はじめに
「この申請書の書き方、前にも誰かが聞いていたな」「あのシステムのエラー、担当の〇〇さんしか分からない」。情報システム部門や総務・人事部門では、日々繰り返される社内からの問い合わせ対応に多くの時間が割かれています。これらの対応は、本来注力すべきコア業務を圧迫し、担当者の疲弊を招くだけでなく、ナレッジの属人化という経営リスクにも繋がります。
この記事を読んでいるあなたは、こうした状況を打開すべく、Googleサイトを活用した社内FAQの構築を検討しているのではないでしょうか。
本記事では、単なるFAQサイトの作成手順に留まらず、多くの中堅・大企業を支援してきた我々の知見に基づき、以下の内容を解説します。
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なぜ今、社内FAQによる自己解決文化の醸成が重要なのか
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問い合わせ履歴を「資産」に変える、実践的なFAQサイト構築ステップ
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構築したFAQを「形骸化」させないための、継続的な運用戦略
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Gemini(生成AI)を活用し、FAQ作成・更新を効率化する最新の手法
この記事を最後まで読めば、日々の問い合わせ対応というコストを、全社で活用できる知的資産へと転換し、貴社の状況に合わせた効果的な社内FAQを構築するための、具体的な道筋を描けるようになるはずです。
なぜ、社内問い合わせ対応の仕組み化が急務なのか?
多くの企業で、社内問い合わせ対応は「見えにくい経営コスト」として存在し続けています。なぜその仕組み化が、単なる業務改善を超えた経営上の重要課題となっているのでしょうか。
属人化と業務圧迫:見過ごせない「静かなコスト」
特定の担当者しか答えられない質問が多発する状況は、ナレッジが個人に依存している危険な兆候です。その担当者が不在・異動・退職した際、業務が停滞するリスクは計り知れません。
また、同じ質問に何度も繰り返し答える時間は、本来であれば新しい企画の立案や戦略的なシステム改善といった、より付加価値の高い業務に充てられるべき時間です。この「静かなコスト」の積み重ねが、部門全体の生産性を少しずつ蝕んでいきます。
従業員体験(EX)の低下が招く生産性のロス
質問したい従業員側にとっても、課題は深刻です。「誰に聞けばいいかわからない」「回答を待っている間に作業が止まる」「簡単な手続きなのに時間がかかる」といった体験は、業務へのモチベーションを削ぎ、従業員体験(Employee Experience, EX)を著しく低下させます。
優秀な人材が能力を最大限に発揮できる環境を整備することは、人材獲得競争が激化する現代において不可欠です。従業員が自律的に問題を解決できる環境、すなわち「自己解決文化」の醸成は、EX向上の観点からも極めて重要と言えるでしょう。
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Googleサイトが社内FAQ構築の最適解である理由
市場には多機能なFAQ専用ツールも存在しますが、なぜ私たちはGoogleサイトの活用を推奨するのでしょうか。特に中堅・大企業にとって、その理由は明確です。
①圧倒的なコストメリットと導入スピード
多くの企業が既に導入しているGoogle Workspaceのライセンス内で利用できるため、新たなツール導入に伴う追加コストや煩雑な稟議プロセスが不要です。IT部門は、既存の環境ですぐにスモールスタートを切り、効果を検証しながら展開を進めることができます。このスピード感は、変化の速いビジネス環境において大きなアドバンテージとなります。
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②Google Workspaceとのシームレスな連携
Googleサイトの真価は、他のGoogle Workspaceツールとの連携にあります。
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Googleフォーム: 問い合わせ窓口としてフォームを設置し、回答をスプレッドシートに自動集計。これを新たなFAQコンテンツの源泉とする。
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Googleスプレッドシート: 問い合わせ履歴を一元管理し、FAQのマスターデータとして活用。関数やフィルタで容易に分析・加工が可能。
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Googleドライブ: マニュアルや各種資料をドライブで管理し、FAQページに直接埋め込むことで、常に最新の情報を提供。
これらの連携により、情報の収集からFAQサイトへの反映までを、一気通貫で効率的に行うエコシステムを構築できます。
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③セキュリティと権限管理の柔軟性
Googleサイトは、Google Workspaceの堅牢なセキュリティ基盤上で動作します。サイトへのアクセス権限は、全社公開から特定のグループ(例: 部門、役職)限定まで、柔軟かつ詳細に設定可能です。これにより、「経理部門向けのFAQ」「新人研修者向けのポータル」といった、対象者を絞った情報提供もセキュアに実現します。
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【実践編】問い合わせ履歴を資産に変えるFAQサイト構築ステップ
ここでは、具体的な構築ステップを解説します。重要なのは、単にツールを操作することではなく、利用者の視点に立った戦略的な設計を行うことです。
ステップ1:情報の収集と整理 - 問い合わせ履歴の棚卸し
まず、既存の問い合わせチャネル(メール、チャット、口頭など)から、過去の対応履歴を可能な限り収集し、Googleスプレッドシートなどに一元化します。この作業が、FAQサイトの品質を決定づける最も重要な工程です。
