Operations as Codeとは?IaCとの違いからビジネス価値まで、決裁者のためのDX新常識

 2025,09,10 2025.09.10

はじめに

「デジタルトランスフォーメーション(DX)を加速させたいが、既存システムの複雑な運用が足かせになっている」「開発(Dev)のスピードは上がったものの、運用(Ops)が追いつかず、結果としてビジネス価値の提供が遅れてしまう」 このような課題は、多くの企業の経営層や事業責任者が直面する共通の悩みではないでしょうか。

この課題を根本から解決するアプローチとして、今「Operations as Code (OaC)」が注目されています。これは、単なる運用作業の自動化技術ではありません。ビジネスの俊敏性と企業のガバナンスを高いレベルで両立させ、競争力を強化するための経営戦略そのものです。

この記事では、DX推進を担う決裁者の皆様に向けて、以下の点を分かりやすく解説します。

  • なぜ今、「運用のコード化」が経営課題となるのか

  • Operations as Code(OaC)の基本的な考え方と、IaCとの決定的な違い

  • OaCがもたらす具体的なビジネス価値と、ROIへの貢献

  • 導入を成功させるために押さえるべき重要なポイント

本記事をお読みいただくことで、OaCが自社のDX推進において、いかに強力な武器となり得るかをご理解いただけます。

なぜ今、"運用のコード化"が重要となるのか?

OaCの重要性を理解するためには、まず多くの企業が抱える「従来型の運用」の限界を直視する必要があります。

DXの足かせとなる「従来型運用」の限界

従来の情報システム運用は、担当者のスキルや経験に大きく依存した「手作業」が中心でした。手順書に基づき、コンソール画面を操作して設定変更を行ったり、アラートが発生する都度、担当者が調査・対応したりするスタイルです。 しかし、ビジネス環境の変化が激しくなり、システムの規模と複雑性が増大する現代において、この従来型運用は多くの問題点を露呈しています。

開発(Dev)と運用(Ops)の間に横たわる深い溝

アジャイル開発やDevOpsの導入により、アプリケーション開発のスピードは飛躍的に向上しました。しかし、その一方で、運用チームが従来の手作業を続けていると、両者の間に大きなスピード差が生まれます。これが「DevとOpsの溝」です。 開発チームが迅速に新しい機能をリリースしても、運用チームの準備が間に合わず、結果としてサービス提供が遅延する。このボトルネックが、DXの推進を妨げる大きな要因となっています。

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属人化、高コスト、セキュリティリスク…見過ごせない経営インパクト

手作業中心の運用は、経営視点で見過ごせない様々なリスクを内包しています。

  • 属人化とブラックボックス化: 特定の担当者しか対応できない作業が増え、その担当者が異動・退職した場合に業務が停滞するリスク。

  • 高コスト体質: 繰り返される定型作業や障害対応に多くの工数が割かれ、IT予算を圧迫する。

  • ヒューマンエラーとセキュリティリスク: 手作業による設定ミスが、大規模なシステム障害やセキュリティインシデントに直結する。

  • 監査対応の負荷: 「いつ、誰が、何を、なぜ変更したのか」という証跡の管理が煩雑で、監査のたびに膨大な工数がかかる。

これらの課題は、もはや単なる現場の問題ではなく、企業全体の競争力に関わる経営課題と言えます。

Operations as Code (OaC)とは何か?

これらの経営課題を解決する強力なアプローチが、Operations as Code(OaC)です。

「運用のすべて」をコードで定義・管理するアプローチ

Operations as Codeとは、その名の通り「運用(Operations)をコード(Code)として」扱う考え方です。 システムの監視設定、バックアップ手順、障害発生時の復旧プロセス、ユーザーアカウントの追加・削除といった、これまで手順書や人間の記憶に頼っていたあらゆる運用タスクを、コードとして記述し、バージョン管理システム(Gitなど)で管理・実行します。

これにより、運用作業は「誰がやっても同じ結果になる」再現性の高いものとなり、属人性が排除されます。また、コード化された運用は、CI/CD(継続的インテグレーション/継続的デリバリー)パイプラインを通じて自動的にテスト・適用できるため、迅速性と正確性が飛躍的に向上します。

