はじめに
多くの企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)を重要な経営課題と位置づける一方、その第一歩であるはずの「身近な業務の自動化」が思うように進んでいない、という声をよく耳にします。「何から手をつければ良いかわからない」「どの業務が自動化に向いているのか判断できない」「費用対効果をどう説明すれば良いのか…」。こうした課題は、特に変化への影響範囲が大きい中堅・大企業において、共通の悩みではないでしょうか。
本記事では、こうした課題を解決するために、自社の定型作業を棚卸し、本当に価値のある自動化対象業務を見つけ出すための「思考フレームワーク」を、3つのステップで具体的に解説します。
この記事を最後までお読みいただくことで、あなたは以下のことを得られます。
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埋もれている自動化候補業務を体系的に洗い出す方法
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ROI(投資対効果)と実現性の観点から、取り組むべき業務の優先順位を判断する基準
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すでにお持ちのGoogle Workspaceライセンスで活用できる「GAS」や「AppSheet」をどう使い分けるべきかという具体的な指針
単なるツールの機能紹介ではなく、企業の意思決定を担う皆様が、自信を持って「足元のDX」を推進するための羅針盤となることを目指します。
なぜ「自動化すべき業務」は見つからないのか?
自動化による業務効率化の重要性は誰もが理解しているはずなのに、なぜ多くの現場で具体的な一歩が踏み出せないのでしょうか。我々が多くの企業をご支援する中で見えてきた、主な3つの原因について解説します。
原因1:日常業務に埋もれ「当たり前」になっている
毎日繰り返される報告書の作成、複数システムからのデータ転記、手作業での集計作業。これらは長年続く「当たり前の業務」となっており、担当者本人ですら「これは非効率だ」と認識していないケースが少なくありません。業務が可視化されておらず、個人や部門内に閉じてしまっているため、改善の対象としてテーブルに上がることさえないのです。
原因2:ROI(投資対効果)を定量的に示せない
決裁者を納得させるには、「楽になる」「便利になる」といった定性的な効果だけでは不十分です。自動化によって「何時間が削減され、その時間をどのような高付加価値業務に振り向けるのか」「人件費に換算すると、どれくらいのコスト削減インパクトがあるのか」といった定量的なROIを示す必要があります。しかし、この試算方法がわからず、提案の段階で頓挫してしまうのです。
原因3:ツールの選択肢が多すぎて判断できない
世の中にはRPA、iPaaS、ノーコード・ローコードツールなど、業務自動化を実現するソリューションが溢れています。しかし、選択肢が多すぎることが、かえって「どのツールが自社のどの課題に最適なのか」という判断を難しくしています。結果として、ツール選定だけで疲弊してしまったり、過剰な機能を持つ高価なツールを導入してしまい、活用しきれないといった事態を招きます。
自動化の「宝」を見つける3ステップ思考フレームワーク
これらの課題を乗り越え、効果的な自動化を推進するために、我々は以下の3ステップからなる思考フレームワークを提唱します。これは、複雑な事象をシンプルに整理し、着実に成果へと繋げるための実践的なアプローチです。
Step 1:業務の「棚卸し」と「可視化」
最初のステップは、個人や部門内に散らばっている「当たり前の業務」を客観的に洗い出し、可視化することです。ここでは、以下の2つの観点で業務を整理することをお勧めします。
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観点A:業務の特性
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繰り返し発生するか? (日次、週次、月次など)
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ルールは明確か? (判断基準がマニュアル化できるか)
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データの入出力を伴うか? (転記、集計、加工など)
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観点B:業務の担当範囲
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個人完結型: 自分一人の作業で完結する業務 (例: 個人のレポート作成)
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部門内連携型: 特定のチームや部署内で完結する業務 (例: 課内の勤怠集計)
