はじめに
「データに基づいた意思決定(データドリブン経営)」が企業の競争力を左右する時代において、「データ活用」は経営の最重要課題の一つです。しかし、多くの企業がその必要性を認識しつつも、深刻な壁に直面しています。
それが「専門人材の不足」です。
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が発行する「DX白書」の最新版においても、DXを推進する上での最大の課題として「人材の不足」を挙げる企業の割合は依然として高く、データ活用実現への大きな障壁となっています。
「データ分析の重要性は理解しているが、社内にデータサイエンティストがいない」 「担当者が他業務と兼務しており、分析業務まで手が回らない」 「専門家を採用しようにもコストが合わず、市場にもいない」
こうした状況から、データ活用への第一歩を踏み出せずにいる、あるいはプロジェクトが停滞しているのは、決して貴社だけの悩みではありません。しかし、この課題を理由にデータ活用を諦めてしまうのは、あまりにも大きな機会損失です。
本記事では、データ分析を進めたいものの、社内リソース(特に人材)に課題を感じている中堅〜大企業の担当者・決裁者の皆様へ。人材不足という逆境を乗り越え、データ分析を始めるための「現実的な方法」を、具体的なアプローチと成功のポイントを交えて徹底的に解説します。
関連記事:
データドリブン経営とは? 意味から実践まで、経営を変えるGoogle Cloud活用法を解説
なぜ、人材不足でもデータ分析を急ぐべきなのか
限られたリソースの中で、なぜ「データ分析」への投資を優先すべきなのでしょうか。その理由は、データ活用がもたらす価値が、もはや「あれば望ましいもの」から「事業継続に不可欠なもの」へと急速に変化しているからです。
-
顧客理解の深化: 勘や経験に頼っていた顧客像を、データで正確に捉え直し、パーソナライズされた体験を提供する。
-
業務プロセスの最適化: データに基づき業務のボトルネックを客観的に特定・解消し、劇的な生産性向上を図る。
-
的確な意思決定: 変化の激しい市場環境において、客観的なデータが戦略の精度を高め、経営リスクを低減する。
-
新たなビジネス機会の創出: データに隠れたインサイトから、新たな商品・サービス開発のヒントを得る。
もし人材不足を理由にデータ活用を先送りすれば、データからインサイトを得て改善を続ける競合他社との差は、開く一方です。未来の競争力を確保するためには、限られたリソースの中でも工夫次第で「今、第一歩を踏み出す」ことが不可欠です。
関連記事:
顧客データ活用の第一歩:パーソナライズドマーケティングを実現する具体的な方法とは?【BigQuery】
データ分析で既存業務の「ムダ」を発見しBPRを実現 - Google Cloudで始める業務改革の第一歩
データ分析人材が不足する「3つの壁」
多くの企業が直面する「人材不足」という課題は、具体的に3つの壁として立ちはだかります。自社の状況がどれに当てはまるか、ご確認ください。
壁1:専門スキル・ノウハウの欠如
データサイエンティストやデータアナリストといった専門職が社内に不在のケースです。統計学、プログラミング(Python, R)、データベース(SQL)、BIツールの操作といった専門スキルがなく、「分析手法がわからない」「自社に合うツールを選べない」「分析結果をどう解釈すればよいか不明」といった問題に直面します。
壁2:推進体制・リソースの不足
最も多いケースかもしれません。担当者が任命されても、他業務との兼務で分析に集中できない状況です。
データ分析は片手間で成果が出るほど簡単ではありません。また、経営層の理解が得られず予算や権限が不足していたり、部門間の連携が取れず必要なデータがサイロ化していたりする「体制面」の課題もここに含まれます。
関連記事:
データのサイロ化とは?DXを阻む壁と解決に向けた第一歩【入門編】
壁3:戦略・目的の曖昧さ
「データ分析で何を実現したいのか」という目的が明確でないケースです。「DX推進室」といった箱は作ったものの、「まずはデータを集めてみた」「BIツールを導入してみた」だけで、具体的なビジネス課題に結びついていないパターンです。目的が曖昧なままでは、分析結果をどう解釈し、次のアクションに繋げれば良いかが分からず、プロジェクトが迷走してしまいます。
人材不足を乗り越える、データ分析実現への4つの現実的なアプローチ
では、これらの壁をどう乗り越えればよいのでしょうか。ここでは、人材不足の中でもデータ分析を成功に導くための、現実的な4つのアプローチをご紹介します。これらは排他的なものではなく、多くの場合、組み合わせて実行することになります。
アプローチ1:スモールスタートで早期に成功体験を積む
最初から全社規模の壮大なプロジェクトを目指すのではなく、特定の部門や課題(例:「特定の商品の売上予測」「Webサイトのコンバージョン率改善」など)に絞って小さく始める方法です。