【重要】Infrastructure as Code (IaC)との違い

OaCとよく似た言葉に「Infrastructure as Code (IaC)」があります。IaCは、サーバーやネットワークといったインフラ(基盤)の構成をコードで管理する手法です。 両者の違いは、管理対象の範囲にあります。

  • IaC (Infrastructure as Code): インフラの「あるべき姿(状態)」をコードで定義する。静的な構成管理が主目的。

  • OaC (Operations as Code): インフラの上で日々行われる「運用プロセスや手順」そのものをコードで定義する。動的な運用タスクが主目的。

簡単に言えば、IaCが「設計図」のコード化だとすれば、OaCは「運用マニュアルや緊急時対応手順」のコード化です。OaCはIaCの概念をさらに拡張し、運用業務全体をコード化の対象とする、より包括的なアプローチなのです。

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OaCが目指すのは「自動化」の先にある「自律化」

OaCの真価は、単なる作業の「自動化」に留まりません。 例えば、システムのパフォーマンス低下を監視メトリクスが検知した際に、「アラートを出す(自動化)」だけでなく、「事前にコード化された手順に基づき、自動でサーバーをスケールアウトさせ、担当者に結果を報告する(自律化)」といった対応が可能になります。 このように、OaCは運用を高度に自律化させ、人間はより創造的で付加価値の高い業務に集中できる環境を実現します。

OaCがもたらす具体的なビジネス価値とは?

では、OaCを導入することで、企業は具体的にどのようなビジネス価値を得られるのでしょうか。決裁者が重視すべき3つの観点から解説します。

①意思決定の迅速化:ビジネス俊敏性の向上

市場の変化に対応して新しいサービスを迅速に投入するためには、その土台となるITシステムの迅速な変更が不可欠です。OaCを導入すれば、インフラの準備からアプリケーションのリリース、その後の運用までの一連のプロセスがコード化・自動化されるため、リードタイムが劇的に短縮されます。これにより、経営層の意思決定を即座にサービスとして市場に反映できる、高いビジネス俊敏性を獲得できます。

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②人的ミスの撲滅とセキュリティ強化:ガバナンスとコンプライアンスの徹底

運用作業のすべてがコードとして管理されるということは、「誰が、いつ、どのような変更を加えようとしているか」がすべて記録され、レビュー可能になることを意味します。これにより、意図しない変更や設定ミスといったヒューマンエラーを撲滅できます。 また、「本番環境への変更は、セキュリティチームの承認がなければ実行できない」といったガバナンス・ポリシーをコードに埋め込むことも可能です。これにより、セキュリティレベルを常に高く維持し、厳格な監査にも迅速かつ正確に対応できるようになります。

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③運用コストの最適化とROIの最大化

手作業による運用工数の削減は、人件費の最適化に直接繋がります。しかし、OaCのROIはそれだけではありません。 障害からの平均復旧時間(MTTR)が短縮されることで、機会損失が最小化されます。また、再現性の高い環境をコードで即座に構築できるため、開発・検証のサイクルが高速化し、イノベーション創出のスピードも向上します。これらはすべて、企業の収益向上に貢献する重要な要素です。

【Google Cloud活用例】具体的なユースケースで理解するOaC

例えば、Google Cloud環境において、OaCは以下のような形で実現できます。

  • インフラ構成管理: TerraformやConfig Connectorを使い、VPCネットワークやGoogle Kubernetes Engine (GKE) クラスタの構成をコード化する (IaC)。

  • CI/CDパイプライン: Cloud Buildを使い、コードの変更をトリガーに、自動でテストとデプロイを実行する。

  • セキュリティポリシー適用: Policy Controllerを使い、「特定のリージョン以外にリソースを作成できない」といったポリシーをコードで強制する。

  • 監視とアラート対応: Cloud Monitoringで異常を検知し、Cloud Functionsを呼び出して、事前に定義された復旧オペレーション(コード)を自動実行する。

このように、各種クラウドサービスを組み合わせることで、運用の様々な側面をコードとして管理・自動化することが可能です。

OaC導入を成功に導く3つの重要ポイント

OaCは非常に強力ですが、その導入は単なるツール導入プロジェクトではありません。成功のためには、技術、プロセス、そして文化の3つの側面からのアプローチが不可欠です。多くの企業を支援してきた経験から、特に重要となる3つのポイントを解説します。

