IaCはなぜ監査対応・ガバナンス強化につながるのか?

 2025,08,13 2025.10.27

はじめに

「また監査の季節か…膨大なインフラ構成の証跡集めに追われる」 「あのサーバーの設定、誰がいつ、なぜ変更したのか追跡できない」 「セキュリティポリシーは定義したが、全環境で徹底されているか不安だ」

多くの中堅・大企業において、このような課題は情報システム部門やDX推進担当者にとって深刻な悩みではないでしょうか。

ビジネスの俊子性を高めるためにクラウド活用が進む一方、インフラ環境は複雑化し、手作業による管理は限界に達しています。実際、クラウド環境の設定ミスが引き起こすセキュリティインシデントは依然として多く、その背景にはガバナンスの欠如が指摘されています。

結果として、意図しない設定変更によるセキュリティリスクの増大や、厳格な監査への対応コストの肥大化といった経営課題に直結しているのです。

本記事の結論を先にお伝えします。IaC(Infrastructure as Code)は、単なるインフラ構築の効率化ツールではなく、厳格な監査対応や全社的なITガバナンス強化を実現するための、極めて有効な経営戦略上のアプローチです。

この記事では、なぜIaCがこれらの課題を根本から解決できるのか、その仕組みから具体的なビジネス価値、そしてGoogle Cloudを活用した実践例、導入を成功に導くための秘訣まで、企業のDX推進を支援してきた視点から詳しく解説します。

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なぜ、インフラの”手作業”管理が限界なのか?

IaCの価値を理解するために、まずは多くの企業が抱えるインフラ管理の根本的な課題を整理してみましょう。

監査対応の現実:膨大な証跡の収集と手作業による確認

内部統制や外部監査(ISMS, PCI DSSなど)において、ITインフラの構成が適切に管理・運用されていることを証明する必要があります。しかし、手作業でのインフラ管理では、以下のような問題が発生しがちです。

  • 構成情報の散在: サーバー、ネットワーク、データベースなどの設定情報が、各担当者のドキュメントや記憶の中に点在。

  • 変更履歴の不備: 「いつ」「誰が」「何を」「なぜ」変更したのか、その履歴や承認プロセスが正確に記録されていない。

  • 膨大な確認工数: 監査のたびに、担当者が手作業でサーバーにログインして設定を確認し、スクリーンショットを取得するといった、非効率で時間のかかる作業を強いられる。

これらの作業は、本来であればより付加価値の高い業務に使うべきエンジニアの時間を奪い、企業全体の生産性を低下させる一因となっています。

属人化が招くリスク:セキュリティホールとビジネス機会の損失

特定の担当者しかインフラの全体像や設定内容を把握していない「属人化」は、深刻なビジネスリスクをもたらします。担当者の退職や異動によって、インフラがブラックボックス化。結果として、以下のような事態を招きます。

  • 意図しない設定変更: 良かれと思って行った手動の変更が、セキュリティホール(例:不要なポートの開放)を生み出したり、他のシステムに悪影響を及ぼしたりする。

  • 迅速な対応の遅延: 障害発生時や、急な仕様変更が必要になった際に、原因特定や対応に時間がかかり、ビジネス機会を損失する。

クラウド時代の複雑性:マルチクラウド、コンテナ化への追随困難

現代のITインフラは、単一の環境で完結することは稀です。マルチクラウド戦略の採用や、コンテナ技術(Docker, Kubernetesなど)の活用により、管理対象はますます複雑化・多様化しています。

このような動的な環境を手作業で正確かつ迅速に管理し続け、一貫したガバナンスを適用することは、もはや現実的ではありません。結果として、ガバナンスの欠如やセキュリティレベルの低下を招き、クラウドがもたらす本来のメリットである「俊敏性」を損なってしまうのです。

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監査・ガバナンスの課題を解決するIaCというアプローチ

こうした根深い課題を解決するアプローチが「IaC(Infrastructure as Code)」です。

IaC(Infrastructure as Code)とは?インフラを”コード”で管理するということ

IaCとは、サーバー、ネットワーク、ストレージといったITインフラの構成情報を、テキストファイル(コード)として記述・管理する手法を指します。従来のように、管理画面を一つひとつ手作業でクリックして設定するのではなく、「どのようなインフラ構成にしたいか」をコードで定義するのです。