-
メリット: 初期投資を抑制でき、短期間で成果を出しやすいため、データ分析の価値を社内に示しやすくなります。「データ分析は儲かる」という成功体験が、経営層や他部門の協力を得るための何よりの材料となります。
-
成功のポイント: まずはPoC(Proof of Concept:概念実証)を実施し、低コストで有効性を検証するのが定石です。ExcelやGoogle スプレッドシートなど、今あるツールでできる範囲から試すだけでも、新たな発見があるはずです。完璧な分析基盤を目指すのではなく、「小さく試して、素早く学び、改善する」サイクルを回すことを重視します。
関連記事:
なぜDXは小さく始めるべきなのか? スモールスタート推奨の理由と成功のポイント、向くケース・向かないケースについて解説
【入門編】PoCとは?DX時代の意思決定を変える、失敗しないための進め方と成功の秘訣を徹底解説
アプローチ2:最新ツールで「専門家の仕事」を代替・効率化する
専門知識がなくても直感的に操作できるツールを活用し、テクノロジーで人材不足を補うアプローチです。かつては専門家でなければ扱えなかった高度な分析が、ツールの進化によって急速に民主化しています。
-
BIツール (Looker など): データをグラフやダッシュボードで可視化します。Looker のようなモダンなBIツールは、専門家でなくても直感的にデータを探索できるインターフェースを備えています。
-
データ準備ツール (Dataprep など): 分析前の煩雑なデータ収集・加工・統合(データクレンジング)を自動化します。GUIベースで操作できる Dataprep のようなツールを使えば、プログラミング知識は不要です。
-
AI/機械学習プラットフォーム (Vertex AI など): 専門家でなくてもAIモデルの構築や予測分析を行える「AutoML」機能が充実しています。
-
成功のポイント: 「ツール導入」が目的化しないよう、細心の注意が必要です。「多機能だが高価で使いこなせない」は、ツール導入の典型的な失敗パターンです。自社の目的、データ量、そして何より「利用者のスキルレベル」を冷静に見極め、最適なツールを選定することが重要です。
関連記事:
データ分析の真価を引き出すツール選定術:機能比較だけではない組織文化・スキルとの適合性見極め
【入門編】データ可視化とは?目的とメリットを専門家が解説
なぜ必要? データクレンジングの基本を解説|データ分析の質を高める第一歩
アプローチ3:社内人材を「市民データサイエンティスト」へ育成する
時間はかかりますが、最も本質的かつ長期的な資産となるアプローチです。業務知識を既に持っている既存社員に、データ分析スキルを習得してもらう「リスキリング」により、社内にデータ活用文化を根付かせます。
-
メリット: 「業務知識」と「データスキル」の両方を備えた人材は、外部の専門家よりも的確で、現場に即したインサイト(示唆)を生み出しやすくなります。また、ノウハウが社内に蓄積され、中長期的な分析コストの削減にも繋がります。
-
成功のポイント: データ分析に関心を持つ意欲的な社員を発掘し、育成対象とすることが第一歩です。いきなり高度な統計学を学ばせるのではなく、まずはアプローチ2で紹介したBIツールなどを使いこなし、「データを読み解く楽しさ」を知ってもらうことが重要です。オンライン講座や外部研修とOJT(実務を通じた学習)を組み合わせ、実務の中でスキルを磨く機会を提供することが効果的です。
関連記事:
DXを加速する「データの民主化」とは?意味・重要性・メリットを解説
全社でデータ活用を推進!データリテラシー向上のポイントと進め方【入門編】
アプローチ4:外部の専門家(パートナー)と協業しスピードと成果を得る
データ分析基盤の構築、高度な分析の実行、戦略策定などを外部の専門企業に委託(アウトソーシング)または協業するアプローチです。
-
メリット: 最大のアドバンテージは「スピード」です。自社でゼロから人材を採用・育成する時間を買うことができます。短期間で専門的な知見やスキルを活用でき、自社リソースを本来のコア業務に集中させられます。また、客観的な第三者の視点から、自社では気づかなかった課題や機会のアドバイスが得られることも大きな価値です。
-
成功のポイント: パートナー選定が成否を分けます。技術力はもちろん重要ですが、それ以上に「自社のビジネスや課題を深く理解しようとしてくれるか」「組織への定着まで伴走し、ノウハウを移転してくれるか」を見極めることが重要です。「丸投げ」ではなく、あくまで「協業」してノウハウを吸収する姿勢が、自社のデータ活用力を高める鍵となります。
関連記事:
データ分析基盤のパートナー選定で失敗しないための7つのポイント|良いベンダーの見極め方とは?
