はじめに
多くの企業で導入が進む Google Workspace ですが、その効果を最大化する上で見落とされがちなのが、定期的なアカウントの棚卸です。日々の業務に追われる中で、「退職者アカウントが放置されているかもしれない」「ライセンス費用が最適化されているか不安だ」といった課題を抱える情報システム部門のご担当者様は少なくありません。
アカウントの棚卸を怠ることは、深刻なセキュリティリスクの増大や不要なライセンスコストの発生に直結し、企業の信頼と経営を揺るがしかねない問題です。特に、従業員の入退社が頻繁な組織や、プロジェクト単位でのアカウント発行が多い企業にとって、これは避けて通れない重要課題と言えるでしょう。
この記事では、Google Workspaceを利用されている中堅〜大企業の決裁者層および情報システムご担当者様に向けて、アカウント棚卸の重要性から、具体的な手順、さらには効率化のヒントまでを網羅的に解説します。本記事が、貴社のセキュリティ体制強化とコスト最適化を実現する、確かな一歩となることをお約束します。
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なぜ、Google Workspaceのアカウント棚卸が重要課題なのか?
アカウント棚卸は、単なる「整理整頓」ではありません。企業の資産と信頼を守るための、極めて重要な経営・セキュリティ戦略です。その必要性を3つの観点から解説します。
①放置されたアカウントが招く、深刻なセキュリティリスク
退職者や異動により使われなくなったアカウントは、悪意のある第三者にとって格好の標的です。放置されたアカウントは、不正アクセスの侵入口や内部からの情報漏洩の温床となり得ます。
例えば、退職者が保持していた認証情報で社内データにアクセスされたり、アカウントが乗っ取られて機密情報が外部に流出したりするインシデントは後を絶ちません。これは企業の社会的信用を失墜させるだけでなく、事業継続そのものを脅かす重大なリスクです。実際に、情報処理推進機構(IPA)が発表する「情報セキュリティ10大脅威」においても、内部不正による情報漏洩や不適切なアクセス管理は常に上位のリスクとして挙げられています。
関連記事:セキュリティインシデントが発生するとどうなるか?影響範囲を徹底解説、対策不備が招く事業存続の危機とは
②気づかぬうちに膨らむ、不要なライセンスコスト
Google Workspaceは、ユーザーアカウント数に応じたサブスクリプションモデルです。つまり、利用されていないアカウントにも毎月コストが発生しています。
従業員規模の大きな企業では、一つ一つのライセンス費用は小さくとも、年間で見れば数百万単位の無視できない金額になることも珍しくありません。定期的な棚卸によって不要なアカウントを削除・停止することは、無駄な支出をなくし、その予算をより戦略的なIT投資(例: 新規サービスの導入、セキュリティ強化策)へと振り向けるための、最も直接的で効果的な手段です。
③企業の信頼を支えるコンプライアンスと内部統制
適切なアカウント管理は、個人情報保護法や各種業界ガイドラインといった法的要件、そして上場企業に求められる内部統制(J-SOX法など)の観点からも不可欠です。
「誰が、いつ、どの情報にアクセスできるのか」を明確に管理し、そのライフサイクル(作成・変更・削除)を徹底することは、監査対応における基本要件です。アカウント棚卸は、これらのコンプライアンス要件を満たし、企業のガバナンス体制と社会的な信頼性を維持するための基礎的な活動なのです。
アカウント棚卸の具体的な進め方【基本ステップ】
それでは、実際にアカウント棚卸を進めるための具体的な手順を5つのステップで解説します。Google Workspaceの管理コンソールを活用し、着実に進めていきましょう。
ステップ1: 現状把握 – 全アカウントのリストアップと可視化
まず、組織内に存在する全ユーザーアカウントを正確に把握します。
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管理コンソールにログイン: 管理者権限を持つアカウントでGoogle Workspace 管理コンソールにログインします。
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ユーザーリストのエクスポート: 左メニューの「ディレクトリ」>「ユーザー」へと進み、画面上部の「ユーザーをダウンロード」をクリックします。ダウンロードする列を選択し(「最終ログイン日時」と「ステータス」は必須)、CSV形式でエクスポートします。これが棚卸の基礎データとなります。
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情報の整理と分類: エクスポートしたCSVファイルをスプレッドシートなどで開き、「最終ログイン日時」で並べ替えます。これにより、長期間ログインしていない休眠アカウントの候補を洗い出します。
ステップ2: 不要アカウントの特定 – 人事情報との照合
次に、洗い出したアカウントリストと、人事部門が管理する従業員情報を照合し、不要なアカウントを正確に特定します。
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人事データとの突合: 人事部門から最新の退職者・休職者リストを提供してもらい、ユーザーリストと照合します。これにより、退職後も削除されていないアカウントを確実に特定できます。
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休眠アカウントの定義: 社内ルールに基づき、「最終ログインから180日以上経過したアカウント」など、休眠アカウントと判断する基準を明確に定めます。この基準に基づき、休眠アカウント候補をリストアップします。
ステップ3: 適切なアカウント処理 – 停止・データ移行・削除
特定した不要アカウントに対して、社内ポリシーに基づき適切な処理を行います。即時削除はせず、段階的な対応を推奨します。
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アカウントの「停止」: まずはアカウントを「停止」状態にします。これにより、ログインやメール送受信がブロックされ、セキュリティリスクを即座に低減できます。万が一、必要なアカウントだった場合にも容易に復旧が可能です。
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データの移行とバックアップ: アカウントを削除する前に、そのアカウントが保有するGoogleドライブ内のファイルやGmailのデータを、後任者や共有ドライブへ移行、またはバックアップします。Google Workspaceにはデータ移行ツールも備わっていますが、要件に応じてサードパーティのツール利用も有効です。