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部門横断型: 複数の部署が関わる業務 (例: 請求書処理フロー)
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これらの観点を使い、まずは「自動化できるかもしれない業務リスト」を先入観なく作成することが重要です。
Step 2:ROIと実現性による「評価」と「優先順位付け」
洗い出した業務リストの中から、どれに最初に着手すべきか。ここで重要になるのが、「ビジネスインパクト(ROI)」と「実現の容易性」という2つの軸で評価し、優先順位を決定することです。
ビジネスインパクト(大) | ビジネスインパクト(小) | |
実現性(高) | 【最優先領域】 すぐに着手すべき「おいしい」業務。スモールスタートに最適。 |
【後回し/個別対応】 効果は限定的だが、個人の負荷が高いなら検討の価値あり。 |
実現性(低) | 【戦略的領域】 全社的な巻き込みが必要な中長期的テーマ。 |
【着手しない】 現時点では投資対効果が見合わない業務。 |
ビジネスインパクトの評価方法: 単純な作業時間の削減だけでなく、「ミスの削減による手戻り工数の削減」「リードタイム短縮による顧客満足度向上」「担当者の精神的負担の軽減」といった多角的な視点で評価します。 簡単なROIの試算式は以下の通りです。
月間削減時間 × 担当者の時間単価 × 12ヶ月 = 年間削減コスト
実現性の評価方法: 「業務プロセスの複雑さ」「関わる部署や人間の数」「既存システムの改修要否」などを基に判断します。特に、Google Workspace内で完結する業務は、一般的に実現性が高いと言えます。
この評価マトリクスを用いることで、「手軽に始められて、かつ効果も大きい」業務、つまり【最優先領域】にあるものから着手するという、データに基づいた意思決定が可能になります。
Step 3:課題に合わせた最適な「ツール選定」(GAS vs AppSheet)
優先順位が決まったら、いよいよ具体的なツールを選定します。ここでは、多くの企業がGoogle Workspaceのライセンス内で利用できる「Google Apps Script(GAS)」と「AppSheet」のどちらが最適か、という観点で解説します。
Google Apps Script (GAS) とは?
GASは、Googleの各種サービス(Gmail、スプレッドシート、ドキュメントなど)をプログラムで操作・自動化するための開発環境です。JavaScriptをベースとしており、柔軟な処理を実装できるのが特徴です。
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GAS (Google Apps Script): Googleサービス間の連携や、定型的なデータ処理を自動化する「縁の下の力持ち」。
関連記事:
【基本編】Google Apps Script (GAS) とは?機能、業務効率化、メリットまで徹底解説
AppSheet とは?
AppSheetは、プログラミング知識がなくても、スプレッドシートなどのデータソースから直感的な操作でビジネスアプリケーションを作成できるノーコード開発プラットフォームです。
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AppSheet: データ入力や承認フローなど、人が操作する「画面(UI)」を伴う業務をアプリ化するのに最適。
関連記事:
【基本編】AppSheetとは?ノーコードで業務アプリ開発を実現する基本とメリット
この2つのツールは競合するものではなく、解決したい課題に応じて使い分けることで、その真価を発揮します。
比較項目 | Google Apps Script (GAS) | AppSheet |
得意なこと | バックグラウンド処理、データ連携< ・夜間にデータを自動集計 ・フォーム投稿時に自動でメール通知 |
アプリケーション作成 ・スマホで使える現場報告アプリ ・複数人が関わる承認ワークフロー |
UIの有無 | 無し(プログラムが裏側で動く) | 有り(PCやスマホで操作する画面を作成) |
必要なスキル | JavaScriptの基礎知識 | プログラミング不要(ノーコード) |
ユースケース例 | ・スプレッドシートの特定セルを監視し、値が変わったらChatで通知 ・Gmailの添付ファイルを自動でドライブに保存 |
・外出先からの日報登録アプリ ・備品管理・棚卸しアプリ ・案件管理・進捗更新ツール |
関連記事:
AppSheetとGAS、どちらを選ぶ?Google Workspaceを活用した業務効率化のための使い分けガイド
自動化プロジェクトを成功に導くための2つの鍵
ツールを選定し、いざ自動化を進める上で、特に中堅・大企業が注意すべき2つのポイントがあります。これらは、技術的な問題ではなく、組織的な課題です。
鍵1:「スモールスタート」と「成功体験の共有」
