はじめに:サステナビリティは「コスト」から「企業価値」へ
「サステナビリティ」や「脱炭素」という言葉を聞いたとき、多くの経営者や事業責任者の方は、「また新たなコスト負担か」と感じるかもしれません。しかし、その認識はもはや過去のものとなりつつあります。現代のビジネス環境において、サステナビリティへの取り組みは、企業の将来を左右する重要な経営アジェンダであり、新たな競争力の源泉へと変化しています。
投資家はESG(環境・社会・ガバナンス)の観点から企業を厳しく評価し、顧客やパートナーはサプライチェーン全体での環境配慮を求めるようになりました。もはや、サステナビリティは単なる社会貢献活動ではなく、事業成長と企業価値向上に直結する戦略的な取り組みなのです。
そして、この戦略を推進する上で、DX、特にクラウド活用が極めて重要な役割を担います。
本記事では、この新しい潮流の中心的な考え方である「Green by Cloud」と「Green in Cloud」について、その違いと、それぞれがビジネスにもたらす価値を分かりやすく解説します。この2つの概念を正しく理解することが、効果的なサステナビリティ戦略の第一歩となります。
なぜ今、ITとサステナビリティが結びつくのか?
これまで別々に語られがちだった「IT戦略」と「環境戦略」。しかし、企業のDXが加速するにつれて、両者は密接不可分な関係になっています。その背景には、無視できない2つの側面があります。
①増大するITインフラの環境負荷
企業のあらゆる活動がデジタル化されることで、それを支えるデータセンターやサーバー、ネットワーク機器が消費するエネルギーは増大の一途をたどっています。IT専門調査会社であるIDC Japanの調査でも、サステナビリティへの取り組みにおいてIT活用が拡大していることが示唆されており、ITインフラ自体の環境負荷をどう管理するかが企業にとって喫緊の課題となっています。
自社でサーバーを保有・運用するオンプレミス環境では、機器の電力消費はもちろん、それを冷却するための空調にも多大なエネルギーが必要です。多くの場合、サーバーリソースは余裕をもって確保されるため、常に100%活用されるわけではなく、非効率が生じやすい構造にあります。この「見えない環境コスト」が、企業のサステナビリティ経営の足かせとなっているケースは少なくありません。
②経営課題としてのサステナビリティへの要請
一方で、外部からの要請も年々高まっています。 IDC Japanが2025年5月に発表した予測によれば、国内のサステナビリティ/ESGサービス市場は今後も高い成長率で拡大が見込まれており、これは企業がサステナビリティ情報開示などの対応に迫られていることの裏返しです。
投資家からのESG評価、顧客からのグリーン調達要求、そしてZ世代を中心とした従業員の企業選びの価値観の変化など、企業を取り巻くステークホルダーは、企業の環境に対する姿勢を厳しく見ています。これらの要請に応えられない企業は、資金調達が困難になったり、ビジネスチャンスを失ったり、優秀な人材から選ばれなくなったりするリスクに直面しているのです。
「Green in Cloud」と「Green by Cloud」:その決定的な違いとは?