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アカウントの「削除」: データの移行が完了し、関係部署への確認が取れた後、アカウントを削除します。削除後、一定期間内であれば復元可能ですが、基本的には復旧できないため、最終判断は慎重に行います。
ステップ4: ライセンス契約の見直しと最適化
不要なアカウントの整理が完了したら、ライセンス契約を見直してコスト削減を実現します。
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ライセンス数の削減: 実際に利用しているアクティブなアカウント数に合わせて、ライセンス契約数を減らします。これにより、翌月の支払いからコスト削減効果が現れます。
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ライセンス種類の最適化: 必ずしも高機能なライセンスが必要とは限りません。利用実態に応じて、より安価なライセンスプランに変更できないか検討することも、コスト最適化の重要なポイントです。
ステップ5: 運用プロセスの確立と定期的な実施
アカウント棚卸は一度きりのイベントではありません。継続的な運用体制を構築することが最も重要です。
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定期的なスケジュールの設定: 「四半期に一度」「半期に一度」など、棚卸の実施頻度をルール化し、年間スケジュールに組み込みます。
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プロセスの文書化: 棚卸の手順、判断基準、関係部署との連携フローを文書化し、誰でも実施できるように標準化します。これにより、業務の属人化を防ぎます。
アカウント棚卸を成功させるための重要ポイント
棚卸を安全かつスムーズに進めるために、特に注意すべき点を解説します。
①データ保全の徹底:バックアップと移行は最優先
アカウント削除は、データの完全な消去を意味します。法的要件や社内規定で定められた保存期間を確認し、必要なデータは必ずバックアップまたは後任者へ移行してください。Googleのデータエクスポートツールの利用や、専門のバックアップソリューションの導入も有効な選択肢です。
②部門間連携の重要性:情シスだけで進めない
アカウント棚卸は、情報システム部門だけで完結できません。
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人事部門: 正確な在籍情報を得るために、入退社・異動情報をタイムリーに共有する連携体制が不可欠です。
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各事業部門: 実際にアカウントを利用する現場へのヒアリングは必須です。「不要に見えるアカウントが、実は特定の業務で必要だった」というケースは少なくありません。必ず現場の責任者に確認を取りましょう。
③ユーザーへの事前通知とコミュニケーション
アカウントの停止や削除を行う際は、対象ユーザー(休職者など復帰の可能性がある場合)や、そのデータを引き継ぐ関係者への事前通知を徹底しましょう。突然のアクセス不可による混乱や業務への影響を未然に防ぎます。
アカウント棚卸を効率化・自動化するヒント
大規模な組織において、手作業での棚卸は大きな負担です。効率化のためのヒントをご紹介します。
①Google Workspaceの標準機能を最大限に活用する
管理コンソールには、アカウント管理を効率化する機能が多数備わっています。
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レポート機能: ユーザーのアプリ利用状況やセキュリティレポートを活用し、休眠アカウントの特定やリスクの可視化に役立てます。
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動的グループ: 部署や役職といった属性に基づきユーザーを自動でグループ化し、ポリシーを一括適用することで管理を効率化します。
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Context-Aware Access: ユーザーの場所やデバイスのセキュリティ状態に応じてアクセスを動的に制御し、セキュリティを強化します。
関連記事:
Google Workspaceのコンテキストアウェアアクセスとは?セキュリティ強化の第一歩をわかりやすく解説
②ツールの活用による自動化(GAS、IDaaS)
より高度な効率化を目指すなら、ツールの活用が効果的です。
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Google Apps Script (GAS): スプレッドシートと連携し、「最終ログイン日時が180日以上のアカウントを自動でリストアップし、管理者に通知する」といった簡易的な自動化ツールを開発可能です。
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ID管理システム (IDaaS): 人事システムと連携し、入退社に伴うアカウントの作成・権限付与(プロビジョニング)や権限剥奪・削除(デプロビジョニング)を完全に自動化します。これにより、管理負荷を劇的に軽減し、セキュリティを向上させることができます。
関連記事:【基本編】Google Apps Script (GAS) とは?機能、業務効率化、メリットまで徹底解説
専門家の支援が必要な場合はXIMIXへご相談ください
ここまでアカウント棚卸の進め方を解説しましたが、「日々の業務に追われ、棚卸まで手が回らない」「手順は理解したが、自社だけで安全に実施する自信がない」といったお悩みもあるかと存じます。
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まとめ
本記事では、Google Workspaceのアカウント棚卸について、その重要性から具体的な手順、効率化のヒントまでを網羅的に解説しました。
アカウント棚卸は、セキュリティリスクの低減、不要なコストの削減、そしてコンプライアンス遵守の観点から、すべての企業にとって不可欠な業務です。定期的な棚卸を習慣化することで、Google Workspaceをより安全かつ効率的なIT基盤へと進化させ、企業の持続的な成長を支えることができます。
まずはこの記事で紹介したステップを参考に、現状把握から始めてみてはいかがでしょうか。もし自社だけでの対応に困難を感じたり、より専門的なアドバイスが必要な場合は、いつでもXIMIXまでお気軽にご相談ください。
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