ポイント1:文化の変革 - 「コードを書く運用チーム」への進化

最も重要かつ困難なのが、組織文化の変革です。従来、手順書に従って作業を行ってきた運用チームが、自らコードを書き、レビューし、改善していく文化へと移行する必要があります。 これは、運用チームに新たなスキルセットを要求するだけでなく、失敗を許容し、継続的な学習を奨励する組織的な後押しが不可欠です。開発チームと運用チームが協力し合うDevOps文化の醸成が、OaC成功の土台となります。

ポイント2:スモールスタートと段階的な適用範囲の拡大

最初からすべての運用をコード化しようとすると、プロジェクトはほぼ間違いなく頓挫します。まずは、影響範囲が限定的で、かつ自動化の効果が高い領域からスモールスタートで始めることが成功の鍵です。 例えば、「監査レポートの自動生成」「開発環境の払い出しプロセスの自動化」など、具体的で達成可能な目標を設定し、小さな成功体験を積み重ねながら、徐々に適用範囲を拡大していくアプローチが現実的です。

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ポイント3:ツール選定よりも「標準化」の思想を優先する

Terraform, Ansible, Git, Jenkinsなど、OaCを実現するためのツールは数多く存在します。しかし、特定のツールの導入が目的化してしまうのは、よく見られる失敗パターンです。 より重要なのは、「自社の運用プロセスをどのように標準化し、コードに落とし込むか」という設計思想です。まずは業務プロセスを可視化・標準化し、その上で最適なツールを選択するという順序を間違えてはいけません。 近年では、Gemini for Google Cloudのような生成AIを活用し、既存の運用手順書から自動でコードの雛形を生成したり、コードレビューを支援させたりすることで、OaC導入の技術的なハードルは着実に下がりつつあります。

XIMIXが提供する導入支援

OaCへの変革は、企業に大きな価値をもたらす一方で、その道のりには様々な壁が立ちはだかります。

多くの企業が陥る導入の壁とは?

  • 何から手をつければ良いかわからない

  • 運用チームにコードを書くスキルや文化がない

  • 既存の複雑なシステムや承認プロセスをどうコード化すれば良いか設計できない

  • セキュリティやガバナンスの要件を担保できるか不安

これらの課題は、社内のリソースだけで解決するには非常に難易度が高いのが実情です。

伴走するパートナーの重要性

OaCの導入を成功させるには、技術的な知見だけでなく、お客様のビジネスや組織文化を深く理解し、変革をリードするパートナーの存在が不可欠です。 私たちNI+Cの『XIMIX』は、Google Cloudの専門家集団として、数多くの中堅・大企業のDXをご支援してきました。その経験に基づき、単なるツール導入に留まらない、お客様に最適な導入ロードマップをご提案します。

Google Cloudの知見を活かした最適なソリューション提案

XIMIXは、Google Cloudのサービスを最大限に活用し、お客様の課題に合わせたアーキテクチャ設計、実装支援、そして内製化を見据えた組織文化の醸成まで、一気通貫でサポートします。 複雑な運用業務の標準化、セキュリティとガバナンスの設計、そしてチームのスキルアップまで、変革のあらゆるフェーズでお客様と伴走します。

XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
XIMIXのGoogle Cloud 導入支援についてはこちらをご覧ください。

まとめ

本記事では、DX推進における重要な経営戦略として「Operations as Code (OaC)」を解説しました。

  • OaCは、属人化や高コストといった従来型運用の課題を解決するアプローチである。

  • IaCがインフラの「設計図」のコード化であるのに対し、OaCは「運用プロセス」全体のコード化を目指す、より包括的な概念である。

  • その導入は、ビジネス俊敏性の向上、ガバナンス強化、ROI最大化といった、直接的な経営価値に繋がる。

  • 成功には、ツールの導入だけでなく、文化の変革、スモールスタート、プロセスの標準化が不可欠である。

運用のあり方を見直すことは、もはやコスト削減だけの問題ではありません。それは、変化の激しい時代を勝ち抜くための競争力そのものを左右する、重要な経営判断です。 この記事が、皆様の会社で「運用のDX」を推進する一助となれば幸いです。


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