はじめに
企業のDX推進において、Google Cloud のようなパブリッククラウドの活用は、今やビジネス成長の基盤です。しかし、どれほど堅牢なサービスであっても、障害のリスクを完全にゼロにすることはできません。万が一、自社が利用する Google Cloud サービスで障害が発生した際、「何から確認すべきか?」「どこで正確な情報を得られるのか?」と、対応に苦慮するケースは少なくありません。
特にクラウド運用の経験が浅い場合や、初めて大規模な障害に直面した場合、冷静かつ迅速な判断は極めて困難です。
本記事では、Google Cloud を利用する企業のシステム担当者様やDX推進責任者様に向けて、サービス障害の発生に備えるための包括的なガイドを提供します。障害発生時の初動対応や情報収集の方法はもちろん、ビジネスへの影響を最小限に抑えるための「事前対策」の考え方まで、専門家の視点から分かりやすく解説します。
この記事を読み終える頃には、以下の点を深く理解できているはずです。
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障害発生の検知から原因の切り分けまでの初動
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信頼性の高い公式障害情報を収集・解読する方法
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冷静に対応するための実践的なステップ
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事業継続に不可欠な「障害に強いシステム」の考え方
万が一の事態に備え、組織全体でクラウド障害に立ち向かうための知識を身につけましょう。
障害を検知したら:まず確認すべき原因の切り分け
ユーザーからの問い合わせや監視システムのアラートで障害の可能性を検知したら、パニックにならず、まずは問題の所在を切り分けることから始めましょう。障害の原因が必ずしも Google Cloud 側にあるとは限りません。
①自社環境への影響範囲を特定する
最初に把握すべきは、「どのサービス」が「どの範囲」で影響を受けているかです。以下の点を冷静に整理します。
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利用中のGoogle Cloudサービス: Compute Engine のVMインスタンス、Cloud Storage のバケット、特定のAPIなど、問題が発生しているサービスを特定します。
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リージョン・ゾーン: 利用中のリソースがどの地理的拠点(リージョンやゾーン)に属しているかを確認します。障害は特定の地域に限定されることが多いため、この情報は極めて重要です。
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具体的な影響: 「VMにSSH接続できない」「アプリケーションの応答がタイムアウトする」「ファイルのアップロードが失敗する」など、観測されている事象を具体的に記録します。
②問題の所在を切り分ける
次に、障害の原因が Google Cloud にあるのか、それ以外の部分(自社アプリケーション、ネットワーク経路など)にあるのかを大まかに切り分けます。
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複数環境からの再現性: 別のネットワーク環境(例: オフィスの別回線、個人のスマートフォン)からも同様の問題が発生するか確認します。特定のネットワークからのみアクセスできない場合、自社や経路上でのネットワーク問題の可能性が高まります。
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アプリケーションログの確認: 自社で開発・運用しているアプリケーションのログを確認し、エラーメッセージや異常な挙動がないか調査します。
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構成変更の有無: 障害発生の直前に、インフラやアプリケーションの構成変更、デプロイ作業がなかったかを確認します。
この切り分けによって、その後の調査を効率的に進め、Google Cloud の公式情報を確認する際の精度を高めることができます。
最も信頼できる情報源:Google Cloud Service Health
自社環境への影響範囲を確認し、問題が Google Cloud 側にありそうだと判断したら、次に公式の障害情報を確認します。最も信頼性が高く、最初にアクセスすべき情報源が Google Cloud Service Health です。
Google Cloud Service Health とは?
Google Cloud の各サービスの稼働状況やインシデント(障害)情報を、Google のエンジニアリングチームがリアルタイムで提供する公式ダッシュボードです。(以前は Google Cloud Status Dashboard という名称でした)ここで公開される情報は、信頼性が担保された一次情報となります。
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Google Cloud Service Health: https://status.cloud.google.com/?hl=ja
ダッシュボードの見方とインシデント詳細
ダッシュボードにアクセスすると、サービス群とその稼働状況が一覧で表示されます。
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ステータス表示: 各サービスは通常、緑色のチェックマーク(利用可能)で示されます。問題発生時はオレンジ色(サービス障害)や赤色(サービス停止)のアイコンに変わり、インシデントの詳細情報へのリンクが表示されます。
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インシデント詳細: 該当箇所をクリックすると、障害の発生日時、影響範囲(サービス、リージョン、機能)、Google側の調査・復旧状況、そして今後の更新見込みなどが時系列で提供されます。状況に進展があるたびに情報が更新されるため、定期的な確認が不可欠です。
Personalized Service Health で情報を最適化する
全ユーザー向けの情報とは別に、自社が利用するプロジェクトやサービスに特化した障害情報を受け取れる Personalized Service Health の活用を強く推奨します。
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設定: Google Cloud コンソールから設定可能です。