代表的なIaCツールには、「Terraform」や「CloudFormation(AWS)」「Azure Resource Manager(Azure)」などがあります。これらのツールは、記述されたコードを解釈し、クラウドプラットフォーム上でインフラを自動的に構築・変更・削除します。

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「コード」が正となる世界:再現性・可視性・追跡可能性の担保

インフラ構成をコードで管理することで、インフラはアプリケーションのソースコードと同じように扱うことが可能になります。これにより、手作業による管理では得られなかった、以下の3つの絶大なメリットが生まれます。

  • 再現性: 同じコードからは、何度でも全く同じ構成のインフラを構築できます。開発環境、ステージング環境、本番環境の一貫性を保つことが容易になります。

  • 可視性: インフラの構成がすべてコードとして記述されているため、誰が見ても現在の設定内容を正確に把握できます。

  • 追跡可能性: Gitなどのバージョン管理システムと組み合わせることで、「いつ、誰が、どの部分を、なぜ変更したか」という履歴がすべて記録され、追跡が容易になります。

ガバナンス違反を自動検出する「ドリフト検出」

IaCの強力な機能の一つに「ドリフト検出」があります。これは、コードで定義された「あるべき姿(理想状態)」と、実際のクラウド環境の「現在の状態」との間に差異(ドリフト)が生じていないかを検出する機能です。

例えば、誰かが緊急対応と称して管理画面から手動で設定を変更(=コードに基づかない変更)した場合、IaCツールはその「意図しない変更」を即座に検知します。

これにより、統制の取れていない変更(=ガバナンス違反)を許さず、インフラを常に定義されたあるべき状態に保つことができるのです。さらにツールによっては、検出したドリフトを自動的にコードの状態に修正(修復)することも可能で、ガバナンスを強制する強力な仕組みとなります。

IaCが監査対応とガバナンス強化に直結する4つの理由

では、なぜIaCの導入が、監査対応の効率化とガバナンス強化に直接的に繋がるのでしょうか。その理由は大きく4つあります。

理由1:構成情報の「バージョン管理」による変更履歴の完全な証跡化

IaCで記述されたコードをGitなどのバージョン管理システムで管理することは、現代のインフラ運用における常識です。これにより、インフラ構成に対するすべての変更が記録されます。

監査人から「このサーバーの設定はいつ、誰が変更しましたか?」と問われた際、もはや担当者の記憶や曖昧な変更履歴シートに頼る必要はありません。Gitのコミットログを見せるだけで、「誰が」「いつ」「どの設定を」「どのような目的で」変更したのかを、客観的な事実として正確に、かつ即座に提示できます。

これは、監査対応における証跡提出の工数を劇的に削減します。

理由2:コードレビューによる「承認プロセス」の形式知化と統制

インフラ構成の変更を、コードの変更として扱うことで、ソフトウェア開発では一般的な「コードレビュー」のプロセスを適用できます。

インフラ担当者が変更コードを提出し、それを複数のレビュアー(例:上長、セキュリティ担当者、アーキテクトなど)が確認・承認しなければ、実際の環境には反映されない、というワークフロー(CI/CDパイプライン)を構築できます。

これにより、口頭やメールベースだった曖昧な承認プロセスが、システム上で形式知化され、統制が取れた形で実行されます。担当者一人の判断で重要な設定が変更されるといったリスクを組織的に防ぐことができ、IT統制を大幅に強化します。

理由3:ポリシーのコード化(Policy as Code)によるセキュリティ統制

IaCはさらに一歩進んで、「Policy as Code (PaC)」というアプローチを可能にします。これは、「特定のポートは絶対に開けない」「すべてのストレージで暗号化を有効にする」「特定のリージョン以外にリソースを作成させない」といったセキュリティポリシーやコンプライアンス要件そのものをコードとして記述する考え方です。