【実践のヒント】 集めたデータは、単に羅列するのではなく、「カテゴリ(例: 人事手続き、ITインフラ、経費精算)」「質問の頻度」「対応の難易度」といった軸で分類・整理します。これにより、優先的にFAQ化すべきコンテンツが見えてきます。
ステップ2:サイトの設計と構築 - 利用者目線の情報構造とは
利用者が「探しやすい」と感じる構造を設計します。トップページには、カテゴリ別の入り口と、強力な検索バーを分かりやすく配置することが基本です。
多くのプロジェクトで陥りがちな失敗は、作り手(情シス部門など)の論理でカテゴリ分けをしてしまうことです。必ず利用者の視点に立ち、「従業員は、どのような言葉で情報を探すだろうか?」を想像しながら、階層構造やページのタイトルを設計してください。
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ステップ3:【効率化の鍵】Geminiを活用したFAQコンテンツ作成
現在、生成AIの活用はFAQ作成のゲームチェンジャーとなり得ます。ステップ1で整理した問い合わせ履歴(スプレッドシートのデータ)を、Gemini for Google Workspaceに読み込ませることで、以下のような作業を自動化・効率化できます。
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類似質問のグルーピングと要約: 似たような表現の問い合わせを自動でまとめ、FAQの質問文(タイトル)の素案を生成。
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回答文案の生成: 過去の担当者の回答メールなどを参考に、平易で分かりやすい回答文のドラフトを作成。
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口語表現のビジネス文書化: チャットなどで交わされたラフなやり取りを、FAQに適した丁寧な文章にリライト。
これにより、コンテンツ作成にかかる時間を大幅に短縮し、担当者は内容の精査と質の向上に集中できます。
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ステップ4:公開と周知 - 使われなければ意味がない
サイトが完成したら、いよいよ公開です。しかし、ただ公開するだけでは利用は広まりません。社内ポータルや定例会議、全社メールなどで積極的に周知し、存在を認知してもらう必要があります。
特に効果的なのは、問い合わせがあった際に「その答えは、こちらのFAQに載っていますよ」とURLを案内し、FAQサイトへ誘導する運用を徹底することです。これを繰り返すことで、従業員の中に「まずFAQを検索する」という行動習慣が根付いていきます。
FAQサイトを「形骸化」させないための運用戦略
FAQサイトは作って終わりではありません。むしろ、公開してからが本番です。多くの企業が、更新が滞り、情報が陳腐化することでFAQサイトを形骸化させてしまいます。そうならないための運用戦略が不可欠です。
①「誰が」「いつ」「どうやって」更新するのか? - 運用ルールの策定
FAQサイトの「オーナー部門」と「各カテゴリの責任者」を明確に定めます。そして、「新しい社内制度がリリースされた際は、施行日の1週間前までに責任者がFAQを更新する」「月に一度、全部門の責任者で利用状況と内容のレビュー会議を行う」といった、具体的で実行可能な運用ルールを策定し、関係者間で合意形成を図ることが成功の鍵です。
②利用状況の可視化と改善サイクル(PDCA)
GoogleサイトはGoogleアナリティクスと連携できます。これにより、「どのページがよく見られているか」「どのようなキーワードで検索されているか」「検索結果ゼロのキーワードは何か」といったデータを収集・分析できます。
これらのデータは、利用者のニーズそのものです。データに基づき、コンテンツの追加や改善を繰り返すPDCAサイクルを回すことで、FAQサイトは利用者の期待に応え続ける「生きたナレッジベース」へと進化します。
③問い合わせフォームとの連携でFAQを「育てる」仕組み
FAQで解決できなかったユーザーのために、サイト内にGoogleフォームで作成した問い合わせ窓口を設置します。このフォームから寄せられた新たな質問と、それに対する回答こそが、FAQサイトをさらに充実させるための最も価値ある情報源です。この仕組みを回すことで、FAQは半自動的に成長していきます。
XIMIXによる支援案内
ここまで、Googleサイトを活用した社内FAQの構築・運用方法を解説してきました。基本的な構築は自社でも可能ですが、そのポテンシャルを最大限に引き出し、全社的な文化として定着させるには、専門的な知見が求められる場面も少なくありません。
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このような高度なご要望や課題に対して、私たちXIMIXは、Google Cloudの専門家集団として、現状の業務分析から最適なシステム設計、構築、そして運用定着化までを一貫してご支援します。貴社のDX推進パートナーとして、ツールの導入だけに留まらない、真の「自己解決文化」の醸成をお手伝いします。
ご興味をお持ちいただけましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。
XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
XIMIXのGoogle Cloud 導入支援についてはこちらをご覧ください。
まとめ
社内問い合わせ対応の効率化は、もはや単なるコスト削減策ではありません。それは、従業員の貴重な時間を創造的な業務へとシフトさせ、従業員体験(EX)を向上させることで、企業全体の生産性を高めるための戦略的投資です。
Googleサイトは、その第一歩として非常に強力かつ低リスクなソリューションです。本記事でご紹介したステップと運用戦略を参考に、まずはスモールスタートでFAQサイトの構築に着手してみてはいかがでしょうか。
その小さな一歩が、これまで眠っていた問い合わせ履歴という「資産」を最大限に活用し、組織全体の成長を加速させる大きな推進力となるはずです。
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