【実践】自社に最適なデータ分析の進め方を見つける組み合わせ戦略
ご紹介した4つのアプローチは、どれか一つを選ぶものではありません。多くの場合、自社のフェーズやリソース状況に合わせてこれらを柔軟に組み合わせることが、成功への最短ルートとなります。
①初期段階:まず「価値」を可視化するフェーズ
-
戦略: アプローチ1(スモールスタート)を基本に、アプローチ2(ツール)とアプローチ4(外部パートナー)を限定的に活用します。
-
具体例:
-
課題を1つに絞り(例:営業部門のSFAデータ分析)、PoCを実施。
-
手軽なBIツール(Lookerなど)を導入。初期設定や基本的なダッシュボード構築は外部パートナー(④)の短期的な支援を受けるのが効率的。
-
兼務でも意欲のある現場担当者(③の候補)を巻き込み、ツールの使い方を覚えてもらう。
-
小さな成果(例:「受注確度の高い顧客リストの可視化」)を早期に出し、経営層に価値をアピールする。
-
関連記事:
組織内でのDXの成功体験・成果共有と横展開の重要性、具体的なステップについて解説
②中期段階:分析を「業務」に組み込むフェーズ
-
戦略: ツール活用(②)を他部門へ横展開しつつ、本格的に人材育成(③)を開始。基盤構築や高度な分析は引き続きパートナー(④)と協業します。
-
具体例:
-
初期段階で得た成功モデルを、マーケティング部門や製造部門などに応用。
-
本格的なデータ分析基盤(BigQueryなど)の構築を外部パートナー(④)と共同で進める。
-
意欲ある社員を対象に「市民データサイエンティスト育成プログラム」(③)を開始。
-
分析結果を実際の施策に繋げ、業務プロセスを改善するサイクルを確立する。
-
関連記事:
【入門編】BigQueryとは?できること・メリットを初心者向けにわかりやすく解説
なぜデータ分析基盤としてGoogle CloudのBigQueryが選ばれるのか?を解説
③発展段階:「内製化」と「自走」を目指すフェーズ
-
戦略: 育成した社内人材(③)が中心となり、外部パートナー(④)と対等な立場で連携しながら、分析テーマの拡大や本格的な内製化を目指します。
-
具体例:
-
社内人材がデータ分析の主担当となり、外部パートナーはより高度な技術支援(AIモデル構築など)やアドバイザーとしてサポートする体制へ移行。
-
全社的なデータガバナンス体制を構築し、全社員が安全にデータを活用できる環境を整備する。
-
人材不足の課題、XIMIXがGoogle Cloudで解決を支援します
「何から始めれば良いかわからない」 「自社に最適なツールを選べない」 「分析基盤の構築や運用まで手が回らない」 「丸投げではなく、ノウハウを学びながら協業できるパートナーが見つからない」
こうした人材不足に起因するデータ分析のあらゆる課題に対し、私たち XIMIX は、お客様の状況に合わせた最適な解決策をご提案します。
XIMIXは、長年培ってきたシステムインテグレーションのノウハウと、Google Cloud のプレミアパートナーとしての高度な技術力を掛け合わせ、お客様のデータ活用を強力に支援します。
-
PoC支援: 本記事で推奨した「スモールスタート」を切りたいお客様に、Google Cloud の技術を用いて低コスト・短期間での効果検証をサポートします。
-
ツール導入・活用支援: LookerやBigQueryといった最新ツールの導入から、ダッシュボード構築、効果的な活用法のレクチャーまで、お客様のスキルレベルに合わせて伴走します。
-
データ分析基盤構築・運用: リソース不足のお客様に代わり、データの収集・蓄積・加工・可視化まで、拡張性の高いデータ分析基盤の設計・構築から運用保守までをトータルでサポートします。
XIMIXは単なるツール提供や分析代行に留まりません。お客様が自律的にデータ活用を推進できる組織となることをゴールに、技術とビジネスの両面から最適なソリューションを提供します。
XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
XIMIXのGoogle Cloud 導入支援についてはこちらをご覧ください。
まとめ
データ分析における人材不足は、多くの企業が直面する深刻な課題ですが、データ活用を断念する理由にはなりません。
本記事でご紹介した、
-
スモールスタートで始める
-
使いやすいツールを活用する
-
社内人材を育成する
-
外部パートナーと協業する
これらのアプローチを自社の状況やフェーズに合わせて賢く組み合わせることで、限られたリソースの中でもデータ分析は着実に推進できます。
完璧な体制が整うのを待つのではなく、まずはデータという羅針盤を手に入れるための「現実的な小さな一歩」を踏み出すことが重要です。変化の激しい時代を乗り切るため、ぜひXIMIXと共に、貴社に合ったデータ分析の進め方を見つけてください。
- カテゴリ:
- Google Cloud