こうした課題を解決する鍵となるのが「クラウドの活用」です。ここでは、サステナビリティ文脈で語られる2つの重要なコンセプト、「Green in Cloud」と「Green by Cloud」、そしてその土台となる「Green of the Cloud」の3つの視点から、それぞれの違いを明確に解説します。
①土台となる「Green of the Cloud」:クラウドインフラ自体のグリーン化
これは、Google Cloudのようなクラウドサービス提供事業者が、自社のデータセンターの運用をいかに環境に配慮したものにするか、という取り組みです。 具体的には、
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再生可能エネルギーの積極的な利用(Googleは2017年以降、年間消費電力の100%を再生可能エネルギーで賄っています)
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AIを活用した冷却システムの最適化によるエネルギー効率の最大化
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水の消費を抑える最新の冷却技術の導入 などが挙げられます。
利用者側が直接何かをするわけではありませんが、環境負荷の低いクラウドサービスを選択すること自体が、サステナビリティへの貢献の第一歩となります。
②守りの施策「Green in the Cloud」:クラウド上のIT資産をグリーン化する
これは、企業がクラウドを利用する際に、その使い方を最適化することで、IT資産の二酸化炭素(CO2)排出量を削減する取り組みです。いわば「クラウド利用の省エネ活動」であり、守りのサステナビリティ施策と位置づけられます。
例えば、以下のような取り組みが考えられます。
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リソースの適正化: 過剰に割り当てられた仮想サーバーのスペックを見直す、不要なストレージを削除するなど、無駄をなくします。
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サーバーレスアーキテクチャの採用: 処理が発生したときだけリソースを消費するサーバーレス技術を活用し、アイドリング状態のサーバーをなくします。
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CO2排出量の少ないリージョン(地域)の選択: データセンターの所在地によって電力のクリーン度は異なります。これを意識してサービスを展開するリージョンを選択します。
オンプレミス環境では困難だったこれらの最適化が、クラウドでははるかに容易に、かつ継続的に行えるのが大きなメリットです。
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③攻めの施策「Green by the Cloud」:クラウドで社会全体のグリーン化を促進する
これが最もインパクトの大きい概念であり、DX推進の本来の目的とも重なります。クラウドの持つ力を活用して、自社のビジネスプロセスだけでなく、業界や社会全体の環境課題解決に貢献する取り組みです。これは攻めのサステナビリティ施策と言えるでしょう。
具体的なユースケースを見てみましょう。
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製造業: クラウド上のAIで生産ラインのデータを分析し、エネルギー効率を最適化。需要予測の精度を高めて過剰生産を抑制する。
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物流業: クラウド上の交通データや気象データをリアルタイムに分析し、AIが最適な配送ルートを算出。トラックの走行距離を短縮し、燃料消費とCO2排出量を削減する。
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不動産業: クラウドベースのBEMS(ビルエネルギー管理システム)を導入し、多数のビルの電力使用状況を遠隔で監視・制御。ビル全体の省エネを実現する。
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全業種共通: Google Workspaceのようなコラボレーションツールを活用してテレワークを推進。従業員の通勤に伴うCO2排出量を削減する。
このように、「Green by the Cloud」は、単なるIT部門の取り組みに留まらず、事業そのものを変革し、新たなビジネス価値と環境価値を同時に創出する可能性を秘めているのです。
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Google Cloudが実現するサステナビリティ経営の第一歩
概念の違いを理解したところで、次に重要になるのが「具体的にどう測定し、行動に移すか」です。ここでGoogle Cloudが提供するツールが大きな力を発揮します。
「Carbon Footprint」でCO2排出量を”見える化”する
サステナビリティ活動の基本は、現状把握、つまり「見える化」です。どれだけの環境負荷をかけているかが分からなければ、削減目標も立てられません。
Google Cloudは、利用しているサービスごとのCO2排出量をダッシュボードで確認できる「Carbon Footprint」というツールを標準で提供しています。
このツールの優れた点は、以下の通りです。
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プロジェクト・製品単位での排出量を把握: どの部署の、どのシステムが、どれだけCO2を排出しているかを詳細に特定できます。
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GHGプロトコルに準拠: 第三者機関による検証も可能な、信頼性の高いデータを提供。サステナビリティレポートなど外部への情報開示にも活用できます。
