社外とのデータ共有におけるセキュリティリスクと解決策|Google Cloudが実現するデータ連携基盤

 2025,10,14 2025.10.14

はじめに

デジタルトランスフォーメーション(DX)の潮流が加速する現代において、企業活動は社内で完結するものではなくなりました。顧客、パートナー企業、サプライヤーといった社外のステークホルダーとの迅速かつ円滑なデータ連携は、新たなビジネス価値を創出し、競争優位性を確立するための絶対条件となりつつあります。

しかし、その利便性の裏側で、情報漏洩や不正アクセスといったセキュリティリスクが深刻な経営課題として浮上しているのも事実です。場当たり的なファイル共有ツールの導入や、旧来のルール運用のままでは、巧妙化・悪質化するサイバー攻撃や内部からの意図しない情報流出を防ぐことは困難です。

本記事は、DXを推進する企業の決裁者層に向けて、単なる「安全なファイル共有の方法」に留まらない、「ビジネス成長を加速させるための戦略的な社外データ連携基盤」という視点を提供します。Google CloudとGoogle Workspaceを組み合わせることで、いかにして強固なセキュリティと高い利便性を両立し、持続可能なデータガバナンス体制を構築できるのか、具体的なユースケースを交えながら解説します。

なぜ今、社外とのデータ共有セキュリティが経営課題になるのか

社外とのデータ共有におけるセキュリティ対策は、もはや情報システム部門だけの問題ではありません。事業継続性や企業としての信頼性に関わる、重要な経営課題として認識する必要があります。

①DXが加速するサプライチェーンとデータエコシステム

現代のビジネスは、単一の企業ではなく、多数の企業が連携するサプライチェーンや、業界の垣根を越えたデータエコシステムの中で展開されます。例えば、製造業では部品メーカーから組立工場、物流、販売店までがリアルタイムに在庫や需要予測データを共有することで、全体の最適化を図ります。このような密な連携は、従来の電話やFAX、メールといった手段では実現不可能であり、クラウドを介したデータ連携基盤が不可欠です。

この動きは、結果として企業の持つべきデータの境界線を曖昧にし、守るべき対象を社外へと大きく広げることになりました。パートナー企業のセキュリティレベルが自社のビジネスに直結する時代なのです。

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②従来のファイル共有手法(PPAP、メール添付)の限界

かつて多くの日本企業で採用されてきた、パスワード付きZIPファイルをメールで送り、パスワードを別送する「PPAP」は、今やその脆弱性が広く知られています。セキュリティ対策として機能しないばかりか、受信側でのウイルスチェックをすり抜けてしまう危険性も指摘され、政府機関をはじめ多くの企業が廃止へと舵を切りました。

メール添付や個人向けのオンラインストレージの利用といった場当たり的な方法は、誰が、いつ、どのデータにアクセスしたのかを追跡する「監査証跡」の確保が難しく、企業のデータガバナンスの観点から看過できない問題点を内包しています。

③顕在化するセキュリティリスクとコンプライアンス要件

社外とのデータ共有には、常に以下のようなリスクが伴います。

  • 情報漏洩: 誤った相手への送信、アクセス権限の設定ミス、従業員による不正な持ち出し

  • 不正アクセス: 退職した社員や契約終了したパートナーのアカウントの放置

  • マルウェア感染: 共有されたファイルにマルウェアが仕込まれているケース

  • コンプライアンス違反: 個人情報保護法やGDPR、業界固有の規制などへの抵触

独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が発表した「情報セキュリティ10大脅威」においても、「内部不正による情報漏えい」や「不注意による情報漏えい」が組織にとっての大きな脅威としてランクインしており、データ共有プロセスの厳格な管理が不可欠であることを示唆しています。

データ共有におけるセキュリティ対策の3つの階層

効果的なセキュリティ対策を実現するには、共有する情報の種類や目的に応じて、複数の防御層を組み合わせるアプローチが求められます。ここでは「ファイル」「データ」「ガバナンス」という3つの階層に分け、Googleのソリューションがそれぞれでどのように機能するのかを解説します。

【階層1】ファイルレベル:日常的な情報共有を安全に(Google Workspace活用)

日常業務で発生するドキュメントやスプレッドシートなどのファイル共有には、Google Workspaceが提供するGoogle ドライブが極めて有効です。

  • 柔軟なアクセス権限設定: 閲覧者、コメント可、編集者といった権限をユーザー単位、グループ単位で付与できます。さらに、ダウンロード禁止や有効期限の設定も可能です。