最初から全部門を対象とした大規模な自動化プロジェクトを目指すのは、失敗のリスクが高いアプローチです。前述のフレームワークで特定した【最優先領域】の業務から着手し、小さな成功を積み重ねることが重要です。
一つの部門で「月20時間の作業がゼロになった」というような具体的な成功事例が生まれれば、それが強力な推進力となり、他部門へも自然と展開しやすくなります。成功体験は、時にどんな説明よりも雄弁に自動化の価値を物語ります。
関連記事:
なぜDXは小さく始めるべきなのか? スモールスタート推奨の理由と成功のポイント、向くケース・向かないケースについて解説
組織内でのDXの成功体験・成果共有と横展開の重要性、具体的なステップについて解説
鍵2:「野良ツール化」を防ぐガバナンスの視点
手軽に始められる反面、GASやAppSheetによる自動化・アプリ開発は、管理者の目が届かないところで無秩序に作られてしまう「野良ツール化」のリスクを孕んでいます。特定の担当者しかメンテナンスできないツールが乱立すると、その人が異動・退職した際に業務が停止する、といった事態になりかねません。
そうならないためには、開発の初期段階から情報システム部門が関与し、
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どのようなツールが、どの部署で、何の目的で使われているかを把握する仕組み
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開発・運用のための基本的なルールやガイドラインの策定
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全社で活用できるテンプレートや共通部品の提供 といった、統制(ガバナンス)と利便性のバランスを取る仕組み作りが不可欠です。
関連記事:
【入門編】シャドーIT・野良アプリとは?DX推進を阻むリスクと対策を徹底解説【+ Google Workspaceの導入価値も探る】
専門家の支援がもたらす価値
ここまで、業務自動化の対象を見つけるための思考フレームワークと、成功のための鍵を解説してきました。これらのステップは、自社内で推進することも十分に可能です。
しかし、「全社的な業務の棚卸しを効率的に進めたい」「複数部門にまたがる複雑な業務プロセスを整理したい」「適切なガバナンス体制を構築し、全社展開を加速させたい」といったフェーズにおいては、外部の専門家の知見を活用することが、成功への近道となる場合があります。
私たちXIMIXは、Google Cloudの専門家集団として、数多くの中堅・大企業の課題解決を支援してまいりました。その経験に基づき、単なるツール導入に留まらない、お客様のビジネス価値を最大化するためのご支援を提供します。具体的には、以下のような領域でお力になることが可能です。
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ROI試算と具体的な自動化ロードマップの策定
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GAS、AppSheetを活用した高度なアプリケーション開発・内製化支援
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全社展開を見据えたガバナンス体制の構築コンサルティング
自社だけでの推進に限界を感じている、あるいは、より高いレベルでの業務改革を目指したいとお考えの際は、ぜひ一度ご相談ください。
XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
XIMIXのGoogle Cloud 導入支援についてはこちらをご覧ください。
まとめ
本記事では、日常業務に埋もれた自動化の「宝」を見つけ出し、着実に成果へと繋げるための思考フレームワークを解説しました。
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Step1: 棚卸しと可視化: まずは先入観なく業務を洗い出す。
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Step2: 評価と優先順位付け: 「ROI」と「実現性」の2軸で評価し、最も効果的な業務から着手する。
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Step3: 最適なツール選定: 課題に合わせてGASとAppSheetを賢く使い分ける。
DXの第一歩は、大規模なシステム導入だけではありません。Google Workspaceという、すでにある資産を最大限に活用し、現場の小さな非効率を一つひとつ解消していくことこそが、企業全体の生産性を向上させる確実な一歩です。
この記事が、皆様の会社の「足元のDX」を推進する一助となれば幸いです。
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