「Infrastructure as Code (IaC)」導入で陥る3つの罠|成功への実践ロードマップとROI最大化のポイント

 2025,07,24 2025.07.24

はじめに

「Infrastructure as Code (IaC)」の重要性が叫ばれて久しく、多くの経営層やIT部門の決裁者がそのメリットを認識されています。しかし、「理論は理解しているが、自社での導入・展開となると話は別だ」と感じてはいないでしょうか。実際、PoC(概念実証)で一定の成果は出たものの、全社的な展開に至らずに頓挫する、いわゆる"PoC死"に陥るプロジェクトは後を絶ちません。

本記事は、「IaCとは何か」という基礎解説から一歩進み、これからIaC導入を本格化させたい、あるいは再挑戦したいと考えている決裁者の皆様に向けて書かれています。 なぜ多くのIaCプロジェクトは壁にぶつかるのか。その典型的な失敗パターンを解き明かし、SIerとして多くの企業変革を支援してきた経験に基づいた、成功への実践的なロードマップとROI最大化のポイントを提示します。この記事が、貴社のインフラ変革を成功に導く「次の一手」を考えるきっかけとなれば幸いです。

※IaCの基本的な概念については、まずはこちらの記事をご参照ください。 
【入門編】Infrastructure as Code(IaC)とは?メリット・デメリットから始め方まで徹底解説

IaC導入が単なる「効率化」ではない、“戦略的投資”である理由

本題に入る前に、投資判断の前提となるIaCのビジネス価値を再定義させてください。IaCは単なるITコスト削減や作業効率化のツールではありません。それは、変化の激しい市場で企業が勝ち残るための「事業俊敏性(ビジネスアジリティ)」を高めるための戦略的投資です。

市場投入までの時間(Time to Market)がビジネスの成否を分ける現代において、インフラ構築の遅延は致命的な機会損失に繋がります。IaCによってインフラ提供を数週間から数時間へ短縮できることは、競合より早く新しい価値を顧客に届けるための強力な武器となります。

また、厳格なセキュリティポリシーをコード化し、全てのシステムに一貫して適用できる点は、ガバナンス強化と事業リスク低減に不可欠です。このように、IaCへの投資は、守り(コスト・リスク)と攻め(スピード・競争力)の両面から、企業価値全体を向上させるポテンシャルを秘めているのです。

なぜ多くのIaCプロジェクトは失敗するのか? 3つの典型的な罠

この戦略的重要性を理解していても、導入がうまくいかないのはなぜでしょうか。私たちの支援経験から、多くの企業が陥る典型的な3つの「罠」が見えてきます。

罠1:技術課題として捉え、組織変革を怠る「サイロ化の罠」

最も多い失敗が、IaC導入をインフラ部門だけの「技術的な取り組み」と捉えてしまうケースです。IaCは、インフラ、開発、セキュリティ、そして事業部門の連携プロセスそのものを変革します。 しかし、部門間の壁が高いままだと、「インフラ部門はコード化を進めたいが、開発部門は従来通りのサーバー提供を求める」「セキュリティ部門はコード化されたインフラの監査方法が分からず、承認プロセスがボトルネックになる」といった軋轢が生じます。IaCは技術導入であると同時に、開発・運用文化(DevOps)への変革活動です。この認識が経営層を含めて共有されない限り、プロジェクトは孤立し、やがて形骸化します。

罠2:PoCの成功に安住し、既存領域に踏み込まない「聖域化の罠」

新規の小規模なプロジェクトでIaCを導入し、その効果を確認して満足してしまうケースも少なくありません。PoCの成功は重要ですが、それはスタートラインに過ぎません。ビジネスインパクトの大きい既存の基幹システムや、複雑に絡み合ったレガシー環境といった「聖域」にメスを入れなければ、IaCの投資対効果(ROI)は限定的なものに終わります。 「ドキュメントがない」「担当者がいない」「影響範囲が読めない」といった理由で既存領域への適用を先送りにした結果、社内にモダンなインフラとレガシーなインフラが混在し、かえって運用が複雑化するという皮肉な事態を招くことさえあります。

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罠3:ツール導入に終始し、スキルと人材の育成を軽視する「属人化の罠」

Terraformなどの高機能なツールを導入したものの、それを扱えるのが一部の優秀なエンジニアに限られ、結果的にその個人への依存度を高めてしまうパターンです。これでは、従来の属人化が形を変えたに過ぎません。 IaCを組織の力にするには、特定の"スーパーマン"に頼るのではなく、チーム全体のスキルレベルを底上げする仕組みが不可欠です。学習コストを考慮せず、教育体制や標準化、レビュー文化の醸成を怠れば、IaCは組織に浸透せず、一部のエンジニアの退職と共に失われる"個人資産"となってしまいます。

成功への実践ロードマップ:組織を動かしROIを最大化する5つのステップ

これらの罠を回避し、IaCを全社的な成功に導くためには、技術と組織の両輪でプロジェクトを進める戦略的なアプローチが求められます。

ステップ1:経営課題と紐づけた「北極星」の設定

「インフラをコード化する」ではなく、「新規サービスの市場投入サイクルを3ヶ月から1ヶ月に短縮する」といった、経営課題に直結する具体的で測定可能な目標(北極星)を設定します。この目標を経営層、事業部門、IT部門が共有することが、部門の壁を越えるための第一歩です。