  • 共有範囲の制御: 管理者は、組織外との共有を禁止したり、特定の信頼できるドメイン(パートナー企業など)のみ許可したりといったポリシーを一元的に適用できます。

  • 高度なセキュリティ機能: 機密情報を含むファイルをAIが自動で検知し、組織外への共有をブロックまたは警告するといった、プロアクティブな情報漏洩対策を講じることが可能です。

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【階層2】データレベル:大規模データをセキュアに共同利用・流通(Google Cloud活用)

数テラバイト、ペタバイト級の販売データや顧客データといった大規模データをパートナー企業と共有し、共同で分析するケースでは、ファイル共有の考え方では対応できません。ここで中核となるのが、Google Cloudのデータプラットフォームです。

BigQueryによるセキュアなデータ共有

データウェアハウスであるBigQueryでは、元データをコピーして移動させることなく、特定の「データセット」に対するアクセス権を他の組織のアカウントに付与できます。これにより、常に単一の最新データ(Single Source of Truth)を全員で参照できます。行レベル、列レベルでのアクセス制御も可能なため、「パートナーA社には販売数量は見せるが、販売金額は見せない」といった柔軟な情報開示が実現します。

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Analytics Hubによるデータエコシステムの構築

さらに一歩進んで、組織を横断する大規模なデータ共有や、データを「商品」として流通させるようなデータエコシステムを構築したい場合には、Analytics Hubが強力なソリューションとなります。

Analytics Hubは、BigQuery上のデータセットをカタログ化し、許可された組織(パートナー企業、顧客、グループ会社など)に安全に提供するためのデータ交換プラットフォームです。データを利用する側は、必要なリスティングを「サブスクライブ(購読)」するだけで、自社のGoogle Cloud環境から直接データにアクセスし、分析に活用できます。

この仕組みにより、以下のような高度なデータガバナンスと利便性の両立が可能になります。

  • 一元化された管理: 誰がどのデータを、どのくらいの頻度で利用しているかを追跡・管理できます。

  • データコピー不要: 利用者側はデータをコピーする必要がないため、ストレージコストを削減し、常に最新のデータにアクセスできます。

  • 発見性の向上: 共有可能なデータがカタログとして整理されるため、利用者は必要なデータを簡単に見つけられます。

【階層3】ガバナンスレベル:全社的な統制と自動化(IAM, DLP, VPC-SC活用)

個別の権限設定を人手で運用するには限界があります。そこで重要になるのが、組織全体のポリシーを定義し、それを自動的に適用するガバナンスの階層です。

  • IAM (Identity and Access Management): 「誰が」「どのリソースに」「何をしてよいか」を一元管理するGoogle Cloudの根幹サービスです。

  • DLP (Data Loss Prevention): クレジットカード番号やマイナンバーなどの機密情報を自動的に検知・分類し、マスキングしたり、不適切な共有をアラートしたりできます。

  • VPC Service Controls: 組織が許可したネットワークやデバイスからしか重要なデータ資産にアクセスできないように、仮想的な境界線を構築し、データの不正な持ち出しリスクを大幅に低減します。

【実践ユースケース】Google Cloudで実現するセキュアな社外データ連携

抽象的な機能解説だけでは、そのビジネス価値は掴みづらいかもしれません。ここでは、具体的な企業の課題シナリオを基に、Google Cloudがどのように貢献できるかを見ていきましょう。

ケース1:顧客向けポータルサイトでのセキュアなレポート共有

広告代理店が、広告主である顧客企業に対して、キャンペーン成果レポートを共有するケースです。BigQueryに蓄積されたデータをLooker Studioで可視化し、そのダッシュボードへのアクセス権を顧客企業の担当者に付与します。顧客はいつでも最新の成果をインタラクティブに確認でき、代理店担当者のレポート作成工数はゼロになります。

ケース2:パートナー企業との共同開発プロジェクトにおけるデータ分析基盤の共有

例えば自動車メーカーが、複数の部品サプライヤーと共同で次世代技術の開発を行うケースです。各社から提供される膨大な走行実験データをVPC Service Controlsで保護されたBigQuery環境に集約。各社は自分たちのデータと、メーカー側から共有を許可されたデータのみを組み合わせて分析できます。機密性を保ちながら、データ主導のオープンイノベーションを加速させることができます。

ケース3:サプライチェーン全体での販売・在庫データのリアルタイム流通

アパレルメーカーが、全国の小売店やECサイトと連携し、販売動向に応じた迅速な商品補充や生産調整を行うケースです。

このシナリオではAnalytics Hubが真価を発揮します。メーカーは、基幹となる商品マスタや地域別販売実績データをリスティングとしてAnalytics Hubで公開。各小売店はそのデータをサブスクライブし、自社のPOSデータと組み合わせて、より精度の高い需要予測や発注計画に活用します。これにより、データは単なる「共有」から、サプライチェーン全体の価値を高める「流通資産」へと進化します。

