が欠けている状態こそが、攻撃者に付け入る最大の隙を与えてしまうのです。

攻撃者が「嫌がる」システムの3つの絶対条件

では、攻撃者のROIを悪化させ、攻撃対象として魅力を失わせるシステムとは、具体的にどのような要素を持つのでしょうか。そこには、攻撃者が最も嫌がる3つの重要な共通項が存在します。

①予測不能性(Unpredictability):攻撃のセオリーを無効化する

攻撃者は、ターゲットのシステム構成をある程度予測し、過去の成功体験に基づいた「攻撃の型(セオリー)」に沿って作業を効率化しようとします。

そのため、標準的でない構成や、動的に変化する環境は彼らにとって非常に厄介です。例えば、アクセス元の状況(コンテキスト)に応じて認証要件が動的に変化する仕組みは、攻撃の自動化を困難にします。手動での試行錯誤を強いることは、攻撃コストを大幅に引き上げる要因となります。

②検知と対応の迅速性(Rapid Detection & Response):潜伏を許さない

万が一侵入されたとしても、その活動を即座に検知し、迅速に対応できる体制は、攻撃者にとって大きな脅威です。

多くの攻撃では、侵入後に内部偵察を行い、権限を昇格させ、最終目的である重要データに到達するまでには「潜伏期間」が存在します。

この期間を限りなくゼロに近づけ、攻撃者が目的を達成する前に無力化できれば、彼らの投じたコストは無駄になり、ROIは著しく低下します。

③影響範囲の極小化(Blast Radius Reduction):横展開を徹底的に阻害する

一つのサーバーやアカウントが侵害されたとしても、被害が他のシステムやデータに広がらないようにする「影響範囲の極小化」は、堅牢なシステムの要です。

攻撃者は、侵入の足がかりとした箇所から、ネットワーク内部を横方向(ラテラルムーブメント)に移動して、より価値の高い情報を探索します。この横展開を徹底的に阻害する仕組みがあれば、仮に一部を侵害されても、被害を最小限に食い止めることができます。

「攻めにくいシステム」を構築する設計思想

前述の3つの条件を満たすためには、場当たり的な対策ではなく、設計思想からの変革が必要です。

①前提となる「セキュリティ・バイ・デザイン」

「セキュリティ・バイ・デザイン」とは、システムの企画・設計段階からセキュリティを組み込む考え方です。完成後に継ぎ足すのではなく、最初から堅牢性や回復力を持つように設計することで、手戻りを防ぎ、本質的な安全性を確保します。

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②中核アーキテクチャ:「ゼロトラスト」の真髄

「社内は安全、社外は危険」という境界型防御は限界を迎えました。ゼロトラストは、「何も信頼しない(Never Trust, Always Verify)」を原則とし、全てのアクセス要求をその都度検証・認可するアーキテクチャです。

これにより、たとえ攻撃者が内部ネットワークに侵入したとしても、リソースへのアクセスが都度遮断されるため、「影響範囲の極小化」を効果的に実現し、攻撃者の横展開を困難にします。

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③サプライチェーン全体を守る視点

自社システムが堅牢でも、利用するオープンソースソフトウェアや取引先企業に脆弱性があれば、そこが侵入口となります。アプリケーションを構成する全てのコンポーネントの安全性を確保し、信頼できるものだけを展開する「ソフトウェアサプライチェーンセキュリティ」が不可欠です。

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Google Cloudで実現する「攻撃コストの高い」セキュアな基盤

これらの設計思想をオンプレミスで一から構築するには莫大なコストがかかります。しかし、Google Cloudのようなクラウドプラットフォームを活用することで、効率的かつ世界最高水準のレベルで実装可能です。

Google 自身が世界規模のサービスを守るために培った知見が、そのままサービスとして利用できるからです。

①可視化と予防:Security Command Center

攻撃者が最も好むのは「管理されていない死角」です。 Security Command Center は、Google Cloud環境全体のセキュリティ状態とリスクを一元的に可視化します。

