【入門編】なぜDXに「デザイン思考」が不可欠なのか?基本プロセスとビジネス価値を徹底解説

 2025,09,04 2025.09.04

はじめに

多くの企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)を最重要課題として掲げ、多大な投資を行っています。しかしその一方で、「期待した成果が出ていない」「現場に変革が浸透しない」といった声が後を絶ちません。その根本的な原因は、技術の導入そのものが目的化し、誰の、どんな課題を解決するのかという最も重要な視点が抜け落ちていることにあるのかもしれません。

この記事では、「なぜDXにデザイン思考が不可欠なのか?」という問いに、明確な答えを提示します。

DX推進を担うビジネスリーダーの皆様に向けて、デザイン思考の本質から具体的なビジネス価値までを分かりやすく紐解き、

  • DXが失敗する根本原因と、デザイン思考がそれをどう解決するのか

  • 具体的な5つのプロセスと、ビジネスにおける実践ポイント

  • 導入を成功させるための秘訣と、陥りがちな失敗パターン

といった、意思決定に直結する知見を提供します。この記事を読めば、デザイン思考が単なる流行りの手法ではなく、貴社のDXを成功に導き、持続的な成長を支える強力な経営アプローチであることがご理解いただけるはずです。

なぜ、デザイン思考が不可欠なのか?

市場の不確実性が高まり、顧客の価値観が多様化する現代において、企業が競争優位性を維持するためには、プロダクトアウト(作り手目線)の発想から脱却し、顧客が真に求める価値を起点に事業を創造するマーケットイン(顧客目線)への転換が急務です。

デザイン思考は、この転換を組織的に実現するための強力なフレームワークとなります。

DX推進の壁を乗り越える「羅針盤」

DXの本質は、デジタル技術を活用してビジネスモデルや組織文化を変革し、新たな顧客価値を創造することにあります。しかし、多くの現場では「どの技術を導入するか」という手段の議論に終始しがちです。

デザイン思考は、「顧客にとっての本当の課題は何か」という原点に立ち返らせてくれます。ユーザーを深く理解し、潜在的なニーズを掘り起こすことで、DXが目指すべき方向性を明確にする「羅針盤」の役割を果たします。これにより、目的と手段が逆転する事態を防ぎ、投資対効果(ROI)の高いDX施策を実行できるようになるのです。これこそ、DXにデザイン思考が不可欠である最大の理由です。

イノベーションを創出する組織文化の醸成

IDC Japanの調査によれば、国内企業の多くが依然として既存ビジネスの効率化に留まり、新規ビジネスモデルの創出といった革新的なDXに至っていない実態が明らかになっています。

このような状況を打破するために、デザイン思考は有効です。多様な部門のメンバーが協働し、失敗を恐れずに試行錯誤を繰り返すプロセスは、組織の縦割りを打破し、イノベーションが生まれやすい心理的安全性の高い文化を醸成します。トップダウンの指示だけでなく、現場から自発的にアイデアが生まれる土壌を育むことこそ、持続的な成長の鍵となります。

デザイン思考とは?その本質と目的

デザイン思考とは、デザイナーが製品やサービスを考案する際に用いる思考プロセスを、ビジネス上の課題解決に応用するアプローチです。その最大の特徴は、常に「人間(ユーザー)」を中心に据える点にあります。

本質:観察と共感を通じた、潜在的課題の発見と解決

従来の課題解決が、既知の問題に対する分析的なアプローチ(分析→論理→解決策)を取るのに対し、デザイン思考は、ユーザー自身も気づいていないような潜在的なニーズや課題を「観察」と「共感」から発見し、創造的なアイデアで解決することを目指します。

目的:前例のない問題に対する革新的なソリューションの創出

テクノロジーの進化や社会の変化が激しい現代では、過去の成功体験が通用しない場面が増えています。デザイン思考は、このような正解のない問題に対して、多様な視点からアイデアを出し合い、迅速な試作品(プロトタイプ)で検証を繰り返すことで、まったく新しい価値を持つソリューションを生み出すことを目的としています。

デザイン思考を構成する「5つのプロセス」

デザイン思考の実践は、一般的に以下の5つのプロセスを繰り返し行います。これらは一方通行ではなく、必要に応じて各段階を行き来するのが特徴です。

プロセス1:共感 (Empathize)

最初のステップは、ユーザーを深く理解することです。アンケートやデータ分析だけでは見えてこない、ユーザーの行動、感情、置かれている状況などを、インタビューや行動観察を通じて深く掘り下げます。ここでの目的は、ユーザーの「不便」「不満」「喜び」といった感情に寄り添い、同じ視点に立つことです。