失敗しないデータ連携基盤構築の要点 ー 専門家の視点から

高機能なツールを導入するだけでは、戦略的なデータ共有は成功しません。長年、多くの中堅・大企業のデータ活用を支援してきた経験から見えてきた、プロジェクトを成功に導くための重要なポイントを3つご紹介します。

①目的の明確化:「誰と」「何を」「どこまで」共有するのか

最も陥りがちな失敗は、目的が曖昧なまま始めてしまうことです。「そのデータを共有することで、どのようなビジネス価値を生み出したいのか」を定義しなくてはなりません。

その上で、「共有相手は誰か」「共有するデータは何か(個人情報を含むか)」「相手にどこまでの操作を許可するのか(閲覧のみか、分析も許可するか)」、さらには「Analytics Hubのように、データを流通させるプラットフォームを目指すのか」といった要件を具体的に定義することが、適切な技術選定とセキュリティレベル設計の第一歩となります。

②運用負荷を考慮した権限設計と棚卸しの仕組み化

データ連携基盤が本格的に稼働し始めると、人事異動やプロジェクトの終結に伴うアクセス権の変更・削除が頻繁に発生します。この権限管理が属人化・形骸化すると、深刻なセキュリティホールになりかねません。

理想は、「営業部長」や「〇〇プロジェクト・パートナー」といった役割(ロール)ベースで権限をグループ化し、個人のアカウントをそのグループに出し入れすることで管理を簡素化するアプローチです。さらに、最低でも半期に一度はアクセス権限の棚卸しを行い、不要な権限を削除するプロセスをルールとして定着させることが不可欠です。

③スモールスタートと段階的な拡張計画の重要性

全社規模の完璧なデータ連携基盤を最初から構築しようとすると、要件が複雑化しすぎてプロジェクトが頓挫してしまうことが少なくありません。

まずは、ビジネスインパクトが大きく、かつ関係者が限定的な特定のユースケースからスモールスタートで始めることをお勧めします。そこで得られた知見や成果を基に、社内の理解を得ながら、対象範囲を段階的に拡張していくアプローチが、結果的に成功への近道となります。

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XIMIXが提供するデータ共有・活用支援

ここまで解説してきたように、社外との戦略的なデータ連携を実現するには、技術的な知見だけでなく、ビジネス要件の整理、ガバナンス体制の設計、そしてプロジェクト推進のノウハウが不可欠です。

私たち『XIMIX』は、お客様のビジネス課題に深く寄り添い、数多くのデータ活用基盤を構築してきた実績と知見を活かして、戦略的なデータ共有の実現を強力に支援します。

  • アセスメントと企画構想支援: BigQueryやAnalytics Hubといった最新技術をいかに活用し、お客様のビジネス目的を達成するか、将来構想の策定から伴走支援します。

  • セキュアな基盤構築: お客様のセキュリティポリシーとガバナンス要件を満たす、堅牢かつ柔軟なデータ共有・流通基盤を設計・構築します。

  • 運用設計と内製化支援: 構築後の安定運用を見据え、お客様の組織体制に合わせた権限管理フローやモニタリング体制を設計し、内製化に向けた技術支援も提供します。

Google Cloudを活用したセキュアなデータ連携基盤の構築や、データエコシステムの実現にご興味のある方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
XIMIXのGoogle Cloud 導入支援についてはこちらをご覧ください。

まとめ

社外とのデータ共有は、もはや単なる業務効率化の手段ではなく、企業の競争力を左右する戦略的な取り組みです。PPAPのような旧来の手法から脱却し、全社的なガバナンスの下で、セキュリティと利便性を高いレベルで両立させるデータ連携基盤の構築が求められます。

Google CloudとGoogle Workspaceは、日常的なファイル共有から、BigQueryによるデータ連携、さらにはAnalytics Hubを活用した組織横断のデータエコシステム構築まで、企業のあらゆるデータ共有ニーズにワンストップで応える強力なソリューションを提供します。

本記事でご紹介した考え方やユースケースが、貴社のデータ活用戦略を一段高いレベルへと引き上げる一助となれば幸いです。安全かつ戦略的なデータ共有を推進し、新たなビジネス価値の創出を実現しましょう。


社外とのデータ共有におけるセキュリティリスクと解決策|Google Cloudが実現するデータ連携基盤

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