DXを加速する「チャンピオン制度」とは?導入の要諦を解説

 2025,07,23 2025.07.23

はじめに

「全社でDXを推進するぞ」という号令はかかったものの、現場からは「具体的に何をすればいいのか分からない」という声が聞こえ、経営層と現場の間に温度差が生まれていないでしょうか。あるいは、情報システム部門が主導するものの、各事業部門の協力が得られず、部分最適に留まってはいないでしょうか。

これらは、DX推進において特に中堅・大企業が陥りがちな課題です。この「推進力不足」という根深い課題を解決し、DXを全社的なムーブメントへと昇華させる鍵、それが本記事で解説する「チャンピオン制度」です。

この記事では、数多くの企業のDX推進を支援してきた専門家の視点から、チャンピオン制度の基礎知識から、中堅・大企業が導入を成功させるための具体的なステップ、そして形骸化させないための重要なポイントまでを網羅的に解説します。

そもそもDXにおけるチャンピオン制度とは?

DXにおけるチャンピオン制度とは、各事業部門やチームの中からDX推進の熱意とスキルを持つ人材を「チャンピオン」として任命し、自部門のDXを主体的にリードしてもらうための仕組みです。

彼らは、情報システム部門やDX推進室といった中央組織と現場をつなぐ「ハブ」となり、全社的なDX戦略を現場の業務に即した形で翻訳し、浸透させる重要な役割を担います。単なるITツールの導入担当者ではなく、業務プロセスの変革や新たな価値創造を促す「伝道師」であり「変革の推進者」です。

なぜ、中堅・大企業のDXにチャンピオン制度が不可欠なのか?

掛け声だけでDXがうまく進まない背景には、中堅・大企業特有の構造的な課題が存在します。

  • 経営と現場の断絶: 経営層が描くDXのビジョンが、現場の日常業務レベルまで具体的に伝わらず、他人事になってしまう。

  • 部門間の壁 (サイロ化): 各部門が自身の業務効率化を優先するあまり、全社最適の視点が欠如し、データ連携や部門横断の改革が進まない。

  • 変化への抵抗: 長年慣れ親しんだ業務プロセスを変えることへの心理的な抵抗感や、新しいツールを学ぶことへの負担感が根強く存在する。

情報システム部門だけでこれらの課題をすべて解決するのは困難です。そこで、各部門の業務を熟知し、現場の言葉で対話できる「チャンピオン」の存在が不可欠になります。彼らが現場の「自分ごと」としてDXを語り、小さな成功体験を積み重ねていくことで、変化への抵抗感は徐々に和らぎ、全社的な協力体制が生まれるのです。

事実、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の「DX白書」においても、DXの成果が出ている企業ほど、事業部門(現場)が主体となってDXを推進している割合が高いことが示されており、現場主導の体制構築の重要性がうかがえます。

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DXチャンピオンに求められる具体的な役割とスキル

DXチャンピオンは、スーパーマンである必要はありません。しかし、DXを推進する上で核となるいくつかの役割を担います。

役割 具体的な活動内容

伝道師
(Evangelist)

経営が示すDXのビジョンや目的を、自部門の言葉で分かりやすく翻訳し、その重要性を粘り強く説く。
変革のハブ
(Hub)
中央のDX推進組織と現場の双方向のコミュニケーションを円滑にする。現場の課題やニーズを吸い上げ、推進組織にフィードバックする。
教育者
(Educator)
新しいツールやシステムの具体的な使い方をレクチャーしたり、活用相談に乗ったりして、現場のデジタルリテラシー向上を支援する。
実践者 (Practitioner) まずは自身が率先して新しいツールや働き方を実践し、その効果やメリットを身をもって示すことで、周囲の行動変容を促す。
 

これらの役割を果たすために、高度なITスキル以上に、以下のスキルやマインドセットが重要になります。

  • コミュニケーション能力: 現場のメンバーや経営層など、様々な立場の人と円滑な関係を築き、対話できる能力。

  • 共感力と傾聴力: 現場のメンバーが抱える課題や不安に寄り添い、真摯に耳を傾ける姿勢。

  • 探究心と学習意欲: 新しいテクノロジーや他社の成功事例に常にアンテナを張り、積極的に学び続ける意欲。

  • ポジティブな姿勢: 困難な状況でも諦めず、周囲を巻き込みながら前向きにプロジェクトを進める力。

失敗しないチャンピオン制度の導入・運用5ステップ

思いつきで制度を始めても、多くは長続きしません。中堅・大企業でチャンピオン制度を成功させるには、計画的で丁寧なステップを踏むことが重要です。

ステップ1: 目的と役割の明確化

まず、「何のためにチャンピオン制度を導入するのか」という目的を明確にします。例えば、「Google Workspaceの全社的な利活用促進」「生成AIを用いた業務効率化のモデルケース創出」など、具体的であるほど後の活動がブレなくなります。その上で、チャンピオンに期待する役割(前述の役割など)を定義します。

ステップ2: 適切な人選

最も重要なプロセスです。立候補と推薦を組み合わせ、前述したスキルやマインドセットを持つ人材を発掘します。重要なのは、必ずしもITスキルが最も高い人材が最適とは限らないという点です。むしろ、人望が厚く、周囲を巻き込む力のある人材の方が、結果的に大きな成果を生むケースが多く見られます。各部門から最低1名以上、バランスよく選出することが望ましいでしょう。

ステップ3: 育成と権限移譲

選出されたチャンピオンに対して、キックオフ研修を実施します。会社のDX戦略の共有、チャンピオンとしての役割の再確認、活用を推進するツール(例: Google Cloud, Google Workspace)の応用的なトレーニングなどを行います。 同時に、チャンピオンが活動しやすくなるよう、一定の裁量権や予算を与えることも成功の鍵です。彼らの活動が正式な業務として認められている、という会社のメッセージにもなります。