ビジネス上のポイント: 思い込みや先入観を捨てることが重要です。経営層や企画担当者が「顧客はこうあるべきだ」と考えていることと、実際のユーザーの姿は乖離していることが少なくありません。現場に足を運び、生の声に耳を傾ける姿勢が、すべての出発点となります。

プロセス2:問題定義 (Define)

「共感」で得られた様々な情報から、解決すべき本質的な課題は何かを明確に定義します。ユーザーの洞察(インサイト)に基づき、「誰の、どのような課題を解決するのか」を簡潔で具体的な言葉で表現します。

ビジネス上のポイント: ここで定義する課題の質が、後のアイデアの質を大きく左右します。例えば「営業の業務効率を上げる」といった漠然としたテーマではなく、「多くの営業担当者が、顧客情報の入力作業に1日1時間以上を費やしており、本来の提案活動に集中できていない」のように、具体的で切実な課題として定義することが重要です。

プロセス3:創造 (Ideate)

定義された課題に対して、解決策となるアイデアを質より量で発想します。ブレインストーミングなどの手法を用い、固定観念にとらわれず、自由なアイデアをできるだけ多く出すことが目的です。この段階では、実現可能性やコストでアイデアを評価することはしません。

ビジネス上のポイント: 多様なバックグラウンドを持つメンバー(営業、開発、マーケティング、管理部門など)が参加することで、アイデアの幅が広がります。異なる視点が交わることで、単一部門では思いつかないような革新的な発想が生まれやすくなります。

プロセス4:プロトタイプ (Prototype)

「創造」で出たアイデアの中から有望なものをいくつか選び、実際に動く試作品やサービスのデモ画面など、具体的な形にします。完璧なものを作る必要はなく、アイデアを検証するために最低限必要な機能を持った、低コストで迅速に作成できるものであることが重要です。

ビジネス上のポイント: 近年、Google Cloudのようなクラウドプラットフォームやローコード/ノーコードツールを活用することで、従来よりもはるかに迅速かつ低コストでプロトタイプを開発できるようになりました。これにより、アイデア検証のサイクルを高速化し、開発リスクを大幅に低減できます。

関連記事:
【入門】ノーコード・ローコード・スクラッチ開発の違いとは?DX推進のための最適な使い分けと判断軸を解説【Google Appsheet etc..】

プロセス5:テスト (Test)

作成したプロトタイプを、実際のユーザーに使ってもらい、フィードバックを収集します。プロトタイプが課題を本当に解決できるか、使いやすいか、新たな問題はないかなどを検証します。ここで得られた学びを基に、「問題定義」や「創造」のプロセスに戻って改善を重ねます。

ビジネス上のポイント: テストの結果、当初の仮説が否定されることも少なくありません。それを失敗と捉えず、より良い解決策に近づくための貴重な学びとして、迅速に次のサイクルに繋げることが成功の鍵です。

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【実践編】DX推進におけるデザイン思考の活用シナリオ

デザイン思考は、具体的にどのようなビジネスシーンで価値を発揮するのでしょうか。中堅・大企業におけるDXの文脈で、2つのシナリオをご紹介します。

シナリオ1:顧客体験を刷新する新規サービス開発

長年提供してきた主力サービスが、市場の変化や競合の台頭により陳腐化しつつある、という課題は多くの企業が抱えています。

デザイン思考を用いることで、既存顧客へのインタビューや行動観察から「顧客が本当に求めているが、まだ満たされていない体験」を発見できます。例えば、BtoBの部品メーカーが、単に製品を売るだけでなく、顧客の在庫管理や発注業務の負担を軽減するデジタルプラットフォームを開発する、といったアイデアが生まれるかもしれません。

このアイデアを、Google Cloud上で迅速にプロトタイプとして構築し、一部の顧客にテスト提供することで、本格開発の前に需要を検証し、リスクを抑えながら新規事業を立ち上げることが可能です。

シナリオ2:部門横断による業務プロセス改革

「営業部門はSFA、製造部門は生産管理システムと、各部門でシステムがサイロ化し、全社的なデータ活用が進まない」というのも典型的な課題です。

この問題に対し、デザイン思考を用いて各部門の担当者への「共感」から始めます。それぞれの担当者が日々の業務で何に困り、どのような情報があればもっと効率的に働けるのかを徹底的にヒアリングします。そこから「部門を横断したリアルタイムでの情報共有」という共通の課題を定義し、Google Workspace のようなコラボレーションツールを活用した新しい業務フローのプロトタイプを作成・テストします。