専用のツール(例:Open Policy Agent, Sentinel)をIaCのワークフローに組み込むことで、インフラを変更する前に、その変更が定義されたポリシーに違反していないかを自動的に検証できます。ポリシー違反のコードは、本番環境への適用を自動的にブロックすることが可能です。

これにより、ヒューマンエラーによるセキュリティ設定のミスを未然に防ぎ、組織全体のセキュリティガバナンスを高いレベルで強制できます。

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理由4:テストの自動化による「継続的なコンプライアンス」の実現

理由3のPolicy as Codeとも関連しますが、IaCのコードはアプリケーションコードと同様にテストを自動化できます。ポリシー違反のチェックだけでなく、「インフラ構築後に意図した通りに動作するか」といったテストも自動実行が可能です。

これにより、「年に一度の監査の時だけ準拠する」のではなく、「常にコンプライアンスが保たれている状態(継続的なコンプライアンス)」を実現できるのです。

Google Cloudで実現するIaCガバナンスの実践例

XIMIXが専門とするGoogle Cloudにおいても、IaCを活用した高度なガバナンスを実現するサービスが充実しています。

TerraformとCloud IAM/Organization Policyの連携

オープンソースでデファクトスタンダードとなっているIaCツール「Terraform」は、Google Cloudと非常に親和性が高いです。

Terraformを用いてインフラを定義する際に、誰がどのリソースにアクセスできるかを定義する「Cloud IAM」や、組織全体のセキュリティポリシーを強制する「Organization Policy」もコードとして一元管理できます。これにより、インフラの構築と権限管理、統制ルールを一体として管理・適用することが可能になり、より堅牢なガバナンス体制を築けます。

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Config Controllerによる継続的なコンプライアンスチェックと自動修復

Google Cloudが提供する「Config Controller」は、Kubernetesの技術をベースに、インフラ構成とポリシーを継続的に管理・適用するマネージドサービスです。

一度ポリシー(Policy as Code)を定義すれば、Config Controllerが常にクラウドリソースの状態を監視し、ポリシーから逸脱した構成(ドリフト)を自動的に検知・修正します。これにより、手動での介入を最小限に抑えつつ、継続的なコンプライアンスを高いレベルで実現します。

】Gemini for Google CloudによるIaC開発・運用の高度化

生成AIの活用はインフラ管理の領域にも及んでいます。Google Cloudに統合された「Gemini」は、IaCの開発・運用を次のレベルへと引き上げます。

  • コード生成支援: 「こういう構成のネットワークを作りたい」といった自然言語での指示から、Terraformのコード(HCL)を自動生成。

  • ポリシーコードの生成: 「ストレージはすべて暗号化する」といったセキュリティ要件から、前述のPolicy as Codeのコードを生成。

  • コードの説明とレビュー: 既存の複雑なIaCコードが何をしているのかを分かりやすく解説したり、セキュリティ上のベストプラクティスに沿っているかをレビューしたりする。

こうしたAIの活用は、IaC導入の技術的なハードルを下げ、専門家の生産性を向上させ、ヒューマンエラーを削減することで、ガバナンス強化に大きく貢献します。

IaCガバナンス導入の現実的なロードマップと成功の鍵

多くのメリットを持つIaCですが、その導入は単にツールを導入すれば完了というわけではありません。多くの中堅・大企業をご支援してきた経験から、陥りがちな罠と、それを乗り越え成功に導くためのポイントを解説します。

陥りがちな罠:ツール導入が目的化し、ルールが形骸化する

最もよく見られる失敗が、Terraformなどのツールを導入しただけで満足してしまうケースです。「ツール導入ありき」のDXからの脱却はインフラ管理においても同様です。

コード化のルールが整備されず、一部の担当者だけが場当たり的にコードを書いている状態では、結局のところ属人化の問題は解決しません。

また、「緊急時には『時間がないから』と手動変更が常態化し、コードと実際の環境が乖離(ドリフト)してしまい、IaCのメリットが失われてしまった」というお悩みを頻繁に伺います。

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ツール導入ありき」のDXからの脱却 – 課題解決・ビジネス価値最大化へのアプローチ