ステップ4: 活動の開始と支援

いよいよ活動開始です。チャンピオンには、まず自部門でスモールウィン(小さな成功体験)を創出することを目指してもらいます。例えば、「Googleサイトで部署内のポータルサイトを立ち上げ、情報共有を効率化した」「Gemini for Google Workspace を活用し、議事録作成時間を半減させた」といった具体的な成果です。 DX推進組織は、チャンピオン同士が情報交換できる定期的なミーティングを設定したり、相談窓口を設けたりして、彼らが孤立しないよう継続的に支援します。

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ステップ5: 成果の可視化と評価

チャンピオンの活動成果を全社へ向けて積極的に発信します。社内報やポータルサイトで成功事例を共有することで、他の部門への刺激となり、DXの機運が全社的に高まります。 また、チャンピオンの活動を人事評価制度に組み込むなど、貢献が正当に評価される仕組みを構築することも、モチベーションを維持する上で極めて重要です。

【XIMIXの知見】チャンピオン制度を形骸化させないための3つの要諦

多くの企業で導入が試みられる一方で、「いつの間にか活動が自然消滅してしまった」という声も少なくありません。SIerとして数々の現場を見てきた経験から、制度を形骸化させないために特に重要だと考える3つのポイントを解説します。

1. 経営層の「本気のコミットメント」を示し続ける

最も重要な要素です。チャンピオン制度は、経営層が導入を決定して終わりではありません。定期的にチャンピオンと対話の場を持ち、彼らの活動を労い、現場の課題に真剣に耳を傾ける姿勢が不可欠です。経営層が「本気である」ことが伝われば、チャンピオンの士気は高まり、周囲の協力も得やすくなります。

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2. 「スモールウィン」を意図的に創出し、称賛する文化を醸成する

最初から全社的な大きな変革を目指すと、挫折しやすくなります。まずは、どんな些細なことでも構わないので「やってみたら、これだけ良くなった」という成功体験を積み重ね、それを全社で共有し称賛する仕組みが重要です。成功の連鎖が、変化への抵抗感を乗り越える最大の力となります。

3. 孤立させない「コミュニティ」としての支援

チャンピオンは、現場と推進組織の板挟みになったり、新しいことに取り組むがゆえに周囲から浮いてしまったりと、孤独を感じやすい存在です。推進事務局は、彼らを単なる「推進担当者」として扱うのではなく、共にDXを創り上げる「パートナー」として捉えるべきです。チャンピオン同士が悩みを相談し、成功事例を共有し合えるコミュニティを活性化させ、心理的な安全性を確保することが、活動の継続性を左右します。

Google Workspaceを活用したチャンピオン活動の加速

チャンピオン活動をより効果的に進める上で、Google Workspace のようなコラボレーションツールは強力な武器となります。

  • 情報共有と発信: Googleサイトでチャンピオン活動を紹介するポータルを作成したり、Google Chatのスペースで成功事例を手軽に共有したりすることで、活動の可視化が容易になります。

  • コミュニティ運営: 定期的な情報交換会はGoogle Meetで実施。議事録はGoogle ドキュメントで共同編集し、タスクはToDoリストで管理することで、円滑なコミュニティ運営が可能です。

  • データに基づいた改善提案: 現場の業務データをGoogle スプレッドシートやLooker Studioで分析・可視化し、「この業務はこれだけ非効率なので、このように改善しませんか?」といった具体的な提案の根拠として活用できます。

DX推進に行き詰まりを感じている場合は、これらのツールの活用レベルを引き上げるだけでも、大きな前進が期待できます。

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確実な成果に繋げるための外部パートナー活用

ここまで解説したように、チャンピオン制度の導入・運用は、丁寧な設計と継続的な支援がなければ成功しません。特に、中堅・大企業においては、以下のような課題から、自社リソースだけでの推進が難しいケースも少なくありません。

  • 推進ノウハウの不足: そもそも、どのような計画で、誰を、どう育成すればよいか分からない。

  • 客観的な視点の欠如: 社内の常識に縛られ、本質的な課題が見えにくくなっている。

  • リソース不足: DX推進事務局を設置したものの、本来の業務と兼務しており、チャンピオンを十分に支援する余裕がない。

このような場合、外部の専門家の知見を活用することが、成功への確実な近道となります。

私たちXIMIXは、単にGoogle CloudやGoogle Workspaceのライセンスを提供するだけでなく、お客様の組織に深く入り込み、DX推進を成功に導くための伴走支援を行っています。 経験豊富なメンバーが実践的なノウハウでトータルにサポートします。

XIMIXのGoogle Workspace 導入支援についてはこちらをご覧ください。
XIMIXのGoogle Cloud 導入支援についてはこちらをご覧ください。

まとめ

本記事では、DX推進の鍵を握る「チャンピオン制度」について、その本質的な役割から具体的な導入・運用ステップ、そして失敗しないための要諦までを解説しました。

  • チャンピオン制度は、DXを「自分ごと化」させ、全社的なムーブメントにするための有効な仕組みである。

  • 成功には、明確な目的設定、適切な人選、計画的な育成、そして経営の継続的なコミットメントが不可欠。

  • チャンピオンを孤立させず、スモールサクセスを積み重ね、称賛する文化を醸成することが、制度を形骸化させない鍵となる。

DXは、もはや単なるIT導入プロジェクトではありません。企業の文化や働き方そのものを変革する、息の長い取り組みです。その険しい道のりを着実に歩むために、「チャンピオン」という頼れる仲間と共に、一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。


DXを加速する「チャンピオン制度」とは?導入の要諦を解説

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