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無料で利用可能: Google Cloudの利用者は追加費用なしでこの機能を利用でき、すぐにサステナビリティの取り組みを開始できます。
これまでブラックボックスになりがちだったITインフラの環境負荷を、誰もが理解できる形で可視化できる。これが、具体的な削減アクションを起こすための、そして経営層や事業部門を巻き込んでいくための強力な武器となります。
「Active Assist」で削減アクションを具体化する
現状を可視化したら、次の一手は「削減」です。しかし、広大なクラウド環境の中から、どこに無駄が潜んでいるのかを人手で見つけ出すのは困難です。
そこで役立つのが、クラウドの利用状況を分析し、改善点を提案してくれる「Active Assist」です。この機能の一部として、サステナビリティに関する推奨事項も提供されます。例えば、「このプロジェクトは長期間使われていないため、削除すればこれだけのCO2排出量を削減できます」といった具体的な提案を自動で提示してくれます。
担当者はこの提案に基づき、無駄なリソースを安全に整理することが可能になります。これにより、継続的な「Green in the Cloud」の実践、すなわちITコストと環境負荷の同時削減が実現できるのです。
成功の鍵はパートナーシップにあり:専門家の活用がもたらす価値
「Green by Cloud」の実現は、単にツールを導入すれば達成できるものではありません。特に、そのポテンシャルを最大限に引き出すためには、いくつかの重要なポイント、そして陥りやすい罠が存在します。
陥りやすい問題点:クラウド移行がゴールになってしまう
よくある失敗は、オンプレミスからクラウドへの移行(リフト&シフト)が完了した時点で、「グリーン化も達成できた」と満足してしまうケースです。しかし、これはスタートラインに立ったに過ぎません。
クラウドの真の価値は、その上で継続的に利用状況を最適化し(Green in the Cloud)、さらにはクラウドの能力を活かして新たなビジネス価値を創造する(Green by the Cloud)ことで発揮されます。移行後の運用を見据えたアーキテクチャ設計や、全社的な活用を促す仕組みづくりがなければ、宝の持ち腐れになりかねません。
成功のポイント:DXとサステナビリティを統合したロードマップ
成功する企業は、技術導入の前に、経営戦略として「DXとサステナビリティをどう統合するか」という視点を持っています。
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全社的な目標設定: IT部門だけでなく、経営層、事業部門を巻き込み、サステナビリティを組み込んだ全社共通のDXビジョンとKPIを設定します。
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ビジネス価値の可視化: CO2削減量だけでなく、それがもたらすコスト削減効果、ブランドイメージ向上、新たな収益機会などを定量・定性の両面から評価し、投資対効果(ROI)を明確にします。
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段階的なアプローチ: まずは「Carbon Footprint」による現状把握と「Active Assist」による低負荷な運用(Green in the Cloud)から着手し、小さな成功を積み重ねます。その上で、得られた知見を活かして、より大きなビジネス変革(Green by the Cloud)へとステップアップしていくのです。
こうした戦略的な取り組みを自社だけで推進するには、高度な専門知識と豊富な経験が必要です。だからこそ、信頼できるパートナーとの連携が成功の鍵となります。
XIMIXが提供する伴走型支援
私たちNI+CのGoogle Cloud専門チーム『XIMIX』は、これまで多くの中堅・大企業のDX推進を支援してきた経験と、Google Cloudに関する深い知見を活かし、お客様の挑戦を強力にサポートします。
クラウド活用の第一歩をどこから踏み出せば良いかお悩みでしたら、ぜひ一度、私たちにご相談ください。
XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
XIMIXのGoogle Cloud 導入支援についてはこちらをご覧ください。
まとめ:未来への投資としての「Green by Cloud」
本記事では、サステナビリティ経営を実現する上で欠かせない「Green by Cloud」と「Green in Cloud」の明確な違いと、その実践におけるGoogle Cloudの有用性について解説しました。
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サステナビリティは経営課題: もはやコストではなく、企業価値を向上させるための戦略的投資です。
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クラウド活用が鍵: 「Green in the Cloud(守りの最適化)」と「Green by the Cloud(攻めの事業変革)」の両輪で、環境価値とビジネス価値を同時に創出します。
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見える化から始める: Google Cloudの「Carbon Footprint」などを活用し、まずは自社のITインフラの環境負荷を正確に把握することが第一歩です。
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専門家の活用が成功への近道: DXとサステナビリティを統合した戦略的な取り組みには、経験豊富なパートナーとの連携が不可欠です。
ITの力で環境課題を解決し、持続可能な社会の実現に貢献することは、これからの企業にとって必須の責務です。そして、その取り組みは、コスト削減や生産性向上、新たなビジネスチャンスの創出といった、確かな果実を企業にもたらします。「Green by Cloud」は、未来の地球と自社の成長、その両方に対する賢明な投資と言えるでしょう。
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