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メリット: 自社に関係のない障害情報に惑わされることなく、影響のあるインシデントのみを効率的に把握し、アラート通知を受け取ることができます。これは事前の準備として必ず設定しておくべき機能です。
障害発生時の実践的な対応プロセス
情報収集の方法を理解した上で、障害発生時の具体的な対応プロセスを6つのステップで解説します。
Step 1: 影響範囲の確認と社内への第一報
自社システムへの影響(サービス、リージョン、具体的な事象)を特定し、事前に定めたルールに基づき、関係部署や責任者へ迅速に第一報を共有します。
Step 2: Google Cloud Service Healthでの公式情報確認
Google Cloud Service Health にアクセスし、該当サービス・リージョンの公式情報を確認します。インシデントが報告されている場合、その詳細を定期的にチェックし、状況を追い続けます。
Step 3: 状況に応じた暫定対応の検討と実施
公式情報や影響範囲に基づき、ビジネスを継続させるための暫定対応を検討・実施します。これはシステムの設計や事前の準備状況に大きく依存します。 (例: 別のリージョンへのトラフィック切り替え、影響を受ける機能の一次的な縮退運転、ユーザーへの状況アナウンスなど)
Step 4: Google Cloud サポートへの問い合わせ
契約しているサポートプランに応じて、テクニカルサポートへ問い合わせます。特に、公式情報だけでは判断できない自社固有の状況について確認したい場合に有効です。ただし、大規模障害の際は問い合わせが殺到し、応答に時間を要する可能性があることも念頭に置きましょう。
Step 5: 復旧の確認
Google Cloud から復旧が宣言された後、自社システムが正常に動作するかを多角的にテストし、完全な復旧を確認します。
Step 6: 根本原因の分析と恒久対策(事後対応)
障害対応は、復旧して終わりではありません。Google Cloud から提供される障害レポート(Postmortem)などを参考に根本原因を理解し、再発防止策やアーキテクチャの改善を検討することが、将来の安定運用に繋がります。
関連記事:【入門編】ポストモーテムとは?インシデントを学びと成長に変える、文化と実践プロセスを徹底解説
障害に「備える」ための戦略的アプローチ
障害発生時に慌てないためには、技術的な対策と組織的な準備を組み合わせた、平時からの「備え」が何よりも重要です。
サポートプランの確認と見直し
自社のビジネス要件やシステムの重要度に見合った Google Cloud のサポートプランに加入しているか、定期的に確認・見直しを行いましょう。テクニカルサポートへのアクセス可否や応答時間はプランによって大きく異なり、これが復旧時間に直結することもあります。
システムの重要度に応じた冗長化設計
ミッションクリティカルなシステムにおいては、単一障害点(SPOF)をなくす冗長化構成が不可欠です。XIMIXの導入支援実績でも、システムの可用性を高めるために以下の構成を推奨することが多くあります。
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マルチゾーン構成: 同一リージョン内の複数ゾーンにリソースを分散させ、ゾーン障害に備える基本的な構成です。
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マルチリージョン構成: 複数のリージョンにシステムを分散させ、大規模なリージョン障害にも耐えられるようにする、より高度な構成です。
関連記事:Google Cloud リージョン/ゾーン選択の最適解は?:レイテンシ・コスト・冗長性・コンプライアンスを考慮した実践ガイド
障害対応プロセスの文書化と訓練
「誰が、いつ、何を、どのように行うのか」を定めた障害対応プロセスを文書化し、関係者間で共有するだけでは不十分です。定期的に障害を想定した訓練(シミュレーション)を行い、プロセスが実用的であるかを確認し、改善を続けることが重要です。
XIMIXによる包括的な伴走支援
Google Cloud の障害対応は、迅速な情報収集と的確な判断が求められる高度な専門領域です。特に、障害原因の分析や恒久対策の策定には、深い知識と経験が必要となります。
私たち XIMIX は、Google Cloud / Google Workspace の導入コンサルティングから、システムインテグレーション、運用保守、そして障害発生時の技術支援まで、お客様のビジネスを成功に導くための包括的な伴走支援サービスを提供しています。
数多くの企業様のクラウド活用をご支援してきた実績と知見に基づき、万が一の障害発生時にも、お客様と一体となって迅速な問題解決を図り、ビジネスへの影響を最小限に抑えるお手伝いをいたします。また、平常時からお客様の環境を深く理解し、障害に強い最適なアーキテクチャ設計や運用体制の構築をご提案することも可能です。
Google Cloud の安定運用や障害対応に少しでも不安をお持ちでしたら、ぜひ一度 XIMIX にご相談ください。
XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
XIMIXのGoogle Cloud 導入支援についてはこちらをご覧ください。
まとめ
今回は、Google Cloud のサービス障害に備え、発生時に冷静かつ効果的に対応するための知識と手法を解説しました。
障害対応の重要なポイント:
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初動: 慌てずに影響範囲と問題の所在を切り分け、社内で迅速に共有する。
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情報収集: 信頼性の高い Google Cloud Service Health を第一の情報源とする。
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プロセス: 事前に定義したプロセスに従い、冷静に対応を進める。
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最重要事項: 何よりも「事前の準備」が決定的に重要である。
サポートプランの見直し、システムの冗長化、対応プロセスの整備・訓練などを平時から行うことが、万が一の際の被害を最小限に抑え、迅速なビジネス復旧を可能にします。クラウドを真のビジネス資産として活用するためには、こうした障害への備えが不可欠です。
この記事が、皆様の Google Cloud の安定運用と事業継続計画の一助となれば幸いです。
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