脆弱性や設定ミス(Misconfiguration)を自動で検出し、攻撃者に悪用される前に修正する「プロアクティブ(積極的)」な対策を可能にします。

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②ゼロトラストの実装:BeyondCorp Enterprise

Google が自社で実践してきたゼロトラストモデルを製品化したのが BeyondCorp Enterprise です。 ユーザーのIDだけでなく、デバイスの状態やアクセス場所といったコンテキスト情報に基づいてアクセスを動的に制御(Identity-Aware Proxy)します。「いつ、誰が、どのデバイスから」を厳密に管理することで、VPNの脆弱性を狙う攻撃を無効化し、セキュアなリモートアクセスを実現します。

③脅威検知の高速化: Security Operations と Gemini

侵入後の対応速度は、被害規模を決定づけます。 Security Operations は、ペタバイト規模のログデータを瞬時に検索・分析できるセキュリティ運用プラットフォームです。ここに生成AIである Gemini が統合されることで、運用はさらに高度化します。

  • AIによる要約: 複雑な攻撃アラートを自然言語で要約し、状況把握を迅速化。

  • 対処の推奨: 過去の事例や脅威インテリジェンスに基づき、次に行うべきアクションをAIが提示。

これにより、検知から対応までの時間(MTTD/MTTR)を劇的に短縮し、攻撃者が活動できる時間を奪い去ります。

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④サプライチェーンの保護:Software Delivery Shield

開発からビルド、デプロイ、実行までの全工程を保護するエンドツーエンドのソリューションです。使用しているライブラリの脆弱性スキャンや、ビルドプロセスの改ざん防止機能を提供し、近年急増しているサプライチェーン攻撃のリスクを大幅に低減します。

堅牢なシステムを維持し続けるための組織的な取り組み

技術だけでセキュリティは完結しません。「攻めにくいシステム」を維持するには、組織文化と運用の両輪が必要です。

①セキュリティは「文化」である

セキュリティは情報システム部門だけの責任ではありません。従業員一人ひとりが「自社の情報を守るゲートキーパーである」という意識を持つことが重要です。定期的な教育に加え、経営層が「セキュリティはコストではなく、ビジネスの信頼性を担保する投資である」と発信し、全社的な文化として定着させる必要があります。

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②外部の専門知識を活用する戦略的パートナーシップ

サイバー攻撃の手口は日々進化しており、自社だけですべての最新トレンドを追い、対策し続けることには限界があります。特にクラウドセキュリティやAI活用といった専門性の高い領域では、信頼できるパートナーとの協業が、結果として最もROIの高い防御策となります。

XIMIXによるご支援

私たち『XIMIX(サイミクス)』は高度な専門知識と、数多くの中堅・大企業のDXをご支援してきた豊富な実績を兼ね備えています。

単なるツールの導入支援にとどまらず、お客様のビジネス環境を深く理解した上で、本記事で解説したような「攻撃者の意欲を削ぐ」戦略的なセキュリティアーキテクチャの設計から、具体的な実装、そして継続的な運用まで一貫してサポートいたします。

「現在の対策で本当に十分なのか不安がある」「クラウドネイティブなセキュリティへ移行したい」とお考えの際は、ぜひ一度ご相談ください。

XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
XIMIXのGoogle Cloud 導入支援についてはこちらをご覧ください。

 

まとめ

本記事では、「攻撃者のROIを悪化させる」という視点から、「攻めにくいシステム」の要件を解説しました。

  • 攻撃者は経済合理性(ROI)で動いており、コストに見合わないターゲットは避ける。

  • 「予測不能性」「迅速な検知・対応」「影響範囲の極小化」の3要素が攻撃者の意欲を削ぐ。

  • これらを実現するには「セキュリティ・バイ・デザイン」と「ゼロトラスト」の思想が不可欠である。

  • Google Cloudは、AI(Gemini)を含む最先端技術で、これらのセキュリティ要件を強力にサポートする。

サイバー攻撃のリスクは経営課題そのものです。今こそ、攻撃者視点で自社のセキュリティ戦略を見つめ直し、事業の持続的な成長を支える強固なデジタル基盤を構築しましょう。


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