成功の鍵1:スモールスタートと段階的な適用範囲の拡大

最初から全てのインフラをIaC化しようとすると、学習コストや既存環境からの移行負担が大きくなり、プロジェクトが頓挫しがちです。

まずは、影響範囲の小さい新規プロジェクトや、開発環境などからスモールスタートで始めるのが定石です。「なぜDXは小さく始めるべきなのか?」という問いの答えは、IaC導入にも当てはまります。そこで成功体験とノウハウを蓄積し、徐々に適用範囲を広げていくアプローチが、組織への着実な定着を促します。

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成功の鍵2:技術と組織の両輪で進める「ルール」の設計

IaCによるガバナンス強化は、技術的な仕組み(コードレビューやテストの自動化)と、組織的なルール作りの両輪で進める必要があります。

「どのような命名規則でコードを書くか」「どのようなレビュープロセスを経るか」「緊急時の例外対応(手動変更)手順とその後のコードへの反映プロセスをどうするか」といった、組織としての「ルール」を明確に設計し、関係者全員で合意形成することが不可欠です。

成功の鍵3:外部の専門知識を活用し、推進力を加速させる

IaCの導入とガバナンス体制の構築は、企業の文化や開発プロセスそのものを変革する取り組みです。特に、全社的なガードレールの設計や、Policy as Codeを用いた高度な自動化の実現には、深い技術的知見と豊富な導入経験が求められます。

自社だけで進めることに固執せず、客観的な視点と実績を持つ外部の専門パートナーをうまく活用することが、結果として導入をスムーズにし、プロジェクトの成功確率を大きく高める賢明な選択となります。

XIMIXによるご支援

私たち『XIMIX』は、これまで多くの中堅・大企業の皆様のDX推進をご支援してまいりました。その経験の中で、IaCを活用したインフラ管理のモダナイゼーションとガバナンス強化は、私たちが強みとする領域の一つです。

XIMIXは、単にツールを導入するだけではありません。お客様のビジネス目標、組織体制、技術的成熟度を深く理解した上で、以下のようなご支援を提供します。

  • 現状アセスメントと導入ロードマップの策定: お客様のインフラ課題を可視化し、ビジネス価値を最大化するIaC導入ロードマップを策定します。

  • Google Cloudにおける最適なアーキテクチャ設計と実装: TerraformやConfig Controllerなどを活用し、お客様に最適な「ガードレール」を含む構成をコードで実装します。

  • 組織への定着支援と内製化支援: ワークショップやトレーニングを通じて、IaCがお客様の組織文化として根付くまで伴走支援します。

手作業によるインフラ管理からの脱却、そして監査に強く、変化に俊敏なIT基盤の実現にご興味をお持ちでしたら、ぜひお気軽にご相談ください。

XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。 XIMIXのGoogle Cloud 導入支援についてはこちらをご覧ください。

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まとめ

本記事では、IaC(Infrastructure as Code)が、なぜ監査対応の効率化とガバナンス強化に絶大な効果を発揮するのかを解説しました。

  • 手作業によるインフラ管理は、非効率な監査対応、属人化によるリスク、クラウド時代の複雑性といった課題を抱えています。

  • IaCは、インフラをコードで管理することで、再現性・可視性・追跡可能性を担保し、これらの課題を根本から解決します。

  • 「変更履歴の証跡化」「承認プロセスの形式知化」「ポリシーのコード化(PaC)」「テストの自動化」という4つの理由により、IaCは監査・ガバナンスに直結します。

  • 成功のためには、スモールスタート、組織的な「ガードレール」設計、そして専門家の活用が鍵となります。

IaCはもはや、一部の先進的な技術者のためのものではありません。ビジネスの俊敏性と統制を高いレベルで両立させ、企業の競争力を支える経営基盤そのものです。インフラ管理をコードによって改革することは、未来の不確実性に備えるための、最も確実な投資の一つと言えるでしょう。

まずは、皆様の組織におけるインフラ管理の現状と課題を整理し、IaCによる改革の可能性を検討してみてはいかがでしょうか。


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