ステップ2:パイロットチームの組成と「小さな成功」の創出

IaC推進の核となる、インフラ、開発、セキュリティの各部門からメンバーを選出したクロスファンクショナルなパイロットチームを組成します。そして、ビジネスインパクトがあり、かつ短期間で成果が見えやすい領域(例:顧客向けの新機能開発基盤)を選定し、IaCを適用して「小さな成功」を意図的に創出します。

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ステップ3:成功の「定量化」と「可視化」

パイロットプロジェクトの成果を、必ず決裁者が理解できる言葉で定量化します。「開発リードタイムが〇%短縮」「障害発生率が〇%低下」「インフラコストが〇円削減」といった客観的なデータをまとめ、経営層や関連部門に共有します。この説得力のあるデータが、次のステップへの投資判断と協力体制の構築を容易にします。これがROIを最大化するための重要なポイントです。

ステップ4:標準化とCoEによる展開支援

パイロットの成功体験を基に、IaCの標準ツール、コーディング規約、レビュープロセスなどを「社内標準」として定義します。同時に、IaCに関する専門知識を集約し、全社的な導入を支援する専門組織「CoE(Center of Excellence)」を立ち上げます。CoEが各プロジェクトの相談役となり、教育やテンプレート提供を行うことで、品質を担保しながら効率的に展開を進めます。

ステップ5:既存システムのIaC化への挑戦

全社展開のロードマップを描き、いよいよ「聖域」である既存システムのIaC化に着手します。全てのシステムを一気に変える必要はありません。更改時期を迎えるシステムや、ビジネス上のボトルネックとなっているシステムから優先順位を付けて計画的に進めます。このフェーズこそ、後述する生成AIの活用が真価を発揮します。

Google Cloudと生成AIが、IaC導入の"壁"をどう打ち破るか

これまで述べたような導入の壁、特に「スキル不足」と「既存システムのブラックボックス化」という根深い課題に対し、Google Cloudと生成AIは強力な解決策を提示します。

Gemini for Google Cloudが「スキル不足の壁」を壊す

IaC導入を躊躇させる最大の要因の一つが、Terraformなどを習得するための学習コストです。Google Cloudに統合された「Gemini for Google Cloud」は、この壁を大きく引き下げます。 エンジニアが自然言語で「〇〇な構成のインフラが欲しい」と指示すれば、GeminiがTerraformのコード案を生成します。これにより、初学者の学習を支援し、熟練者の生産性を向上させ、チーム全体のスキルレベルを底上げすることが可能です。これは、特定のエースに依存しない、持続可能な組織体制の構築に直結します。

生成AIが「既存システムの聖域」に光を当てる

ドキュメントが不十分な既存システムの構成を把握し、IaC化することは困難を極めます。しかし、GeminiはGoogle Cloud上の既存リソースの設定を解析し、それを再現するためのTerraformコードを生成する能力を持っています。 これにより、手作業では数週間かかっていた構成調査とコード化の作業を劇的に短縮できます。これまで「アンタッチャブル」だった聖域に踏み込み、レガシーインフラの近代化を加速させるための現実的な道筋が見えてくるのです。

単なる"ツール導入業者"ではない、“変革パートナー”の見極め方

IaCの導入は、技術、プロセス、文化の変革を伴う複雑なプロジェクトです。特に、組織の壁や既存システムといった根深い課題に立ち向かうには、共に汗を流せるパートナーの存在が成功確率を大きく左右します。

優れたパートナーは、Terraformの技術的な専門性を持つだけではありません。

  • 貴社のビジネス課題を深く理解し、IaC導入がもたらすROIを共に試算できるか。

  • 多くの企業の成功・失敗事例に精通し、予見されるリスクへの対策を先回りして提案できるか。

  • 組織変革のノウハウを持ち、部門間の合意形成や文化醸成をファシリテートできるか。

  • 生成AIのような最新技術を組み合わせ、課題解決の選択肢を広げられるか。

私たちXIMIXは、NI+CのSIerとしての豊富な実績と、Google Cloudの専門知識を併せ持つプロフェッショナル集団です。机上の空論ではなく、お客様の組織に入り込み、技術と組織の両面から「変革」を最後まで伴走支援します。

「自社の場合はどこから手をつけるべきか」「過去に失敗したプロジェクトをどう立て直すか」といった具体的なご相談からでも結構です。お気軽にお問い合わせください。

XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
XIMIXのGoogle Cloud 導入支援についてはこちらをご覧ください。

まとめ

本記事では、IaC導入を成功させるための実践的なアプローチについて、多くの企業が陥りがちな罠と、それを乗り越えるためのロードマップ、そしてROI最大化のポイントを解説しました。

  • IaC導入は技術課題ではなく、事業俊敏性を高めるための「組織変革プロジェクト」である。

  • 「サイロ化」「聖域化」「属人化」が、プロジェクトを頓挫させる典型的な3つの罠。

  • 成功には、経営課題との紐づけ、小さな成功の創出、定量的評価、CoEによる展開支援という戦略的ステップが不可欠。

  • Google Cloudと生成AI(Gemini)は、スキル不足や既存システムという大きな壁を打ち破る鍵となる。

  • 技術だけでなく、組織変革までを支援できるパートナー選びが成功を左右する。

IaCは、導入すれば終わりという魔法の杖ではありません。しかし、戦略的に取り組み、組織に根付かせることができれば、間違いなく企業の競争力を次のステージへと引き上げる強力なエンジンとなります。この道のりを進む上での羅針盤として、本記事がお役に立てれば幸いです。


「Infrastructure as Code (IaC)」導入で陥る3つの罠|成功への実践ロードマップとROI最大化のポイント

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