IT部門がトップダウンでシステムを導入するのではなく、現場のユーザーを巻き込みながら解決策を共創することで、本当に使われる、定着しやすい業務改革を実現できます。

デザイン思考導入を阻む「3つの壁」と成功の鍵

デザイン思考は強力なアプローチですが、その導入は必ずしも簡単ではありません。多くの企業を支援してきた経験から、特に陥りやすい「3つの壁」と、それを乗り越えるための成功の鍵をご紹介します。

壁1:短期的な成果を求める経営層の圧力

デザイン思考は、最初の「共感」や「問題定義」に時間をかけるため、短期的なROIが見えにくい側面があります。成果を急ぐ経営層から「アイデア出しばかりで、いつになったら売上に繋がるのか」という圧力を受けてしまい、プロジェクトが頓挫するケースです。

成功の鍵:スモールスタートと早い段階での「見える化」 大規模なプロジェクトを立ち上げる前に、特定の部署や製品で小さく始めて成功実績を作ることが重要です。プロトタイプを早期に経営層に見せ、ユーザーからのポジティブなフィードバックを共有するなど、プロセスの価値を「見える化」することで、理解と協力を得やすくなります。

関連記事:
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壁2:既存の組織文化との衝突

失敗を許容し、試行錯誤を推奨するデザイン思考の文化は、従来の減点評価や完璧主義を重んじる組織文化と衝突することがあります。前例のないアイデアに対して、「リスクが高い」「予算がない」といった否定的な意見が先行し、挑戦が阻まれるのです。

成功の鍵:経営トップの強いコミットメント デザイン思考を全社に根付かせるには、経営トップがその重要性を理解し、「失敗は学びである」というメッセージを明確に発信し続けることが不可欠です。役員クラスが自らデザイン思考のワークショップに参加するなど、率先して行動で示すことが、文化変革の強力な推進力となります。

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壁3:専門知識とファシリテーション能力の不足

デザイン思考は、単にプロセスを知っているだけではうまく機能しません。ユーザーインタビューの設計、ワークショップの進行(ファシリテーション)、多様な意見の集約など、各段階で高度な専門スキルが求められます。社内の人材だけでこれら全てを賄うのは困難な場合があります。

成功の鍵:外部の専門家とのパートナーシップ 導入の初期段階では、経験豊富な外部の専門家やパートナーの支援を活用することが、成功への近道です。客観的な視点と専門的なスキルを持つパートナーが伴走することで、社内メンバーは実践を通じてスキルを習得でき、プロジェクトの質も高まります。

XIMIXによる支援案内

デザイン思考を導入し、DXを成功に導くためには、ビジネス課題の深い理解と、それを実現する技術力の両方が不可欠です。しかし、多くの企業では、この2つの間に大きな隔たりが存在します。

私たち『XIMIX』は、Google Cloudの専門家集団として、お客様のDX推進を支援しています。私たちの強みは、単にインフラを構築するだけでなく、お客様のビジネス課題の根源を共に探求し、最適な解決策を導き出す点にあります。

  • 迅速なプロトタイピング: Google Cloudの最新技術を駆使し、アイデアを素早く形にし、ビジネス価値を検証します。特に 生成AIを活用することで、これまで数ヶ月かかっていたプロトタイプ開発を短縮することも可能です。

  • アジャイルなシステム開発と実装: 検証されたアイデアを、ビジネスの成長に合わせて拡張可能なシステムとして確実に実装します。

Google Cloudを活用した具体的なシステム実装、そしてその後の運用・改善まで、一気通貫でお客様の挑戦をサポートします。

「どこから手をつけていいか分からない」「アイデアはあるが、どう実現すればいいか分からない」といったお悩みをお持ちでしたら、ぜひ一度、XIMIXにご相談ください。

XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
XIMIXのGoogle Cloud 導入支援についてはこちらをご覧ください。

まとめ

本記事では、「なぜDXにデザイン思考が不可欠なのか?」という問いにお答えする形で、その本質からビジネス価値、成功のポイントまでを解説しました。

その答えは、デザイン思考が「技術先行」のDXから「人間中心」のDXへと転換させ、真の顧客価値創造を実現するための羅針盤となるからです。

  • デザイン思考は、顧客自身も気づいていない潜在的な課題を発見し、解決するための人間中心のアプローチである。

  • 「共感」「問題定義」「創造」「プロトタイプ」「テスト」の5つのプロセスを繰り返すことで、イノベーションを創出する。

  • DX推進においては、顧客視点の欠如という失敗の罠を回避し、プロジェクトを成功に導く。

  • 導入成功には、経営層の理解、文化の変革、そして必要に応じた外部専門家の活用が鍵となる。

デザイン思考は、一度学んで終わりではなく、実践を通じて組織のDNAとして根付かせていくべき企業文化そのものです。この記事が、貴社の変革への第一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。


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